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SFL人類の継続的繁栄 第8章『パワーバランスの変化』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

活性爆弾事故、再び

 インターネット世界のパトロール開始から10年が経過した頃、第6太陽系から完全物質を盗み出す事に失敗した第5太陽系は、完全物質による武装をあきらめ、扱いの難しい活性物質を用いた爆弾による武装に戻していた。
万一のことを考え、活性爆弾製造関連の工場や関連施設を、第5地球から大きく離れた第5太陽系の最も遠い小さな惑星の小さな衛星に移転し、大規模な研究開発や製造を行っていた。
そしてその惑星は、ある日突然に衛星ごと活性物質に変成され、衛星の質量が丸ごとエネルギーに変換する巨大爆発によって消滅した。
10時間後、第5地球から光の点が観測され、光の点は急速に大きくなり、強烈な光を放ち、激しい電磁波が第5地球を襲った。第5太陽系のインターネットは寸断され大混乱に陥ったが、奇跡的に大きな事故は発生しなかった。数日でインターネットが復旧し、政府機能も復旧した。
政府庁舎の地下に設けられたシェルター内の会議室に、佐藤大統領をはじめとする政府の要人や関連技術者が集まり、この巨大爆発についての分析会議が行われた。
最初に被害状況が報告された。衛星自体が消失してしまい備蓄していた武器が全てなくなった事、その衛星への勤務者は全て第5地球に保管されている脳から瞬時通信により衛星に配備された業務用の人体を使用していたため死者はいなかった事、が報告された。
第5地球の被害は、インターネットが寸断されたため復旧するまでの間、経済活動などができなかった事と、インターネットに接続されていた装置の一部が損傷を受けた事、なんといっても最大の損害は、武器の大半を失った事である。

 政府の緊急会議が始まった。

「理想物質の入手に失敗した上、活性物質よる大事故が発生し、武力のほとんどを失った。軍事大国への夢は消えてしまった」
「活性物質はやはり危険すぎた。関連施設を遠い天体に移しておいて良かった。第5地球で同じ事故が起こったのなら、第5地球は無論のこと、この太陽系全体がなくなるところだった」
「活性物質は危険なものだとわかっており、十分な対策が施されていたはずだ。事故原因は何だったのだ」
「星ごと消滅してしまったので事故原因の調査はできない。しかし星全体が活性物質に変成したのに間違いない。しかし、万一活性物質が不活性容器からこぼれても、活性化を食い止める対策は十分にしてあった。ありえない事故だ」
「事故の起こる数日前に、インターネットにつながっている活性物質の可視化装置が故障したと聞いている。すぐに修理したと言っていたが、可視化装置がまた故障したのかもしれない。可視化装置が動いていれば活性化が広がるのを検出できたはずだ」
「可視化装置には何も反応がなかったと担当者は言っている。こちらに記録されたデータにも活性化の進行は記録されてない」
「第4太陽系の大きな記憶装置に巣くったバーチャル人への対応については第4太陽系政府に委任してある。宇宙政府の指揮下にある別のバーチャル人50億人にインターネットのパトロールをさせている。パトロール員はインターネットにつながっている装置の中も点検しているはずだ。可視化装置もインターネットにつながっていた。パトロール員は可視化装置の内部も点検したはずなのに装置が故障したのはどういうことだ」
「第4太陽系の政府は我々が軍事大国を目指しているのを知っていた。無論、遠くの天体で活性爆弾の製造をしている事もわかっていた。今回の大事故に第4太陽系が絡んでいるのではないだろうか」
「可視化装置だけでなく、大爆発した天体には沢山の装置がインターネットとつながっていた。パトロールの定期点検データを見せてもらおう」
「見せてもらっても意味がない。都合の悪いデータがあれば改ざんされているだろう」
「パトロール員の士気の低下を防ぎインターネットのトラブルを最小化するためにインターネットにつながる装置を計画的に破壊する、という訳のわからない事を言っていた。これが今回の大爆発に結びついたのではないだろうか?」
「第4太陽系の説明では、パトロール員の使命感と緊張を保つためにわざと一定の事故を起こすとの事だった。確かにこの大事故によりパトロール員は非常に緊張し、当分の間は点検に手を抜く事はないだろうが、もしそのために発生した事故なら、我々は第4太陽系に対し、天文学的な損害賠償を求めなければならない」
「我々の軍事力を無力化するために、事故に見せかけてわざと行ったのかもしれない」

消火活動

 第4太陽系でもこの大事故の衝撃は大きく、政府の幹部と関連技術者による対策会議が行われた。

「第5太陽系の武器庫でもある遠くの小天体が天体ごと活性化し吹き飛んでしまった。あの天体にある装置類もインターネットにつながっていた。その装置類も全てパトロール員の調査の対象になっていた。間違いなく第5太陽系から大きな抗議があるだろう。第5太陽系の重要装置の中まで点検する事にしたのは大きな間違いだった」
「とにかく原因の究明に努めよう」

