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SFK人類の継続的繁栄 第5章『暴かれる真相』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

真相究明プロジェクト

 バーチャル人との関係を解消し、四足人を無事に元の星に帰還させたものの、石英星の政府には、未だ悩ましい問題が残されていた。
四足人の基になった四足型ロボットを製造した者、四足人が誕生し知能を持ったあと、通信により四足人の脳に最新技術を含む大量の知識を植え付けた者、またその目的もわからなかった。当初はバーチャル人が関連していると考えていたが、そうでない事は明白だった。
 今までバーチャル人との関係や四足人の問題に振り回され、誰がどのような目的で四足人を作ったのか考えるゆとりがなかったが、全て解決した今は、改めてこの問題が深刻である事がクローズアップされることになった。そこで、〔真相究明プロジェクト〕が組織され、この問題の真相が調査される事になった。
 プロジェクトの調査団がシリコン星へ向かうと、ヨツ大統領以下、政府の要人が調査団を出迎えた。
歓迎の宴が行われた翌日、リアル人と四足人の合同調査チームが結成されると、数班にわかれて各地の調査を行った。四足人の記憶の中に「昔からあった」というものを中心に調査した。四足人のメンバーにとっては当たり前のものでも、真相の解明に役立つものが沢山発見された。
 たとえば新たに見つかったクレーター。このクレーターから10キロほどの所に大きな建物があり、その周辺に多数の工場があった。昔使われていた大きな基地のようだった。小さな基地もあちこちに見つかり、沢山の四足ロボットがスイッチを切られ放置されていた。四足人のメンバーが「昔、基地の周辺をうろついていた記憶がある」と言った。
 一連の調査が終了し査団は衛星に帰還した。早速、プロジェクトの議論が始まった。

「あの大きな基地、中央基地と呼ぶ事にしよう。中央基地はこの星から見えないところに建造されていた。周りには工場跡が多数あり、工場の付近には石英を採掘した跡があった。石英を採掘し、あの工場でシリコン変成機のような機械を使ってロボットの体を作っていたのだろう。小さな基地、前線基地と言おう。前線基地はシリコン星全体にほぼ同じ間隔で1万箇所ぐらいあるようだ。四足人のメンバーが、昔基地の付近をうろついていた、と記憶していた。中央基地から10キロほどの所にクレーター跡が見つかった。また、その周辺に試掘跡が見つかった。四足人がロボットだったときに試掘したようで、彼らの記憶には残ってなかった」
「四足人には特に活性物質の知識が豊富に植え付けられていた。彼らは活性物質でなく、極安全な便利な爆薬と認識している。『石英の中に埋まっている特殊な物質を、変成作用のある物質を使って安全な爆薬に変成していた』と言っていた。戦争のきっかけになった原因の1つも、もっと良い変成作用のある物質を探しに来たとのことだ」
「あの星には安全な活性物質の材料が豊富にあり、その特殊な物質を掘りだすために誰かがロボットを作ったのではないだろうか。2億台もロボットを作った事から考えると、よほど大きな組織が裏にあったに違いない」
「中央基地でロボットを作り、1万箇所の前線基地にロボットを送り込み、特殊な元素を岩石ごと採掘させ、中央基地に運んだと考えるのが妥当だろう。工場跡には破砕機や粉砕機のようなものがあった。精錬のような事も行っていたのだろう」
「それを行ったのが人間だとして、中央基地にはどのぐらいの人数が働いていたのだろうか」
「人が住む設備はほとんど整っていないようだ。泊り込んで働く事のできる人数はせいぜい500人ぐらいだろう」
「あの基地には大型宇宙船の本格的な発着基地はなかった。500人程度でこの大プロジェクトを行うのは考えられない。この大プロジェクトを行うための大規模な本基地が別のどこかにあるはずだ」

