MENU

Novel

小説

SFH人類の継続的繁栄 第10章『恐ろしいほどの急発展』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第5太陽系社会の成長

 1万年が経過し人口は30億人に達し、インターネットも大幅に整備された。 
この間の大きな変化を挙げるならば、体脳が直接ネットと接続できるようになったことであった。人が何かを調べようと思うと、思っただけで電脳がそれを察し、最良の検索キーワードを作成し体脳に検索ワードを送り、体脳でネット内を検索し、検索結果を電脳に返し、電脳でわかり易いように組み立てなおし、有機脳に返すようになった。
調べようと思ったらすぐに答えがわかってしまう、とんでもない知能になってしまった。 これは有機脳を最上層、ネット内のコンピュータを最下層とする階層型コンピュータと同様になっているからである。
 しかしながら検索や数値計算には大いに役に立ったが、創造力や高度な戦略などにはあまり役に立たなかった。単に膨大な知識と計算力を有する大秀才にはなれたが、ただそれだけだった。
その為、始めの頃はものめずらしさもあり多くの人がネットと直接つながったが、そのうちに必要な時だけしか繋がないようになってきた。重要な会議の場では主要なメンバーはネットとつながらずに議論し、会議の補佐役数人がネットにつながっている場合が多かった。何かを調べる時や膨大な計算をする時にだけネットとつながっている補佐役に聞けば用が足りるからである。

 そんなふうに第5太陽系が安定と停滞の時期を過ごしていた頃、政府防衛省では、他の天体からの防衛について担当技術者を交えて議論が行われていた。

「我々も大いに進化したが、他の天体にも知的生物がいるかもしれない」
「いるかもしれない、ではなく絶対にいる。現に我々がいるのだから他にも絶対にいる。我々が把握しているのは宇宙のほんの片隅だけだ。何か良い防衛システムはないか」
「それならブラックホール地雷を仕掛けておくのが一番だ。ブラックホールの作り方はわかり、実証済みだ」
「ブラックホールなど、そんなに巨大なものを作ると我々が飲み込まれてしまうのではないか」
「巨大ではない。ブラックホールの小型化に成功した。理論上、どんなに小さなブラックホールもありえる。密度が際限なく大きければ、そこからは光も何もかも出て行けない。人工的には小さいほうが作りやすい」
「どのように作るのだ」
「ダイオード物質剛体球を用いる方法だ。ダイオード物質とは電磁波が一方からしか透過できない物質だ。その物質をカーボン変成機で硬い物質に変成し、中央に小さな中空のあるダイオード剛体球を作り、球の中央に向けて四方八方から電磁波を照射する。照射された電磁波のほとんどがダイオード剛体を透過して中空に集まる。電磁波は中空から外側には透過できないので電磁波のエネルギーは中空部分に蓄積し、一定以上蓄積すれば中にブラックホールができる」
「簡単にいってくれるな、ならば、どこでブラックホールを作って、どうやって取り出すのだ」
「小さくても重いので、作るのは無重力空間だ。ブラックホールが出来ていなければ、ダイオード剛体球は中に蓄積されたエネルギー分が加わり非常に重く、動かそうとしても重くて動かない。ブラックホールが出来ていればダイオード剛体球を動かそうとすると簡単に動く。動いた後にはブラックホールが存在し、ダイオード剛体球にはブラックホールが突き抜けた孔ができる」
「ブラックホールがダイオード剛体球をすり抜けるのか」
「すり抜けるのではない。ブラックホールの境界線に接した部分はブラックホールの引力で中に引き込まれる。ブラックホールと大きな物体が衝突した場合、ブラックホールの強力な引力でブラックホールに接した部分を中に引き込み、物体に孔を開けながら、ほとんど抵抗無しに大きな物体を通り抜ける。ブラックホールが透過した物体には、入り口から出口まで、ブラックホールの大きさに応じた直線的なトンネルができる。入り口の大きさに比べ出口の大きさのほうが少し大きい。ブラックホールが物体の接する部分を飲み込んで、大きくなるからだ」
「小さなブラックホールを第5地球の上空から第5地球に落とした場合はどうなるのか」
「それは最悪だ。ブラックホールが第5地球の引力で加速され、第5地球に猛烈な速度で衝突する。衝突した部分を飲み込んで、ほとんど抵抗無しに第5地球の裏側に突き抜ける。その後は第5地球の引力に引き寄せられて再び第5地球に衝突して反対側に突き抜ける。第5地球は自転しているので、その分、最初にできたトンネルから少し離れたところに新しい貫通トンネルが形成される。それを何回も繰り返すうちにブラックホールは大きくなり、第5地球は貫通トンネルだらけになり、トンネルだらけのスカスカの第5地球よりブラックホールの質量が増加して、今度はブラックホールにスカスカの地球が衝突するだろう。いずれにせよ地球のほとんどがブラックホールに飲み込まれるか、運がよければ大きくなったブラックホールと連星のような状態になり、スカスカの第5地球は残るだろう」
「確かな驚異があるわけでもない現在、そんなとんでもなく危険なもの、国民が納得するわけがないだろう」
「とんでもなく危険だからこそ、防衛兵器としても抜群に威力がある。それに、何かあってから準備したのでは遅い。そんなことは明白だ」

