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SFK人類の継続的繁栄 第10章『ゲームの決着』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

演技派大統領

 第4太陽系からの思わぬ招待の連絡が第6太陽系に届いた。三政府の幹部と瞬時通信関連の技術者が集まりこの問題の対処方法を検討した。 

「使節団は西田大統領の訪問を明らかに恐れていた。少なくともその時点では西田大統領に第4太陽系の実力を見られるのを恐れていた。バーチャル世界の出来事を疑って探りを入れてきたのに違いない。我々の選択肢は訪問するか断るかの2つに1つだ」
「断った場合、よほど合理的な理由で断らないとこちらの実力を疑われ、次の手を打たれるだろう。招待に応じた場合には必ず何かを仕掛けているはずだ。何れにせよ第4太陽系の実態を見られないように準備しているだろう」
「具体的にはわからないが、我々がバーチャル世界に引き入れたのと同様に、事実と異なるものを見せ付けられる事になるだろう」
「招待を断る選択肢はない。招待を受けることを前提に考えよう。我々には瞬時通信で体を乗り換えた経験がない。西田大統領が第4太陽系に行くことを技術的な面から考えて対策の糸口を探そう」
「大統領が第4太陽系に行くという事は、脳と脳以外をつないでいる首を数十光年の長さにして、脳をこの衛星に残したまま第4太陽系の用意した体を操縦するということだ。長い首の中の神経に当たるのが瞬時通信だ。長い首の途中に偽信号発生装置を取り付ければ、第4太陽系にある目で見て体で体験したことがそのまま伝わらない」
「偽信号発生装置として階層型コンピュータを使って処理する気だろう。階層型コンピュータなら人間の知能に比べ50桁以上の能力がある。最上層に適正な処理命令を行う事により、向こうに都合の良い最適なシナリオを作り上げるだろう」
「我々がバーチャル世界に引き入れた時に使ったような方法か」
「いくら高性能なコンピュータでも瞬間的にバーチャル世界を作りだす事はできない。しかしながら最終的に残る脳の記憶にはどのような記憶も持たせることも可能だ。結果的にはバーチャル世界に連れ込まれるのと同じだ」
「瞬時通信に階層型コンピュータを接続されても向こうで自由な動きができるのか」
「それはできる。できないと招待した意味がない。相手は大統領の振る舞いを逐一観察しているだろう。大統領の動きをコンピュータで制御したら招待した意味がない。向こうに行っても大統領は自分の意志でどのような行動でも取れるが、大統領の記憶には階層型コンピュータで作られた記憶が残る」
「招待された大統領や側近の記憶は全て無視したほうがよい。こちらに帰ってきたら向こうでの記憶は全て消去したほうが良い。どのようなわなの記憶が隠されているかわからない。その代わり大統領には思いっきり向こうを見下すように演技してもらおう。そうすれば使節団がバーチャル世界で体験したことが真実だと思い込むだろう」

 西田大統領に、バーチャル世界で〔バーチャル大統領が演じた様子〕を良く覚えてもらい、それの続きを思い切り演じる事を依頼した。

人類が好きなこと

 西田大統領の一行が第4太陽系の大統領執務室に到着した。大統領は周りを見て「なんじゃこりゃ」と一言つぶやいた。大統領一行は思い切り演技を行い、その演技を楽しんだ。相手側の誰にも遠慮は要らない、やりたい放題の演技である。

 大統領一行が帰った後、上田大統領は頭を抱え込んだ。同席した側近が、「使節団の報告は正しかった。我々の力ではとてもかなわない」とつぶやいた。
 真相解明プロジェクトのメンバーを招集し、大統領一行の振る舞いや両大統領の会談の映像を見ながら議論を行った。

「使節団の報告以上だ。幸いにもこの会談の様子は記憶には残らずに、全く別の記憶に置き換えてある。しかしこれが事実だとする我々の力では全く歯が立たない」
「使節団の団員にもこの映像を見てもらった。『これほどの態度を取るとは思っていなかった』と言っていた」 
「冷静に映像を観察すると、この振る舞いは不自然だ。素人の大げさな芝居のようにも見える」
「この映像を瞬時通信に使った階層型コンピュータで解析してもらおう。瞬時通信で記録した内容と照らし合わせれば必ず何かがわかるだろう」

 コンピュータはすぐに答えをだした。演技である事は明らかだった。

「やはり大げさな演技だった。第6太陽系の連中と我々第4太陽系はだましあいを行っているようだ。かつて第3太陽系ともだまし合いをしていた。第5太陽系とも承認権の件でだまし合いを行っていた。我々人類はだましあいが好きなのだろうか。だまし合いなら我々のほうが経験豊富だ。向こうが仕掛けただまし合いの舞台に乗ろう」
「こちらで行われた会談の間逆の映像を作り、記念映像だとして向こうに送り届けよう。向こうも既にだまし合いだとわかっているだろう。大統領執務室を思いっきり大きく豪華にして、堂々とした上田大統領に、西田大統領が卑屈な態度で接している映像にしよう。子供じみたことだが、互いに子供じみただまし合いを行っていることを認識させよう。そうすればこれ以上馬鹿な事はしてこないだろう。無論こちらも同じだが」

 この内容が政府に報告され、冷静を取り戻した政府は、このだまし合いに終止符を打つ、この作戦を承認した。

 思い切り子供じみたコメディアンのコントのような会談の映像が記念映像として第6太陽系に送られた。第6太陽系も第4太陽系が馬鹿げた記念映像を送信した趣旨がわかり、第4太陽系と第6太陽系のだましあいは終了した。

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