SFG人類の継続的繁栄第7章『第3太陽系のめまい』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第4太陽系の反撃開始

　鹵獲したステルス宇宙船クルーの脳内をさらに調査したところ、第3太陽系にはスーパー人と、それよりさらに知能の高いウルトラ人が存在することがわかった。スーパー人、ウルトラ人は、それぞれの本能ソフトがある事、及び重大なバグが見つかった場合は別だが、基本的には本能ソフトは変更しないことも判明した。
色々な困難が伴う中、第3太陽系に対するこれらの対策を実行する事が決まった。　
　超能力人たちは上田大統領に「これからが非常に難しい作業です。この作業は我々超能力人に任せてほしい。1万人の超能力人技術者を誕生させ、この作業に当たりたい」と申し出た。
上田大統領と政権幹部によって協議された結果、能力の桁がいくつも違う超能力人と普通人との共同作業には無理があり、本件の対策は超能力人に任される事になった。
　こうして、微小生物が脳と一体化した超能力人技術者1万人が誕生し、第3太陽系の改造作戦が開始した。
先ずは宇宙船の超光速通信を第3太陽系のネットシステムに接続する事が必要である。このために必要な巧妙な映像を大量に作成し、「月に怪しい動きがあり、関連画像を大量に送信するのでそちらの核心コンピュータで分析してほしい。データが大量なので10％ずつ、10回に分けて送信する」と言って、大量のデータを送信した。
　この大量のデータを受信した第3太陽系の担当者は、量の多さに驚き、このデータを核心コンピュータに手動で移すのはとても無理だと考え、核心コンピュータと接続するのでしばらく待つように宇宙船に連絡した。
　超光速通信機と核心コンピュータが接続され、10％に当たる量のデータが直接核心コンピュータに送信され処理された。
今度は核心コンピュータが大量のデータを出力した。通信担当者はこの大量のデータを各プロジェクトに送信するために核心コンピュータとネットの接続を行う。これにより第4太陽系に捕らえられた宇宙船と第3太陽系のネットシステムが超光速通信により接続された。
第3太陽系の各プロジェクトは宇宙船から送られた大量の画像データを解析し、遠天体の破壊も、微小生物の絶滅も第3太陽系の計画通り見事に成功したと確信させられた。
超能力人による第3太陽系を完全にだます戦略は成功し、これで宇宙船から第3太陽系のネットシステムを操作可能になった。

　宇宙船からの操作により、本能ソフトの保管場所を見つけ、本能ソフトの奥のほうに重大なバグを埋め込んだ。同時に、本能ソフトを再度保管する時に作成中の第2本能ソフトを付加するように細工した。
巧妙な第2本能ソフトが開発された。これは、ある特殊にコード化された作動信号を耳で受信するまでの間は何も作用しないが、その作動信号を耳で受信したとたんに作動し、知能を普通知能に戻し、かつ危険につながる技術に関心をなくす本能ソフトである。
　また別の班により、第3太陽系のネットシステムを隈なく検索・操作するための、非常に高度なソフトが開発され、システムに組み込まれた。これにより第3太陽系のネットシステムは第4太陽系側には丸見えで、思いのままとなった。

だまされた第3太陽系

　宇宙船から重大な連絡が入った。宇宙船の隊員の1人が突然発狂し、ステルス機能が一時無効になった、という大事件の連絡である。幸い宇宙船には太陽光が照射しておらず、第4太陽系側に見つかってはいないとの事だった。発狂した隊員のスイッチを切り、他の人体に交換し記憶を入れなおした為、本人は無事だったが危うく大事故につながる事態だった。
発狂した人体の脳内情報も送信され、月の研究機関で分析された。分析の結果、宇宙船での特殊な任務のために表面化したものだが、確率は少ないが誰でも起こりうる重大なバグがある事が解明された。
　保管された本能ソフトを解析すると、奥のほうのわかりにくい所にバグがある事が判明し、バグは取り除かれ保管された。この重大な情報は当然政府に報告された。
　阿部大統領と政権幹部と関係者による対策会議が開催された。