本基地探索

 四足人の脳に最新技術を含む大量の知識を植え付けた者。おそらく、その者たちが作り上げた多数の基地、そしてその基地を統括するような本基地。その所在を探査するために小型のステルス宇宙船3隻が離陸した。本基地はこの太陽系内のあまり遠くないところに有るはずである。シリコン星に近い天体から順に探す事にした。
意外にもシリコン星のすぐ近くに別の小さな天体があった。その天体は大きな惑星の裏に隠れて、この衛星(石英星)からは直接見ることができない位置にあり、その天体がある事自体、今まで認識していなかった。
相手に見つからないよう天体から離れた位置から観測した。大規模な本基地が見つかり、撮影後すぐに帰還した。
 帰還後すぐに真相究明プロジェクトの会議が開かれた。そこにシリコン星での大爆発の第一報が入った。建設中の建物の2Kmほど離れた場所で大爆発が発生し、建物にまで石英片が飛んできたが、幸い死傷者はなかったとの事である。
 会議は一旦中断したが、大きな被害がなかったこともあり、すぐに再開した。

「やはり本基地があった。あそこに天体がある事は今まで気がつかなかった。この衛星から見えない所を本基地に選んだのに違いない」
「映像から見ると20万人ぐらいは常駐できる本格的な基地のようだ。建造中の宇宙船も確認できた。あの本基地でシリコン星を開拓するための高度な機材を生産していたのに違いない。シリコン星から大量の特殊元素を採取するための本基地に違いない」
「四足人の技術者によると、シリコン星には特殊元素で出来た大量の岩石があり、その特殊元素を、石英に僅かに含まれる特殊な触媒を用いて変成すると、非常に安定した、質量が100%エネルギーに変換する爆薬が出来ると言っていた。つまり地球を消滅させた、取り扱いが非常に難しい活性物質と同じエネルギー密度の、非常に安全な物質が手に入るということだ」 
「そのような物質が手に入ったらどのような爆弾でも自在に作ることができる。その物質を大量に手に入れて軍事大国を目指している者の仕業に違いない。この第6太陽系外の知的生物による仕業だろう。しかしこの太陽系から最も近いところでも10光年は離れている。もう少し離れたところには第5太陽系、第4太陽系、第3太陽系があり、それぞれの太陽系の中の惑星や衛星には我々と祖先を共にする人類が住んでいる。犯人はそのうちの1つだろう」
「それだけ離れたところから来たのなら瞬時通信を使っているだろう。我々は今ではあまり瞬時通信を使っていないが技術は十分に持っている。あの大きな基地との瞬時通信を盗聴できないだろうか。盗聴できればどの太陽系が犯人か特定できる」

 瞬時通信盗聴器を開発する事が承認され、1年計画で開発することになった。
それから半年が経過した。シリコン星で2度目の大爆発が起こった。前より大規模な爆発で、多くの負傷者がでた。
二足人と四足人による合同調査チームを組織し現地調査を行った。2箇所とも爆発地点には何もなく、1箇所目には2Km離れたところで建設工事が行われ、2箇所目は3Km離れたところで道路工事が行われていた。
2件とも大きな振動を伴う作業を行った直後に爆発したことがわかった。振動が石英の地表に伝わり爆発を引き起こした可能性が高かった。
二足人のメンバーが「振動が石英の中に埋蔵された特殊元素で出来た岩石を爆発させたのだろう」と言ったが、四足人はこれを強く否定し、理由として次の点を挙げた。

  1. 特殊元素は非常に安定した物質で振動により爆発する事はありえない。
  2. 特殊元素ならそこら中にあり、数キロ先で爆発する事はありえない。
  3. 特殊元素の岩石の爆発なら、この星が壊れるような大爆発になる。今回の爆発は特殊元素0.1ミリグラムにも満たない。
  4. これらのことから、極僅かな爆薬を使用した人工物である。

