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SFJ人類の継続的繁栄 第6章『四足人』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第三勢力

平和条約の締結が難航する中で、思わぬ事態が起こった。
ある日、見慣れぬ宇宙船が飛来し、地表の石英を削り取り、すぐに飛び去った。その異様な形からリアル政府の宇宙船でない事は明らかだった。リアル政府はバーチャル政府の仕業だとし、バーチャル政府に対し強く抗議した。バーチャル政府側も全くの言いがかりだと強く抗議し、険悪なムードが漂った。
 10日後、10隻の宇宙船が襲来し、四足で腕が2本ある動物らしきものが道具を手にして宇宙船から大量に降りてきた。四足の動物は四方に散らばり、あちこちの石英を掘り返し、袋に詰めて宇宙船に戻り飛び去った。
 撮影した画像をバーチャル政府に送信し、西田大統領から中野大統領に緊急連絡を行った。映像を見た中野大統領は、「これは絶対に我々とは関係ない。他の天体からの侵入者だ」と言い切った。
 両政府による緊急会議が開かれた。中野大統領は早口で次のように言った。

「我々はあなた方の人体を操作する事はできるが、我々バーチャル世界ではリアルなものを使わないと物を作る事はできない。我々があのような宇宙船や動物のようなものを作るとしたら、あなた方の人体を操作しこの衛星上の機械を使って作るしか方法はない。バーチャルな世界ではバーチャルな物はいくらでも作れるがリアルなものは作れない。たとえあなた方の体を通信で操作できても、あのようなことをする理由は全くない。あなた方の持っている人体の中で、瞬時通信が使える人体があれば、我々がその人体に乗り込んで直接会議を行い、共同で調査できる。あの動物の目的が何だかわからないが再び襲来するに違いない。今度は武器を携えあなた方を殺戮しに来るかも知れない。住民は安全なところに避難させたほうが良い。とにかく私たちがそちらに行くための人体を用意してほしい。あなた方がやられれば我々のバーチャル世界も消滅する。我々とあなた方とは運命共同体だ」 

 この強い訴えに対し、リアル政府の関係者はしばらくの沈黙の後、西田大統領は「あなた方を信じる。至急使用できる人体を用意する」と答え、部下に人体の調達を命じた。

 早速人体が用意され、バーチャル世界から中野大統領と政府の幹部と上級技術者の総勢30人が、用意された人体に乗り込みリアル世界に到着した。
 両大統領が握手を交わし今後の方針についての打ち合わせを行った。双方の技術者が調査チームを結成し、宇宙船が降り立った場所や四足動物が掘り返した跡の調査を始めた。掘り起こした穴のそばに掘り起こす時に使用したと見られる道具が1つ落ちていた。
 バーチャル世界からやってきた大統領と幹部に対し歓迎式典が行われ、式典終了後両政府による対策会議が開催された。開催後間もなく合同調査チームから第1報が届いた。

  1. 足や爪の形状から四足動物は自然生物、あるいはそれをまねた機械である。
  2. 爪の破片は、有機物ではなくシリコンを原料とした物質でできている。
  3. 落ちていた道具もシリコンを原料として作られた。
  4. 宇宙船の着陸した跡からは今のところ何もわからない。 

