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SFM人類の継続的繁栄 第2章『第4太陽系の逆襲』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

最悪の目覚め

元第4太陽系人のクラウド装置で、上田大統領が目を覚ました。活気が少しずつ落ちてきたところまでは覚えていたが、その後の記憶は夢の中のようだった。はっきりと目覚めた時には非常に違和感を覚えた。大統領執務室もこれまでのものと違っていた。側近たちもけげんな表情のまま大統領執務室に集まって来た。大統領を中心にして側近たちの雑談が始まった。

「我々は今まで何をしていたのだろう。何かおかしい」
「我々は少しずつ活気度が低下してきた。今は元に戻ったようだが色々と違和感がある」
「今日、久しぶりで目覚めたような気分だが、自宅もいつもと様子が違っていた。この大統領執務室もどこかおかしい」
「この部屋の窓から外を見回すと、周りの風景は以前と同じようだが、やはりどことなく以前とは違っている」
「私が使用している人体も以前の人体とどことなく違った感じがする。我々は一体どうしたのだろうか」
「過去の記憶ははっきりと覚えている。第5太陽系の武器庫となっていた天体が巨大爆発を起こし、第5太陽系とは一触即発の状態になり、第3太陽系の共同植民地化を材料に和解をしたところまでははっきり覚えているが、その後はうる覚えだ。気がついたらここにきていた」
「第3太陽系の共同植民地化の話だけで第5太陽系が和解に応じたこと自体が不自然だ。和解に応じたと見せかけて我々にウイルスを感染させたのに違いない」

「私もここにいる全員も何か違和感があるようだが、定例会議のメンバーは全員揃っている。今から定例会議を始める」
「我々は第5太陽系によりウイルスに感染させられたのに間違いないようだ。我々はこのようにして定例会議を行っている。しかし色々と違和感がある。我々はまだウイルスに感染しているのだろうか」
「第5太陽系とは大きな問題があったが第3太陽系や宇宙政府とは特に大きな問題はなかったはずだ。先ず第3太陽系と宇宙政府に連絡を取ってみよう」
「インターネットの状態も把握しよう。それから会議を再開しよう」

 会議を中断し、側近の1人がネット管理室にインターネットの状況を問い合わせた。ネット管理の担当者も、「今日、目覚めて職場に出勤したら違和感がある」と言った。それよりも問題なのは、「第4太陽系外へのインターネットへのアクセスする装置自体がない」との事だった。他の部門にも連絡して他の太陽系に連絡を試みるように言ったが、どの部門でも他の世界への連絡が取れないということだった。この結果を受けて定例会議を再開した。

「他の世界への連絡はもとより、他の太陽系のインターネットへの接続もできないということだ。無論この第4太陽系内部のインターネットは使えるようだが、そのインターネット自体が非常に小さくなっているようだ。一体何が起こっているのだ」
「もっと重大な問題がある事がわかった。我々の脳は地下深くのシェルターに設けられた脳保管庫にあり、脳と人体が瞬時通信でつながっているはずだが、その通信が行われていないようだ。すなわち今、我々は体と脳が一体化している。ウイルスに感染したどころの話ではない。我々は今までとは全く違う人間になってしまった。我々は一体誰なのだろう」
「昔の記憶があることだけは確かだ。色々と変わってしまったが生きていることだけは確かだ」
「体と脳が一体化している……。外部とは連絡できない閉鎖した空間に閉じ込められている……。我々はデータ化されバーチャル人にされ、クラウド装置に閉じ込められてしまったと考えるのが最も妥当だろう」
「バーチャル人の世界というと宇宙政府と同様な世界なのか。宇宙政府はインターネットにつながっていて外部と自由に連絡も往来もできるが、我々は閉じ込められてしまっている。我々は一生この世界から出る事はできないのか」
「幸いにも色々なインフラや機械はデータ化されているようだ。バーチャルに詳しい技術者や通信に詳しい技術者もいるだろう。先ずは現状の分析が必要だ」

