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SFK人類の継続的繁栄 第4章『第5地球からみた石英星戦争』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

四足人の育て方

 シリコン星の植民基地では、第5地球からの指示により、四足動物に変身したロボット動物を捕獲し、脳を調べる事になった。植民基地の関係者が集まり捕獲方法について議論した。

「仲間に知られては面倒だ。1頭だけ捕獲すれば十分だ」
「あのロボットのエネルギーは電気だ。あの天体はあまり太陽光が強くない。石英に埋もれた粒を掘りだす時にライトを浴びせエネルギーを補給したことがある。ライトを使えばあの動物をおびきだす事が可能だろう」
「あのロボットには通信機能をつけてある。動物に進化したのなら通信機能を利用して仲間と会話している可能性が高い。仲間に気付かれないように1頭だけ捕まえるためには、捕まえると同時に通信を遮断しなければならない。捕まえたらすぐに頭に電磁波遮断シートを被せよう」

 ライトによるおびきだし作戦で捕獲する事が決まり、3人の隊員が小型宇宙船で中央基地に降り立ち、軽車両に乗り近くの前線基地に向かった。発見当時は前線基地の周辺にかたまってうごめいていたが、今回は散らばって活発に動いていた。短期間で進化したようである。
 前線基地から離れて歩いている四足動物の群れがいた。最後尾を歩いている動物の視線の先にライトを当てた。ライトの光に興味を示した一頭を待ち構えている隊員のところに誘導した。隊員はすばやく頭にシールド頭巾を被せ、4本の足を紐で縛り、電源スイッチを切断した。
 捕獲した動物を宇宙船に乗せ植民基地に戻った。技術隊員が、捕獲した動物の頭部を切り開いた。頭の中は何かにびっしりと覆われ、電子回路を目視する事はできなかった。
 動物のスイッチを入れ、びっしりと覆われている場所の近くに脳波受信機を当てた。覆っている物体が電気的に活動しているようである。詳細に調べると、電子回路を覆っているのは複雑な形をした電子素子の塊である事がわかった。
 動物のスイッチを切り、頭部を胴体から外すためカバーナットを外そうとしたところ、カバーナットは腐食してほとんどなくなっていた。電子回路を覆っている複雑な物体を削りとり、検査したところ、種類の異なる6つの半導体がハニカム状に結合して電子細胞を形成していた。電子細胞を取り去ると電子回路が現れた。電子回路に少量の電子細胞が付着して小さな脳が出来上がり、徐々に脳が拡大したと推測された。
脳の調査結果が科学技術省に報告され、大規模な対策会議が再開された。 

