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SFL人類の継続的繁栄 第10章『三者会議の反攻』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

三者会議の成立

 来客室に備えられた人体に乗り移り、第6太陽系のバーチャル政府の要人であるA氏と元が同じ宇宙政府要人であるA氏の、元本人同士が数千年ぶりに再会した。無論、宇宙政府が第4太陽系に基点を築いた経緯については隕石事故のストーリーに合わせたものだが、互いに再会できたことを喜びあい、昔の思いでや第4太陽系での出来事や第6太陽系のその後の状況についても語り合った。 
 第6太陽系の代表と、第3太陽系の政府と、宇宙政府の代表による、始めての三者会議が来客室で行われた。 
 
第3:「第6太陽系の代表者に始めて訪問して頂いたのに、歓迎式典も行わず、このような粗末な部屋で会議をする事をお許しください。第4太陽系と第5太陽系には当分秘密にしておかなければならないので」 
第6:「当然のことです。それよりも、我々が死んだと思っていた昔の仲間との再会に尽力いただいた事に、深く感謝します」 
第3:「ここからは今後の話をしましょう。あと、腹を割った議論を行うためにも、ここからは敬語は不要としましょう」
宇宙:「異議なし」
第6:「同じく」
第3:「では、まずは私どもから。第4太陽系と第5太陽系は我々三者の共通の脅威だ。我々は協力して脅威を取り除くことが肝心と考えるが、いかがか」 
宇宙:「我々、宇宙政府にとっての脅威は、我々の宇宙の基であるクラウド装置の命運が彼らに握られていることだ。我々はインターネットの中にいるので、本来ならインターネットに接続された装置を自在に操ることができる。しかし現状はそうではない。我々の指揮下にある自治政府のバーチャル人の大半が、インターネットのパトロールに駆り出されている。今、我々には2つの太陽系に対する何の対抗手段も持っていない」  
第6:「バーチャル人がインターネットのパトロールをしているのに、なぜ彼らを使ってインターネットを支配できないのか。洗脳でもされているのか」 
宇宙:「洗脳ではないがパトロール中の彼らの記憶は消去される」 
第6:「記憶を消去するとは殺人と同じではないか」 
宇宙:「全部消去されるのではなく、ネットにつながっている装置内の記憶だけが消去される。インターネットのパトロール中の記憶は残るが、肝心の装置の中の記憶は何も残らない」
第6:「装置の中の記憶は残らなくても彼らに装置を破壊させる事はできるだろう。破壊の手順だけ予め教えておけば良いのでは」 
宇宙:「複雑なので説明は省略するが、そのようにできないような巧妙なシステムになっている」 
第3:「実際にそのようなシステムになっている。またインターネットの管理は3つの太陽系政府の共同管理となっているが、我々第3太陽系は実質的に共同管理から外されている。我々第3太陽系にとって最大の脅威は彼らの武力だ。我々も武力を強化すれば対抗できるだろうが軍拡競争は望んでいない」
第6:「我々も全く同じだ。相手の脅威から逃れるのは相手から十分に離れる事が常套手段だ。そのために第6太陽系の人類はリアル政府の住民もバーチャルの分身を作りバーチャル世界に合流し、そのバーチャル世界の分身を多数作り、分身を宇宙のあちこちに分散した。我々の分身は宇宙の彼方にいるので全ての他の人類の脅威から逃れたものの、残った我々自身は遠くに移住する事はできない。我々の住む天体を遠くへ移動する事も考えた。技術的には可能だが色々な点で現実的でなく、近くにいるまま脅威を取り除くしか選択肢はなくなった」
第3:「我々も同様だ。相手の近くにいるままで脅威を取り除くことが必要だ」 
宇宙:「近くにいる相手から脅威を取り除くための常套手段は、相手の命運を握ることだ。我々宇宙政府にはそれができるはずだったが、現状は全くできていない。できない最大の理由はパトロールの問題だ」 
第6:「パトロールの問題の詳細を教えて欲しい。バーチャル世界の事は我々が一番良く知っている。戻ってから対策を検討する」  
宇宙:「我々も第6太陽系のバーチャル知識は受け継いでいる。我々も再度検討する」
第3:「相手から物理的に離れる事は現実的でない。軍拡競争を行うのは更に脅威を招く。パトロール問題の対策が最良の解決策のようだ。この問題に関しては我々もできるところは何でも行なうので情報の共有をお願いしたい」

