この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
最終攻勢に向けて
「敵が恐れる汚染物質が特定できた。地球から運んできた脳のチップを作るうえで必要な貴重物質とその物質を添加したシリコンウエハだった。現在ではこの星の裏半球側から豊富に取れる別の物質が使用されているが、最初に作った1億体の人体の頭の中に使われている。人体製造工場の片隅にもその物質が添加されたシリコンウエハが大量に放置されている。放置されているシリコンウエハが特に敵にとって大きな脅威のようだ。シリコンウエハなら微粉末にして大量に散布できる。決定的な勝利の材料だ。次の戦闘時にこれで四足機械兵士を殲滅できる」
「四足機械兵士は機械の兵士だ。おそらくあまり効かないだろう。それに機械の兵士をこわしたところで決定的な勝利にはならない。攻撃に使用するべきだ。宇宙船で四足動物が住む小さな星に散布したほうが効果的だ。あの星はほとんど真空だ。問題のシリコンウエハを気体に変成すれば簡単に星全体を汚染できるだろう」
「星全体を覆うようにしたら濃度が低くなりすぎて無害になるかもしれない」
「それなら重い金属と化合させ重い気体に変成すれば星の表面を薄く覆うことができる」
「敵に気付かれないようにどのように近づくかが問題だ。気付かれたらおしまいだ」
「気体を入れた高圧ボンベをミサイルの弾頭代わりにして打ち込むのはどうだろう。やつらが迎撃ミサイルで撃墜しても、その星の引力圏に入っていれば毒性の気体で星は覆われる。引力圏外で撃墜されたら失敗だ。どちらかが絶滅する一発勝負だ。十分に作戦を練る必要がある」
「必ず次の攻撃があるだろう。その時が最後の勝負だ。攻撃をかわす事と敵の拠点を攻撃する事だ。先ず攻撃をかわす作戦を考えよう。汚染物質は敵の星の攻撃に使い、地上戦には使用しないことを前提にしよう」
「敵はこれまで以上の戦闘になることを覚悟して大規模な攻撃を仕掛けてくるだろう。敵に着陸させないことが必要だ。宇宙船が着陸する前に宇宙船を撃退する事が必要だ。敵に活性爆弾は通用しない。それ以外の攻撃方法は何かないか」
「敵の星は太陽光があまり強くないようだ。太陽光をエネルギーとしているが強い太陽光には弱いはずだ。この星には太陽光発電用の巨大な反射鏡がそこら中にある。あの巨大な反射鏡で集光し何万度にも熱すれば宇宙船に穴くらい開けられる可能性はあるだろう。四足の機械がどの程度の熱に耐えられるか実験してみよう」
「なるほどアルキメデスの熱光線か、我ら人類の中でも最も古い偉人の一人が使った武器だ」
「強力な瞬時波も利用できるかもしれない。敵は多分瞬時波を経験したことがない。何が起こるかわからないが強力な瞬時波砲も使用しよう」
「最初にミサイル攻撃をしたときに活性爆弾は役にたたなかったが、ミサイルの破片が当たったところは大きく傷ついた。機械的な強度はそれほど強くないようだ。薬莢として活性物質を使用した強力な大砲も使用しよう。ミサイルとは違い高速飛行中の宇宙船への命中精度はあまり高くないので宇宙船が着陸したらすぐに一斉掃射を行おう」
「それでも四足機械兵士が出てきたら我々が総力で戦う。人体の補充を早めて欲しい」
「次は攻撃方法についてだ。敵の陣地は攻撃のため手薄だろうが、その分こちらから攻撃がある事を見越して準備しているだろう。汚染物質作戦は一発勝負だ。絶対に成功させなければならない。敵が想定していない色々な攪乱戦略が必要だ」
「攪乱も含め、考えられることを書き出してみよう」
- 活性物質を大量に搭載した小型ミサイルを次々と打ち込む。速度は最大速度の半分とする。攻撃目的ではなく敵に迎撃させる。迎撃されれば活性物質が大爆発する。大爆発による恐怖を与え、同時にミサイルの最大速度を誤認させる。
- 超大型のダミーのミサイルを複数製造し、ステルス技術により近くまで運び、敵陣の近くで突然姿を現す。