「四足動物を捕獲して植民基地で脳の調査を行った。詳細は報告書に記されている」
「我々が製造した四足のロボットの電子回路に電子細胞が付着して脳になったのは間違いないようだが、その電子細胞はいったいどこからやってきたのか」
「外部から何かが侵入する隙間はないそうだ。電子細胞の元は頭の中に最初からあったようだ。カバーナットが腐食してほとんどなくなっているとの事だ。カバーナットの腐食が電子細胞の生成に結びついたとしか考えられない」
「カバーナットの腐食と電子細胞にはどのような関連があるのだ」
「カバーナットの組成の分析データが送られてきた。分析データから見ると明らかに不安定で、構造材には使ってはならない組成だ。コンピュータによる経時変化のシミュレーションを行っている」
「シミュレーションの結果はすでに出ている。シリコンをベースに複数の添加物を加えたもので、カバーナットが時間と共に風化し、6つの半導体粉になることがわかった。その半導体粉とハニカム状電子細胞の6種類の半導体の組成が一致した。電子細胞の原料は腐食したカバーナットだった」
「腐食したカバーナットの粉が電子細胞になった事は確かなようだが、どのようにして意志を持つ動物の脳ができたのだろう。有機動物のゲノムに相当する設計図がなければ、都合よく動物の脳にはならないだろう」
「その点は全くわからない。電子回路のソフトがたまたまゲノムの役割を果たしたのかもしれない。今後の研究の対象だ。とにかく四足動物型ロボットが四足動物になったのは事実だ。このまま放置しても害はないだろうが、それでは肝心の完全物質の採掘ができない」 
「完全物質は今までに9トン入手できた。宇宙の王者になるための当面の量としては問題ない。問題なのはまだ200トンも残っている事だ。近くの惑星に住んでいる昔の同胞に採られたら大変だ」
「あの動物はさらに進化したようだ。その後の報告によると、都合の良い形の石英片を所々に集めているようだ。自分達の体に充電するために太陽光を集光する工夫をしているらしい。すでに人間並みの知能に進化したようだ。しかしこれ以上脳は大きくならないだろう。脳の材料となったカバーナットは既に全部電子細胞になり、残っていないだろう」
「通信で洗脳し、残りの完全物質の原料を取り尽くさせる事はできないだろうか」
「洗脳はある程度可能だろう。しかし、やみくもに洗脳しても完全物質を取りつくさせる事はできないだろう。通信により色々な知識を埋め込む事が必要だ。それ相当の知識と文化を持たせてから完全物質を全て掘りだすように洗脳する事が必要だ」
「その間に元の同胞に彼らの存在に気がつかれてしまったらどうするのだ」
「そのときは相手を敵だと洗脳し、戦わせればよい。完全物質を取り尽くさせるにせよ、敵と戦わせるにせよ、知識と文化を持たせることが必要だ」  

 通信により知識と文化を待たせる事になり、必要な資料の原案が作成された。無論、資料には完全物質に対する知識は十分に盛り込まれた。
 科学技術省での検討結果が政府に報告され承認された。植民基地の担当者と連絡を取り合いながら、原案を基に四足動物の脳に詰め込む資料が作成された。

石英星の戦争

通信により四足動物の脳に一斉に知識が埋め込まれた。 
知識と文化を脳に埋め込んだのですぐに政府組織も作られた。シリコン星に残されていた宇宙船を当然のごとく使い始めた。あまり活発な活動をすると昔の同胞に見つかる恐れがある。しかし一旦知識を埋め込んでしまった今となっては後戻り不可能であり、しばらく静観する事にした。
特殊元素の採取や実験も始めだした。特殊元素を完全物質に変成する研究も行いだした。変成には石英から取りだした物質を触媒として使用していたが、さらによい触媒を見つけるため多数の場所から石英片を集め実験を始めた。
大量の宇宙船が製造され、引力の小さなこの星の運搬手段として使用するようになった。十分な科学知識が埋め込まれたので科学技術は急速に進展した。インフラ工事には盛んに完全物質が使用された。

 ある日一隻の小型宇宙船が飛び立ち、元の同胞の居住する衛星に着陸しすぐに離陸した。その10日後、10隻の宇宙船がその衛星に着陸し、しばらくして飛び去った。
 その100日後、20隻の大型宇宙船が降り立った。何か大きな出来事が起こるようである。植民基地から観測用のステルス宇宙船が飛び立ち、衛星の上空から詳細に成り行きを観察した。
大型宇宙船からおびただしい数の四足兵士が出て来て、その星の二足の兵士と激しい戦いが繰り広げられた。四足兵士は間もなく退却し、20隻の宇宙船で逃げ帰るように飛び去った。戦闘跡にはそれぞれ5千体近くの兵士が倒れていた。
 上空から撮影された映像が植民基地の会議室に映しだされ、対策会議が始まった。

