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SFH人類の継続的繁栄 第11章『新たな火種』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

ようやく気がついた第4太陽系

 第5太陽系における人類の活動範囲は第5地球だけに限られ、他の惑星の開拓は行っていなかった。また活性爆弾実験など、遠くからでも観察できるような派手な事は行なってなかったので、第4太陽系では第5太陽系に知的人類が存在する事を確認できていなかった。
 しかし、ある頃から瞬時通信ネットへの不審なアクセスが頻発し、しかもだんだん巧妙さを増しきた。調査しても知能の低い第3太陽系の仕業とは思えない。階層型コンピュータを駆使し、アクセス元を調べたところ、アクセス元は今まで把握していない比較的近くの領域であり、非常に知能の高い者による仕業だとわかった。
 相手側に悟られないように注意深く分析を進めると、アクセス元は第5太陽系で、第5太陽系には第2世代の有機脳をそのまま引き継ぐ人類がいることがわかった。その事実を知った政府上層部は驚愕に震えた。
そして、すぐさま上田大統領を議長とする対策会議が開催された。

「第5太陽系に我々と祖先を同じくする人類が住んでいることが判明した。しかも、脳は我々の祖先と同じ有機脳だ。我々よりも文明が進んでいるらしい。但し武器は所有していないようだ。我々の事は全て把握しているようだ。本日の最重要議題は、『今後、彼らとどのように付き合うべきか』ということになる。忌憚のない意見を述べてくれ」
「現行の調査結果によればだが、彼らは有機脳を持っているといっても、実質的に電脳が主役のようだ」
「まってくれ。彼らによって瞬時通信ネットは全て監視されているようだ。我々がいまここで話している内容も聞かれているかもしれない」

技術者の1人が立ち上がりホワイトボードに次のように書いた。

「今、脳保管庫から、通信でここの体を使って会議を行っている。通信は全て傍受されていると考えたほうが良い。この事を読むだけでも傍受されるかもしれない。あまり考えずに今日は解散し、皆人体に脳を納めて、通信無しで会議をするべきだ」

このメッセージを受けて、上田大統領はホワイトボードを指しながら、「今日は対策会議の初日で、まだ色々なデータが揃っていない。各自自分の担当の部分を調査して来週本格的な会議を行う」と言いながらホワイトボードに「明日脳を頭に納めてC会議室に集合」と書いた。

第5太陽系対策会議

 翌日、脳保管庫にあるメンバーの脳をコピーした携帯型の脳が届けられ、脳を頭にセットしたメンバー全員がC会議室に集合した。

「この会議室は外部と全くつながってない。またこの会議室の壁はダイオード板で出来ている。ここでいくら大きな声で話しても外部には何も漏れる事はない。来週の本格的な会議というのは、我々のダミーを使って傍受されても良いような無難な会議を行おう」
「このメンバーと違ったダミーを使った会議だと、ダミーの会議だということが悟られる恐れがある。ダミーの会議も我々が行おう。本当の対策会議は脳を頭に納めてこの会議室で行い、ダミーの会議は先日の会議室で脳と通信しながら行おう。うまく行けば、あちらがダミーの会議を傍受して、我々の戦略に引っかかるかも知れない」
「それでは本物の会議を行う。忌憚なく、この大問題に対する意見を出してくれ」
「先ず、やつらを攻略する方法を考えよう。ダミーの会議では間逆の、やつらを持ち上げて下出に出る戦略を採ろう」
「とはいっても、やつらの弱みはどこなのか。そもそも、弱点なんてあるのか」
「実質的には、脳器の底にある電脳が有機脳を支配していると見て良い。電脳はソフトで動いている。オーソドックスな作戦だがウイルス作戦が一つの可能性として考えられる。 やつらはインターネットにつながっているらしい。インターネットを介してウイルスに感染させるのは簡単だ」
「インターネットを介してウイルスを感染させる作戦は安直すぎる。ウイルスの感染対策は十分にやっているはずだ。やつらの有機脳が入っている電脳付きの脳器はカセット式で、職場では会社が用意した人体に乗り換えているようだ。この点をうまく利用する事はできないか」
「カセット式は昔のことで、今ではほとんどが脳器を家に残したまま瞬時通信で人体とつながっているようだ」
「3年毎の人体の検査制度があり、本人専用の人体を検査する時は、本人の脳器を頭に内蔵して検査機関に行くことが義務付けられているようだ。検査時には脳器は外され、検査機関専用の浄化装置に載せられているようだ。そのときが電脳にウイルスを仕掛けるチャンスだ」
「やつらは、我々第4太陽系と第3太陽系のだましあいの歴史も知っているだろう。その対策もやっているだろう」
「一通りの対策はしているだろうが、知識だけを基に行った対策はたいした対策ではない。我々にはだましあいの実績がある」
「ここで仮定の議論をしていてもしかたがない。実際に検査の様子を見てくることが必要だ」

