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SFL人類の継続的繁栄 第15章『バーチャルへの流れ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

引き込み作戦の結果

三者会議は第4太陽系及び第5太陽系人類をバーチャル世界に引き込むことを画策。作戦の検討も終わり、いよいよ実行のフェイズに移行する。
第4太陽系は、このままでも活気度が落ち続けるだけなので後回しにする事とし、まずは第5太陽系の引き込み作業を先に行う事になった。
 宇宙政府のバーチャル人と第6太陽系の援軍により準備が進められ、第5太陽系の住民をバーチャル世界に引き込む作戦が実行された。
 実行初日に千人の住民が忽然と消え、第5太陽系政府に緊張が走った。次の日から毎日1万人が消え大混乱になった。適時・適所に情報爆弾が投下され、疑心暗鬼の輪が広がり、第5太陽系の政府は2つの組織に分裂した。
 分裂した2つの政府組織に対し、第3太陽系と宇宙政府から別々に救援の申出を行った。潜在記憶を埋め込んだ感染力の非常に強いウイルスがばらまかれ、第5太陽系の全住民が感染し、気力を失った。
第5太陽系の全住民を、10年がかりで専用のクラウド装置の中のバーチャル世界へと移住させる事に成功した。
その後、すでに第5太陽系のウイルス攻撃で弱っていた第4太陽系、全住民500億人のバーチャル世界への移住も始まり、こちらもすんなりと10年で完了した。
 この成果を受けて、第11回三者会議が30年ぶりに開催された。

第3:「第4太陽系も第5太陽系もバーチャル世界に閉じ込める事に成功した。これで我々三者共通の脅威は取り除かれた。しかしまだ処理しないといけない案件が沢山ある」 
第6:「過去にこの付近の太陽系のもめごとで、『思わぬところに人が隠れていて巻き返された』ということを聞いたことがあるが、今回はそのような事は考えられないか」
第3:「第4太陽系については、脳は全て脳保管庫に保管されている。そこからどこへも瞬時通信が発せられていない。どのような遠くにいても脳と人体は瞬時通信でつながっている。脳保管庫から瞬時通信の発信がない事はどの人体も使用されていないということだ」
第3-2:「第4太陽系は問題ないが第5太陽系には問題がある。ほとんどの脳は脳保管庫にあるが、一部の脳は脳器ごと自宅や職場にある。個人管理が原則なのでどこにあるかわからない」
宇宙:「どこにあるにせよ人体とは瞬時通信インターネットでつながっている。我々が瞬時通信を丹念に調べる事は可能だが、瞬時通信インターネットを破壊したほうが手っ取り早い。第5太陽系のインターネットはこれからも必要だろうか」
第6:「第4太陽系のインターネットには、宇宙政府のクラウド装置をはじめとし、バーチャル世界のためのいくつものクラウド装置がある。それに対し第5太陽系のインターネットには重要なものは何もない。また第4太陽系の人体はシンプルなので、宇宙政府の住民がリアル世界を観光する場合等、色々な使い道がある。第5太陽系の人体には高度な副脳があり、このまま放置しておくと副脳が自我を持つ可能性もある。第5太陽系はインターネットも人体も処分したほうが良い」
宇宙:「第4太陽系用のクラウド装置も第5太陽系用のクラウド装置も閉じてしまった。閉じてしまったのでこのまま第4太陽系のインターネットにつないでおく意味がない。2つのクラウド装置の処分はどうするべきか」

