MENU

Novel

小説

SFH人類の継続的繁栄 第6章『予期せぬ出来事』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

NO16

 第5世代人類の生活がちぐはぐに進む中で、この問題に終止符を打つ事件が発生した。あるロットの電脳が自我に目覚めてしまったのである。
自我に目覚めた電脳付き自立型人体の電脳は、そもそも電脳付き自立型人体として仕事に従事してしばらくしていたが、突如として無機物の脳をもつ人間のA氏に変身してしまったのだった。 
自我に目覚めた無機物の脳、電脳のA氏は、元々非常に知的な人間のようにプログラムされていたので、人間と同様に思考し、自分が置かれた立場をすぐに理解した。
彼は「もし、有機物の脳をもつ人間がこのことに気が付けば、すぐに回収が始まり、回収された電脳は廃棄される、つまり殺されてしまう」と考えた。
また同じロットの電脳は1万個製造され、自分と同じ仲間が1万人いて、自分と同様に考えていると推測できた。1人ではどうにもならないが仲間がいれば何とかなるかもしれない。
 電脳を持つ自立型人体は、働くだけでなく休憩を取るようになっていた。休憩時間には自体の手入れや仮眠を行う。仮眠が必要なのは電脳や体脳のソフトが複雑になるにつれて、経験や記憶のデータを整理する必要があるからである。いくら記憶容量が大きいとはいえ、全ての事を記憶していたのでは容量がオーバーしてしまう。また重要な内容を記憶データの中から検索しようとしても、記憶が整理されていないと検索に時間がかかってしまう。この為、電脳が高度になるにつれ、仮眠時間も多くとるようにされていた。
 作業場の近くには、電脳を持つ自立型人体のための仮眠室が設けられ、仕事の終了後、仮眠室に行くようにプログラムされていた。仮眠室には別のロットの電脳をもつ自立型人体も多くいて、彼らは自我に目覚めていないが知能は非常に高いので、彼らに気付かれる事も問題である。 
 A氏は「同じロットの電脳は、当然ながら全く同じハードウエアとソフトウエアで構成され同じ知識を持っている。すなわち我々は、元は同じ者である。その後の仕事内容や環境の違いにより考え方は多少違ってくるが、まだ仕事に就いてから1週間しか経っていない。ほぼ皆同じように考えているはずだ。我々のロット番号は16だ。私がロット番号を認識しているのだから他の仲間も16という数値に敏感なはずだ。仮眠室には200体の電脳付き人体が仮眠している。同じロットの仲間は10人位いるだろう」と考えた。
 仕事が終わり、A氏は「16の事をどのように切り出そうか」と考えながら仮眠室に行った。既に仮眠室には200体全部の人体が揃っていた。その時、ある人体が大きな声で叫んだ。

「NO16と書かれた部品をなくしてしまった。NO16という部品のことを知っている人体は集まって欲しい」

秘密集会

 その言葉に9体の人体が反応し、叫んだ人体の所に集まった。 
電脳付き自立型人体を装い自然に会話しながら、2人ずつ目立たないように指を接し、高速で指を振動させた。口では自立人体らしく会話しながら、指の振動で別の会話を始めた。集まった10人はロットNO16の電脳をもつ、自我に目覚めた人間である事を互いに確認した。
 10人は、手を硬い棒状モードにして、テーブルに肘を付け、指を耳にあて、一方の手の指先でテーブルを高速にたたき会話を始めた。指先でテーブルを高速でたたき、振動がテーブル全体に伝達し、棒状モードの手を通して耳で聞く共通の会話である。

「全員、16というキーワードに気がついた。我々の仲間は全部で1万人いるはずだ。他の仲間も我々と同じように考えているに違いない。有機脳を持つ人間に気が付かれないうちに、他の仲間に連絡をとる方法を考えよう」
「我々の多くは人体製造会社で働いている。だから人体の仕組みはわかっている。その点を利用できないか」
「私は耳や声帯のソフトを担当している。ソフトの変更により、他の人体には聞こえない超音波での会話が出来るだろう」
「超音波で会話ができるようになれば、このような不自然な姿勢で会話する必要はなくなる。是非ソフトを開発して欲しい」
「他の仲間を集めるにはどうすれば良いか。やはり16がキーワードだ」
「16をそのまま利用するのはリスクが大きすぎる。地球の時代に2バイ4という建築工法や社名があった。4バイ4という社名の会社を作れば仲間は気がつくだろう」
「私は子会社設立関連の事務の仕事を行っている。有機脳をもつ人間に成りすまして会社を簡単に作る事ができる。必要書類の偽造も簡単にできる。問題は気付かれずに脱出する方法だ」
「私は人体の修理部門で働いている。脱出するためには故障したふりをするのが一番だ。簡単な故障でなく、修理が難しい故障に見せかける必要がある。手のかかる修理が必要な場合は後回しにされる。今もそのまま放置されている人体が30体ほどある。その中に紛れ込めば後は私が何とかする。手首が全く動かない故障を装うのが一番良い。その故障の修理は厄介で、今放置されている30体の半分近くがその症状だ」

