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SFL人類の継続的繁栄 第1章『インターネットへの侵略』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

潜入

 第3太陽系との瞬時通信が開始され、作戦はシナリオどおり進行した。第6太陽系バーチャル世界の隊員2名が第3太陽系のインターネットに接続された1台の記憶装置の入り口にたどり着き、鍵開けツールを巧にあやつり中に侵入した。すばやくメモリーの領域を確保し第1基地を作成した。確保した領域は100人ほどが居住できる大きさだった。2人の隊員は当面必要なものを作り出し、とりあえず10人が居住できる基地を作成した。
 外に出て信号の動きについての調査を行い、第3太陽系のインターネットの概要を把握した。
2人は第1基地に戻り、今後の作業について相談した。

「第1基地は確保できた。しかし2人だけではこれ以上何もできない。人を増やすことが必要だ」
「人を増やすといっても一から作るとなると膨大な作業だ。この基地にはソフト作りに必要なツールが何も揃ってない。全て手作りしなければならない」
「第6太陽系から増員する隊員のデータと各種のツールのデータを送ってもらう必要がある。それには瞬時通信を使う必要がある」
「第6太陽系との瞬時通信の様子を見に行こう。通信室にある記憶装置にもぐりこみ、どのように通信しているか見に行こう」

 通信室に行くための経路を探し、そこにあるコンピュータにもぐり込み、小さな領域を確保し通信の様子を観察した。第6太陽系との通信に割り当てられた通信室は独立した小さな部屋で、時々通信員が現れ第6太陽系との通信を行ったり資料の整理を行ったりしていた。
 通信のやり方がわかり、通信員が現れる時間帯もわかってきた。通信員がいない時間帯に第6太陽系と通信を試み、自分達が通信を行っていることを伝え、8名の隊員の派遣とソフト開発に必要なツールの送付を要請し、2日後に決行する事にした。通信履歴を消去し、再びコンピュータにもぐりこみ観察を続けた。
 2日が経った。その日の定期通信が終了し通信員が部屋を出て行くと、様子をみてコンピュータから通信装置に乗り移り通信を開始した。すると、すぐに8名の隊員が各種ツールと共に現れた。通信を終了し履歴を消去し、総勢10名となった隊員は第1基地に戻った。
 10名いればできることは増える。第6太陽系から持ってきたソフト開発ツールを使い、100人が居住できるように整備した。新たに加わった隊員に鍵の開け方やこの太陽系のインターネットの概略を教えた。
 3日後に第1基地に戻ることを決め、隊員1人を第1基地に残し、隊員9名は周辺の探索に出かけた。3日後に全員が戻りそれぞれの探索結果を報告した。
予想していた通り通信網自体には何の鍵もなく、各装置には重要度に応じて二重三重に鍵がかかっていることが判明した。しかし鍵自体は知的データ生物の侵入を前提にはしておらず、慣れればすぐに開けられるようである。あちこちに大小さまざまな記憶装置があり、中には自分達が住んでいた第6太陽系のクラウド装置と同様な大容量のものもあったとの報告があり、各隊員の期待が膨らんだ。

第3太陽系のインターネット

 各隊員の報告結果を受けて10名全員による議論が始まった。

「あちこちに我々が住めるような装置がある。中には我々が住んでいたクラウド装置と同じような容量の装置があるようだ。たった2日間探しただけで沢山の装置が見つかった。インターネットはまさに我々のためにあるようなものだ」
「どの太陽系でもそうだろうが、インターネットには多くは機密性のない情報にもつながっているが、国家の命運を左右する重要な情報にもつながっている。それにしては通信自体に何のガードをしていないのは不可解だ。我々がつかんでいない罠はないだろうか」
「罠はないだろう。どのような情報も自由に通信できないと意味がないし、技術的にも不可能だ。重要な情報を守るのはあくまでも自衛だ。重要な情報を扱っている装置には簡単にはアクセスできないような鍵をかけるしかない。だから重要な装置には多重の錠がかかっている。ただしその錠は我々のような知的生物の侵入を前提として作られてはいない。多重の錠をかけてある装置は我々にとって安全な場所だ。その装置の中にいれば外部から攻撃されることもない。多重の錠は我々のためにあるようなものだ」
「鍵が厳重なほど重要な装置だ。我々は国家の命運を左右するような重要な装置を拠点にして活動できる」
「もっと調査を続けよう。第3太陽系だけでなく他の太陽系も調べよう。通信そのものには鍵がないので、つながっているところならどこにでも行くことができる」
「10人では調べきれない。とりあえず90人増員してもらおう。すぐそばに手ごろな記憶装置があった。メモリー容量は100万人でも居住できる容量だ。その1%を確保すれば1万人は居住できる。容量が1%小さくなるだけなら絶対に気付かれないだろう。これを第2基地にしよう」
「それなら100人でなく1000人体制で行おう。その前に組織も決めておこう。最初に来た2人が全体のリーダーとサブリーダーで、5人が主要組織のリーダー、残りの3人が各太陽系担当の責任者としよう」

