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SFL人類の継続的繁栄 第9章『数千年ぶりの握手』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

関係強化にむけて

 バーチャル世界の宇宙政府と第6太陽系政府が互いに連絡をとる手段を模索していた頃、第5太陽系における超巨大爆発を受けて、当然ながら第3太陽系でも検討・対策会議が開催されていた。

「インターネットに巣くうバーチャル人と第4太陽系の間の大問題が解決したと思ったら、今度は第5太陽系で巨大爆発が発生した。爆発の原因をめぐり一触即発状態だったが、第4太陽系と第5太陽系は和解したようだ。爆発の原因はわからなかったみたいだが」
「パトロールの問題もその他の重要な問題も、第4太陽系と第5太陽系の両政府で決めてから我々に相談がくる。我々が最初に第2太陽系からはるばるここに移住してきたのに、我々はいつも蚊帳の外だ。大爆発の原因もわかっているが、我々にはかくしているのかも知れない」
「第4太陽系や第5太陽系と対等か、それ以上に力をつけなければならない。それには仲間作りも必要だ。しかし我々が知っている知的生物はバーチャル人だけだ」
「最近はあまり連絡を取っていないが第6太陽系もある。第6太陽系も第5太陽系の大事故の様子は気になっているだろう。我々に問い合わせの連絡があるかも知れない」
「問い合わせが入った時、『我々は蚊帳の外で何もわからない』とは言えない」
「大事故の原因はわからないが、バーチャル生物の件なら良く知っている。第6太陽系にもバーチャル世界があるということなので、彼らにも興味があるだろう。第4太陽系も第5太陽系も第6太陽系との間に過去の経緯がある。今、第6太陽系と会話できるのは我々だけだ。第6太陽系と接近する良い機会かもしれない」

 予想通り第6太陽系から大爆発に対する問い合わせがあった。大爆発に対しては調査中でまだ原因はわからないとしながら、原因にはバーチャル人が絡んでいる可能性を示唆した。第6太陽系の通信担当者はバーチャル人の話に大いに興味を示し、担当者間で連絡を頻繁に行なう事に合意した。
 第3太陽系の通信担当者が上司に、第6太陽系から連絡があった事及びその連絡内容について報告し、通信部門で報告書が作成され政府に提出された。政府は第6太陽系との関係を強化するための〔関係強化プロジェクト〕を組織した。
同時に、第6太陽系でも第3太陽系との関係強化プロジェクトが発足し、議論が始まっていた。

「第3太陽系も我々との関係を強化したいようだ。第3太陽系は2つの強国と協力せざるを得ない立場にある。我々との関係強化は秘密裏に行いたいようだ。我々が送り出したバーチャル人の現状についても、良く知っているようだ」
「現在は瞬時通信が1回線しかない。とりあえず回線を増やそう」
「宇宙政府と名乗るバーチャル世界の住民は、元々は我々の仲間である事を話さなくてはならない。しかし、第3太陽系の通信を利用して第4太陽系偵察のためバーチャル隊員を送り出した事、を、そのまま話したらまずいだろう。どのようなストーリーが良いだろうか」
「我々は、他の人類と接触できない平和なバーチャル世界を作るため10個のクラウド装置を宇宙の果てに送り出した。その内の1つが、3つの太陽系の近くの領域で隕石による事故に遭った、との最後の連絡を受けている。『その事故に遭ったクラウド装置にいた人間に違いない』と話せば我々と宇宙政府との連絡に協力してくれるかも知れない」
「宇宙政府にそのストーリーに合わせてもらわなければならない。第3太陽系に知られずに宇宙政府とすり合せをするには、どうすれば良いだろうか」
「第3太陽系に隕石事故のことを話して、われわれのメッセージを宇宙政府に届けてもらえば良いのではないか。メッセージの中に、ロケットで宇宙の果てに送り出したときの様子とか、隕石事故にあった時の様子とかを書いておけば良い。受け取った宇宙政府の要人が、よほどぼけていなければ我々の意図は通じるだろう」
「できるだけ詳細に書いたほうが良いだろう。そうすれば宇宙政府側はそのストーリーにあわせるだけで済む。死んだと思っていた我々の分身が生きていたのがわかり、数千年ぶりに連絡するので、色々と書いても怪しまれないだろう」

