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SFH人類の継続的繁栄 第5章『水は低きに流れ、人は易きに流れる』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

新たなる人類の繁栄基盤

新たに誕生させる人の仕様等が次のように決まった。

新たに誕生させる人体の仕様

  1. 男女5万人ずつ、10万体の浄化臓器を内蔵した人体を製造する。
  2. 能力に多様性をもたせ、各種能力を備えた脳をバランスのよい比率で製造する。
  3. 脳器と人体の結合部は男女別の構造を持たせ、脳器と人体の性の混同を防止する。
  4. 脳器の底部には知的な電脳を配備し、脳からの神経は電脳を介して体脳に接続する。
  5. 電脳には顔や声の個人情報も記録し、脳器が人体の頭部に結合された時、その人の顔と声が自動的に形成されるようにする。
  6. 上質の睡眠が取れるように電脳には脳に信号を送る睡眠制御ソフトを付加する。
  7. 大半の場合、脳器を人体から外し、浄化装置に載せて睡眠をとる。
  8. 人体には、人体各部を制御するための体脳を設ける。またモード状態1から4の切り換えスイッチを設ける。各モードの基本動作は次のようである。
  9. (ア)モード1:指定された脳器が置かれた場所に行き、脳器を取り出す。
  10. (イ)モード2:脳器を自体の頭部にセットする。
  11. (ウ) モード3:通常に生活する動作モード。
  12. (エ)モード4:自体の頭部から脳器を外し、浄化装置等にセットしたあと待機する。
  13. 9 五感の内、臭覚と味覚はないが、他は従来の人間以上に充実させる。
  14. 10 脳器が浄化装置や人体にセットされずに3分経過すると、脳器から緊急信号を発する。
  15. 11 自宅から職場等への移動は、脳器専用容器に納めた脳器を専門の宅急業者が冷蔵コンテナにより配達する事を想定する。

 決定した仕様に沿って、男女合計10万人の脳が納まった脳器と、対応する男女合計25万体の家庭や職場用の人体が製造された。家庭や職場用の30万個の浄化装置も製造された。
第5太陽系に到着してから、わずか50年で人口は500倍の10万人余にまで達した。

人体製造会社の興隆

第5太陽系に人類が降り立って50年。
この頃には累計200万体の浄化臓器を備えていない人体が製造され、主に製造業に従事していた。自我を持たない人体は、人間が指示した通りに良く働くが、その分、故障も多く発生していた。
故障原因の多くは十分な触覚機能が備わっていないことに起因していた。触覚機能が十分でないと、体が損傷したことに気がつかずに、そのまま働き続け損傷を拡大してしまう。そのため平均耐用年数は20年と短く、企業経営者から苦情も多かった。人間用の人体の製造をきっかけに、十分な触覚機能の付加が検討された。
ある人体製造会社で社長と数人の技術者がこの問題について議論した。

「当社は今まで、『働くためだけの自我を持たない各種の人体』を製造していたが、人間用人体も製造できるようになった。これまでの自我をもたない人体は、耐用年数が短く評判が悪い。耐用年数を長くする一番の方法は触覚機能を充実させることだ。触角機能を充実させると、人間用の人体との大きな違いは、浄化臓器の有無と性別の有無だけだ。同じようなものを2種類作るのは生産管理の点でもわずらわしい。君たちはこの問題をどう思うかね」
「『人間用人体』と、『働く目的だけの人体』とを同じ仕様で作る場合の法律的な問題はないのでしょうか。もしなければ、全ての人体に浄化臓器を設け、どちらの目的にも使えるように共通の仕様にしたほうが、営業面でもやり易いと思います」
「強力な人体や、特殊な作業用人体など、バリエーションが増えて管理が複雑になっています。この点でも共通化したほうが良いと思います」
「人間用の人体を増やすか、働くための人体を増やすかは、政府の都合により変わります。政策が変わっても使えるようにしたほうが、購入する企業側も購入し易いと思います」
「君たちの意見も共通仕様がよいということだな。共通仕様に決定しよう」
「法律上の問題がなければ、脳の入っていない脳器も販売しましょう。電脳だけでも十分に役にたちます。使用する企業から見れば、共通仕様の人体を購入でき、更に脳の入っていない電脳付きの脳器が購入できれば色々と使えて便利でしょう」
 