 その記憶装置に侵入し、第2基地用に1%の領域を確保した。
通信室を経由して第6太陽系から990人の隊員が加わり1000人体制になった。新たに加わった990人はそれぞれの組織に配属され、全員で第2基地を整備した。
 瞬時通信でつながっている第4太陽系、第5太陽系も各担当班が調査を行った。重要装置自衛のためのシステムは各太陽系それぞれに特徴があったが基本的部分は共通で、どの装置にもたやすく侵入できた。

 

インターネットは広大だ

  10人のリーダーたちが集まり、今後の方針について話し合った。

「インターネットとはまさに我々のためにあるようなものだ。この中ならば思うがまま何でもできる。大きさも我々のいたバーチャル世界とは比較にならない」
「第6太陽系とはわずか1回線の瞬時通信としかつながっていない。自由に連絡を取ることができない。第6太陽系にもインターネットが構築されて他の太陽系のインターネットとつながっていれば自由に行き来ができるのだが、第6太陽系のリアルな世界はリアル政府が支配している。リアル政府は物体至上主義を理念として掲げている。第6太陽系がネット社会になるのはまったく期待できない」
「ネットは無理でも、公式の通信回線を通さずに連絡したり行き来したりできないだろうか。我々は第3、第4、第5太陽系の動向を探るためにここに来た。動向を知らせたくても、担当者の留守を見計らって通信するのでは落ち着いて連絡できない。今までは見つからなかったが、このまま続けていけばいつかは見つかってしまう。我々はインターネットの中では何でもできるが、その外へは出ることさえもできない。インターネットの構築や瞬時通信回線の増設はリアルな世界側からしかできない」
「あまりにも広すぎて1000人で掌握するのは現実的でない。しかし通信担当者の目を盗みながらの増員にはリスクが大きすぎる。予想通り第4太陽系が一番の強国のようだ。1000人では第4太陽系の政府の動きを掌握する事だけに集中したほうが良い」
「第3太陽系も第5太陽系も第4太陽系の支配下に有るわけではない。特に第5太陽系は第4太陽系と覇権を争っている。第3太陽系も巻き返しを考えているかも知れない。各太陽系も政府が完全に掌握しているとは限らない。政府の置かれている天体から遠い場所で何が起こるかわからない。全ての動きを掌握するためには大量の隊員が必要だ」
「第6太陽系のバーチャル政府に事情を説明し、人作りの基本ソフトを送ってもらい、こちらで増員するしか方法はない」

 探査隊員からの要請を受けて3政府の首脳会議が開かれた。

バ:「探査隊員から時々連絡がある。第3太陽系の通信員の目を盗みながらの連絡なので十分な情報は得られないが、とりあえず第3太陽系のインターネットへの侵入には成功し、基地建造に必要な容量確保にも成功したとの連絡があった。隊員を1000送り込むことにも成功した。第3太陽系のインターネットは広大で、情報の掌握には1000人では全く足りないと言っている。しかし通信員の目を盗みながらの通信ではこれ以上の隊員を送り出すのは無理なようだ。『小さくても良いから第6太陽系にもインターネットを構築して、第3太陽系のネットと繋ぐ事はできないか』とも言ってきたので『無理だ』と一応断った。何れにせよ連絡も自由にできない。今の通信回線を使わずに隊員と直接通信する手段はないだろうか」
リ:「ネットの話は現実的でない。第3太陽系とはやっと定期通信をする事が決まったばかりだ。隊員との直接通信も向こうの協力が必要で、直接通信の名目もない。ネット以上に困難だ」
バ:「インターネットの掌握には最低でも1万人は必要だと言っている。『1万人もの隊員を、見つからないように送るのは困難なので、人を作るための基本ソフトを送って欲しい』とも言っている。ソフトさえあれば確保した基地で隊員を作成する事ができるようだ」
リ:「安全保障の観点から、できるだけ距離を置くことが当初の目的だったが、現実的でないので向こうのインターネットを監視する作戦に切り換えた。通信を充実させる事は接近する方向で、距離を置く方向とは逆である。バーチャル政府には負担をかけて申し訳ないが、人作成ソフトを送り、向こうで人を作成する方向でやってもらえないだろうか」
バ:「他に異論がなければその方向で行う」
ヨ:「我々には全く異論はない」

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