 議論は白熱しながらも、続いていく。

ブラックホール地雷の必要性と実用性

「仮に宇宙空間で安全にブラックホールを作ったとして、そのブラックホールを移動させるのはどのように行うのか」
「ブラックホールを移動させたい進行方向の前後に、大型の宇宙船を配備する。進行方向の宇宙船がブラックホールに近づけばブラックホールと宇宙船は引力で引き合い、そのままだとブラックホールに宇宙船が引き込まれてしまう。引き込まれないように宇宙船が進行方向に逃げるように移動すると、ブラックホールは宇宙船を追いかけるように移動する。動きを止めたいときは、ブラックホールを進行方向に引っ張っていた宇宙船が全速でブラックホールから離れ、今度はブラックホールの後からついてきた宇宙船がブラックホールに近づき、互いに引き合う引力によりブラックホールを減速し、目的の場所に静止させる。2つの宇宙船を連携させた、微妙な操作が必要だ」
「ブラックホール地雷を配備するとしても、小さなブラックホールなら守備範囲も小さい。大量に配備しなくてはならないのでは」
「直径数メートルの中型のブラックホールを所々に配備して、その周りの半径数百キロの衛星軌道に小型のブラックホールを数個配備すれば良い。小型のブラックホールは中型のブラックホールの周りを高速回転するので守備範囲は大幅に拡大する」

そこで、議長を兼ねる防衛大臣が意見を述べた。その意見は重かった。

「やはり、ブラックホールは危険すぎる。防衛計画も荒唐無稽だ。政府でも議会でも到底承認されることはないだろう。ブラックホール製造技術は大事だが、ブラックホールを防衛に使うのは厳禁する。試作した超危険なブラックホールはどのようにしてあるのだ」
「それは既に廃棄しました。廃棄方法は簡単で、近くに天体のない宇宙の領域に電磁波として放出しただけです」

 そう聞かされると、大臣は納得したように頷き、続けてその研究者に声をかける。

「ただ、ブラックホールを防衛目的で利用するのは荒唐無稽だが、ブラックホールを深く考察するのは面白い。微小なブラックホールはあり得るのか」
「ブラックホールの引力の基となる物質が限りなく高密度になれば限りなく小さなブラックホールはあります。陽子や電子よりずっと小さなブラックホールもあるかもしれないと考えられます」

 大臣が「面白い」と発言したことで、さらなる議論が開始された。

「電子より小さなブラックホールなどあったとしてもほとんど無害。我々の体の中を透過してもほとんど何の粒子も飲み込まずにそのまますり抜けるだろう」
「ほとんど何の粒子も飲み込まない極微小なブラックホールはブラックホールと呼ぶのはふさわしくない。ブラックマターと呼ぶほうがふさわしい」
「ブラックマターと呼ぶブラックホールがあっても通常物質を飲み込む確率は非常に低ければブラックマターは観測できないし議論の対象にもならないのでは?」
「しかしブラックマターには質量がある。宇宙に大量にあれば宇宙全体の質量がその分大きくなる」
「何十万年前に話題になったダークマターはもしかしたらこの微小なブラックホールかも知れない」

