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SFL人類の継続的繁栄 第2章『ネット内の独立国』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

新たな文明の萌芽

 人を作成するための基本ソフトと関連資料が第2基地に届いた。
 第2基地を整備し、人の作成に取り掛かった。1000人を新た作成しネットの中の隊員は2000人となった。今後の本格的な探査や人作りのため、自治政府を作り組織を整備する事にした。自治政府の大統領として田山氏が、首相として田中氏が就任し、人作成省、インフラ整備省、技術省、監視省を置き、監視省の下に第3太陽局、第4太陽局、第5太陽局を設けた。
 次に、第3基地建造のための記憶装置を見つけるために、第3太陽局の探索員によって近くの探索が行われた。しばらく探索し、数台の大きな記憶装置を見つけ、1台ずつ鍵を開け中に入り調査した。そのうちの1台はかなり以前から使用されているようだが、履歴を調べると今までに最大20%しか使われていなかった。
容量全体では100億人が十分に生活でき、20%を確保しても20億人が暮らせる容量だった。最近はほとんどアクセスされておらず、厳重な鍵が3つ付いていた。何か重要な機密情報を封印したままのようである。
 この報告書を作成し、監視省を通し自治政府に提出した。自治政府はここを第3基地の第1候補地に決定した。インフラ省の担当官が調査し、正式に第3基地とする事にした。自治政府の承認を取り、すぐに25%の領域を確保した。インフラ局により10万人が居住できる居住区と政府施設と作業区が整備され、第2基地から順次移転が行われた。
 人作成省は第2基地に残り、移転して空いた作業場で人作りを継続し、新たに3000人を誕生させ、自治政府の人口は5000人となった。
技術省により、効率よく人作りを行うためのソフトが開発され、第3基地にも人作りの作業場を設け、新たに誕生した隊員も加わり、急ピッチで人が作成され、人口は10万人に達した。新たに誕生した隊員をそれぞれの組織に配属し、人作りと平行してインフラの整備と各太陽系の探索が行われ、各所に前線基地が設けられた。

人口は1億人に達し、前線基地も10万箇所に達した。中には1万人が居住する大きな前線基地もあった。
 自治政府は第3基地よりも1桁大きな第4基地に移され、その周りには人作りを行う基地や、各種ソフトを作成する基地などが置かれた。基地と言うよりも都市と呼ぶほうがふさわしかった。
 相変わらず第6太陽系との通信は、通信員の目を盗んでのわずかな通信しか行われず、実質的に第6太陽系から独立した組織運営が行われていた。この状態に対し自治政府の高官が今後の方針をめぐる議論を行った。

「我々が3つの太陽系に侵入したのは各太陽系の動きを探るための目的だったが、今では膨大なネット空間の中に巨大な国家を築きつつある。この状態をどう考えるべきか」 
「我々は本来の目的も十分に行っている。今では3つの太陽系の動きを完全に掌握している。しかし、第6太陽系の3政府に、これらのことを詳細に連絡する事ができないし、指示を受ける事もできない。連絡の手段は限られていて我々の力ではどうにもならない。実質的に第6太陽系の指示を仰ぐ事はできないので、我々の判断で行うしかない。好むと好まざるとにかかわらず我々は第6太陽系から独立しなければならないし、すでに独立している。自治政府ではなく、国家としての政府を置かなくてはならない」 
「第6太陽系と異なりクラウド装置ならいくらでもある。巨大な小惑星が衝突しても全く問題ない。衝突の影響が及ばない他の太陽系のクラウド装置に移動するだけで済む。たとえ、太陽系ごと吹き飛ぶような活性物質の大事故が発生しても、瞬時に他の太陽系に移れば良い。第6太陽系に比べて極めて安全で、桁違いの大きさだ。このような状態なので我々がこの世界を開拓しない選択肢はない。開拓し、巨大な国家を築く事が我々に課された責務だ」
「第3~第5太陽系の全人口はせいぜい1000億人だろう。それに対して、インターネットの中にあるメモリー量は何と大きいのだろう。個人が所有するちょっとした情報機器のメモリーでも我々バーチャル人が10億人住めるぐらいの大きさだ。このギャップはどのように考えれば良いのだろうか」
「それは単純なことだ。我々人類の体の構造は大昔からほとんど変わっていない。従ってバーチャル化に必要なメモリー量は大昔と同じだ。これに対しメモリー密度の上限はほとんどない。今では水素原子1つで第1世代の末期に使用していた超大型コンピュータの容量をゆうに超えるようになった。ただそれだけの事だ」

 自治政府の名を廃し中央政府とすることに決定した。中央政府の下に各太陽系それぞれに政府を置く事も決定した。人口が3億人を超えた記憶装置にも自治政府を置く事にした。

広大な開拓地

 もとは2人にすぎなかった探索員も、いまや1億を超えたが、それでもインターネットは広大だ。最大の問題は、やはり世界が広すぎることにあった。国土を拡大するための記憶装置はいくらでもあるが、人口の増加には時間がかかる。人口増加問題に議論がおよんだ。

