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『SFA 人類の継続的繁栄 第1章 新誕生システムとその背景』4

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

加藤夫妻の長女の設計

 加藤夫妻は、第1子として長女を設ける事にした。既に第1世代の人類から第2世代の人類へのバトンタッチを行う〔新誕生システム〕は実行に移され、加藤夫妻はその方針や内容を十分に理解していた。
 加藤夫妻は、国際政府の管理の下に作られた唯一の合法産院団体に加盟している近隣の産院を訪れ、第1子出産の手続を行った。内容を熟知していた加藤夫妻は10分ほど説明を受けた後、契約書にサインしゲノムの作成日を決め、詳しい説明用のUSBメモリーを渡され帰宅した。
 国際政府により、これ以上の情報技術の進展は危険とされ、情報関連の製品は21世紀初頭(2000~2015年)の技術水準に戻されていた。その為、その頃と同様にUSBメモリーをスマホに差し込み、詳細な説明書に目を通した。 

 ゲノム作成日に加藤夫妻は産院を訪れ、ゲノム合成室に案内された。ゲノム合成室には人間の医師の替わりにコンピュータの医師がいた。
ゲノム技術も含め、情報技術は危険技術に指定され研究は禁止されたが、それまでに21世紀初頭と比べAI技術は格段に進展し、コンピュータの医師がこの任につくのには何ら問題はなかった。
 コンピュータ医師は、夫妻の指をゲノム情報取得板の上に載せるように言った。1秒もかからず夫妻のゲノム情報が取得され、ランダムな組み合わせによりコンピュータ上に10個のゲノムが作成された。数秒後に核心遺伝子が一律に置き換えられ、加藤夫妻のゲノムを基にした、改良ゲノム10個のデータが自動的に作成された。
この10個のゲノムデータにより、加藤夫妻の長女候補10人の、20歳になった時のプロフィールが立体的に表示された。尚、核心遺伝子の中にはできるだけ食料摂取を減らす目的で、背の高さ、体重、栄養吸収率に関するものもあった。背は低いほど居住空間が小さくて済むなど、社会にとって好都合だが、親よりも極端に背を低くすると親子間での違和感が大きくなるので、運用当初は1割程度の縮小に留める事になっていた。
 モニターに表示された加藤夫妻の長女候補の10人のプロフィールは、身長は135cmから155cmで、顔立ちや体つきはそれぞれ異なるものの、それなりに両親の特徴を備えたものだった。
 尚、知的能力については、脳のほんの少しの配線の違いにより異なってしまう為、正確な把握はできず参考値として表示されていた。性格については後天的な要素がほとんどのため何も表示されなかった。また運動能力については筋肉比率等、分析が簡単なため、かなりの確度で各種能力が表示されていた。

 身体的特徴と運動能力により、加藤夫妻はAとBの2つのゲノムを選んだ。この後は与えられた10,000ポイントを使用した整形・調整作業である。
 2つのゲノム、ゲノムAとゲノムBによる長女候補には次のような違いがあった。ゲノムAの長女は、かわいい顔立ちで外観的に整っており、運動能力もそこそこだが、背は138cmと低く、また目の間隔が少し広く、小鼻にもわずかな問題があった。
ゲノムBの長女は背の高さは150cmで身体的バランスは良いが、顔立ちは鼻が低く目は細く、運動能力は平均より少し低かった。 
 加藤夫妻はゲノムAについて「背を145cm以上にする事、目の間隔を少し狭くする事、足を少し細くする事、左の小鼻の膨らみを小さくする事」などを希望整形点として医師に伝えた。すると医師は「背を高くするのは単純な遺伝子操作で済みます。しかし、背を高くすると普通はその分筋肉量も増えますが、特に筋肉量などの食料摂取に関連する事には規制が設けられ、背を高くしてもそれに見合う筋肉量が得られないように、筋肉量に関連する遺伝子も連動して自動操作されます。目の間隔については簡単です。一番問題なのは左の小鼻の膨らみを小さくすることです。顔のパーツの間隔を一律に広くするとか、大きくするとか、ほりを深くするなどの大きな整形には、ポイントのあまりかからない単純な遺伝子操作でできますが、微妙な整形はいくつもの遺伝子を複雑に操作する必要があり、ポイントを沢山使います」と説明した。
 加藤夫妻は「説明はわかりましたが、試しに言った通りに行なってください」と医師に言った。医師はその通りにコンピュータに入力し遺伝子書き換え操作を開始した。
 通常は5秒程度で結果が表示されるが15秒後にやっと表示された。外観は希望した通りに修正されていたが、その内容を見て加藤夫妻は驚いた。
 背の高さは145cmになったが運動能力が大きく低下していた。その他の能力にはさほど変化は見られなかったが、使用されたポイントの内訳を見て更に驚いた。背の高さについては50ポイント、目の間隔については5ポイント、そのほかの修正についても100ポイント以下だったが、左の小鼻の修正には2,000ポイントもかかっていた。
 加藤氏が「あなたの説明の通りでした。小鼻の修正にこんなにポイントがかかるのには驚きました」と言うと、医師は「左右共に少し膨らみを小さくする事は簡単にできますが、それでやりましょうか?」と提案した。加藤夫妻は「膨らみを15%程小さくして試してください」と医師に依頼した。
 医師は依頼通りに入力し、3秒後に結果が表示された。右の小鼻の膨らみが少し小さいが、全体として満足がゆく方向に修正されていた。小鼻の修正にかかるポイントは80ポイントで済み、加藤氏はこの医師の能力の高さに感心した。
 次に加藤氏は背を高くした事に伴う運動能力の低下について「せめて平均的な能力にできませんか?」と依頼し、医師はそれを入力した。この修正には2,500ポイントがかかった。小鼻の修正に2,000ポイントもかかる事を思えば、背を高くすることに伴う運動能力の大幅な低下を防ぐための、このポイントには納得できた。
 このように医師のアドバイスを受け、できるだけ小さなポイントで、できるだけ沢山整形し、ほぼ10,000ポイントを使いきり、ゲノムAについての整形は2時間で終了した。
 次にゲノムBについての整形を行った。ゲノムAの経験で要領がわかったので、修正作業は1時間で終了した。 
 こうして完了したゲノムAとゲノムBを基にした、自分たちの子供の20代の容姿を比較した。AB両方ともかなり満足だったが、やはり一長一短があり迷っていた。加藤氏は「小鼻の件を除いてはAのほうが良いのだが」と心の中でつぶやき、小鼻の点で迷っていた。その事を察した医師は、「遺伝子操作と生後の外科手術では、一般的には遺伝子操作のほうがずっと合理的ですが、左の小鼻の膨らみについては外科手術のほうがずっと簡単です。小鼻については整形せず、本人が大人になってから本人の希望で手術を考えれば良いと思います」と言った。加藤夫妻もそれに同意し、小鼻の整形を除いて最終ゲノムのデータが作成された。
 最終ゲノムデータがゲノム製造機に入力され、ゲノムの製造は15分で完了し、人工卵子にゲノムが注入され、加藤夫妻の長女の人工受精卵が出来上がった。

