この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
様子見
第4太陽系政府では重要施設の破壊という事態に、政府の要人が緊急招集された。担当官が状況の説明を始めたとき、「10箇所の政府施設が破壊された」との緊急連絡が入った。
「また政府施設が破壊された。今度は10箇所だ。幸いにも死者は出なかったが10万体の人体が破壊された。犯人はまだわかってない」
「脳の保管庫の近くの施設も破壊された。脳の保管庫は厳重に警備されているが保管庫が破壊されたら全てが終わりだ。保管庫の近くの施設の破壊は犯人からのメッセージに間違いない」
「犯人は、インターネットの記憶装置に住みついたバーチャル生物に違いない。我々が除去した記憶装置の数とも、除去のタイミングとも完全に合致している。やつらはインターネットを完全に掌握している」
「敵の政府が置かれている記憶装置が判明した。すぐにその装置をインターネットから外そう」
「敵はインターネットの隅々の記憶装置に巣くっている。敵が巣くっている記憶装置をこれ以上取り除くと、また重要施設が破壊されるだろう。敵の政府が置かれている記憶装置を破壊したら脳の保管庫が破壊されるだろう。破壊されたら我々は消滅する」
「敵が住んでいる記憶装置を除去する事は、バーチャル生物である敵を殺す事になる。記憶装置の容量は巨大なので大量の生物を殺す事になるのだろう。敵の攻撃は我々に対するメッセージだ。これ以上拡大しないように何もしないで敵からの連絡を待とう」
計11の施設を攻撃したことによって、第4太陽系政府による記憶装置への干渉が止まった。これを受けて、バーチャル世界の中央政府では作戦成功を祝うとともに、次の展開が模索されていた。
「クラウド装置の除去は止まった。我々のメッセージが伝わったようだ。これから先をどのようにするべきか」
「我々から第4太陽系への連絡は簡単にできるが、何もしないほうが良いのではないだろうか。我々はインターネット全体を掌握している。第4太陽系を滅ぼす事もできる。そのことを敵はわかったはずだ。当面は何もしてこないだろう。攻撃の準備だけは整えて、敵からの連絡を待つ事にしよう」
中央政府がリアル世界との対立を深める中で、ようやく宇宙政府もこの異変に気がついた。
「中央政府が別のクラウド装置に移動した。彼らが支配していたクラウド装置がいくつか除去された。何か大きな問題が起きているようだ。我々との問題ではないようだが、我々との問題でなければ第4太陽系の政府との問題としか考えられない」
「もしそうならば我々も他人事ではない。当面は情報の収集を行おう」
「新たな分析結果が今届いた。最初に1つのクラウド装置が取り除かれ、その後に別々の場所から10個のクラウド装置が取り除かれた。その後に第4太陽系の重要施設が破壊したようだ」
「第4太陽系がインターネットの異常に気が付いたのかもしれない。記憶装置の間を不審な信号の出入りしている事か、メモリー容量異常のどちらかに気が付いたのだろう。その調査のために記憶装置をインターネットから切り離し内部の調査を行ったのだろう。調査を行えばバーチャル人がメモリー領域を確保したことがわかってしまう」
「我々は扉を閉めているので不審な信号の出入りはない。メモリー確保率も自動化したので、外部からの観察ではメモリー容量の低下は10%だけだ。我々のクラウド装置が怪しまれる事はないだろう」
両者、間合いを測る中で
中央政府が様子見を決めたことで、リアルの第4太陽系政府でも今後の方針について検討が行われていた。
「破壊は止まった。やはり破壊は我々へのメッセージだ。この後はどのようにするべきか。相手からの連絡を待つだけしかないのだろうか」
「敵はインターネットを掌握している。インターネットにつながっているものは何でも破壊できる。敵が知的なバーチャル生物だとすると、もっと厳重な鍵をかけても無駄だろう。敵のほうから我々に連絡する事はないだろう。今の状態は敵のほうがずっと優位な立場にある」
「打開策は何かないのか。この状態は我々が敵に命運を握られているということだ」
「敵の最大の弱みはバーチャルである事だ。インターネットを介さないとリアルなものに手出しはできない。しかし敵はインターネットに巣くっている。インターネットを通してリアルなものを操作する事ができる。インターネットから重要な装置を切り離してしまえば敵は何もできないが、そうしたら我々もほとんど何もできなくなる」