「100億人が居住できる記憶装置が無数にあるのに、中央政府だけで人を作成しているのではらちがあかない。巨大なクラウド装置を基とした自治政府には人を作成できるようにするべきだ」
「今、記憶装置とは言わずクラウド装置と言った。我々にはクラウド装置と呼ぶほうがなじみ深い。100億人を超える人が居住できる記憶装置はクラウド装置と呼ぶ事にしよう」
「自治政府を置くには人口3億人以上である事が条件だが、人口が3億人に達するまでが問題だ。100億人が居住できるクラウド装置に住む団体にも人を作成できるようにしよう」
「100億人が居住できるかどうかの審査が必要だ。メモリー容量が大きいだけでは駄目だ。確保できる領域を暫定的に全容量の20%に規制しているが、その装置の使用目的などにより規制値を変えるべきだ。そのための審査制度を至急作ろう」
「クラウド装置ならいくらでも見つかる。メモリー確保に無理をする必要は全くない。審査に合格しなければ他の装置を探せば良い。規制緩和の方向でなく、安全を優先し、審査基準は厳しくしよう」

 中央政府の下に各太陽系の政府、各自治政府を置く事が決定し、巨大なクラウド装置に居住する団体には人を作成する権利も与えられた。これにより人口は急激に増加し、全人口は150億人に達した。

開拓者の苦悩

 第4太陽系を探索中に巨大なクラウド装置が見つかった。早速審査が行われ15%が使用可能だとわかった。15%だけでも第6太陽系のクラウド装置の容量を大きく上回ることもわかった。
これを受けて自治政府を置くことが決定されると、自治政府の長として田川氏を選出し、1億人の隊員を送ることも決まった。無論人を作る権利が与えられ、人作りの各種ツールも支給されることになる。
 田川氏は1億人の隊員を引き連れて、巨大なクラウド装置の鍵を開け中に入った。すでに15%の領域は確保されていた。田川氏は果てしなく広がる巨大な空間を見渡した。脳裏にある第6太陽系のクラウド装置の空間に比べてもずっと大きな空間である。第6太陽系のクラウド装置を基としたバーチャル世界の人口は330億人である。確保されたメモリー容量の大きさはその3倍だと知らされていた。1000億人近くの人が暮らせる巨大な世界である。自分に任された責務の大きさを改めて感じ、重責を全うすることを心に誓った。
 自分達に任されたこの広大な世界をどのように開拓してゆくかについて、3人の側近と相談した。

「我々に任された世界はあまりにも大きい。第6太陽系の我々がいたバーチャル世界よりも3倍も大きい。中央政府から人を作る権利が与えられソフトも渡された。改めてこの広大な空間を眺めると、どのようにこの世界を開拓していけば良いかわからなくなってしまった」
「先ずは1億人の隊員を収容する基地を作らなければならない。とりあえず大きな建物を1つ作り、それを大量にコピーしよう。内装や必要な装置などは建物の使用目的に合わせ、後で作れば良い」
「同じものを大量に作るのはコピーするだけで済む。100億人が居住できる数の建物を一度に作ろう。そのうちのいくつかを自治政府の庁舎や人を作成するための工場にあてよう」
「その後は人を作成する事に集中しよう。人の作成は建物の作成とは全く異なり時間も人手もかかる」

 大量の建物はすぐに完成した。見渡す限り同じ建物が並んでいる。建物の中に同じ規格の部屋が大量に作成され、1億人が居住する最低限の環境は整った。あとは人を増産する事が必要である。隊員を増員しなければ次のステップに進む事ができない。しかし隊員の増員は遅々として進まなかった。

「人の作成が進んでいない。原因は人を作るソフトが1組しかないからだ。この広大な世界を開発するのにソフトが1組しかないのでは意味がない。100組は必要だ」
「中央政府に事情を話し、少なくとも20組は提供してもらおう」
「役人に話しても、『規則で決まっている』と言われるだけだ。根回しして交渉すれば、特例措置としてもう1組ぐらい提供してもらえるかも知れないが」
「人づくりソフトのコピーは絶対にできないだろうか」
「コピーは違法だし、人づくりソフトのコピーを行うためには非常に高度な技術が必要で、我々の技術では絶対無理だ」
「しかしソフトが1組ではらちが明かない。われわれに課された責務と矛盾している。法に従うより職責を全うするほうが重要だ。コピーする方法を模索しよう」
「階層型コンピュータでもない限り我々の技術では絶対無理だ」
「中央政府は階層型コンピュータの開発に成功し、多数作成済みだと聞いている。何か良い名目を考えて貸してもらうわけにはいかないだろうか」
「貸してほしいと言うよりも、広大な領域を開発するためには3台は必要だと言ったほうが良い。そのほうが疑われない。細かな名目を考えるより、広大な領域の開発に絶対に必要だ、と強調すれば良いだろう。3台は無理だといわれたら1台だけで良いから作成に必要な資料を渡して欲しい。あの広大な領域を開発するためには何十台も必要だ。他の重要装置の作成資料もできるだけ多く渡して欲しい、と堂々と言えばそのまま通るだろう」

 こうして田川氏たちのチームは中央政府より階層型コンピュータ1台と、大量の技術資料を手に入れる事に成功した。階層型コンピュータを駆使して、1組しかなかった人作りに必要なソフトも大量にコピーする事に成功した。今後、急ピッチで人口を増やし、この広大なバーチャル世界を開拓する準備が整った。

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