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SFI 人類の継続的繁栄 第3章『140光年の彼方へ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

地底人、宇宙へ

 宇宙移住に必要な宇宙船建造は、最終的に次のような方法で行われることに決まった。まず1番艦をメインスペースで製造し、貨物と共に10人の宇宙隊員が乗り込み先に出航。サブスペースでは2番艦を同時に製造、1番艦出港後は2番艦製造をメインに、サブで3番艦を製造という具合に、次々と製造しながら出航し、太陽系内の領域で編隊を組み、目的地に向かうことにした。
 問題は宇宙船に脳だけで乗り込む手順である。宇宙船隊員として乗り込む100人は別だが、他の99900人は電子脳だけで乗り込むことになる。最後の10番艦の建造まで働いて、順番に体から電子脳を取りだし、10番艦に全ての電子脳を積み込む案もあったが、10番艦に事故が発生するリスクも考えて、8番艦に3万人、9番艦に3万人、10番艦に39900人の電子脳を積み込むことにした。

 ステルス監視衛星から宇宙基地建造の膨大な情報が送信され、地上人の詳しい内容が手に取る様にわかってきた。宇宙人口は1億人に達し、政府機関や重要機関、主要産業は宇宙に移された。体を乗り換える移動方法も使用されるようになった。
 もはや危険極まりない活性物質に手を染めるのは時間の問題である。一刻も早く地球から遠く離れた天体に移住する必要がある。
移住先は200人が移住する時に探した第2候補地に決めた。
 エンジン以外は1番艦から10番艦まで同一仕様にする事になっていた。1番艦が完成し、ステルス化も完了した。
 増速するにつれ、先頭を航行する1番艦には微小天体に衝突する確率が高くなる。衝突対策のため1番艦には堅牢な外装を施すことにした。1番艦と他の艦はエンジンと外装だけの違いだけなので、1番艦で十分なテスト航行を行なうことにした。無論ステルス化しているが、地球からは見る事のできない木星の陰に隠れて各種のテストを行った。テスト完了後、合流空域を目指しゆっくりと出航した。
 2番艦が完成した。10名の隊員と貨物を搭載し、簡単なテスト航行を行い、そのまま合流空域を目指しゆっくりと出航した。その後は、3番艦、4番艦、5番艦、6番艦、7番艦も完成、無事に合流空域に向かった。しかしながら懸念されるのは建造作業の人員が減っていくここからである。
 3万人の頭部から電子脳が取り外されると、完成した8番艦に積み込まれ飛び立つ。9番艦製造は多少工程にロスがあったが無事に完成し、3万人の頭部から電子脳が取り外され9番艦に積み込まれ、こちらもなんとか出航した。
10番艦の出航は緊張感に溢れていた。特に、残りの39900人の内39880人の電子脳を頭部から取りだし、完成した10番艦に積み込む作業を行った最後に残った10名の隊員には大きな負担がかかった。最後の作業員の電子脳が頭部から取り外され10番艦に積み込まれると、10名の隊員が乗り込み合流空域に向かった。そして、合流空域に10艦が集結、1番艦を先頭に隊列を組み、地球から140光年先の目標の天体めがけてエンジンを全開した。 

宙難事故

 出航から200年が経過し、目的地の中間地点に到達した。速度は光速の90%に達していた。10隻の宇宙船は隊列を崩さないまま180度回転した。エンジンが取り付けられた底部を進行方向に向け、1番船が先頭になり、全艦とも進行方向に高速粒子を噴射し減速を開始した。
 減速を開始してから100年が経過した頃、大事故が発生した。微小天体が1番艦、2番艦をかすめるように飛来し、3番艦に衝突し貫通した。貫通孔が開いたが宇宙船に大きな損傷はなかった。
隊員が宇宙船の外に出て損傷箇所を調べた。貫通孔はあまり大きくなかったが、第1エンジンの取り付け部が損傷していた。エンジンの出力を下げ取り付け部にかかる負荷を小さくすれば、このまま航行できそうだが、エンジンを全開にしたまま航行するとエンジンが付け根から外れるのは時間の問題である。
3番艦には大量のカーボン、数台の車両、10億人分の脳を作るための特殊物質が搭載されていた。特殊物質はそれぞれ1トンずつ3つの容器に格納されていた。

10艦の代表者による緊急会議が行われた。

「このままエンジン全開の減速を続けたら、エンジンが外れるのは時間の問題だ。損傷の程度から推測すると、10時間は持つだろうが100時間は持たないだろう」
「半開にすれば1年ぐらいは持つだろうが、半開だと目的地を通過してしまう。予定通り全開で減速しなければならない。3番艦は放棄するしかない。選択の余地はない」
「3番艦には何を搭載しているのだ」
「基地建設用のカーボンと数台の車両と10億人分の脳を作るために必要な希少物質だ」
「カーボンと数台の車両は仕方がないが、10億人分の脳を作るために必要な希少物質は是非とも必要だ。希少物質はどの位の量だ?」
「3つの容器に1トンずつ格納されている」
「各艦には5kmの牽引ロープが積んである。2番艦から3番艦にロープを渡し、先端に3つの容器を取り付けて、2番艦に積み替えることはできないだろうか」
「2番艦は荷物を満載していない。その分エンジンには余裕がある。3トン増えても問題ない」
「10名の隊員はどのように他の艦に移る」
「3つの容器を2番艦に移して、エンジンを調整して隊列から外れるようにしてから、我々の記憶を送信する。2番艦で受信して記録してほしい。我々は記憶だけで目的の天体にゆく。送信したらすぐに頭のスイッチを切るので確実に受信して保存してほしい」
「確実に受信できるように万全の準備をしておく」
「今から2番艦への接近操作を開始する」

 3番艦のエンジンが全開にされると、1時間で2番艦に接近し、エンジンが再度調整され、2番艦と3番艦との距離は4kmに保たれた。
2番艦から3番艦に向けてロープが放出されると、3番艦の底部のハッチが開けられ、ロープの端がハッチから船内に取り込まれた。ロープにより3つの容器は連結され、隊員により容器はハッチから船外に押し出されると、ロープが巻き取られ3つの容器は2番艦に引き入れられた。

3番艦のエンジンが調整され、隊列から離れ始めた。
 10名の隊員は順番に自分の記憶を送信し、自ら頭のスイッチを切った。10名の隊員の記憶は2番艦で受信され記憶記録装置に保存された。
10名の隊員が使用していた人体と大量のカーボンを載せたまま3番艦は隊列から遠ざかり、宇宙の彼方に消えていった。

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