再会

 第6太陽系の通信担当者から第3太陽系に連絡が届くと、回線の増設については第3太陽系でも検討していたという事で、その場で1回線増設する事が決まった。
バーチャル人については、「バーチャル人は我々の仲間だったようだ。前回の通信時には気が付かなかったが私も隕石事故のことは知っていた」と前置きし、宇宙政府に伝えてもらいたいメッセージがある、と言った。第3太陽系の担当者は、自分の一存では決められない。上司の了解を取って明日中に返事をする、と言いメッセージを預かった。
 次の日、第3太陽系から「メッセージの件了解した」との連絡が入った。しばらくして〔第6太陽系あての宇宙政府からのメッセージ〕が第3太陽系から届いた。宇宙政府は第6太陽系の意図を全て読み取ったようである。 
 第3太陽系に第6太陽系専用の本格的な通信室が設けられた。通信室の隣には、第6太陽系のバーチャル人と宇宙政府のバーチャル人が使用する人体数十体を供えた、バーチャル人専用の来客室が設けられた。
第3太陽系が第6太陽系と接触している事も宇宙政府と接触している事も、第4、第5の2つの太陽系には決して知られてはならない重大機密である。特に宇宙政府はインターネットの中のクラウド装置の中に存在している。第3太陽系への往来には特に注意が必要である。
先ず瞬時通信を使用し、第6太陽系の2名の担当官が第3太陽系の政府要人に迎えられ、来客室に設けられたバーチャル人専用の人体を使用し、来客室に現れた。 
 次に第3太陽系の政府要人と先着した第6太陽系の担当官に迎えられ、宇宙政府の2名の担当官がインターネットの中を複雑に経由して、バーチャル人専用の人体を使用し来客室に現れた。宇宙政府の担当官と第6太陽系政府の担当官との間で再会の涙の握手が交わされた。 
第3太陽系の中でも関係者以外にこの事を知られてはならない。その為質素な歓迎会のあとすぐに会議が開かれた。先ず、宇宙政府の担当官から、第6世界へ連絡を取り付いでくれた第3太陽系の関係者への演技がかった謝辞が述べられ、本題に入った。

裏ルートの構築

宇宙:「我々、宇宙政府は貴国と是非協力してやって行きたい。貴国を含めた3政府と我々宇宙政府との間にはすでに平和条約や相互協力協定が締結されている。しかしわが国と貴国との間では真の協力関係を築きたい。貴国を通し故郷である第6太陽系とも協力関係を築きたい」 
第3:「我々もそれには何ら異論はない。しかし当面は秘密裏に進めることが重要である。わが国と第6太陽系との間ではインターネットとは全く別の瞬時通信で連絡できる。近々回線を増設するので通信に支障はない。しかし貴国(宇宙政府)との連絡には大きな障害がある。貴国との真の協力関係を築くためには、この問題を先に解決しなければならない」
宇宙:「我々もそのように考えている。今回のように危ない橋を渡って来るのはこれが最初で最後にしたい」
宇宙:「我々のクラウド装置とこの部屋とは直接つながっていない。間に有るいくつもの中継装置を経由しなければならない。今回は巧妙に中継装置を経由してここに来る事はできたが、いつもうまく行くとは限らない。インターネットに登録されている正規のルート以外の特別のルートが必要だ」   
第3:「インターネットから切り離され、放置された古い記憶装置は沢山ある。それらの記憶装置を一瞬接続し、闇のルートを開拓する方法しかないのでは」
第6:「しかし我々バーチャル人にはリアルなものは操作できない。たとえ接続スイッチが有ってもスイッチを操作する事もできない」
第3:「放置された記憶装置にスイッチを取り付ける作業を行うのはリアル人である我々が行うしかない。リスクは伴うが可能だろう。しかし放置された記憶装置はいつ撤去されるかわからないし、放置されたままなのでいつ故障するかわからない。別の方法を考えよう」
宇宙:「確かに放置された記憶装置では問題だ。たとえ出来たとしても一時しのぎにしかならない。正規の記憶装置を使用する方法しかない。しかし我々バーチャル人のデータそのままで正規の中継装置を経由することはできない。バーチャル人のデータを一般のデータに見せかける変換をして、この部屋の中でデコードし戻す方法もあるが、一般のデータに見せかける変換をすると、他人には意味のないデータとなってしまう。意味のないデータはそれだけで怪しく思われる」
第6:「古典的な手法だが、大量の何かのデータの所々に潜ませて、暗号表を使う方法ではどうだろう。大量の何かのデータなら3次元画像データが一番だ」
宇宙:「我々バーチャル人を構成するデータ量はそれなりに大きい。所々に潜ませるのでは効率が悪い。第4太陽系はネット内を行き交うデータの抜き取り検査も行っているようだ。単純な手法では抜き取り検査に引っかかる恐れがある。解読されない超高度なエンコード・デコード技術が必要だ」
第6:「3つの画像データのそれぞれが相互にエンコーダー、デコーダー、人のデータとするのはどうだろうか。うまく作れば画像データ全てが人のデータとして使え、無駄なデータは使わずに済むかも知れない」
宇宙:「宇宙政府のクラウド装置と第3太陽系の来客室との間に頻繁に画像データが行き来するのは不自然だ。この対策も必要だ」
第3:「それは簡単に解決できる。来客室の看板を画像室に付け替え、『宇宙政府の企業が画像の加工を行なう仕事を第3太陽系から請け負った』という小さなうわさを流すだけで解決できる」

 このアイデアが採用され、3つの画像データにより1人のデータを送信する技術に成功した。これにより、宇宙政府のクラウド装置から第3太陽系の画像室に、バーチャル人が自由に出入りできるようになった。
 また、第6、第3太陽系専用の瞬時通信も、増設され第6太陽系のバーチャル人の往来も容易にできるようになった。

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