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SFG人類の継続的繁栄 第4章『馬鹿と天才は紙一重』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第三太陽系の技術躍進

 スーパー人と政権首脳会議において第3太陽系は技術大国を目指すことになった。
危険の伴う活性物質に関する研究拠点は43億キロ離れた遠くの天体、離天体に設けられた。その他の技術の研究拠点は過疎半球側に広大な敷地を確保し、研究機関やその関連機関を集結する事になった。また第4太陽系と不要な摩擦を避ける意味で、この事は当面連絡せずに行なうことにした。
 しかしながら今でも第3太陽系の政府は第4太陽系の下の自治政府である。直並列通信機を使って定期的な連絡が必要である。
この対応策を議論するために高知能検証プロジェクトによる会議が開かれた。 

「スーパー人に移行したこと、技術大国を目指すこと等は隠すとして、第4太陽系との今後の交信はあくまでも第4太陽系の指揮の下にある自治政府として交信する事が必要である。巨大な能力の自動交信器を作り、自動対応すれば良いと思うがどうかね」

 頭が桁違いに良くなったので、議長自ら問題の説明と同時に解決方法も提案した。
この方法はすぐに賛同を得ることとなり、早速、自動交信器の製造が進められた。脳部品製造装置により大量の超高性能部品が生産され、直並列通信機の100倍の性能の自動交信器が製造されることとなった。
 自動交信器は直並列通信機による複雑な受信データを解読し、こちらの戦略に対応した複雑な、矛盾のないデータを送信するもので、スーパー人でも1000人が1年がかりで行う作業を10時間で行う能力を有している。これで第4太陽系との交信対策は万全である。
 離天体には大規模な研究機関が設置され、10万人の研究者たちが勤務し、たちまち第4太陽系の活性化技術を追い越してしまった。
 エネルギー理論担当グループは物質を完全消失させる場合、消失方法の違いによりエネルギーは2つの形態をとることがわかった。1つは眠ったエネルギーとして真空中に滞留する形態、1つは電磁波に変換される形態である。
 活性爆弾担当グループとエネルギー理論担当グループとが連携し、エネルギー理論の研究を兼ねて、電磁波砲の試作を行なう事になった。当初筒の中で物体を消失させ、両端から電磁波を放出させる予定だったが、研究が進むにつれ、筒の片側を特殊な方法で封じることにより、反動無しに全エネルギーが開放された1方向から放出できることがわかってきた。質量は全て電磁波に変換され、電磁波は質量を持たないので反動はない。
 研究が進むにつれ、発生させる電磁波の波長も制御できるようになり、また開放端にレンズ効果を持たせる事に成功し、電磁波を平行に照射する事も、焦点を合わせて照射する事も可能になった。
 小型の試作機を製造し、30万キロ先に浮遊している極小さな天体の破壊実験を行った。この程度の小規模の実験なら第4惑星に気付かれる事はない。実験は成功し、小天体は跡形もなく破壊された。