作戦の後始末

第3:「現在使用しているクラウド装置は古くてメンテナンスが必要だ。メンテナンスの必要ない最新型のクラウド装置はインターネットの中に沢山ある。大容量質量電池を作ってクラウド装置と一体化し、宇宙に放出したら良いのでは」
第6:「宇宙に放出するには十分な隕石対策を行わなくてはならないし、ロケットの燃料には危険な活性物質を使用しなければならない。宇宙に放出するよりも第5太陽系のどこかの天体に穴を掘って埋めてしまうのが無難だ。質量電池の容量にもよるが10億年ぐらいは持つだろう。我々の太陽系自体も10億年持つかどうかわからない。10億年は十分な長さだろう」
宇宙:「第5太陽系はインターネットも撤去し、言葉は悪いが、ゴミ捨て場にすれば良いのではないか。人体はそのままでは危険だ。解体して埋めたほうが良い」
第3:「第5太陽系をゴミ捨て場にする事に異論はないが、誰かが第5太陽系まで行かなくては穴を掘る事もできない。ここから第5太陽系に行くためには100年ぐらいかかる。穴を掘るなどのリアルな作業を行うには、インターネットを介して第5太陽系にある人体を活用しなければならない」
第3-2:「第5太陽系の人体はそのままでは使えないが、瞬時通信で使用する送受信データの仕様を変更すれば、我々第3太陽系人も使用できるだろう。政府庁舎に第5太陽系の要人用の人体があるので、それを調べれば簡単に変更できるだろう」
宇宙:「我々に手伝える事はないか?」
第3:「第4太陽系と第5太陽系をバーチャル世界に閉じ込める作業は宇宙政府が中心になり、ほとんどの作業をバーチャル人にやってもらった。穴掘り作業などのリアルな単純作業は我々が行う」
第6―リ:「我々第6太陽系にはバーチャル人とリアル人がいる。この会議に参加している中で私1人はリアル人で、隣の3人はバーチャル人だ。私はリアル人なので脳は第6太陽系にあり、瞬時通信により私のこの人体とつながっている。どんなに離れていても瞬時通信なのでタイムラグはないが、電力の面では全く別だ。離れていれば中継器を何台も経由するし、通信に使用する電力は距離に大きく依存する。私1人がこの会議に出席するために使用する電力は第6太陽系全体で使用する電力の0.01%もかかっている。それに対しバーチャル人は脳ごと人体に移動している。瞬時通信で使用する電力は移動のときに消費する電力だけだ」
第6-バ:「彼のいうとおりだ。今回のプロジェクトの援軍として1億人を送り出したが、そのための電力は極わずかなものだった。第3太陽系に脳を置いたまま第5太陽系の人体を使うのはエネルギーの関係で事実上不可能だ」
第3:「脳を第5太陽系に運ぶには100年もかかってしまう。我々が第5太陽系で活動するのは無理な事はわかった。またバーチャル人にお願いするしかない」
宇宙:「我々が作業を引き受ける」
第6-バ:「我々も作業を手伝う」 
宇宙:「我々のクラウド装置は、今は第4太陽系にある。クラウド装置のメンテナンスのために第4太陽系の人体を使用する予定だった。第5太陽系にあるクラウド装置を探して我々の宇宙ごと第5太陽系に移動するのは可能だ。そうすれば第5太陽系の人体を使って自らメンテナンスが可能になる。我々が第5太陽系に移動し、第5太陽系の管理と使用は我々と第6太陽系のバーチャル政府が行うのが合理的だ」
第6-リ:「第4太陽系についてはどう処理する? バーチャル人が使用するのが手っ取り早いが、それでは偏りすぎる」 
第3:「第4太陽系についてはしばらく放置していても問題がないだろう。100年かけて脳を運んで、我々第3太陽系の植民地として使用させてもらえないだろうか」
第6-リ:「それには反対だ。100年かけて脳を運び植民地にしても実際には植民地にはならない。植民地としてはあまりにも遠すぎる。また新たな独立した政府ができ、問題を繰り返すだけだ」
第6:「第4太陽系の取り扱いについてはあらためて決めよう。今回の会議で決まったことを書き出して確認しよう」

  1. 第4太陽系はしばらくこのまま放置し後日の会議で取り扱いを決める。
  2. 第5太陽系のインターネットの中から最新型のクラウド装置2つと容量の大きなクラウド装置1つと中程度の容量のクラウド装置1つを探し確保する。
  3. 第4太陽系にある4つのバーチャル世界を第5太陽系のクラウド装置に移転する。
  4. 第3太陽系の政府庁舎にある第5太陽系人の通信仕様を調査する。
  5. 宇宙政府や第6太陽系のバーチャル人が第5太陽系の第5地球に放置されている人体に乗り移る。
  6. 第5太陽系の質量電池工場で理想物質を使用した特大の質量電池を2つ製造する。
  7. 第4太陽系用と第5太陽系用のクラウド装置と特大の質量電池を一体化した、メンテナンフリーの2セットのクラウドシステムを作り、それぞれ別々に箱に詰める。
  8. 第5太陽系の第5地球に深い穴を開け、2つの箱を地底深くに埋蔵する。 
  9. その後の第5太陽系の管理はバーチャル人が行う。

