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SFI 人類の継続的繁栄 第5章『隕石防衛システムの構築』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

石英星の裏側へ

 隕石防衛システムが構築され、この星の表半球側に隕石の問題はなくなり、10万人が安心して居住できるようになったが、10万人ではこれ以上大きな事はできない。人口を増やすことが必要である。
そのために本格的なシリコン変成機の開発にとりかかり、これに成功すると、人体の大部分をシリコンで作れるようになった。先ず1千万人を新規に誕生させることを目標とし、計画を策定した。
 計画は想定通りに実行され、この衛星に到着した500年後には、人口は1000万人に達した。中野大統領を長とした政府機関も本格的に整備され、第1世代、第2世代の有機脳をそのまま電子脳に置き換えた人類が、第6太陽系で本格的な繁栄を開始した。
 10億人の電子脳を作るために必要な稀少物質を運んできたが、どこにでもあるだろうと思われた物質が、この衛星の表半球側には見つからなかった。また人体はほとんどシリコンで作れるようになったが、神経などのわずかな部分にはカーボンが必要である。
石英星の表半球側にあるカーボンは採り尽くし、このままではこれ以上の人体を作ることは困難である。人口を増加して国力を上げるためには、各種の鉱物が沢山あると思われる裏半球側を開拓する必要があった。隕石の危険が非常に大きい裏半球側を、どのように開拓するかについて、関係者による議論が行われた。

「先ず、裏半球側にはどの様な資源があるか調査する必要がある。裏半球側の各所から鉱物を試掘して持ち帰る必要がある。本格的な採掘は試掘の結果を見てからだ。試掘にしても隕石の問題がある。隕石の問題をどのようにして避けながら試掘するかが問題である」
「屋根に強力な装甲を施した試掘用の車両を作れば良い。こちら側と違い隕石だらけだから車輪の代わりにキャタピラーが必要だ」
「あまり凸凹が激しいところではキャタピラーでも使用できない。キャタピラーの替わりに車体の底部に伸縮自在な6本の足を取り付ければ良いのでは」
「足を使って進むのでは余りにも効率が悪い。目的地までたどり着くまでに時間がかかりすぎ、隕石によるリスクが高くなる。短時間で目的地までいけるようにする事が肝要だ」
「宇宙船による観測から目的地は10箇所選定してある。目的地まで早く行くには小型の専用宇宙船を作れば良い。無論、宇宙船には隕石対策用の強靭な装甲を施す必要がある。この衛星の引力は地球の半分程度で、強力な推力の活性化エンジン技術もあるので装甲による重量増加など問題でない。6本足は目的地についてからの採掘場所までの移動に利用すれば良い」

人体乗り換えプロジェクト

 試掘用の宇宙船の開発と並行して、装甲を突き破るような万一の大隕石の落下について関係者が集まり議論を行った。

「これだけ人口も増加して経済力も高まった。裏半球側への隕石対策用の隕石防御衛星を多数使用するシステムを検討しても良いのではないか」
「財政的には問題ないが、隕石の軌道をそらすという事はこの星の資源が増加しないということだ。長期的に考えると経済的にもマイナスだ」
「大隕石が宇宙船に衝突したら宇宙船全体が破壊され、蒸発してしまうかもしれない。蒸発したら電子脳も助からない。しかし生命の本質はいうまでもなく記憶である。電子脳は記憶を入れる器である。宇宙船の隊員の脳データ全部をどこかに記録してあれば、隕石により電子脳が破壊されても、新しく作った人体の電子脳に記録してある脳データを埋め込めば、新しい人体を用いた宇宙船の隊員が蘇る。無論、電子脳の根幹部の構成により能力や性格が以前と少し異なるだろうが、性格などが変わったからといって記憶が同じならば同じ人である。手足が爆弾により吹き飛んだからといって、『足がないのでその人じゃない』とは誰も言わない。それと同じことだ。」
「脳データとは記憶のことか」
「脳データとは一般に言う記憶のほかに潜在記憶や経験した事による性格的な物、さらに思考ソフトも含む脳内のソフトやデータだ」
「今後人体は豊富に作る事ができる。予備用の人体を用意しておき、何かあったらその人体に脳データを飛ばせば良いだろう。つまり体を乗り換えるということだ」

このような議論の後、裏半球側の資源開発に先立ち、体を乗り換える技術を確立する必要があり、中野政権の重要プロジェクトとして〔人体乗り換えプロジェクト〕が発足し、人体や通信の担当者が招集され議論した。

「送受信設備を設ければ、記憶を他の人体に送信する事は技術的には簡単だ」
「脳データを送信後、隕石情報による隕石の衝突が間違えで、その人も無事ならば同じ人が二重に存在する矛盾が起こる。そうならば問題だ」
「受信が完了した時点で、送信元の人体から記憶を消去すれば二重存在は避けられる」
「予備の人体に乗り換えた場合、顔や声はどのようにする。顔や声が変わっては本人も嫌だろうし、周りから見ても紛らわしい」
「脳データだけでなく、顔データと声データも送信しよう。送受信設備だけでなく、顔や声を短時間で作り変える設備を備えた瞬間移動基地を作ればよい。技術的には簡単だ」
「瞬間移動基地の『瞬間』、瞬時とはどういうものだ」
「隕石防衛システムを構築したときに発明した、瞬時に伝達するエネルギー波だ」
「本格的な鉱山採掘になった場合、鉱山に瞬間移動基地を設け、作業隊員が移動するのでなく、瞬間移動基地に用意された作業用の人体に体を乗り換えて仕事を行い、仕事が終わったら元の体に乗り換えれば良いということか。できるならば仕事の効率も上がるし、自宅からの出勤も快適だろう」
「人体を豊富に製造できるようになったら、体を乗り換える移動方法は色々なところに応用できる」