「本能ソフトに重大なバグがあるという事だが、本能ソフトの入れ替えを検討しなければならない。本能ソフトは固定する事が決まっているが重大なバグの場合は別である」
「宇宙船という特殊環境下で表面化したものであり、一般作業ではほとんど起こらないということだが、技術大国である我々は危険な技術も含め重要な装置を沢山扱っている。幸い宇宙船では大事故にならなかったが、この第3太陽系の存続を脅かすような事態も起きかねない」
「本人の正式な人体は決まっている。職場で使う人体も決まっている。そのような立場の人の人体だけ入れ替えを行えば良いのでは」
「使う人体は何時どのように変わってしまうかわからない。管理が必要になる。やはり全部入れ替えたほうが良い。それにバグがあるとわかっている脳のソフトをそのまま使うのは、だれでも嫌だろう」

　これにより第3太陽系の全住民に対し、本能ソフトの入れ替え手術を行うことが決定された。　目論見通り第3太陽系すべての住民に対するソフトの入れ替えが行われた。無論、第4太陽系の超能力人が巧妙に作成した、馬鹿になる本能ソフトも追加された。
　超能力人技術者により、第3太陽系のネットシステムの隅々から、活性化技術や電磁波砲やその他の高度な技術関連資料は徹底的に探し出され、作動信号を送信すれば全てが消去する準備が完了した。
　第3太陽系の住民の全ての手術も完了した。
予定通り第3太陽系の隅々まで作動信号が大音量の電波で発信された。
作動信号電波を耳で受け、追加された馬鹿になる本能ソフトが起動した。
　超光速通信を利用して宇宙船から作動信号が送信され、第3太陽系のネットシステムの隅々から危険技術や必要以上の高度な技術の関連資料が消去された。

　一瞬のめまいを覚え、阿部大統領は我に返った。周りを見渡すと、大統領執務室にいる顔ぶれはいつもと同じ顔ぶれだが、何か違和感を覚え定例会議に赴いた。会議のメンバーもいつものメンバーだが、何かがおかしかった。
大統領が「なんだか今日はいつもと違うようだが」とぼそりと言うと、会議のメンバーも「私も同じように感じている」と言った。
　メンバー全員が何か違和感を覚えているのがわかり、会議のメンバー各自の違和感を各自が調査して、1時間後にこの会議室に集合するように決め、会議を中断した。
1時間後会議が再開され、各メンバーがそれぞれ報告した。違和感を覚えたのは会議に出席したメンバーだけではなかった。テレビ等の報道もその話題ばかりだった。科学技術省から「訳のわからぬ装置が沢山ある」との報告が入った。離天体からは「自分たちは何をしていたかさっぱりわからない」という連絡が入った。第3太陽系のあちこちから色々なわけのわからない連絡や問い合わせが殺到した。
　第3太陽系に移住した事、マッチングソフトにより80億人全員が寝てしまった事、75億人の脳に微小生物が共生した事、共生されなかった5億人の中から阿部氏が自治政府の大統領に就任し、第4太陽系の指揮下で第3太陽系の開発に着手した事、ここまでは覚えているが、その後の記憶が定かでなかった。
　この不思議な事態に対し、大統領を長とする〔違和感検討プロジェクト〕を発足させた。しかしいくら調査しても何もわからなかった。離天体で何をしていたのか、離天体に有るものは一体何なのか、科学関連施設にある、わけのわからぬ装置のようなものは何なのか、皆目見当がつかなかった。
　結局この不思議な現象は、〔再び微小生物に脳を乗っ取られ、今度はロボットとして操縦され、各種装置を作らされ、理由はわからないが何かの事情で微小生物が脳から出て行った〕という事でおちついた。