第6:「地中に埋められたクラウド装置の中で技術が大きく発展するだろう。閉じ込めた別世界の出来事なので我々とは関係ないが、誰かが掘り出し扉を開け、悪事に利用する可能性は否定できない。この点の対策が必要だ。またクラウド装置と質量電池を収める箱は巨大地震が発生する事を考慮して頑丈に作る必要がある」
宇宙:「箱を頑丈にする事は承知した。しかしながら悪事に利用されないようにするといっても、具体的にはどのようにするべきか」 
第3:「クラウドシステムを収納する箱は開けられないように強固に溶接すれば良い。その箱の内側には爆弾を貼り付け、箱に孔を開けたり切断したら爆発するようにして、箱の外側には、『この箱を壊そうとすると爆発します。中には500億人以上のバーチャル人がいます。あなたは500億人以上の人を殺そうとしています』という張り紙をしておけば良いのでは?」
第6:「その内容はまずい。どこにも異常者はいる。張り紙をみて箱に孔を開ければ500億人が死ぬと知れば、かえって異常者を挑発する事になる。人類史を見てみると、1人殺せば殺人者だが10万人殺せば英雄になる。500億人を殺せば人類史上最大の大英雄だ、という考えにもつながる。張り紙には、壊そうとすると大爆発する、と注意書きだけ書けば良い。やはり深い穴を開け、地下深くに埋蔵し、固い物質で穴を埋め、穴の途中の所々に小型地雷を仕掛けておこう」
宇宙:「その案を2つのクラウドシステム処分の最終案としよう」

 各案件の処理方法が決議され、次回は第4太陽系の扱いについて協議する事が決まり、第11回三者会議は終了した。

第3太陽系のバーチャル進出

 第11回三者会議で、バーチャル引き込み作戦の成果、及び作戦の後処理が行われた後、第3太陽系政府では、政府要人による第4太陽系の取り扱いについての会議が開催された。

「第11回三者会談の報告書にあるように、第4太陽系の取り扱いをのぞいて全ての方針が決まった。第4太陽系、第5太陽系の脅威は完全になくなった。第5太陽系についてはバーチャル人が管理し使用する事になったが、第4太陽系には大量の人体や高度なインフラなどがそのまま放置されている。第4太陽系については我々の植民地とする案もあった。しかし遠すぎて『やがては独立した新政府ができ、今までの繰り返しになる』という意見があり、この問題は次回まで棚上げされた。我々が有効活用する事はできないだろうか」 
「ここから瞬時通信により第4太陽系の人体に乗り移る事は可能だが、遠すぎて莫大な電力を消費する。やはり100年がかりで第4世界に移住する事しか我々が活用する方法はない」
「我々がバーチャル人になれば脳や記憶ごと人体に乗り込むことができる。行きと帰りだけ電力を使うが、第4太陽系で活動中はこことつながってないので、こちらの電力を消費する事はない。ただし、記憶が向こうに行ってしまうので事故により脳が壊れれば死亡する」 
「我々が第4太陽系を活用するには、バーチャル人になり死のリスクを承知して第4太陽系に行くしかない。第6太陽系と同ように我々の住民の中からバーチャル人に移行する希望者を募り、バーチャル世界を開拓する自治政府を作るべきだ。同じ太陽系内でのリアル世界とバーチャル世界があってもトラブルにはならない。宇宙政府も第5太陽系の始末や管理のため、第5地球に放置してある人体にバーチャル人を乗り込ませ、特大の質量電池を製造したり、第4、第5太陽系バーチャル世界用のクラウド装置を地下深くに閉じ込めるための作業を行わせている。第5地球で作業している人がリアル人で、宇宙政府のクラウド装置の中にいる人がバーチャル人で、第5太陽系の中に宇宙政府のあるバーチャル世界があり、宇宙政府の下に第5地球でのリアル世界があるという見方もできる。とにかく信頼関係にあるリアル世界とバーチャル世界の極めて近い距離での共存は、相互依存状態の極めて好ましいものである」

 こうして、第3太陽系では第6太陽系に協力を求め、第3太陽系にもバーチャル世界を設ける事になった。
バーチャル世界へ移行する人を募るための資料が作成され、各所で説明会が行われ、移行者を募集し、住民の約3割の50億人がバーチャル世界に移行する事になった。予め政府組織を決める事になり、大統領に野田氏が就任する事が決まった。

 第6太陽系の技術を使い、バーチャル世界への移行希望者がデータ化された。第6太陽系のバーチャル政府からインフラや各種データが寄贈され、クラウド装置の中に予め移行者50億人が居住できる住環境や各種インフラ、娯楽施設などが整えられた。50億人のデータがクラウド装置に送信され、50億人が居住するバーチャル世界が誕生した。
 第6太陽系のバーチャル人が千人、アドバイザーとして送り込まれ、アドバイザーの指導の下、第3太陽系のバーチャル世界の開拓がはじまった。

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