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SFG人類の継続的繁栄 第5章『界線・回線・開戦』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

光速を越える通信技術

第4太陽系の危険な遠天体の処理はステルス宇宙船で行うことに決まり、それに向けて準備が始まった。活性化エンジンは大幅な進展を遂げていたが、25光年離れた第4太陽系までは50年は必要である。その間にどのような情勢の変化が起こるかわからない。最大の問題は、50年後に第4太陽系に到達した宇宙船との連絡の問題である。直並列通信による方法もあるが、この方法はある程度予測可能な状態を前提としている。
 超光速通信の開発には長期間かかると予測されたため、開発を待たずに第4太陽系に向けて宇宙船を出航させる予定だったが、事前研究の結果、超光速通信には現状の通信機器をそのまま転用する事は不可能な事が明らかになり、超光速通信技術の開発まで待つこととされた。
 関連技術者が招集されると、開発の方向性についての議論が始まった。普通ならば、まずは誰もが疑問に思う「光の速さを超える通信技術など、そもそも可能なのか」という部分が大きな議題となるのが当然だった。しかしながら、今の彼らには100万年前の頭の悪い人類とは違うという自負があった。「光速を越える事はできない」という概念を払拭し、ゼロベースで思考する事にして議論をおこなった。

「反発係数1の物体なら、衝突を繰り返すことにより加速させる事ができる。たとえば2枚の鏡を遠く離して対向させ、秒速1万キロで鏡同士を近づけて、その間に光を放っても、鏡に反射するごとに光は加速しない、という否定されていた考え方を、否定から肯定に変更して考えてみるのはどうだろうか。光でなく特殊な電磁波のようなものを発生させ、電磁波同士を衝突させたら加速するかも知れない。研究する価値はある」
「電磁波同士が衝突し反発する、という概念が無かったが、ゼロベースで研究しよう。光線をぶつけ合っても何も起こらないので、反発する電磁波のようなものを研究しよう」

 活性化部門の研究者が加わり、物体の消失に伴う電磁波の発生実験を行い、ついに反発しあう電磁波に似たエネルギー波の生成に成功した。
エネルギー波同士を衝突させ反射させることには成功したが、光速を越える事はなかった。色々と条件を変え実験し、単純計算上では光速の10万倍の速度に達するまで行ったところ、いきなり光速の10万倍の速度のエネルギー波が出現した。1光年の距離を1秒で伝達する速度まで加速させる事に成功し、通信速度の問題は解決した。
 これにより25光年先の宇宙船との間で往復50秒の遅延で会話ができる、超光速通信が可能になったのである。
この画期的な通信技術の確立により、すぐさま、小型ステルス宇宙船が第3太陽系の要所に配備されることになった。そして、満を持して大型ステルス宇宙船3隻が第4太陽系に向かって出航したのである。

対峙する神田氏と大統領

そんな頃、ウルトラ人達1000人の密かな集会が開かれた。
集会では、それぞれの活動報告が行われた。神田氏から政権内部の状況について説明がされていく。ウルトラ人達はそれぞれの機関でそれなりの要職を占めていたが、スーパー人たちの黒幕的存在ではなく、それぞれの職場で優秀な人材として活躍していた。
 ほとんどのウルトラ人たちは、職場でウルトラ人と言われるのを嫌い、あまりスーパー人たちを見下す事もなく、特別な知能を駆使し、優秀な人材として活躍している現状に満足していた。神田氏の場合も同じだった。
 神田氏は、自分たちが実際にウルトラ人としての能力を持っており、一時は人類を支配したいという野望を持っていた事を、思い切って告白する事を提案した。他のウルトラ人もほぼ同じ思いのようだが、今の立場から下ろされる事、能力を引き下げられる事だけは避けたいと思っていた。
 神田氏は先ず自分が特別な能力を持っていて、かつて、黒幕としての野望を持っていたことを大統領に告白し、その反応を見る事を提案した。神田氏に一任する事を決め集会は終了した。