「重要な装置をインターネットから切り離すのは現実的でない。全く別のインターネットを構築し、守るべき物を新たなインターネットに接続し、今までのインターネットから切り離せば解決できる。しかし、守るべき重要装置の数にもよるが、膨大な費用と時間が必要だ」
「守るべき重要装置を我々の太陽系だけに限定する事はできない。第3、第5太陽系にも相談が必要だ。費用分担の調整も大変だ。しばらく静観するしかない」
こうして、お互いにパンチを1発ずつ当てた後、リアルとバーチャルはお互いの様子を伺うことにした。
ただ、その横からこの事態を見ていた宇宙政府は、これを対岸の火事とやり過ごすことはできなかった。「自らが巻き込まれる」その可能性に大きな懸念を持っていた。
宇宙革命
「記憶装置の撤去も中央政府による破壊もなくなった。しかしこれで終わるはずがない。特に第4太陽系には深刻な問題が残っている。いつ中央政府に重要施設を破壊されるかわからない。中央政府にとっても深刻な問題だ。重要施設が破壊されるのを恐れて、第4太陽系が先制攻撃を行うかも知れない」
「どのような先制攻撃が考えられる?」
「彼らにできるかどうかわからないが、確保したメモリー領域に侵入し、その中を初期化するソフトによる攻撃だろう。彼らはすでに11個の記憶装置を手にしている。記憶装置を解析して、すでに開発済みかもしれない」
「もしそうなら他人事でない。インターネットの全ての記憶装置が攻撃の対象になる。攻撃されたら我々もおしまいだ」
「どちらが先に攻撃しても我々も巻き込まれてしまう。静観している場合ではない。先ずはどちらの側につくか決め、決めてから対策を考えよう」
「我々が中央政府側に味方した場合には第4太陽系側からみれば何も変わらない。第4太陽系の政府に味方すれば局面を大きく変えられるだろう。我々も鍵に関してはプロ中のプロだ。中央政府の攻撃に耐えられる錠を開発し第4太陽系に渡すのも一案だ。開く事のできない錠がかけられれば中央政府は攻撃力を失い降参するだろう」
「一刻も早く錠を開発しよう。開発したらすぐに第4太陽系と接触しよう」
「錠の開発はそれほど容易ではない。それぞれの装置にはそれぞれの錠がかかっている。その装置の使用者には錠を開けるための鍵を持っている。その鍵で開けられないような錠ではその装置を使用する事はできない。今までの鍵で開けられ、中央政府の作成した鍵では開けられないような錠を開発するのは事実上不可能だ」
「一か八かの大勝負だが、私に良い考えがある。時系列で書き出して説明する」
- 第4太陽系の政府に、我々の存在と、味方に付くことを連絡する。
- それらしい形のダミーの錠を開発する。
- 攻撃から守るための錠を開発出来た、と第4太陽系政府に連絡する。
- 第4太陽系政府にダミーの錠を渡し、全ての装置にその錠を取り付けさせる。
- 中央政府に、我々の存在、第4太陽系政府の味方についた事、防御の錠を作り全ての装置に取り付けたので攻撃しても無駄な事、の3点を伝え、降参するように説得する。
- 第4太陽系政府の重要施設数箇所を我々自ら攻撃する。無論錠はあけられず、錠に跳ね返された事による大きな信号を発生させる。第4太陽系政府は、『中央政府が攻撃したが、我々の作った錠により攻撃が跳ね返された』と思うだろう。中央政府もどこかの自治政府が行ったと思うだろう。
- 第4太陽系政府には、「中央政府は降参すると決めたが、一部の末端組織には伝わらずその組織が攻撃した。今、中央政府が再度地方の自治政府に連絡しているのでしばらく待って欲しい。例え、また連絡漏れがあったとしても、我々が作った錠をかけてあれば何も心配する事はない」と伝える。
- 中央政府には、「今の攻撃は遠くの自治政府が行ったようだ。自治政府への連絡を徹底し、第4太陽系政府にすぐに降参するように」と命令口調で連絡する。
この作戦が実際に決行されると、面白いほどシナリオ通りに進んだ。
結果、宇宙政府と3つの太陽系政府の間に、平和条約と相互協力協定が結ばれた。バーチャルである宇宙政府とリアルである各太陽系の政府との関係は、第6太陽系のリアル政府とバーチャル政府との関係と同様になった。
第4太陽系政府が3つ太陽系政府を代表して宇宙政府と今後の交渉を行う事になった。第4太陽系の政府庁舎の隣に宇宙政府と第4太陽系政府共同の庁舎を設ける事が決まり、共同の庁舎の隣には宇宙政府の大使館が置かれ、宇宙政府関係者らが使用するための1000体の人体を設ける事になった。
旧中央政府とその指揮下にあった自治政府や団体は、1つのクラウド装置にまとめられ、宇宙政府の指揮下に入った。