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きっかけはフィルター開発【市ヶ谷モジュール開発記vol.4】

 始まりはコロナ禍でした。ウイルスが猛威を振るった初期、ご存知のように外出制限がありました。家に閉じこもりテレビの画面を見ていると、看護師の方々がゴミ袋をかぶって仕事に従事されている。そんなシーンが強く印象に残っています。
 私は、以前PM2.5の問題で、その対策用の空調服を考えたことがありました。綺麗な空気を服から鼻に向けて出すような服です。コロナの最中、あのシーンを見てそれを思い出しました。この技術を応用すれば、コロナ対策でなにかできないかを考え出しました。
すぐに、会社で数人の技術者と相談しながら、取り掛かりました。最初は、本当にゴミ袋をかぶって、それにファンをつけて、フィルターをつけて綺麗な空気を取り込むような簡易的なものでした。
そのうち、体を覆う必要はない。頭だけでいいということで、袋ではなくフェイスシールドの形状になり、最終的に空調フェイスシールドというものになりました。「これをかぶれば、コロナのウイルス入ってこない。みんなこれを被ればもう感染しない」そう思っていたのです。
 現実はそんな甘いものではありませんでした。そのとき使ったフィルターはとても優れたもので、スペック上はそう見えました。しかしながら実際は、このコロナ対策が決定打としては全く使い物にならなかったのです。
 結局、空調フェイスシールドはコロナ対策の謳い文句は外すことになりましたが、空調フェイスシールド発表後も私はフィルターについて、どうしたらいいかということを考えていました。
フィルターというものは、形態や材料という基本部分はすでに現在の技術でかなり最適化できています。これ以上、どうやっても性能の伸びしろが少ないともいえます。性能差は、いかにフィルターの表面積を大きくするかというところででてくるというのが私の認識です。
その表面積を大きくする定番は、プリーツ状に折る、つまりヒダを増やして表面積を上げるという方法になります。しかしながら、用途によって大きさや形状に制限があり、そのなかでいかに性能を最高に近づけていくかが工夫のしどころになります。
 元々、空調服のシミュレーション技術、流体力学のシミュレーションは得意とする分野ですし、この開発は順調でした。
空調フェイスシールドのフィルターは100mm×50mmのサイズです。この中で、最初はプリーツをいかにつけるかということを考えていました。しかし、色々と考えているうちに、もっと根本的に、プリーツよりも高水準なものができるのではないか。そういう構想が生まれてきて、2年近くかけて、より高密度、高性能のフィルターの製造方法にたどり着きました。
 いわゆる高性能フィルターといえば、HEPAフィルターというものがあります。普通の風量で0.3ミクロン以上の物質を99.9%以上遮断する規格です。世の中のまともな空気洗浄清浄機やクリーンルームなどで使われています。私が新たに考えていたフィルターは、これと同じくらいの性能を満たし、とても安価に製造できるフィルターです。ただフェイスシールドの場合、フィルターの密度が高くなると息苦しくなるという問題がありました。それを空調で調整するわけですが、これがかなり大変でした。
 フィルターというのは、いかにゆっくりと通すかも重要なポイントで、ゆっくりであるほどフィルターを通すときに、取り除きたいものを捕まえる性能が高まります。つまり極端に速度の依存性があるのです。一方で、人間の呼吸回数は1分間に何回くらいとだいたい決まっています。そんな条件下でコロナウイルスを99.9%遮断するフィルターはというもの作るのは難しいことでした。
ただ、このフィルター技術はフェイスシールドのみならず、他の分野でも使えるのではないかということで、この技術を使って事業にできないか考えました。特許も出して、フィルター製造装置の試作品なども作り始めました。
 分離膜というものを強く意識しはじめたのはそんな頃です。それまでは、分離膜に対しての私の認識はフィルターの一種であるということくらいでしたが、色々と勉強しているうちに、とても可能性があるものだと考えるようになりました。

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