 ほとんどの人体製造会社が、人間用の人体と、脳を持たない労働用の単純自立型人体とを、共用して使用できる人体を製造するようになった。また自立型人体を、更に高性能にするための脳のないダミーの脳器に電脳を取り付けた〔電脳付きダミー脳器〕も製造された。
結果として、装置としての人体を使用する会社も、仕事の難度により、ある時は人の人体として、ある時はダミー脳器を取り付けた電脳付き自立型人体として、ある時は単純な自立型人体として、同じ人体を使用するようになったのである。
 経営者は、人間でないと出来ない特殊な場合を除き、できるだけ自立型人体として使用する事により、従業員を少なくし人件費を節約するようになった。 
やがて旧型の人体の製造は中止され、共用型の人体だけが製造されるようになった。そして、同時に電脳付きのダミー脳器も大量に製造された。
 各人体製造会社では、各種仕様の高性能人体を競って開発製造が行われ、販売された。
特に安全性や互換性の観点から、人体にはさまざまな規格や制約があるが、その範囲内なら自由に人体を作ることができた。
人体製造会社の中には、安価な人体を大量生産するコスト重視の会社や、高機能化を重視する会社や、安全性を優先する会社など、それぞれの会社の強みを生かした路線を貫く会社が現れた。
 特に人が使用する場合には安全性が問題である。このために製造から3年ごとに安全性を中心とした人体検査制度が制定された。また中古人体の市場も確立し、人体関連産業は活況を呈していた。
 ダミー脳器製造に特化した会社もあった。ダミーといっても電脳がついている非常に知的なものである。電脳には演算速度や容量等の性能規制は特になかった。このため、単純な分野の性能では、人間の頭脳をはるかに超えるダミー脳器も開発され、人気商品として販売された。
 ダミー脳器の性能は年々高まり、一般事務職は無論、管理職にも使用する会社が増えてきた。人の仕事は次々と高性能の電脳付き自立型人体に奪われ、それに対する不満が噴出してきた。

プライベート空間への影響

 出勤した後には、脳器を外した体脳だけを有する人体が待機している。ただ待機しているだけでは時間がもったいないので、その間に簡単な家事をするように体脳に改良が加えられた。改良が重ねられ、本格的な家事をできるようになり、人である脳器が勤務先で会社の装置としての人体を使用して働いている時に、家では、脳器を外した体脳だけの人体が、家事をすっかり終え待機している。
脳器が職場で勤務し、体脳だけの人体は家で家事をするという、脳器と人体との分業が当たり前のようになってきた。
 自営業では、仕事中自分の人体を使用するが、脳器を浄化装置に載せたまま寝ていて、人体に仕事を任せている人もいた。人体だけで仕事をしているか、脳器を入れ人として仕事をしているかは外観では見分けがつかないが、人体だけの場合は坦々と仕事をこなすので、「今日はまじめに仕事をしている。あそこの店は本人より人体だけのほうがまじめに仕事をする」と揶揄される場合もあった。

また、電脳の進化による影響は、仕事の面だけに限らず、家庭の崩壊につながる問題も発生するようになった。電脳付き自立型人体妻、あるいは夫の問題である。
カップルの相手が人の場合、相手との相性があわず破綻するケースもあるが、電脳付き自立型人体を相手に選ぶ場合、自分の好むように電脳を調整する事ができた。目的に応じて仕様変更可能な、都合の良い理想的な電脳付き自立型人体が販売され、人間同士のカップルの割合がだんだん少なくなった。
このように、電脳付き自立人体の問題は、仕事の面でも家庭生活の面でも、社会生活を脅かす大きな問題になってきた。

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