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SFB人類の継続的繁栄 第10章『分散化計画』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

分散移住プロジェクト

 このような中でも地震は頻発していた。 
 首都地域から8000km離れた海底を震源とする、小惑星の衝突以前には有り得なかった、マグニチュード10.5という超巨大地震が発生した。8000km離れたこの地域では致命的な被害はなかったが、現在の人類はこの首都を中心とした半径600km圏内という限られたエリアに生活圏が広がっている。地域で同規模の地震が発生すれば、間違いなく人類は滅亡する。
 これを回避するための〔分散移住プロジェクト〕が計画された。このプロジェクトはこの地域も含め、互いに2000km程度離れた地域に都市を作り分散することにより、超巨大地震による人類の絶滅を防ぐためのリスク拡散という超巨大プロジェクトである。
この場合、新たなコロニーの候補地となるのは、最低でも2000km程度は離れておりかつ発掘が可能な安全な都市遺跡を探すことであり、これがプロジェクトの直面する最大の課題である。
 都市探査のため航続距離6000km以上の飛行機及びドローンの開発も検討されたが、現状の技術ではハードルが高すぎた。目標とする都市の上空に長時間とどまり観測可能な、飛行船のほうが各種の点で飛行機よりずっと合理的との結論になり、飛行船建造プロジェクトが立ち上がった。
必要な観測機材、2名の観察員を運ぶための往復の燃料を計算したところ、通常の飛行船では途中での燃料補給無しには無理だとわかった。そこで浮力を得るためのガス袋とし、大量のバルーンを使用することにした。
 行きはプロペラエンジンのほかに2基のロケットエンジンをゴンドラの横に搭載し、エンジンを点火後は急速かつ高速で飛行し、途中で1基のロケットを切り離し、目的地到着後2基目も切り離し、ロケットの切り離しや燃料消費による重量の低下に対応して適時にバルーンを切り離す方式を採用した。最終的には小さくなった飛行船により、観測員と観測機材の一部だけが戻る方式にすることとした。
 飛行船が完成し、2人の観測員を乗せて1基目のロケットが点火される。飛行船は時速100kmで目的地に向かった。燃料を消費し機体が軽くなるにつれ、対応する量のバルーンが切り離された。1基目のロケットが切り離された時はその重量に対応する大量のバルーンが切り離された。
目的地の上空に到着し、2基目のロケットと、その重量に対応するバルーンが切り離され、飛行船は一段と小さくなった。
 飛行船は、都市の上空をゆっくりと移動しながら3日間観測を行なった。観測終了後、大型の観測機材を捨て、それに伴うバルーンを切り離し、飛行船はさらに小さくなった。
 帰りの飛行にはロケットはなく時間がかかるので、観測員のバッテリーが途中で切れる可能性があった。このため交代で電源を切り、基地に戻ることができた。
 こうして、幾度となく飛行船による観測を行った結果、4つの埋もれた都市が候補地として決まった。
 この間に、小容量質量電池を電源としたモーター式の、硬式ガス袋を使用した新型飛行船の開発が進んでいた。
 今回の飛行船調査の結果、分散移住計画の今後の進め方は次のように計画された。

1 まず、新型飛行船に隊員2名が乗船し、カーボン変成機、小型発電機を搭載し、目的地に到着後、堆積した灰を取り除き、小型発電機を設置する。
2 周辺の埋もれた建造物からカーボンを取りだしカーボン変成機により基地設営用の部材を製造し簡易な前線基地を設営する。
3 順次中型発電機や人員を投入し、本格的な前線基地を設営し、人口1000人の小型都市を作る。
4 中型の航空機が発着できる飛行場を作り人員や機材を航空機により搬入し、自給自足可能な都市機能を備えた数万人の独立都市を作り、数十万人の都市に発展させる。

 2000km程度離れた独立都市間を結ぶ幹線道路計画があったが、地震や他の自然災害により寸断される可能性が高いため、幹線道路計画は中止され、そのかわり飛行場を大型化することにより都市間のアクセスを行う方法に変更した。
 第2世代の末期、「行き過ぎたインフラやグローバル化は自然災害にもろい」という理由で、自給自足型の都市を多数建造したが、地震などの自然災害が巨大化している今、この考え方をさらにすすめることにした。