「自分は特別な知能を持っていて、かつて人類を支配する野望を持っていた」
「人類を支配する野望なら私は今でも持っている」
神田氏の告白に、大統領はそうユーモアを交え答えた。そして真剣な表情で、「君の能力はすばらしい。ぜひ、このまま我々を支えてほしい」と告げた。
神田氏は大統領の態度をウルトラ人ならではの鋭い洞察力で判定したが、自身の心配が杞憂であったことを認めた。この大統領は信頼できると判断したのである。そして仲間たちのことを明かす決意をした。
「実は私だけでなく残りのメンバーもその能力を持っていますが、今は全員野望を捨てて各職場で有能な人材として活躍しています。ぜひ彼らもこのまま能力を持たせてほしいのです」
「昔の人類は我々と違って脳の構造が少しずつ異なり、色々な才能を持つ人やそれぞれの分野の天才もいた。しかし今の人類の脳構造は皆同じで能力にあまり差がない。各分野に優秀な人材が必要だ。ウルトラ人にウルトラ能力のまま活躍してほしい」
 神田氏は崖から飛び降りるような決意を持って明かしたことだったが、大統領は気にもしない素振りで、ウルトラ人たちの境遇を保証した。
「ありがとうございます大統領。厚かましいようですがあと、一つだけお願いが」
「なにかな」
「彼らは皆、ウルトラ人と呼ばれるのは皆嫌がっています。ウルトラ人という称号は使わないでください」
 そう告げると、大統領も少し深刻な態度を見せて考えると、少しして言葉をつないだ。
「私もスーパー人という呼び方には違和感を持っている。スーパー人やウルトラ人と呼ぶ事はやめて、単に人や人類と呼ぶことにしよう。ただ第4太陽系の馬鹿どもと同じでは困るが」
これには神田氏も苦笑するしかなかったが、素直に自分の気持を伝えた。
「たしかに、人を馬鹿扱いするのはあまり良くないことですが、25光年も離れたところにいる人を馬鹿と呼んでもだれも傷つかない。これからも馬鹿どもと呼びましょう」
ようやくリラックスしたような神田氏のそんな言葉に、大統領も笑いながら「そうしよう」とだけ答えた。

第4太陽系に到着したステルス宇宙船団

 出航から60年が経過し、ステルス宇宙船3艦は第4太陽系に到着した。超光速通信により、その間の連絡は途絶える事はなかった。
1号艦は第4太陽系の外側にとどまり第4太陽系全体を監視し、2号艦は遠天体に近づきつぶさに観察し、3号艦は第4地球の月の周りを周回し、予め予測された微小生物が住んでいる場所を捜索した。
遠天体の上空には1000個以上の大小さまざまな防爆容器が浮遊していた。まさに武器の保管庫である。第4月は人口こそ少ないものの、政治や技術の中心拠点であり、政府の建物や技術施設などの多数の重要な建物が観察された。
予め予測されていた微小生物が住んでいると思われる領域を観察したところ、1つだけ他の建物と異なる構造をした建造物を見つけた。ダイオード膜の窓を少しだけ開け、物質分析用レーダーで調べたところ、ほとんどの建物の外装材にはカーボンが使われていたが、その建物だけ金属で覆われていた。
 2号艦による遠天体の様子、3号艦による第4月の様子、特に微小生物が暮らしていると思われる金属で覆われた建物の様子が、超光速通信により1号艦から第3太陽系に報告された。
 報告を受けた政権は、内容を分析した。結果はおおよそ予想通りだったが微小生物が、住んでいると思われる建物が金属に覆われている事に困惑した。人類の脳には電磁波に対する十分なシールドが施されているが、微小生物はほとんど脳が丸出しの状態であり、適切な強さの電磁波を照射する事により、そばにいる人に知られることなしに微小生物を絶滅できると考えていたからだ。しかしながら金属でシールドされた建物に住んでいては、単純な電磁波攻撃は使用できない。
3号艦はしばらくその建物を観察し、微小生物や人の出入りを観察する事にした。6ヶ月間の観察で、次のことが判明した。

  1. 75億の微小生物全部があの建物の中で暮らしている。
  2. 建物を金属でシールドしているのは太陽フレアなどの電磁波対策である。
  3. 定期的に担当技術者が建物に出入りしている。
  4. 時々多くの技術者が建物を訪れる。
  5. 微小生物が建物の外に運び出される事はない。
  6. 普段は建物内に人はいない。
  7. シールドに使用されている金属は厚さ1cmの超銅板。

 政権と担当技術者と宇宙船の隊員との間で、超光速通信を用いた戦略会議が開かれ、遠天体の破壊と微小生物の絶滅戦略が次のように計画された。

  1. 微小生物が住む建物に人がいないことを確認する。
  2. 2号艦が遠天体を破壊する。
  3. 3号艦が建物の金属屋根を加熱し、高温により微小生物を絶滅させる。

 このようなシンプルな作戦であり、馬鹿な第4太陽系の政府は、「遠天体が破壊したのは活性物質による事故であり、微小生物が絶滅したのは、遠天体での活性物質の爆発に伴うエネルギーによる」と考えるだろう。いずれにせよ遠天体爆発の衝撃が大きく、微小生物絶滅の原因調査はあまり行われず、第3太陽系が関与しているとは誰も考えないはずだ。

――そして計画は実行に移された。

遠天体は破壊された。多くの防爆容器は大爆発し、遠天体の岩石の破片や爆発容器の破片が飛び散った。

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