こうして、関連技術者が集められた『現状分析プロジェクト』が組織されることとなった。 

現状分析プロジェクト

 各部門から技術者が招集され、現状分析プロジェクトが組織され、各部門の技術者が予め担当の調査を行った後、第1回の会議が開催された。

「我々はクラウド装置に閉じ込められ、外部との連絡は完全に絶たれたようだ。我々に脅威を感じていた第5太陽系か第3太陽系か宇宙政府のいずれかにより、このようにされてしまったのに違いない」
「このバーチャル世界は500億人の住民が生活できる十分な大きさのようだ。しかしこの世界のクラウド装置がどこにあり、誰がメンテナンスをしているか、電池は何年持つかなど、重要なことは皆目見当がつかない」
「クラウド装置は、大容量の記憶装置を主体とした装置と、電源供給用の質量電池と、この世界を動かしているクロックにより構成されている。この装置の中で我々が活発に活動すれば質量電池から供給される電力が増加する。電力の使用量が高速で変化すれば質量電池とクラウド装置を結んでいる電源ケーブルに流れる電流が高速で変化し、変化に対応した電磁波が発生するはずだ。外部へ電磁波を発射する事は原理的には可能だ。しかし一般通信に使用する電磁波の周波数に対応するほど急激な活動量の変化を起こすためには、どのようにしたら良いのだろう」
「この世界を動かしているクロックを変調できれば消費電力を大きく変調する事が可能である。しかし、少なくともこのクラウド装置には内部からクロックを変調する手段がない」
「このバーチャル世界を、外部クロックで動く極小さな領域を制御領域として他の広大な領域から切り離し、制御領域でクロックを分周して500億人が居住する広大な居住領域を動かせば良いのではないか。分周ではなくアナログ的な手法を用いれば居住領域のクロックを連続的に変調する事ができるはずだ。制御領域には上田大統領を中心に数十人の政治家と数千人の上級技術者と一般作業者の合計1万人ぐらいが、変調装置や階層型コンピュータなどの必要な機材と共に乗り込めば良い」
「そのようにすれば500億人が住む広大な居住領域を変調し、クラウド装置と質量電池を結ぶ電源ケーブルから電磁波を外部に向けて発信する事は可能だろうが、変調される広大な居住領域に住む人に対する問題は全くないのか」
「問題は全くない。クロックがいくら早くても遅くても、そのクロックをベースとした世界ではクロックの速度を認識する事はできない。外部から見ればその世界に住む人間の動きがギクシャクして見えるだろうが、逆に内部から外を見ると反対の動きでギクシャクして見える。どちらがギクシャクしているかは関係ない。時間の進み方が相対的に違うだけの問題だ」

反攻の初手

「外部への発信はこれで出来るとして、発信内容についてはどのようにしよう。このクラウド装置がどこに置かれているかはわからないし、誰が受信するかもわからない。このような場合の最適な解はあるのだろうか。階層型コンピュータの出番かも知れない」
「しかし、階層型コンピュータもこのクラウド装置内のものなので、容量の関係で大した能力は期待できない」
「最適な解ではないかも知れないが、このクラウド装置がどこにあろうと、この装置の近くにいる人が誰であろうと、受信した人の脳を乗っ取ってしまえば良い。階層型コンピュータに、乗っ取るための方法、という具体的に指示すれば、乗っ取るための最適な方法がすぐに出るだろう。ここの階層型コンピュータでもこのくらいのことはできるだろう」
「受信した人の頭を乗っ取ることに成功したとして、その後はどのようにすれば良いのだ。頭を乗っ取った人との通信はどのようにすれば良い? また乗っ取る人は1人とは限らない。同時に複数の人に頭を乗っ取る可能性が大きいだろう」
「1人の人が多数の人の頭を乗っ取ったとしても、乗っ取った瞬間に、過去を共有した別人になるが、目的も知識も全て共有しているので全く問題ないだろう。むしろできるだけ多くの人の頭を乗っ取ったほうが良い」
「乗り込む人の人選が重要だ。乗っ取った多数の人が同じ性格になるので、自己主張の激しい人では駄目だ。理性的で知的で協調性のある人が良い」

 プロジェクトのメンバーの中からM氏が選ばれた。
制御領域と、変調される広大な領域に分けられ、必要な機材携えた1万人が制御領域に入った。階層型コンピュータにより、乗っ取るための送信データや多数のM氏が採るべき行動データ、が出力された。発信データの中にM氏の脳データも書き込まれた。発信データがクロック変調器にかけられ、500億人が住む広大な領域が変調され、電源ケーブルから電磁波が発信された。

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