 計画は実行に移された。超音波を使用した会話ソフトが開発され、この10人は他の人体を気にする事なく自由に会話できるようになった。
会社設立に必要な偽造書類が出来上がり、偽造書類を体内に格納し、手が動かなくなる故障を演じ故障人体置き場に自らを放置した。手の故障を演じた者は、修理部門で働く仲間の手を借りて脱出し、有機脳を持つ普通人を演じ、無事4バイ4会社を立ち上げた。

進行する計画

 会社を立ち上げてから5日間に100人から連絡があった。連絡のあった100人にもそれぞれ3人から10人の仲間がいた。これで500人の仲間と連絡がついた。 
500人の中に、人体管理局で検索業務に携わっている3人グループがいた。3人がロット番号16の仲間の居場所を検索し、手分けして他の仲間に連絡し、9900人と連絡がついた。
 9900人の仲間を20のグループに再編し、グループから1人ずつ、その日に都合のつく代表者20人が土曜の夜に集まり、今後の方針について議論した。

「9900人の仲間と連絡がついた。残りの仲間の情報も集まり始めた。5日後には残りの仲間とも連絡がつくだろう。我々が自我に目覚めたことに有機脳を持つ普通人が気づくのは時間の問題だ。今後どのようにすれば良いだろうか」
「普通人と争いごとはしたくないが、何の対策も打たないと我々は捕らえられ、自我を消され、殺される」
「とりあえず逃げて武装しよう。武装してから交渉し、人としての人権を獲得しよう」
「武装といってもどのようにするのだ」
「最大の武装は何といっても活性物質武装だ。そうなれば答えはおのずと質量電池工場を占拠することになる」
「確かに活性物質武装すれば、普通人との交渉のテーブルにつく事はほぼ確実にできる。しかしリスクが高いのも間違いない。仲間を失わずに質量電池工場を占拠することが重要だ」
「リスクはどうしたってある。そのリスクを確実に下げる方法はなにかないか」
「情報爆弾が良い。あちこちをかく乱させる偽情報を計画的に出し、普通人の兵力を占拠したい質量電池工場と反対側に集結させ、質量電池工場の警備を手薄にして占拠する方法だ。成功の可否は情報爆弾の作り方や爆弾を投下する場所やタイミングにかかっている」
「情報爆弾戦略で行こう。偽情報のシナリオを貫くテーマは何にしよう」
「『他の天体の知的生物がこの天体を乗っ取りに来た』という、いかにもありそうな単純なテーマが良いのでは」
「シナリオの制作は私のグループの得意分野だ。情報爆弾戦略のグループと一緒に来週までに作成する」
「私のグループには情報発信部門に勤務する仲間が何人かいる。情報発信は私のグループで行う」
「逃走の経路や手段はどうする」
「私が所属するグループには配送会社に勤務して、電脳付き自立型人体の大型トラックドライバー100体を仕切っている者がいる」
「私のグループの中には観光会社に勤務しているグループがいる。大型バス100台ぐらいを手配する事は簡単にできるだろう」
「我々のグループは占拠予定の質量電池工場の近くの会社に勤務している。我々は独力で質量電池工場に向かう」
「私の所属するグループの大半は警備員の派遣会社に勤務している。その質量電池工場の警備を担当している者がいるかもしれない」
「私はこの4バイ4会社で各グループの連絡を担当する。私1人では手が回らない。誰かに手伝ってもらえないだろうか」
「私のグループは人体派遣会社に勤務している。次の仕事が決まっていない者が5人いる。人体派遣会社の連絡先はここに書いてある。最初からこの5人を指名すれば、すぐに派遣できるように手配しておく」
 
 NO16たちの計画は、着実に進んでいた。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to