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SFG人類の継続的繁栄 第17章『3000年ぶりの驚愕』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

故郷から届いた便り

 天体群は、旗艦だった1番天体と2番艦だった2番天体が近接し、連星のように互いの回りを回転し、中心から90万km離れた軌道には8つの天体が公転し、全体を半径100万kmのダイオード膜で覆われていた。
 2番天体には政府機関と主要な技術機関が設置されていた。技術機関の中でも最大の機関は、天体群のエネルギー収支関連の機関である。この天体群は他の天体から孤立しているので、エネルギーの大元である隕石などの物質をこれ以上入手する事が困難であり、天体群で使用したエネルギーが外部に放出されないように、また外部からのわずかな電磁波を取り込むようにダイオード膜で覆っていた。
 エネルギー収支を測定するため、天体群のあちこちに各種の測定器が配備され、測定データがエネルギー収支室に送信され、エネルギーの収支は一括管理されていた。 

 ある日突然、各種の測定データが異常値を示した。外部から強力な電磁波が入ってくるようだが、どの測定器でも電磁波の種類を特定する事はできなかった。しかしながらエネルギー収支は完全にプラスに転じていた。温度の上昇は極穏やかに推移していたが、いくつかの測定データが激しく変動した。
この異常事態に、関連技術者による検討会が開かれ、議論を行った。

「外部から、かなり強い電磁波のようなものが照射されているようだ。しかし電磁波の波長の見当がつかない。自然界に存在しないもがこの天体群の中心に照射されているようだ」
「5種類の電磁波計が明確に異常動作している。コンピュータに直結して解析してみよう」

 5種類の電磁波計の信号線がコンピュータと接続され、コンピュータはオンオフ波形の信号を出力した。担当者はこの信号には何かの情報が含まれていると直感し、コンピュータに翻訳するように指示した。コンピュータはすぐに次のような文章を出力した。

「私は第4太陽系の大統領の上田です。皆さんとこのように連絡できて幸いです。皆さんが第4太陽系を出航してから3000年足らずのときがたちました。我々は、1200光年離れた皆さんに瞬時に信号を送る技術を開発しました。このメッセージを解読できたら、次のような方法で合図してください。こちらに対面するダイオード膜に100メーター角の窓を開け、そこに表面が硬い板を設置してください。大統領に宜しくお伝えください」

 検討会のメンバーは驚愕した。1200光年離れた第4太陽系からのメッセージに間違いない。すぐにエネルギー管理省の長官と大統領に報告した。大統領は、政権幹部と側近とを引き連れて、瞬時通信技術グループの建物に体を乗り換えてすぐにやってきた。大統領を交えて検討会が再開された。 
 検討会の議長が、これまでの事件の経過を詳しく説明し、第4太陽系からのメッセージを大統領に伝えた。大統領や政権幹部もこの状況に驚愕し、その場で大統領を議長とした対策会議を開いた。 第4太陽系からのメッセージである事は疑う余地もなかった。すぐに合図を返すことが決定された。
 メッセージどおりに、第4太陽系の対向する面に反射板を設置する工事が開始された。極簡単な工事であり20日後に反射板が設置された。

コミュニケーションを続ける方法

 第4太陽系では、メッセージを送信しながら真っ黒な円を観測していた。
真っ黒な円の中心に小さな四角の点が現れた。ついに1200光年先の天体群との交信に成功した。すぐに合図を受け取った事、今後の交信方法を近日中に送信する事を送信した。
瞬時通信技術グループと関連技術者により、今後の送信方法について議論が始まった。

「送信は成功し、向こうでも受信に成功した。こちらからの送信内容は正確に受信できるようだ。問題は向こうからこちらへの送信ができない事だ。単に合図を送ることしかできない。この状況は当面変わらないだろうが、いうまでもないがコミュニケーションは引き続き取りたい。どうすれば効率よく会話できるか考えよう」
「単に合図を送ることしかできないと言ったが、我々が瞬時波をオンオフして情報を伝えたのと同じように、反射板を工夫して反射をオンオフさせれば瞬時波レーダーで内容を読み取れる。ただしレーダースキャンには時間がかかる。これを先方にゆっくりオンオフしてもらうしかないだろう」
「真っ黒な円全体をスキャンしているので時間がかかる。スキャンする領域をピンポイントに絞れば、もっと高速会話ができる。しかし、ピンポイントに絞っても1回のスキャンにはメカ上の限界がある。こちらの読み取り速度の限界を向こうに知らせて、その速度以内でオンオフするように連絡する必要がある」
「反射板のオンオフはどのように行うのか」
「我々が反射板のオンオフのやり方まで指示したら、向こうの技術者の顔が立たない。やり方は向こうで考えてもらおう」

 この議論を受け、反射板の有無を観察できた事、そちらで送信内容に対応して反射板をオンオフすれば、こちらで内容を受信できる事、レーダースキャンによる受信には速度に限界値がある事、限界値は後で送信する事、などを送信した。

本格的会話開始

 この内容を解読した天体群では、カーボン変成機や関連技術者を交えて検討会を再開した。
反射板のオンオフ方法はすぐに解決し、反射率の変調装置を製造した。第4太陽系からの限界値の連絡を待たずに、反射率の変調装置が完成した事をゆっくりと送信した。
 天体群からゆっくりとした信号が送信され、第4太陽系の瞬時レーダーにより受信される。こうして1200光年離れた天体同士のリアルタイムの交信に成功した。
 レーダースキャンのメカを改良し、通常速度の会話交信が可能となった。無論、音声を波形として送信するほどの速度は無理であり、文字コードでの交信である。
 レーダースキャンをピンポイント化した事によりレーダー波の照射が強くなった。天体群から「レーダー波が強すぎ、雑音が生じ交信の障害になるので、少し弱くして欲しい」との要望があり、レーダーの出力を下げ、スムーズに交信できるようになった。
 大統領同士の直接対話にむけて、双方の通信担当技術者がさらに質の高い交信について検討した。受信した会話データを大統領の肉声にできるだけ合わせる為に、双方の大統領の肉声のデータを相互に送信した。大統領の肉声を知っている技術者が参加し、より大統領の肉声に近づける工夫が施された。

 両大統領の直接対話が始まった。およそ3000年ぶりの対話である。両大統領とも、肉声がそのまま伝わっているものと勘違いするほど高品位な通信が実現できた。話が弾み、惑星宇宙船団の出航後の出来事を長々と会話した。1時間の対話予定時間が経過したため、担当者が上田大統領に合図した。
最後に上田大統領が「天体群がステルス化した理由」について、江田大統領に質問した。江田大統領は、「ステルス化が目的でなく、エネルギー収支の観点によってダイオード膜で覆った事」を説明した。
思いもよらぬ説明に、上田大統領は驚き、エネルギー収支の問題の話が延々と続き、予定を大幅に超え、3時間の対話となった。
 両大統領は、人体についての話もした。江田大統領は、「第4太陽系の人類が脳と体を分離した」事に、上田大統領は、「天体群の人類に明確な死を設けた」事に、互いに驚愕した。

 

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