　直並列通信の通信内容を調べてみると、阿部大統領が自治政府の大統領に就任した時の交信記録があり、その後数回第4太陽系からの問い合わせの記録だけが残っていた。
　直並列通信機に接続されているわけのわからぬ装置を取り除き、元の状態に戻してこの不思議な現象を第4太陽系に送信した。
　離天体は各種装置を残したまま放棄された。月面に大きな穴をあけ、わけのわからぬ装置類をその中に埋め込み処分した。軍事基地にある第4太陽系が残していった宇宙船数艦の操縦方法だけはおぼろげながら覚えていたが、そのほかの宇宙船らしきものについては、何もわからなかった。
　人体についても調査した。脳のチップが異常に小さかった。電源はバッテリーの替わりに見たこともない電池が入っていた。微小生物にロボットとして使用されたときに人体を改造されたに違いない。いつ電池が切れるのかわからないので、質量電池とソーラーパネルを製造する事にした。質量電池関連技術者が関連の資料を探したが、資料は全く見つからなかった。
　第3地球も混乱を極めていた。第3月との間の体を乗り換えての往来はできるものの、宇宙船による物の運搬はできなかった。

残っていたスーパー人

　第3太陽系の少し外側に小さな天体があった。第3太陽の惑星とはいえない大きさだが、1000年かけて第3太陽を回っていた。その遠くの天体を30人のスーパー人の隊員が探査していた。第3地球や第3月からはあまりにも遠かったので、体を乗り換えての通勤は行わず、宇宙船に乗って月から探査にやってきた。第3太陽系人がいるところ全てに移動基地が設置されているが、遠すぎてこの天体だけは設置されていなかった。移動基地が設置されているところは全てネットシステムの対象だが、この天体は対象外だった。
　第3月の天体探査本部へ定期報告のため通信すると、本部の担当者の言動に大きな違和感があった。まるでこの天体を探査していることを忘れてしまったような言動である。他の部門にも連絡したが、往復の会話に20時間もかかる事もあり、会話が成り立たなかった。
30人の隊員全員が家族や知人に連絡した。連絡相手は皆無事だったが、会話は成り立たなかった。皆、馬鹿になったようにも思われた。この異常な事態について探査隊員30人による話し合いが行われた。自分たち以外の第3太陽系人全体に、大きな異変が起こった事は間違いなかった。
すぐに第3月に帰還して調査する事を決めると、1ヶ月後にやっと第3月の上空に到着した。月で何が起こっているかわからないので、過疎半球側にある研究機関の広大な敷地から少し離れた、目立たない場所に着陸した。
　研究機関を観察して、状況を把握する事が先決である。30人ばらばらになり情報を集め、1週間後に研究機関の隣の誰もいない倉庫に集まる事にした。
　1週間後、30人は無事集合し、倉庫内で検討会議を行った。　
会議の結果次のことがわかってきた。

破壊された形跡はどこにもない。

死者はいない。

スーパー人になってから製造した高度な機械はなくなっている。

ここにいる30人以外の全員の知能は普通人レベルに戻ったようだ。

皆、阿部氏が大統領になった以降の事はほとんど覚えていない。

微小生物が脳に取り付きロボットとして働かされていたように思っている。

大統領は阿部氏のまま、政府機関は機能している。

スーパー人時代の事はすべて忘れているが、人体に問題はない。

脳のソフトに問題がある事だけは確かである。

事態を検討した結果、彼らは人体研究所に忍び込み、人体の脳を調べることにした。人体研究所は無論厳しい警備の対象である。スーパー人に移行した後は高度な新警備システムが導入されていた。しかし出入りする研究員はその高度なシステムを使用していなかった。高度なシステムの電源は切られ、旧式の警備システムが使用されていた。　
　30人の中には、昔、この研究所に勤務していた者がいた。研究員が帰宅した後、その者が研究所に忍び込み、旧式の警備システムの電源を切り、仲間を研究所に招き入れ、新警備システムの電源を入れた。
　旧式の警備システムの電源が切られたため、警備員が駆けつけたが、すでに新警備システムが作動し、警備員は何もする事ができなかった。
　研究所の予備用の人体を見つけ、脳内データを全て記録して、すぐに宇宙船に戻ると、宇宙船に備えてあるコンピュータで脳内データを解析した。本能ソフトに、馬鹿になるソフトや各種ソフトが追加されていた。追加されたソフトを取り除き、隊員の1人がその人体に乗り移ってみた。人体は正常に作動した。