 報告を受けた後、両政府による対策会議が再開した。会議の冒頭、西田大統領がバーチャル政府を疑ったことを謝罪し、議論が始まった。

リアル・バーチャル同盟

リ:「敵は自然生物だが地球の生物とは全く違う生物だ。体はシリコンで出来ているようだ」
リ:「第1世代の人類との共通点は手足と頭と2つの目がある点だ。大きく違う点は体がシリコン系である点、四足である点、体に比べ頭が小さな点、耳や鼻がない点、口はあるが食物摂取用ではなく武器である点、等である。なお手の構造は人間と似ていて器用なようだ」
バ:「手が器用でないと文明は築けない。宇宙船など作れない」
バ:「敵の目的は何なのだろう。2回とも石英を持ち帰った。1回目は1箇所から採取し、2回目は300箇所ぐらいから採取していた」
リ:「敵の体はシリコン系の物質からできている。道具もシリコン系だ、採取したのも石英だ。シリコンに興味がある事だけは確かだ」
リ:「シリコンならどこにでもある。我々が住んでいるこの星のシリコンに興味がある理由は何なのだ」
リ:「この星のシリコンは特別なシリコンなのかも知れない。最初に飛来したときには1箇所の石英を持ち帰った。持ち帰った石英を分析し、脈があったので2回目の本格調査を行ったのだろう。本格調査の結果この星のシリコンが敵にとって貴重なものだとわかった場合、我々を邪魔者として、殺戮しにくるかも知れない」
バ:「もし戦争が始まったら、あなた方の人体を使って我々が戦おう。人体を破壊されても我々は死ぬ事はない。あなた方の脳は人体の頭の中にあり、頭を破壊されれば死亡する。我々が戦うからあなた方は安全なところに避難して、人体や武器を大量に作って我々に供給して欲しい」
リ:「了解した。早速避難の準備と人体の量産を始める。お互いの強みを生かして団結して戦おう」
リ:「巨大な洞窟が20カ所程ある。そこに機械を運び込もう。今ある人体に副脳と瞬時通信装置を取り付けよう。2千万体は準備できるだろう。やられても痛くないように痛みスイッチは切っておこう」
リ:「武器はどうするのだ。地上戦では活性爆弾砲は使用できない。通常兵器は全くない」
リ:「シリコン変成機が進化したので強力な弓矢なら大量に生産できる。敵に当たったら2物質が混合して活性物質になり爆発する様に、矢の先にAB2物質を染み込ませておこう」
リ:「活性物質を極微量使用した薬莢を使った小型機関銃を開発しよう。弓を引くのは大変だ。弓矢はやめて機関銃を大量生産しよう」
リ:「シリコン変成機や必要な機械を早く洞窟に運ぼう」
リ:「敵に洞窟を発見されたらどうする。それに作った機関銃を輸送中に襲われるのも重大な懸念事項だ」
バ:「それは我々が護衛する」
バ:「そのためには敵の情報が必要だ。相手はどのような武器を持っている? 相手の知能はどの程度なのだ? 相手は戦争になれているのか?」
バ:「宇宙船で飛来したのでそれなりの知能と技術はあるだろう」
リ:「耳や鼻がないので真空に近い環境中で進化したのに違いない。2つ目がある。光のあるところで進化したのに違いない。口の中には丈夫な歯があるようだ。頭があれほど小さいのはなぜだかわからない。体はあまり大きくない。引力が大きなところで進化したのかもしれない。引力の大きなところだと宇宙船の推力は非常に強いはずだ。エンジンに活性物質を使用しているのに違いない」

 リアル政府が緊急事態を宣言し洞窟への避難訓練が行われた。洞窟内に機材が運ばれ洞窟同士を結ぶトンネル工事が始まった。
同時に使用されていない人体が人体製造工場に大量に集められ整備される。シリコン変成機がフル稼働し、超強化ガラスが大量生産され、重要な工場や施設の補強工事が行われた。超強化ガラスで何重にも覆われた前線基地が各所に配備された。小型機関銃の大量生産が始まり、極微量の活性物質を詰め込んだ薬莢の生産も始まった。
バーチャル世界の先発部隊の戦士30万人が整備された人体に乗り込み、各前線基地に配属された。
宇宙船を撃墜するための少量の活性物質を先端に取り付けたミサイルも開発され、製造が開始された。
 瞬時レーダーも整備され宇宙船の襲来を監視していた。

2回目の襲来から100日後、突然、20隻の大型宇宙船がこの衛星めがけて航行しているのが観測された。活性爆弾砲を使用する事を検討したが、まだ攻撃していない相手に対し、いきなり打ち落とすのは問題であり、両政府で協議した結果、今回は活性爆弾砲による宇宙船への攻撃は見送ることにした。
 リアル政府が避難命令を出し、人体製造工場や武器製造工場で働いていた住民も、重要な機材をそれぞれの洞窟に移し洞窟の奥に避難した。
 開戦は目前に迫っていた。

開戦

 宇宙船が着陸し、銃砲のようなものを手にした四足の兵士が1万匹ほど降りてきた。リアル政府が用意した人体に乗り込んだバーチャル政府の兵士5万人が、小型機関銃を手に四足兵士を取り囲んだ。とてもこの時代の戦いとは思えない光景だった。
 人類側から四足兵士の足元への警告の一斉射撃から戦闘が開始した。四足兵士は体を伏せたり物陰に隠れたりして戦ったが、人類側の兵士は相手の攻撃を恐れる事なく突進した。人類側の猛攻撃に四足兵士は恐れをなし宇宙船に逃げ帰り、逃げ遅れた兵士を残したまま宇宙船は飛び去った。
 戦闘跡には破壊された5千体の人体が横たわり、5千匹の四足兵士の死体が横たわっていた。逃げ遅れた20匹の四足兵士が捕獲された。
 この戦闘では双方共に多数の兵士が横たわっていたが、人類側の兵士には1人の死傷者も出さなかった。5千体の人体が破壊されただけだった。
 両政府の軍事専門家による会議が開催された。