「全く予期していない事が起こってしまった。それにしても奇妙な戦争だ。とても現代の戦争とは思えない。銃を手にした血みどろの戦闘だ。大昔の人間同士の戦闘を見ているようだ。双方に5千人もの死者が出た。四足兵士は死を恐れて戦っているが、我々の元の同胞は死を全く恐れず戦っている」
「あの戦い方は死を恐れる戦いではない。体を乗り換えての戦いだろう。約5千の人体が横たわっているのは死んだのではなく、壊れた人体を放棄しただけだろう。横たわっているどの人体も動いていないし助ける様子もない。それに対し、我々の作った四足の知的動物は死を恐れて戦っていた」
「つまり戦争は四足動物が不利ということだ。これは状況としてはよろしくないと思うが、我々はどうするべきなのだ。このままだと完全物質の入手どころではない」
「介入するにしても手はない。当面静観するよりない。次の戦闘はあるのだろうか」
「当然だが四足動物は死を恐れている。このまま終わるのではないだろうか」
「四足動物はなぜあの星を攻撃したのだ。我々が彼らに植え込んだ知識には、あのような戦闘を行うきっかけになる情報はないはずだ」 
「我々が四足動物に高度な知識を植え付けてから起きた事柄を時系列で整理してみよう」

  1. 脳に高度な知識を植え付けた。
  2. 当然だが急に技術や文化が進展した。
  3. 特殊元素を取りだした。
  4. 特殊元素から完全物質を製造した。
  5. インフラ整備の工事など多方面に完全物質を使用しだした。
  6. 宇宙船を建造したり、色々な高度なものを作りだした。
  7. 色々な場所の石英から何かを探していた。
  8. 宇宙船が人間の住む衛星に行き、一瞬着陸し、すぐに離陸した。
  9. 10隻の宇宙船がその衛星に行き、別々の10箇所に着陸し、しばらくして離陸した。
  10. その100日後に20隻の宇宙船が着陸し、激しい銃撃戦を行った。

「我々が知識を植え込んだので、当然ながら完全物質に最も興味があるようだ。色々な場所の石英から何かを探していた事も完全物質が絡んでいるに違いない。シリコン星には探している理想のものが見つからず、探す範囲をあの衛星にまで広げたのだろう」
「完全物質をそれなりに活用していた。大戦争まで起こして得たい完全物質以上のものがあの衛星にあるのだろう」
「何が四足動物の目的かわからないが、ロボットの兵士なら1億台はある。ロボットを用いてまた戦闘を起こすのでは」
「目的がわからないので対策の打ちようがない。静観するしかない」

 戦闘から100日後、大量の宇宙船がシリコン星を飛び立った。衛星からミサイルで攻撃されたがあまり効果がなく300隻以上が着陸し、四足の兵士が全て地上に降りると宇宙船は飛び去った。前回の戦闘とは異なり、四足の兵士は全く死を恐れずに戦った。双方とも百万の兵士が戦闘跡に倒れていた。
 その80日後、人間側の攻撃が始まった。シリコン星に次々と小型ミサイルが打ち込まれ、ほとんどが迎撃された。シリコン星から大量の攻撃用宇宙船が飛び立ったが、強い光を放つ兵器でことごとく撃沈された。シリコン星に大型ミサイルが打ち込まれ、この星での勝負もついた。
最後に輸送用の大型宇宙船が200隻、ゆっくりとシリコン星を離陸した。人間側は攻撃を控え、ゆっくりと動く宇宙船を監視していた。宇宙船の中は四足動物がすし詰め状態だった。人間側が攻撃する様子はなかった。
戦闘の終結を見届けた観測用宇宙船は、植民基地に帰還した。帰還後すぐに関係者が集まり会議が開催された。