この説明に二足人メンバーも納得し、特殊元素を変成した爆薬に振動反応型起爆装置を取り付けた地雷との結論に達し、対策について議論した。

「2件とも地雷による爆発である。地雷の除去方法を考えねばならない。この星のあちらこちらに敷設されているはずである」
「犯人は明らかに自然爆発に見せかけている。爆発の威力も敷設場所にも規則性はないだろう。探すのは厄介だ」
「特殊元素を変成した非常に安定な爆薬を理想爆薬と呼ぶ事にしよう。特殊元素の岩石の表面が理想爆薬に変成されている場合が僅かにある。知識が埋め込まれた後、すぐに理想爆薬を探すための高感度検出器を開発した。変成技術が確立するまでは石英の地中から理想爆薬を探すために利用していた。あれを使えば地雷を探しだすことができる」
「しかし理想爆薬は岩石の表面にも僅かだが生成されている。それとどのように区別するのだ」
「高感度検出器を改良すれば可視化できる。地雷に使用されているのは粒状に違いない。面状なら岩石の表面に生成されたものだが粒状なら地雷だ。しかし粒は非常に小さいはずだ」
「粒が非常に小さければ丹念に探す必要がある。検出器を量産し、軽車両を総動員して探さなければならない。振動対策が必要だ。軽車両のタイヤは衝撃吸収性の高いものにしよう。捜索員の靴底も柔らかい物に交換しよう」
「万一のことを考え、人が操縦を行うのはやめよう。網の目状に走行するだけだ。自動運転で行おう」 

 可視化装置を取り付けた高感度測定器、衝撃吸収性の高いタイヤが量産され、振動の伴わない掘削装置も開発され、地雷は全て撤去された。

なに者かの正体とその目的

 計画開始から1年、瞬時通信盗聴装置の開発も成功した。盗聴に成功し、意外にも相手は地球から送り出した200人が基になった第5太陽系に住む人類だとわかった。彼らの目的も予想どおりだった。予想どおりというよりも予想以上だった。彼ら第5太陽系人が完全物質と呼んでいる理想爆薬をシリコン星から大量に集めて、軍事超大国化を図り、宇宙を支配するのが目的だった。地雷を仕掛けた理由は、第6太陽系側に特殊元素を採掘させないための罠である事もわかった。
 政府はこの大事態に対し、四足人の政府の首脳を交えて対策会議を行った。
 西田大統領から会議の趣旨説明、状況説明があり、ヨツ大統領の次のような発言から議論が始まった。

「西田大統領の説明によると、ロボットにより新たに採取した6トンは既に宇宙船で第5太陽系に送り出しているとの事である。手元にあった極少量の理想爆薬は地雷のために使ってしまい、ほとんど残っていないだろう。それに対し我々には理想爆薬はいくらでも作ることができる。我々、四足人には理想爆薬に対する知識だけは豊富にある。単に植民基地との戦いなら勝負は見えている。我々には何ら犠牲を払う事なく植民基地を壊滅できる。植民基地を壊滅してしまえば、第5太陽系がこちらに攻めて来るとしても40年はかかる。その間に万全な迎撃準備が可能になる」
「あの植民基地を壊滅しても人道上の問題は全くない。植民基地で働いているのは人体だけで、脳は第5太陽系にある。瞬時通信で人体を操縦しているだけだ」
「その瞬時通信が問題だ。瞬時技術は向こうのほうが上だ。瞬時技術で何をしてくるかわからない」
「瞬時技術ならこの第6太陽系にもすごい技術がある。ただしその技術を持っているのはバーチャル政府だが」
「バーチャル政府とは縁を切った。いまさらバーチャル政府に相談できない」
「バーチャル政府と縁を切ったのは、四足人の問題がバーチャル側の仕業だと思ったからだ。犯人が第5太陽系だとわかったので連絡しても問題ないだろう。クラウド装置をシールドケースにいれ、最後の連絡をしたときも丁寧に説明しておいた。現にクラウド装置は厳重に保管してある。何よりも我々が負けたらクラウド装置も破壊されるだろう。我々第6太陽系に住む人類は運命共同体だ」
「クロックの件はどのように弁解するのだ」
「クロックは元に戻しておこう。クロックの事はバーチャル側も気が付いているかも知れないが、バーチャル側に何ら実害を与えていない。もしクロックの問題を持ち出してきたら、『何もしらない』と言えば良い。そう言えばそれ以上追求してこないだろう。何も実害は与えてないし、何といっても我々は運命共同体だ」

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