「あっさりと戦闘は終わった。我が軍には1人の死傷者も出さなかった。我が軍の攻勢に相手方は相当驚いていたようだ。四足の兵士はリアルな生物だった。5千匹の兵士が死亡し20匹が捕虜になった」
「我が軍から死傷者は出なかった事は大成功だったが、人体が5千体も破壊された。長期戦が予想される。敵兵がどのぐらいいるかわからないので人体をもっと大切に扱って欲しい」
「しかし猛攻をかけたので相手はひるんで逃げたのは事実だ」
「この件はあとにして今後の戦略を考えよう。我が軍には武器の備えがなかったので、仕方なく大昔の機関銃みたいな武器を使用した。相手は宇宙船を開発する技術があるのに、なぜあのような古典的な武器を使用したのだろうか。この星を吹き飛ばすぐらいの武器を持っていてもおかしくない」 
「それが敵の目的を解くための鍵になるかも知れない。敵はこの星をできるだけ傷つけないようにしている。人類だけを葬り去ろうとしている」
「敵は我が軍の勇猛な攻撃に明らかに動揺していた。どうやら我が軍の兵士がリアルな生物だと勘違いしていたようだ。今回の戦闘でわが軍の兵士に死がないことに敵は気がついただろう。何れにせよ戦法を変えてくるはずだ。敵の立場になって今後の戦法を考えてみよう」
「敵の目的はこの星のシリコンである事は間違いないようだ。この星のシリコンは敵にとって特別なシリコンのようだ。敵の体もシリコンが主体となってできている。まともな武器のない我々を殲滅する事は敵にとって簡単だろう。宇宙船のエンジンには活性物質が使われているに違いない。活性物質を持っているのなら活性爆弾も原爆も簡単に作れるだろう。それを使えない理由が何かある。もし使えば敵にとって大切なこの星の特別なシリコンが汚染する。それを恐れているに違いない。今後とも強力な爆弾を使う事はないだろう」
「敵にとってこの星のシリコンが特別なものである事は確かだが、汚染についての考えは間違いかも知れない。敵は我々をリアルな生物だと見ていた事は確かだ。リアルな生物なら死を恐れるので、猛攻をかければ降参すると思っていたのかも知れない。汚染についての考えが間違えだとした場合、次回は活性爆弾を使う事も考えられる」
「最悪の場合について備えておこう。敵が活性爆弾を使う前提で備えておこう」

 物体局の中に〔生物部門〕を新設し、四足動物について調査し、調査結果をまとめ物体局に報告した。

  1. 体全体がシリコンを主成分として構成されている。
  2. 下等生物から進化した自然生物である。
  3. 有機物の生物、例えば第1世代の人類とは骨格は似ているが、内蔵はほとんどない。
  4. 真空或いは極大気の薄い環境で進化した。
  5. エネルギーは電気で、太陽光を皮膚で受け電気に変換し、体中に張り巡らされた導電線が各臓器に電気を供給している。
  6. 脳は有機脳と電子脳との中間的なもので、脳細胞に相当する電子細胞が脳回路を形成している。電子細胞は脳細胞に比べずっと小さく、そのため脳が小さい。
  7. 知能は人間並みだが、記憶容量は人間よりずっと大きい。
  8. 自然生物だが、我々と同じロボットの体を持つ無機生物。

両政府の高官と軍事専門家と生物部門の担当者による〔四足生物対策プロジェクト〕が組織され、各方面から議論を行った。 議論の結果、今後敵が攻めてくる可能性は低いが、予定通り武器の開発や洞窟への本格的移転を行なうことにした。
全面戦争に備え、統括司令官には西田大統領、軍事司令官には中野大統領自ら就任し、リアル政府内に兵器製造省を新設し、両政府の軍事専門家による合同戦略室も設立した。
 宇宙船を破壊するための、活性物質を弾頭の表面に塗布したミサイル、大幅に改良した小型機関銃、その他の武器も大量に製造し相手の行動を監視していた。

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