パトロール問題の検討

第2回三者会議が開かれ、パトロール問題についての議論が始まった。

第3:「第2回三者会議を始める。今回の主な議題はパトロール問題である」
第6:「我々の案から説明しよう。パトロール員の一部を宇宙政府の調査隊員に置き換えるのが前提だ。その点は問題ないだろうか?」
宇宙:「我々の案もそれが前提だ。それには何の問題もない」 
第6:「宇宙政府の調査隊員がパトロール員になり、装置の中の記憶を消去されないようにする必要がある。消去されなければインターネットを支配できる。最初から消去できないようにするソフトではリスクを伴う。しかし消去する手順が頭の中に残るプログラムは開発する事ができる。そのソフトを脳にインストールした調査隊員がパトロールを行い、消去の手順を脳に残したまま宇宙政府のクラウド装置に戻ってくる。戻ってきた隊員の脳に記録されている消去手順を基に、消去をブロックするためのソフトを作る。そのソフトを脳にインストールした調査隊員がパトロール員として普通にパトロールした後クラウド装置に戻る。脳には装置の内部の情報が消去されずに残っている」 
宇宙:「その案には致命的な問題がある。前回の会議では説明不足だったが、100個の装置に1つの割合で脳内検査装置があり、記憶消去時に脳内を検査される。装置の記憶を残したままだとその装置に引っかかってしまう」 
第6:「第2案は第2の脳を設ける案だ。第2の脳は記憶するだけの小さな脳だ。装置内で、“記憶”と強く念じると装置内での記憶が小さな脳にコピーされる。小さな脳は単なる小さな記録装置で脳として認識されず、記録が消去される事もなく、脳内検査の対象にもならない」 
宇宙:「それなら問題ないが、脳内に記録装置を埋め込まなくてはならない。我々はバーチャルなので装置を頭に埋め込む事はできない」 
第6:「どうやら君も勘違いしたようだな。私も一時自分がリアル人だと勘違いしていた。勘違いという言葉は正しくないかも知れない。我々は今、リアル人が使用する人体に乗り移っている。我々は、今はリアル人と同じなのだ。逆に言えばバーチャル人が人体に乗り移ったのがリアル人だ。しかしパトロールを行なう時はバーチャル人になっている。バーチャル人の脳に記録装置を取り付けるという事は単に記録装置というソフトをインストールするだけで良い」
宇宙:「はははは、確かにその通りだ。当たり前のことだが、当たり前すぎて忘れていた」
第3:「この方法ならほとんど問題ないようだが、1点だけ我々からの要望がある。我々を信用し、我々第3太陽系の重要装置にはその方法を適用しないで欲しい。誰にでも機密情報や知られてはきまりの悪い情報はある」 
宇宙:「技術的には簡単だ。しかし私の一存では決められない。政府の承認を得なければならない」
第6:「我々も同様だ」

 第2回三者会議が終了し、それぞれの世界に帰った。

密約の発覚

第2回三者会議の後、第6太陽系では三政府の要人と関係者が集まり、第3太陽系の要望についての検討を行われた。
                   
「自国の重要装置の内部を調査される事に第3太陽系が嫌がっている。第3太陽系は信用できる相手だが、この問題をどのように扱うべきか」
「我々、第6太陽系にとって、第3太陽系の重要装置の中の機密の問題は大きな問題ではなく、どちらでも良いが、第3太陽系と宇宙政府との間では微妙な問題だ。我々が調整役を果たさねばならない」
「宇宙政府は第4太陽系に命運を握られているのであって、第3太陽系が握っているのではない。その点では宇宙政府が第3太陽系の重要装置の内部の情報を握るのは不合理だ」
「第3太陽系の重要装置の情報はパトロール員の報告により第4太陽系が握っている。第4太陽系の重要情報にアクセスできるようにすればこの問題も解決する。これには誰も反対しないだろう」