 ゲノム作成担当のコンピュータ医師から、受精卵の着床手術担当のロボット医師に交代し、ロボット医師により着床手術から出産までの手順について説明された。 
 加藤氏は、以前から抱いていた素朴な疑問をロボット医師に投げかけた。
 「コンピュータによりゲノムデータを作成し、作成した電子データから15分でゲノムができるのに、いまだに母体による方法が必要なのですか」
 「ゲノム技術は情報を扱う技術で、単に4つの塩基を組み合わせるだけです。極単純でどのようにもできます。しかし、受精卵から乳児まで育てる技術は全くのアナログ的な技術です。私が人間のようにあなたと会話しているのも情報技術そのものです。情報の最小単位は際限なく小さく、そのため情報技術は急速に進歩してきました。しかし、今はこれ以上の情報技術の研究は禁止されています。禁止しないと、際限なく技術が進み、人類の滅亡につながるからです。それに対しアナログ的な技術は全く異なります。母体を使わないで受精卵から乳児に育てる方法も試みられましたが、動物実験の段階でもうまくゆかず、これ以上の試みは中止されました」
 加藤氏は納得いったような、いかないような様子でこれを聞いていたが、加藤夫人はその説明に大いに納得するところがあったようで、夫に語りかけた。
 「いいじゃないですか。私たち2人のゲノムを基にしているといっても、コンピュータによりゲノムが合成されます。その事だけでも違和感があるのに、その上昔のSF映画のように、水槽のような人工子宮で育てられた子供など、自分の子供とは到底思えません」
 「それもそうだが、君には出産という苦労をかける事になるな」
 そんな夫妻のやりとりを聞いた医師は、現代の出産のかたちについて説明を始めた。
 「出産がアナログ的技術といっても、昔の技術に比べそれなりに進化しています。また、核心遺伝子の操作により3ヶ月目の胎児の状態での出産が可能になりました」
 「まるでパンダと同じだ」
 加藤氏はそう笑いながら合いの手を入れるが、医師は構わず説明を続ける。
 「この受精卵には90桁の番号が登録されています。登録内容は世界共通で、作成番号や作成期日、作成医院や両親の情報などです。その他の情報については国際政府が管理する機密情報なので、私たちにも良くわかりません」
 夫人は、その説明に少し心配になって訊ねた。
 「その90桁の番号はどこに登録されるのですか?」
 「それはゲノムの中に登録されます」
 「人の設計図であるゲノムに登録するなんて、それでは、その影響で子供の仕様が左右されてしまうのでは……」
 「ゲノムは約30億個のDNAにより構成されています。その中のほんのわずかなDNAが遺伝情報を持つもので、大半のDNAは何の働きもしません。何の働きもしない部分に書き込まれるので、その事によるお子さんへの影響は全くありません」

 こうして加藤夫妻の懸念は払拭され、その日の内に加藤夫人の胎内への受精卵着床手術が行われた。 

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