 中野政権に体を乗り換える案を説明し、側近と関係閣僚や有識者の間で議論し、実用化の第1弾として裏半球側の資源の試験採掘に使用する事になった。
 大きな問題はなく短期間でこのシステムが完成し、人体製造工場と試掘用の宇宙船に試験用の瞬時移動室が設けられた。また裏半球側と表半球側との境目付近の三箇所に隕石観測用の天文台が設けられ、複眼望遠鏡と軌道計算用のコンピュータが配備された。
天文台で宇宙船に衝突しそうなある程度の大きな隕石を見つけると、即時に宇宙船に連絡し、宇宙船の移動室から人体製造工場の移動室にある人体に開拓隊員が次々と体を乗り換えて移動する隕石検出緊急避難システムである。
各種の実験を行い問題がないことが確認できた。完成したばかりの試掘用宇宙船に5人の隊員が乗り込み裏半球側の第1ポイントに着陸した。
着陸した地点から鉱山らしき地点まで船底に備えた6本の足を使って移動し、船底の中央に設けたハッチを開け陸におり、削岩機やスコップにより周辺の鉱物を試掘し宇宙船に運んだ。第2ポイント、第3ポイントと次々に移動し、採掘し、全ての試掘場所の採掘を完了した。
この間、小さな隕石が宇宙船に衝突したが、堅牢な外装を施してあり損傷は全くなかった。無論宇宙船から移動基地に体を乗り換えて避難する事態もなく、無事試掘は終了した。

人口増加に向けた鉱物調査

 鉱物資源庁の担当技術者により、試掘した鉱物が詳しく分析された。隕石由来と思われる鉄などの一般の金属も大量に含まれていた。地球にはなかった新物質や様々な貴重物質が豊富に含まれていた。しかし期待していたカーボンはほとんどなかった。
 カーボンがないと人体をこれ以上増産できない。カーボンに替わる物質がぜひ必要である。
変成機部門、化学部門の技術者が集まり、この問題を議論し、シリコンに新物質を加えることにより、色々な特性をもつ物質をシリコン変成機により製造できる事がわかってきた。
 裏半球側から本格的に各種資源を採掘する事になり、採掘用に使用する、1cm程の隕石が直撃しても壊れない、強靭な装甲を施した大型の作業用人体を大量に生産する事になった。また資源採掘地に、移動室と人体収納室を有する、大きな隕石にも耐えうる強靭な装甲を施した採掘基地を建造する事になった。
 裏半球側の開拓に関連する工場は、裏半球側に接した表半球側に集結し、採掘基地関連の資材や強力な作業用人体を量産していく。建設作業者は、この量産された採掘用に製造した強靭な人体に乗り換え、採掘基地を建造するための資材を満載した大型の装甲車両に乗り、それぞれの採掘場に向かった。
目的地に到着すると、早速、強靭な装甲を施した採掘基地の建造を開始し、先ず、装甲を施した移動室を組み立てた。初日の作業が終了すると移動室に入り、住宅地に設けられた移動基地に保管されている自分の人体に乗り換えて自宅に帰った。
 数十日で採掘基地は完成した。採掘作業者が強靭な大型の作業用人体に乗り換え、採掘作業を行った。構造材のような大量に使用する原材料は、表半球側で石英やシリコン結晶として容易に採掘できるので、裏半球側で入手する物質は、人体や建造物や各種機械用の主原料ではなく、シリコンを変成して製造する構造材に必要な特性を持たせるための添加物質や、神経などの特殊物を作る際にシリコンに添加する数十種類の添加物質であり、精錬後の量はそれほど多くはない。したがって採掘した鉱石をそのまま表半球側に運び込むのは合理的でなく、採掘基地で粗精錬する事になり、精錬装置が採掘基地に運び込まれた。
大型の作業用人体で精錬作業するのは不合理であり、精錬作業専用の作業用人体が製造され採掘基地に運び込まれた。また作業とは別に事務的な仕事も必要なため、普通型の人体も運び込まれた。
 このように、採掘基地には主に3種類の人体が用意され、それぞれの人体にそれぞれの技能者が体を乗り換えて採掘基地に出勤するようになった。
 粗精錬が行われた純度の低い稀少物質は、裏半球側と接する表半球側の工場に運ばれ、精錬工場で本格的な精錬が行われた。人体の神経等を作るのに必要な貴重物質も大量に製造され、人口を大幅に増加させる事に何ら支障はなくなった。

 政府の重要機関として〔人体製造省〕が正式に発足し、今後の人口増加計画が策定された。現在の人口は1千万人で、そのほかに作業用人体が10万体ほどあり、作業用人体のほとんどが裏半球側の採掘基地に配備されている。
 今後200年間で人口を5億人、人体は本人用の5億体とあわせて10億体とする事が決まり、この星での当面の産業のほとんどが人体作り関連となった。

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