「人間側の完全勝利に終わった。ほとんどの四足動物はすし詰め状態の宇宙船で逃げだしたようだ」
「その後の別の宇宙船で観測した報告によると、人間側は全く攻撃せずに、むしろ四足動物を救おうとしていたようだ。宇宙船の向かう先は人間が住む、あの衛星のようだ」 
「勝負が決したあと四足動物はなぜ宇宙船で脱出したのだ。宇宙船での脱出は敵による攻撃のリスクが高い。シリコン星にとどまり、白旗を上げるほうがはるかにリスクが低い」
「シリコン星が猛攻撃にあい、パニックを起こしたのだろう」
「パニックを起こして宇宙船で脱出しても、敵が攻撃してこないことがわかれば白旗を上げて元の星に引き返すのが普通だろう。すし詰め状態で長時間かけて敵地の衛星まで行くのには理解ができない。すし詰め状態では太陽光が届かず、中にいる動物は電池切れで死んでしまう」
「電池切れを防ぐために、人間が沢山のライトをつけたワイヤを宇宙船の中を張り巡らし助けているようだ」
「攻撃を受けたあの星では暮らすことができないのかもしれない。有毒な化学物質の攻撃を受けたのかも知れない」
「訳のわからないことだらけだ。静観するより仕方がない」

資源既得権を守る戦略

植民基地の上層部と関連技術者たちが第5地球に戻り、大統領を議長とする大規模な対策会議が開催された。

「あの衛星の人間と四足動物との関係はどうなっている」
「四足動物は隕石の危険のある裏半球側の洞窟に人間の支援を受けて住んでいるようだ。戦いの原因はわからないが、人間に助けてもらい暮らしている」
「四足動物の頭には完全物質の情報を大量に埋め込んである。四足動物が人間に、『シリコン星には完全物質が沢山ある』と言いだすのに決まっている。あの衛星の人類が完全物質の重要性を理解するのは時間の問題だろう。うかうかしていると彼らに完全物質を盗まれてしまう。その前に取りだす方法はないのか」
「高性能な削岩機や特殊元素探査機など、取りだしに必要なものは全て完成している。肝心の掘り出し作業を行うロボットがない。兵器として使われた100万体以外の1億台近くの4足型ロボットは残っているようだが、あのロボットではそのままだと深い地層から特殊元素を掘りだす事はできない。やるとしたら植民基地の人体を使用するしかない。しかし植民基地には人体は20万体しかない。20万人では話にならない」
「完全物質は9トン手に入った。9トンあれば十分だ。問題なのは残りの特殊元素が他の人類の手に渡ってしまうことだ。取られないように短時間で手を打たなければならない」
「完全物質を使って粉々に吹き飛ばすのが一番だが、それでは周りへの影響があまりにも大きすぎる」
「あの星に住めないようにすれば良い。有毒物を散布する作戦も考えられるが、あの動物や、あの衛星の人類に対する有毒物がわからない。地表面全部への散布にも時間がかかりすぎる」
「地雷作戦はどうだろう。完全物質は植民基地にも沢山ある。完全物質と熱起爆式起爆剤を混ぜて、宇宙船から散布するのはどうだろうか。数平米に1粒程度の粗い散布ならあまり時間はかからない。飛行船が着陸するにはエンジンを地面に向かって噴射しなければならない。噴射熱で爆破し、宇宙船は木っ端微塵になる」
「その方法では周りの地雷を誘発する。誘発したらその一帯の地雷がなくなり、そこに別の宇宙船を着陸させる事が可能になる。そのあとは簡単に地雷を処理できる」
「熱起爆式では駄目だ。宇宙船が1隻爆破し、熱起爆式地雷だとわかれば、宇宙船に熱線放射機を搭載し、上空から簡単に起爆できる。地雷の効果は恐怖心だ。小さな威力の地雷を大量に敷設するほうが良い」
「それよりも特殊元素の採取作業を行ったら、大爆発が起こったとするシナリオが最も効果的だ。地雷でなく特殊元素が爆発したと思わせるのだ」
「大昔の人類が使った単位で言うと1キロトンから1メガトンまでばらばらに作ろう。 3000個ぐらい作り敷設場所もばらばらにして、いかにも特殊元素による自然爆破だと思わせよう」

 政府により地雷作戦は承認され、大至急地雷の製造が行われた。3000個の地雷の敷設は半日で終了した。 

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