ステルス技術の活用方法進

 過疎半球側の広大な敷地には沢山の研究機関が集結していた。物質変成機部門の研究員の1人がダイオード膜を発明した。
構造体を究極化した膜であり、光やその他の電磁波を外側から内側へは透過するが、内側から外側には透過できない膜である。
膜の内側から見れば外側は丸見えで、外側から見れば内側のものは何も見ることができない。膜の存在さえも認識できない。この膜で宇宙船を囲ってしまえば、宇宙船から他の天体は丸見えだが、外からの光は膜を透過したまま内にこもり外には出ることはない。真っ暗な宇宙ではどんなに強い光を照射しても、そこに物体がある事を認識する事はできない究極のステルス化だった。
この発明成功の結果は物質変成部門内で協議されたあと、早速、宇宙船部門に話が持ちかけられた。宇宙船部門もこの話に興味を抱き、小型宇宙船で実験する事にした。ダイオード膜はすでに製造済みで、あとは宇宙船の外装に貼り付けるだけである。
エンジンの高速粒子放出部分を残し、ダイオード膜を貼り付けステルス化した。大気の濃い、僅かな太陽光が射す地上では、背景に対し真っ黒に見え、ステルス化した宇宙船の形状がわずかだが視認できた。
ステルス化した実験用宇宙船と観察用の宇宙船が基地から飛び立った。大気圏から脱し真っ暗な真空中をテスト航行した。観察用の宇宙船から、ステルス化した実験用宇宙船が航行していると思われる領域に強いライトを当ててみた。光はダイオード膜を透過し反射光はなかった。
観察隊員はステルス化した宇宙船の位置を確認しようとレーダーを操作した。当然レーダー画面には何も映らなかった。観察隊員はステルス化した宇宙船がどこを航行しているか全く分からなくなってしまった。しかし実験隊員には、強いライトが照射された事も、レーダーが照射された事も全てが分かっていた。
観察隊員は、実験用宇宙船がどこにいるかわからず不安を覚え、合図するように実験用宇宙船に送信した。受信した実験隊員はダイオード膜の窓をあけ、並走して航行していることを送信し、同時に窓からライトで合図した。
離天体にある天文台も実験の様子を観察していた。しかし、ダイオード膜で覆われていないエンジン部のごく一部を除いて、実験用宇宙船を観測する事はできなかった。
 この実験結果は科学技術省を通し政権に伝えられた。神田氏を含む政権幹部、科学技術省のトップ、実験に関わった技術者による会議が開催され、ダイオード膜の利用方法などについて議論した。技術者からの一通りの説明の後、政権幹部の1人が、ダイオード膜を発明した技術者に次々と質問した。

「仮にダイオード膜でこの第3地球をすっぽりと覆ったらどうなるのかね?」
「光を照射しても、他の電磁波を照射しても、外部からは全く見えません。無論こちらから外部は丸見えです。外部からは見えなくてもこの惑星には衛星があります。衛星が何もないところを回っているので、小さなブラックホールがあると思うでしょう。しかし色々と調べればブラックホールではないことがわかり、ますます不思議に思うでしょう」
「離天体で電磁波砲を開発したようだが、筒口だけ残して電磁波砲を覆ったらどうなるのかね」
「筒口の向いている方向から見れば筒口は見えますが、他の方向からは全く見えません」
「仮に人間をすっぽりと覆ったらどうなるのかね」
「真っ黒に見えます。背景の中を真っ黒い影があるような感じで、何かがある事がわかってしまいます。今、別の機能の膜を開発中です。それと合わせれば透明人間ができます」

 このような現状の技術レベルを踏まえて、当面は宇宙船だけに応用する事になり、宇宙船関係の技術者が加わり会議を再開した。

「天文台の観測では、エンジンの一部分だけが見えたという事だが、エンジンを隠す事は可能かね」
「すでに解決済みです」
「宇宙船をステルス化した場合、第4太陽系の天文台からはどのような方法でも見えないという事かね」
「1つだけ問題があります。例えば天文台からこの第3地球を観測中に、ステルス宇宙船が横切ったら、小さな黒い点として見えてしまいます。しかしこれは簡単に解決する事ができます。ほぼ完成していますが、いわばカメレオン膜という膜をダイオード膜の上に貼ると、背景と同化します」
「光学迷彩のようなものか」
「そうですね。それに近いものだと考えてもらって結構です」

極秘裏に進む準備

 翌日、阿部大統領と政権幹部による会議が開かれると、電磁波砲を搭載したカメレオン型ステルス宇宙船を第3太陽系の要所に配備する事が決定された。また電磁波砲と第4太陽系の遠天体についても話が及んだ。