 議論はさらに白熱しながらも続いていき、数年後にはブラックホールの安全な製造方法まで開発してしまった。

第4太陽系の各種技術を習得

 階層型コンピュータとしても機能できるようになった第5太陽系の人類は、ブラックホールの作り方も習得し、その他の技術も大飛躍を遂げてしまった。
 また、その間に大きな出来事があった。それは近くに第3太陽系、第4太陽系があり、それぞれに地球の第2世代から枝わかれしたそれぞれの人類がいる事である。
 第4太陽系は技術大国で、瞬時通信技術がある事もすぐにわかったが、その技術はすぐに第5太陽系でも共有された。インターネットと階層型コンピュータがあれば、それは造作もないことだった。
また瞬時通信の技術を手に入れるということは、第4太陽系の各種技術をすべて手に入れてしまうことと同義であった。ブラックホールの作り方も元々は第4太陽系の瞬時通信ネットの中にあるダイオード膜をヒントにしたものだった。 
技術だけでなく衝撃な出来事も第4太陽系のネットから知ってしまった。自分たちの故郷である地球が活性物質による事故により消滅したことを初めて知った。 
 階層型コンピュータ状態は、創造力には役にたたなかったが、技術の習得という点では大いに役に立ち、第4太陽系の瞬時通信ネットにもアクセクでき、技術の大躍進の大半は第4太陽系の瞬時通信ネットによるものだった。
 階層型コンピュータ状態にしたまま、最上層の有機脳が何かを考えると、次の層の電脳が、有機脳が考えている内容を分析し、最適な検索キーワードを作り出する。そして、また次の層の体脳を通して最下層にあたる第4太陽系を含む瞬時通信ネットを検索し、電脳により最適な答えを整理して最上層の有機脳に返すシステムで、有機脳が何かを考えるとすぐにアイデアがひらめくようになっていた。
アイデアがひらめくと言っても、第4太陽系の瞬時通信ネットにある範囲のものだが、第5太陽系の階層型コンピュータモード状態になっているときの技術者は、第4太陽系の技術を使い放題である状況が成り立っていた。
 
 また、瞬時通信ネットが整備されたため、脳器を運ぶリニア運搬システムはあまり使用されることがなくなった。自宅に設置された浄化装置は瞬時通信ネットに直結され、職場に通勤する時は、脳器は自宅の浄化装置に載せたまま、瞬時通信ネットを介して職場に用意された人体と通信でつながるようになった。
 やがてリニア運搬システムは廃止され、脳器が外出先に運ばれる事はなくなった。いくら有機脳への強固な対G対策が施されているとはいえ、〔毎日リニア運搬システムで脳器が高速で転がり続けると脳細胞がダメージを受ける〕という一部の研究結果もリニア運搬システムが廃止された一因だった。
何よりも脳器を運ぶことなく自宅にいるまま、外で自由に活動できる事の便利さと合理性を味合うと、脳器を転がして運ぶという事はいかにも不自然で不合理な方法に思われ、瞬時通信ネットが整備され、瞬時通信による外出が可能になると、瞬く間に広がり、数年後には脳器を運ぶという概念そのものもなくなった。時代の大きな分岐点であった。
しかしながら時には瞬間通信を使用せず、自分の人体ごと移動する事もあった。特にフォーマルな場におもむく時には、自分の人体ごと行くのが礼儀だった。また、3年毎の人体検査を受けるときには本人が行くことが義務付けられていた。
この為、バスや電車などの公共交通が整備された。また自動車を使い、自分の体を使用して外出する事は、上流階級のステータスにもなり、自動車を持つ事は一部庶民の憧れでもあった。
しかし、外出先の、外出の目的に適した人体を使う事のほうがはるかに合理的であり、ほとんどの会社は、職場への通勤に体ごと通勤する事を禁じていた。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to