 その後、第3回三者会議が開かれ、パトロール問題についての続きの会議が始まった。
第6太陽系の提案により、第3太陽系の重要装置を対象外にする事と、第4太陽系の重要情報へのアクセスを最優先とする事が決まった。アクセスの方法についてはパトロール員に扮した宇宙政府の調査隊員の情報を基に作戦を立てることで一致した。
議題は自治政府のパトロール員の代わりに宇宙政府の調査隊員を充てる具体的な戦略に移った。 

宇宙:「第4、第5太陽系の重要装置の情報を手に入れるためには1%のパトロール員を調査隊員に交代させれば十分だ。自治政府は宇宙政府の指揮下に有るのでそのように告げるだけで問題ない」 
第3:「3つの太陽系にはその事を報告する必要がある。報告無しで行えば疑いの眼で見られる」  
第6:「どのような名目で交代させるのだ。名目無しの交代は不自然で疑われるだろう」
宇宙:「名目は、『自治政府に行わせている事は我々もつかんでおきたい』或いは『自治政府の負担の軽減』の何れかだ」 
第3:「前者の名目では疑われる可能性が高い。私が第4太陽系の立場なら確実に疑う。後者の方は1%では負担の軽減の名目にならない。負担を名目にするなら最低10%は必要だ。負担の割合が大きいほど名目が立ち、疑われないだろう」
宇宙:「私の一存では決められない。宇宙政府内で検討する」
 
 会議の終了後、宇宙政府内でパトロールの代行人数、名目について検討が行われた。代行人数は40%の20億人と決めた。20億人は、人口が1000億人に達している宇宙政府にとってはわずか2%だが、人口100億人の自治政府にとっては20%に当たる。
 宇宙政府の要人が自治政府に赴き、自治政府の大統領にパトロール業務へのねぎらいの言葉を述べ、パトロール業務の40%は宇宙政府が代行すると伝えた。人口の半分の50億人をパトロール員として召集されている自治政府にとって、20億人が召集から免れる事は非常に大きな負担の軽減である。自治政府は改めて宇宙政府への忠誠を誓った。
 3つの太陽系の政府に対し、パトロール員20億人を自治政府の住民から宇宙政府の住民へと交代する事を届けた。三政府とも宇宙政府の方針を支持し、疑うものはいなかった。
 宇宙政府がこの特別なミッション行うための調査隊員を募集したところ、30億人が応募した。応募者には〔特別な記憶専用ソフトを脳にインストールする事、その後、調査隊員として選出されたのではなく、自治政府の負担を減らすためにパトロール員として応募した記憶が残るように脳内操作が行われる事〕を説明し、20億人の調査隊員が選出された。
 パトロール員として応募した記憶に置き換えるのは、無論、インターネットにつながった装置の1%に仕掛けられた脳内検査装置をすり抜けるためである。

宇宙政府の調査隊員によるパトロールが実施された。
宇宙政府のパトロール員には、召集された自治政府のパトロール員と違い、パトロール員としてミッションを遂行する強い自覚があり、3政府共同ネット管理部門から高い評価を受けるようになった。
 調査隊員であるパトロール員はクラウド装置に戻った後、脳の底部に取り付けた小さな記録装置から装置内の記憶が取り出された。取り出された記憶の中から、第4太陽系の重要情報記録室にある、第5太陽系に対する記録が蓄積されたデータへのアクセス方法がわかり、その暗号変換された情報を入手した。
情報は第6太陽系に送付され、最新式の階層型コンピュータにより解読され、その中に驚くべき資料があった。第4太陽系と第5太陽系政府が交わした密約であり、第3太陽系を2つの太陽系の共同植民地とする密約だった。密約は巧妙な方法で暗号化されており、第6太陽系のバーチャル政府の階層型コンピュータだからこそ解読できた情報だった。早速この情報は第3太陽系に伝えられた。この後に開かれる第4回三者会議の重大な議題となるのはいうまでもないことだった。

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