第5太陽系の政府から第4太陽系の政府への激しい抗議があり、一時は一触即発の状態になった。結局原因は特定できずに、一定の損害賠償を行なう事で決着した。
冷静さを取り戻した両政府はネットにつながる装置の点検について議論した。議論の結果、バーチャル生命体がネットにつながる装置が巣くう問題を、第4太陽系のインターネットにつながる装置だけ点検しても意味がなく、今まで同様3つの太陽系全体の装置の点検が必要、との結論に達し、第5太陽系には第5太陽系専用のネット管理室を設ける事にした。

通信手段の模索

 旧中央政府を指揮下に置き自治政府とした事、第3~第5太陽系のリアル政府との間に平和条約と相互協力協定を結び公認された対等な関係となった事、を喜びながらも宇宙政府には一抹の不安があった。
 バーチャル世界はリアルなクラウド装置の中の世界なので、如何に広大で強力な世界を作ろうと、リアルなクラウド装置を基に成り立っており、リアルなクラウド装置はバーチャルの力ではどうにもならない。全てはリアルな政府、特に第4太陽系の政府により握られている。
平和条約を結び対等な関係になっても、それはそれだけの事であり、事実、自分達の指揮下にある自治政府をインターネットのパトロール役に使う提案に対して異を唱える事ができなかった。
 旧中央政府と第4太陽系の紛争に対し第4太陽系に味方し、第4太陽系を破滅の淵から勝利に導いた多大な功績として対等な関係を結んでいるが、第4太陽系を勝利に導いた事自体がバーチャル世界とリアル世界との力関係を一方的なものにしたといえる。更に自分達の指揮下にある自治政府にインターネットのパトロール役をさせている事により、リアル世界への唯一にして最大の対抗手段、〔インターネットを掌握してリアル世界の命運を握る〕という対抗手段を完全に失ってしまった。
これらの事に対し田川大統領と宇宙政府の要人による議論が行われた。

「3つの太陽系政府との間に平和条約と相互協力協定を結んだが、今や我々にはリアル世界の命運を左右する力は全く持ってない。逆に我々の命運は完全にリアル世界に握られている。条約など意味がなく、我々はリアル世界の意向に従うしかない。我々には開拓すべき無限とも言える大きな空間が広がり希望に満ちた未来があるが、我々の宇宙そのものが彼らの手中にあり砂上の楼閣その物だ。自治政府が我々に指揮下にあるというのも名目だけで、リアル政府の下でインターネットのパトロールをさせられ、ネットにつながる装置の中にバーチャル生物が巣くっていないか点検をさせられている。まるで我々へのあてつけのようだ」
「いまは連絡が途絶えているが、我々はもともと第6太陽系から第3~5太陽系の偵察に派遣された。今回の大爆発は第6太陽系でも大きな関心となり、我々からの連絡を待っているだろう。第6太陽系と連絡を取る手段はないだろうか」
「インターネットは厳しく監視されている。我々がこのクラウド装置へ出入りするのも全て監視されている。現状では何ら連絡手段はない」
                         
 そんな頃、瞬時レーダーの観測により、第5太陽系内の領域で活性物質によると思われる巨大爆発が観測され、第6太陽系でも3政府の関係者が集まりこの問題の検討会議が開かれていた。

リ:「第5太陽系で巨大爆発が発生した。第5太陽系の端の領域だったので太陽系そのものには実質的な被害はなかったようだが、超巨大な爆発だった」
ヨ:「我々もデータを解析した。明らかに活性物質の爆発で、比重4の球体とすれば直径200kmの天体の質量が全てエネルギーに変換したと考えられる。事故か事件かわからないが、天体が丸ごと活性化して爆発したのに間違いない」
リ:「我々、特に四足政府でも活性技術を扱っている。我々の太陽系でもこのような事故が起こる可能性はないのか」 
ヨ:「我々の活性技術は第5太陽系の活性技術を基にしている。我々が知識を受けた時点でも活性物質の可視化装置など色々な安全対策が進んでいて、ほとんど事故はありえない。その後、更に安全技術を開発したので我々が事故を起こす事は絶対ない。第5太陽系の技術でも事故を起こす事は非常に考えにくい。人為的に起こしたとしか考えられない」 
バ:「第3~第5太陽系の動向を探るため、第3太陽系のインターネットに仲間を送り出した。その後の連絡はあまりないとのことだが現在はどうなっているのか?」
バ:「バーチャル隊員を送り出すために第3太陽系と瞬時通信回線を開設した。通信員の目を盗み1000人まで送りだしたが、それ以上送るのは第3太陽系に気付かれるリスクが高いので人作りソフトを送付した。第3太陽系のネット内のクラウド装置に本格的な拠点を設け、人作りソフトを使って隊員を増員していると思われるが、その後の連絡はほとんど取れていない。今回の大爆発をうけて彼らも連絡方法を模索しているだろう」
リ:「第3太陽系との通信は細々とだが今でも続いている。今回の大爆発の内容を彼らに問い合わせる事はできるだろう」

 こうして故郷を離れ発足した宇宙政府と、その故郷の政府である第6太陽系政府は、互いに連絡をとる手段を模索していた。

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