第3暦200年 新1号都市の開拓

 新1号都市開拓用の大型の飛行船が完成した。飛行船には残量がわずかな質量電池が電源として使用された。
すでに都市の発電はカーボンを燃料とする火力発電に切り替わっていた。そのため第2世代に都市の標準電源として使用されていた、最大出力20万KW、重量約8kgの質量電池は、わずかな残量のものが多数放置されていた。使い古しの質量電池はもはや都市の電源としては使用できないが、消費電力が桁違いに小さな飛行船の電源としては充分に使用可能であった。
 ゴンドラの搭載加重は600kgで、2人の隊員、質量電池、小型のカーボン変成機、小型発電機、その他当面必要な道具を搭載し、時速40kmでの飛行が可能である。
 隊員には通信、インフラ等の専門知識をもつ2人の技術者が選ばれた。
2人の隊員を乗せた飛行船は、2000km先の目的地に向けて、時速35kmで出発した。飛行船は順調に飛行し2日半で目的地上空に到着した。地上100mまで降下し、前線基地としてふさわしい都市中心部の平坦な場所を見つけ着陸した。
 2人の隊員は、飛行船が飛ばされないように、着陸地点の周辺の堆積灰が固化した固い地盤に杭を打ち、飛行船を係留した。
 一刻も速く風雨から機材を守る仮前線基地を作る必要がある。2人はスコップを携え周辺の探査に出かけ、近くに建物が密集しているらしき場所を見つけた。その周辺を歩いて観察すると、堆積灰が崩れて側壁が露出している建物があった。
2人はスコップでその周辺の堆積灰を取り除いた。どうやら2階建ての建物のようである。そこの堆積灰を取り除くと窓のような物が見つかった。この2階建ての建物の窓だった。 スコップで窓を叩き割り中に入ると、床には2cmほど灰が堆積していたが、大きな損傷はなかった。1階に降りようとしたが、1階は完全に堆積灰で埋もれていた。
 2人は飛行船が係留してある平地と、仮前線基地として使用するこの建物との間に、長さ50mほどの簡易通路を作り、飛行船から質量電池、カーボン変成機、その他の重要物を取りだしこの建物に運んだ。こうして、その日の内に仮前線基地の設営に成功した。
 次の日も晴れていた。2人の隊員は1日中スコップを携え、この周辺の1kmほどを探査し、この地域が本格的な前線基地として使用できることを確信した。また探査中に見つけた建物の屋根などからカーボン板を回収し、仮前線基地に戻り、カーボン変成機を使用し、地質強度観察用の2mほどの細長い探査杭と、打ち込み具と引き抜き具とを製造した。
 翌日、これらの地質観察セットを携え、基地周辺の主要な100カ所に探査杭を差し込み、堆積灰の厚さと硬化の程度、堆積灰の下の状況を克明に記録した。
こうして5日間の調査は終了した。その翌日、隊員2名は記録物だけを飛行船に持ち込み、本部が置かれている第2都市に戻った。

新1号都市への入植

 戻ってきた2人の報告を受けて、政府では新1号都市の当面の開発計画が検討された。
本格的開発のためには、第2都市の本部と新1号都市の前線基地との間に通信手段を確保する必要がある。しかし長距離無線通信装置を開発する余裕は無かった。無論、第2世代が使用していた通信衛星による通信網は使用不能であり、2000kmの間で交信するための通信手段を作らなくてはならない。 
 2000km先の前線基地との間に十数カ所の通信中継基地を設ける案が検討されたが、中継基地用の電源確保に問題があった。わずかに残された質量電池は飛行船の動力源として活用するので、中継基地に使用することはありえなかった。現状の発電は炭素を燃料とした火力発電だけなので、超小型火力発電を中継基地に設置する案も検討されたが、メンテナンスの点で現実的ではなかった。
通信のための電力なので消費電力はごくわずかだが、極わずかな電力の確保にもこの頃の第3世代の人類には非常に難しいことだった。バッテリーを使用する案も検討されたが、バッテリーは人を作るための貴重品であり、また充電するための飛行船発着場所を確保する必要があり、現実的でなかった。
2000km余りの送電線を作り、第2都市から電力を送電することも提案されたが、それを行うよりも、中継基地を設けずに直接信号線を敷設するほうがはるかに合理的である。
 このように数々の案を検討した結果、通信中継器を設けずに信号線を敷設することに決まった。カーボン変成機により抵抗値の非常に小さな導体と非常に強度の高い被覆用絶縁体は簡単に製造可能である。カーボン変成の担当者が計算したところ直径0.2mmで引っ張り強度1トンの信号線を作れることがわかり、全長2300kmの信号線に必要な重量は、わずか80kgだとわかった。80kgならば中型の飛行船で敷設可能である。
地上には草木がほとんどなく、大半の大地は堆積灰で覆われているので、非常に引っ張り強度が高いその信号線を空中から落とすだけの敷設で良かった。川や崖などの数カ所だけは念のため杭を打ち、そこにくくりつければ問題ない。
通信方法は音声会話を基本とし、データのやり取りにはモデムを使用することが決まった。2300kmの信号線と2台のモデムが製造されると、中型飛行船により信号線の敷設作業が行われ、前線基地と2000km離れた本部との間の通信が可能となった。
 第2次開拓隊は15人の隊員が小型重機とその他の資材を積載量4トンの超大型飛行船に搭載し、3日をかけて新1号都市の前線基地に到着した。小型重機を使用して、本格的な前線基地の設営が始まると、すぐさま飛行船の係留施設も5機の飛行船が係留できるように整備された。
中型の発電機や中距離送信機も運ばれ、一般人も開拓作業に加われるようになり、1年後には1000人の開拓者が住む開拓地区となった。
 この成功によって、新2号都市、新3号都市の開拓も開始された。また政府によって緊急時以外には新1号都市への輸送に、超大型飛行船を使用しないことが決定された。

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