- 汚染物質を詰め込んだ高圧ボンベを搭載したステルス小型ミサイルを最大速度で敵陣に打ち込む。
- 強力な瞬時波を照射する。
ここまで書いた時、ステルス技術についての議論が始まった。
「敵がステルス技術を持っていないのなら、ステルスを見破る技術も持っていないに違いない。高圧ボンベを搭載したステルスミサイルを撃ち込むだけで済むのではないか」
「ダミーのステルスミサイルをあちこちに撃ち込んで、迎撃されなければ汚染物質を入れた本物のミサイルを打ち込めば良い」
このような議論を経て本格的な戦争に向けての準備が着々と進行した。
決戦とその結末
四足の機械兵士の体に太陽光を照射する実験も行なった。予想どおり耐熱性は低かった。関連の技術者が集まり、この戦略を実行するための議論を行った。
「太陽光作戦は非常に期待できる。具体的な方法を早急に詰めよう。発電用の巨大な反射鏡は巨大すぎて宇宙船を見つけてからその方向に向きを変えるのは難しい。宇宙船の位置とは無関係に最も集光効率の良い方向に向け、焦点の少し手前に凹レンズを配してエネルギー密度が非常に高いビームにしよう。あとは小さな鏡でビームの方向を簡単に変えることができる」
宇宙船に高密度の太陽光ビームを照射する技術に大きな問題がないことがわかり、高性能な凹レンズと小さく軽量な反射鏡を量産し、実戦に向けてのテストを繰り返した。
ステルスミサイルや大型のダミーミサイルや宇宙船攻撃用大砲も製造し、大戦闘に向けて着々と準備が進められた。
敵陣への先制攻撃を開始した。活性物質を積載した小型ミサイルを低速で敵陣に発射した。ミサイルは迎撃され大爆発した。2番ミサイル、3番ミサイルと次々と発射し、予定通り迎撃され、そのたびに大爆発し、敵陣の星の表面に大きな振動を発生させた。
大量の宇宙船があわただしく敵の基地から離陸した。敵の宇宙船には構わず小型ミサイル攻撃を続行した。そこに突然巨大なミサイルが姿を現した。ほとんどの四足動物は持ち場を放棄し、輸送用大型宇宙船に乗り込んだ。
ステルス装備を施した空のボンベを搭載したミサイルを連続して打ち込んだ。最後に汚染物質を詰めた高圧ボンベを搭載したミサイルを高速で打ち込み、敵の星は完全に汚染された。敵地での戦いは完全な勝利で終わった。
敵の宇宙船は高速で飛行しこの星に飛来した。巨大反射鏡により集光された太陽光は凹レンズにより高密度太陽光ビームとなり、反射鏡により宇宙船に向けて照射された。宇宙船の外壁に孔があき航行不能となった。僅かな数の宇宙船が着陸したが、たちまち大砲の餌食になり全滅した。この星での戦いも完全に勝利し、大量の四足機械兵士と共に攻撃用宇宙船は全て破壊された。
輸送用大型宇宙船が一斉に離陸し、ゆっくりとした速度でこちらに向かってきた。太陽光ビームを照射する準備をしながら光学望遠鏡により輸送用宇宙船を詳細に観察した。こちらに向かって航行しているようだが、あまりにも速度が遅く、この星に到着するには1000時間はかかりそうである。太陽光ビームの照射準備を中断し観測に専念した。
防御用と思われる機関砲は搭載しているが、明らかに輸送目的の宇宙船である。近くから観測する事になり、5隻の観測用宇宙船が離陸し、ゆっくりと輸送用宇宙船に接近し詳細に観察した。
輸送用宇宙船の中は四足動物でぎっしりと詰まっていた。四足動物以外には何も積み込まれていないようである。まさに着の身着のままの脱出のようだ。
うつろの目をした四足動物が数匹船外に出てきて機関砲を外そうとしていた。しかし、ろくな工具は持っていなかった。あまりの哀れさに宇宙船を至近距離まで近づけ、体に携帯用ロケットを取り付けた2人の隊員が敵の宇宙船に乗り込み機関砲を外すのを手伝った。
四足動物はうつろの目をしたまま数回瞬き顔を横に振った。その動きは奇妙だったが彼らにとって感謝の意を表しているのに違いない。感謝を示したその四足動物は、隊員の手を取りそっと宇宙船の内部に招き入れた。宇宙船の内部はすし詰め状態で、目が合った四足動物はうつろな表情のまま数回瞬いた。