「我々の離天体での活性物質の研究には十分に安全が担保されているが、第4太陽系の遠天体では何が起こるかわからない。活性化技術を使用した色々な武器も作っているようだ。馬鹿は何をするかわからない。心配だ」
「いっその事、電磁波砲で破壊したら良いのではないか。電磁波砲で破壊しても、活性物質による事故だと考え、我々が破壊したとは思わないだろう」
「破壊しても人命の問題はない。あそこで働く技術者は全員他の惑星や衛星から通勤している。記憶が数日飛ぶだけだ。遠天体で爆発事故が起これば馬鹿な連中でもこれ以上の危険な研究はしないだろう。ほとんどの武器は遠天体に保管している。遠天体は武器の保管庫だ」
「遠天体の破壊には賛成だが25光年も離れている。25年の間に活性物質を使用した実験をすればすぐに軌道が変わり破壊できない」
「時間はかかるが、ステルス宇宙船でそばまで行き、電磁波砲で破壊するしか方法はない」
「ステルス宇宙船でそこまで行くのなら、我々に寄生していた75億の微小生物も始末したほうが良いのではないか。知能と言う点ではあの微小生物のほうが我々よりすぐれている。微小生物と第4太陽系の馬鹿共が合体し、本気を出したら手に負えない」
「始末すると言ってもどこにいるのか場所がわからない。一箇所に固まっているのは確かだが」
「自動交信器の1万倍の能力を持つ、核心コンピュータが完成した。今までの交信記録を全部入力すれば確実に場所がわかるだろう」
「どのように始末するのか。まさか透明人間を着陸させ始末するわけにはいくまい」
「神田君はどう思うかね」
「我々や第4太陽系の人類の脳には十分なシールドが施されているが、我々と違って微小生物は電磁波に弱い。微小生物は脳だけの全く無防備な状態だ。少し強めの電磁波を照射すれば簡単に死ぬ。人が一緒にいる場合も考えて、人の脳には危害を与えない範囲での強力な電磁波により始末するのが良いだろう。あの微小生物を始末して遠天体を破壊すれば、我々の脅威は全て取り除かれる」
「今からステルス宇宙船で第4太陽系まで行くには60年はかかるだろう。その間に情勢が変化したらどうしたら良いだろうか。25光年も離れているので、連絡しようにも往復50年もかかる。光速より早い速度で通信する事はできないのか」
「『光速より早い速度で通信できない』というのは何十万年前の理論だ。我々は技術の進展を禁止されていたので光速より早い通信や移動方法は考えていなかったが、今は技術の進展を制限する方針はなくなった。現に我々は自らの知能を大幅に改良した。大幅に頭が良くなった我々が本気になって考えれば、光速問題はきっと解決できる」
「しかし宇宙には光速より速い現象はない」
「宇宙での有無など関係ない。現に活性化技術による天体の消失などは、これまでの宇宙の観察では全くなかった。早速、超光速研究を行おう」

 ステルス監視宇宙船を第3太陽系の要所に配備するプロジェクト、電磁波砲を搭載した大型ステルス宇宙船を第4太陽系に向けて航行させるプロジェクト、超光速通信プロジェクトを同時に立ち上げることが決まり、各プロジェクトが始動した。
 電磁波砲の実験は終了していたが、実用砲はまだできていなかった。宇宙船に搭載する小型のものと、遠くにある大きな天体を破壊する大型のものと、第3太陽系の主要な天体に配備するものなど、各種目的に応じた性能や形状の電磁波砲を製造する事になった。
 宇宙船に搭載する本格的な電磁波砲については大きさの問題があった。電磁波砲の砲身は筒状なので、電磁波砲の形状に合わせ宇宙船ごと筒状にする案があったが、筒状の宇宙船だと回転による遠心力を得ることができず、不都合な点が多い。円盤型宇宙船に搭載できる螺旋状の砲身の研究も行うことにした。
 螺旋型電磁波砲の開発は順調に進み、電磁波砲を搭載したステルス宇宙船の試作機を製造しテスト航行が行われた。
試作機は、第3地球から10億km離れた実験領域に向けて飛び立ち、1年後にその領域に到達し小天体の破壊実験を行ない、実用化への実験に成功した。

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