 この議論により人体検査の様子を見に行くことを決めた。相手から監視されていると思われるダミーの会議を通して、第5太陽系との交流につなげることにした。

 相手に監視されていると思われる、相手をだますためのダミーの対策会議が始まった。

「先週から始めた第5太陽系への対策会議は、しばらくは定例会議とする。先週からの調査でわかったことを報告せよ」
「活性爆弾のような危険な武器は持っていないようだ。我々を攻撃するような気配は全くない。また、いわば第5地球だけにとどまり周辺の惑星を開拓している様子もない」
「第5地球の人類の仕様がわかってきた。脳は我々の祖先の脳をほとんどそのまま引き継ぐ有機脳であり、人体には体脳があり、有機脳に接続された電脳が体脳を介し体を動かしているようだ。有機脳は脳器に包まれ、人体には脳に血液を送るポンプを内蔵した浄化臓器があり、脳細胞は糖分と酸素で動くようだ。脳と浄化臓器は従来の人間と同じで、それ以外は無機物で作られているようだ」
「脳が我々の祖先と同じ構造なのはうらやましい。彼らは我々の祖先を正当に引き継ぐ尊敬すべき人類だ」
「移動するときは、我々と同様に有機脳から電脳を介し瞬時通信ネットによりどこにある人体でも使えるようだ。3年に1度の人体検査制度があり、その検査に合格しない人体は使用できないようだ」
「まとめるとこのようだな」、と上田大統領はホワイトボードに向かい、声に出しながら箇条書きした。

  1. 我々の祖先と同じ有機脳を持つ。
  2. 危険な武装は全くしていない。
  3. 他の人類や生命体と争った様子はない。
  4. 文明は我々以上に発達している。
  5. 脳が有機脳の点を除けば、基本的に人体の構造は我々の構造と同じである。
  6. 3年に1度の人体検査制度がある。
  7. 移動や体の乗り換えは基本的には我々と同じである。

「すばらしい。是非彼らと交流を図りたい。我々は彼らに大きな関心があるが、彼らはあまり他の天体に関心を持っていないと思われる。我々の存在を認識しているだろうか?」
「彼らと交流ができたら、第1番に人体検査制度のことを学びたい。人体を不正改造する輩もいるし、不正改造や故障による事故も頻発している」

 このようなダミー会議が3回開催された後、第5太陽系から、瞬時通信による次のような連絡が入った。

「我々は、第5太陽系の第5地球に定住する有機脳をもつ人類で、皆様方とは親類関係に当たります。我々は皆様の存在を最近になって知り、失礼とは思いながら、第4太陽系の瞬時通信ネットをアクセスし、第4太陽系の様子を観察させていただきました。また、上田大統領が主催する、我々の存在に対する対策会議を傍受させて頂きました。我々もあなた方とのお付き合いを楽しみにしています。また我々の人体検査制度に大きな関心があるようですが、いつでも説明いたします。検査機関の見学も歓迎します。あなた方に合わせたスペックの人体が必要でしたらすぐに製作します。連絡をお待ちしております」

 魚は餌に食いついた。そう誰しもが思っていた。

新たな料理の下ごしらえ

 第5太陽系政府からの連絡を受けて、第4太陽系政府の主要メンバーは脳を頭にセットした状態で会議室に集合した。

「見事すぎるぐらい見事に引っかかった。むろん丁寧に返信する事が必要だが、その前に今後の行動計画、特に検査機関の見学について綿密に計画を立てよう」
「第5太陽系に見学に行くという事は、脳は保管庫に保管したまま、瞬時通信を用いて向こうが用意した人体とつながるという事だ。瞬時通信でつながっているので、我々がやろうとする事は全て知られてしまうだろう」
「短時間だが、多重人格戦略が使えそうだ。見学に行く人の脳の基本プログラムを細工して、向こうに行って通常に振舞う通信を使う人格と、確認したいところを記憶して向こうで用意された人体の電脳だけにとどまるだけで、通信を使用しない記憶だけの人格とを作り、通信の故障を装って、故障のどたばたに紛れてその記憶をこちらに送信する戦略が良いのでは。向こうから見ると、瞬時通信を使って向こうの用意した人体に体を乗り換えて来て、こちらの通信技術の未熟さにより見学の途中で通信が途絶えて、見学自体が無駄になったように見えるはずだ」
「それでは、こちらでは瞬時通信技術が未熟で、見学が失敗するかも知れないことを匂わせておこう。『第5地球から瞬時通信技術も習得したい』とも言っておこう」  
 
 先ず上田大統領から佐藤大統領に丁寧な返信を行った。挨拶の中で「是非自分が第5地球におもむいて佐藤大統領に挨拶したい」旨も伝えた。
担当者同士の実務者協議が行われ、上田大統領が佐藤大統領に挨拶におもむく準備と、担当技術者が検査機関の見学を行う準備が行われた。
「第4太陽系の通信技術は未熟で、いつ通信が途絶えるかわからない」との嘘の説明を行い、上田大統領の訪問は極短時間にする事で合意した。
第5地球側で用意する人体の仕様の打ち合わせを行ない、人体の体脳に付加された瞬時通信機能の小改造が行われた。
改造された人体は、検査機関に運ばれて各種テストが行われた。技術者が短時間その人体に乗り換えて、第4太陽系から第5太陽系の第5地球に移動する最終テストが行われ、本番の日をむかえた。

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