隊員はこの様子をプロジェクトに報告した。報告を受けたプロジェクトは今後の対策について議論した。
戦後処理
「思ったより簡単に勝負がついた。一方的な勝利だ。我々は彼らの実力を過大評価していた。活性物質についての技術だけが我々より大きく進歩していた。それにだまされて過大評価してしまったようだ。宇宙船の技術はあるが、小さな大気のない天体では宇宙船があるのは当たり前だ。エンジンの技術は進歩しているが、この技術も活性物質の延長線上の技術だ。活性化技術を除けば我々の技術と雲泥の差がある。能力のバランスが著しく悪い」
「バランスが著しく悪いとは一概には言えない。彼らは我々に戦争を仕掛けてきた。彼らなりに勝算があったに違いない。彼らから見て活性化技術が著しく劣っている我々は簡単に始末できる相手だと思ったのだろう。活性化技術が著しく劣っている我々が他の技術では著しく勝っている。彼らから見ると我々は能力のバランスが著しく悪い。その事が、彼らが判断を間違えた原因だ」
「今後の対策について考えよう。この近くに彼らが定住できそうな他の天体は見当たらない。彼らはこの星への移住を希望しているようだ。受け入れるか追い返すかのどちらかだ。追い返せば生きてゆく事は難しいだろう。彼らが元々住んでいた星は汚染されて帰る事はできない」
「彼らから活性技術を取り上げれば我々には何ら脅威ではない。単に四足の動物だ。ただし強力な歯がある。その点は危険な動物だ」
「彼らが我々に噛み付く事はないだろう。我々の人体の内、何割かの人体は彼らにとっては毒物だ。彼らは表半球側での我々との共存を希望しないだろう。我々がいない裏半球側を移住地に希望するだろう。元々彼らが我々を追い出そうとしたのは、我々は彼らにとっては毒物だからだ。元々彼らは必要に応じこの星から新鮮な石英を採取していた。この星の石英は彼らの生存に不可欠のものなのだろう。我々がこの星に定住した事は彼らにとって死活問題だったのに違いない。そう考えると彼らが戦いを仕掛けたのも理解できる」
「彼らがこの星の裏半球側での定住を望んでいるのだろうか。彼らにとってこの星の太陽光は強すぎやしないか」
「確かに強すぎるだろう。しかし強い太陽光から体を守る方法はいくらでもある。彼らは太陽光を皮膚に浴びて発電しているようだが、適正な強さにするためには適正な服を着るだけで解決できる。我々が彼らを動物としてではなく、それなりの関係で付き合うには相手が裸だと困る。四足で裸だとどうしても動物扱いしてしまう」
「彼らとのコミュニケーション方法はどうする、彼らは発声器官や耳がない」
「彼らとのコミュニケーションを検討するためには、彼ら同士でどのように会話しているかを知る必要がある」
「捕虜が20匹いる。彼らの監視役に尋ねてみよう。彼らを受けいれる方向で準備に入ろう」
会議終了後中野大統領が西田大統領に対し、正式に戦争の勝利宣言を行い全面戦争に向けて作った組織の解体を提案した。
勝利宣言に向けて両政府の担当者が実務的な協議に入り、次の点で一致し、戦争終結のセレモニーの準備に入った。
- 両政府による戦闘終結宣言、勝利宣言を行う。
- 全面戦争に向けて作った組織を解体する。
- バーチャル政府の多大な協力に対し、リアル政府から最大の感謝の意を表する。
- 両政府間に相互不可侵条約、平和条約を締結する。
- 四足動物の今後の扱いはリアル政府に一任し、状況を逐次バーチャル政府に報告する。
両政府による戦闘終結宣言、勝利宣言が行われ、勝利式典が行われた。リアル政府からバーチャル政府とその国民に最大級の感謝が表明され、リアル政府によるバーチャル政府への感謝式典が行われた。 感謝式典終了後、西田大統領を始め多くの政府高官や住民に見送られ、中野大統領一行はバーチャル世界に帰国した。