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SFL人類の継続的繁栄 第12章『5太陽系の報復』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

踊る第5太陽系

 第5太陽系のネット管理室に、パトロール員による報告が入った。内容は、『第5太陽系の武力弱体化会議のご案内』というタイトルの文章だった。出所は、第4太陽系の機密文書保管室の可能性が高く、何かのトラブルで流出したものだと推測された。
 無論、これは三者会議が仕掛けたものであるが、予想通り第5太陽系の政府内に緊張が走った。
数日して同じ装置に、中途半端な状態で保管された、〔第5太陽系弱体化議事録〕という中身が暗号化されている文書が発見された。暗号が解読されると、第4太陽系が第5太陽系の武器を天体ごと消滅させる計画の議事録であり、決定するに至った経緯や目的も詳しく記載されていた。これにより巨大爆発は第4太陽系が故意に行ったと確信した。そして緊張は、強い怒りへと変わった。
 佐藤大統領が政府の要人と関連技術者を招集し、緊急会議が始まった。

「巨大爆発は、第4太陽系が我々の武力を弱体化させるために行ったものだと明確になった。第3惑星の植民地化の件も巨大爆発事件から我々の眼をそらすための作り話だったことがはっきりした」
「第4太陽系を滅ぼすのは簡単だ。活性爆弾を打ち込めばそれだけで完全に消滅する。活性爆弾を搭載した小型ミサイルを完全に迎撃する事はできない。1発でも当たれば天体ごと活性化され、丸ごと超巨大爆発する。しかし、第4太陽系の大き目の天体が1つでも丸ごとエネルギーに変換したら、我々の太陽系にも大きなダメージが生じる」
「小型ミサイルが第4太陽系に到達するのは発射してから数十年後だ。その間に第4惑星も当然我々に向かって小型ミサイルを発射してくる。無論どのミサイルにも瞬時通信による自爆装置は装備してある。ミサイルが敵の天体に到達するまでには何十年もあるので交渉時間は十分あるが、交渉が成立しなかったら敵も味方も全滅だ。例え交渉が成立したとしても自爆装置が一つでも誤動作すれば終わりだ」
「活性爆弾は強力すぎて武器にならない。敵にミサイルを発射したら、攻撃した側も数十年後には消滅する。活性爆弾は敵を殲滅する兵器でなく、この世を消滅させるためのものだ」
「活性爆弾は兵器としては使えないが、第4太陽系の武器庫である遠天体を爆発させても問題ない。我々の武器庫であった遠くの小さな天体が消滅させられたのと同じだ。遠天体を超巨大爆発させよう」 
「遠天体を巨大爆発させるのはインターネットの操作でしかできない。しかし今となってはインターネットを使って遠天体を爆破するのは絶対できないだろうし、実質的に使えない兵器を破壊しても意味がない。第4太陽系への報復は別の方法で行う必要がある。第4太陽系を実質的に支配すれば良い。何度も行った手だが相手を洗脳する作戦が最も有効だ」

長時間の議論の結果、気力減退ソフト戦略が現実的だとわかり、議論が継続された。

攻撃開始

「来年、定期交流会があり、第4太陽系から代表団がこちらに来る。その記憶ソフトを政府庁舎にある第4太陽系の政治家が使用する人体に仕掛けておけば、そのソフトが記憶としてその政治家の脳に残り感染する。第4太陽系に戻り人体を使用すると、その人体も感染する。感染した人体を使用した人の脳も感染する。時間が経つにつれ感染者が蔓延し、感染を繰り返すごとに気力の低下が進行する。やがて気力が低下しすぎ、異常が起こっている事も認識できなくなる。認識できたとしても問題を解決する気力すらなくなる。これが実現できれば最高の方式だ」
「最大の問題は、使用し終わった人体に残るように作れるか否かである」
「結果的に記憶になるような記録を人体に残す事はできるだろう。問題は記憶の内容をどのようにするかの一点だ」
「マイナス思考に陥らせる記憶が良い。その人体を使用して仕事でもレジャーでも行ったときに、『やって損した。やらなければ良かった』のような潜在記憶が生じるのはどうだろうか。感染している人体を使う度にそのような潜在記憶が生じ、マイナス思考が少しずつ広がって行く」
「マイナス思考の増え方ができるだけ直線的になるように作らなければならない。よほど工夫しないと、ある時点からマイナス思考が加速してしまう。下手をしたら第4世界の全員がそのまま死んでしまうだろう」
「そこまで行く事はないだろう。マイナス思考が強くなると人体を使う事も煩わしくなり、そのまま殻に閉じこもってしまう。人体を使わなければ人体から更にマイナス思考を受け取る事はない。この方法をそのまま続けてゆくと、行き着く先は脳保管庫という殻の中に閉じ込もり、それ以上に進行する事はないだろう」
 階層型コンピュータによるシュミュレーションを繰り返し、目的の記憶ソフトの開発に成功した。

 大統領と、この計画に関わった政府要人により計画は承認された。政府関連の施設にある第4太陽系人の政府要人専用人体にマイナス思考記憶が組み込まれた。第4太陽系とは従来通りの交流が行われ、第5太陽系を訪れた政府関係者から少しずつ第4太陽系全体に記憶の感染が広がってきた。

状況把握

 三者会議による2つの太陽系を戦争状態にするストーリーに沿って、第1弾、第2弾の作戦が遂行された。作戦は成功したが、目立った動きはないまま1年の月日が流れていた。そして、作戦遂行後の始めて、第5回の三者会議が開催された。

第3:「第2弾の作戦が遂行されてから1年経過した。我々の観測では第5太陽系にも第4太陽系にも目立った動きは見られない。作戦が確実に実行され、第5太陽系のネット管理室にその情報が届けられたのは確かである。しかしまだ何の動きも見られない」 
宇宙:「我々の調査隊員の情報でも、作戦が確実に実施され、ネット管理室から第5太陽系の政府に情報が届けられた所までは確認できた。しかしその後の動きにほとんど変化が見られない」  
第6:「第5太陽系政府が巨大爆発の原因が第4太陽系の仕業であると思い込んだのは確かだろう。報復攻撃を検討した事も確かだろう。検討中に何か考えが変わったのに違いない。もしも我々第6太陽系が第4太陽系に報復攻撃を行う立場になったら、我々はどうするだろうか。活性爆弾で攻撃すれば敵も見方も消滅する。そう考えると活性爆弾は事実上武力として使用する事はできない。第5太陽系も別の攻撃方法を考えたのに違いない。自分に危険が及ばないもっと効果のある方法ということだ」
第3:「あの第5太陽系が報復を行わないはずがない。ならば、それはどのような方法なのか。それを知る必要がある」 
宇宙:「我々は今も調査隊員やパトロール員によるインターネットのパトロールを行っている。次回までに第5太陽系の報復方法を調査する」

 すぐさま、宇宙政府により第5太陽系の報復方法について調査が行われ、第6回三者会議が開催される。 

宇宙:「第5太陽系の動きが少しわかった。我々の作戦通り第5太陽系では大統領をはじめとした一部の関係者が大騒動になったようだ。その後、優秀な技術者を集めて色々と報復方法を検討していたようだ。面白いことがわかった。第5太陽系の政府関連施設に備えてある、第4太陽系の政治関係者が使用する人体を調査していたことがわかった」 
第6:「活性爆弾による報復は無理だとわかり、第4太陽系の人体に記憶ウイルスを仕掛ける戦略に切り替えたのだろう」 
第3:「ウイルスによる戦略は、我々も含め、この近くの太陽系では良く行われてきた。ただし今度の戦略は報復戦略なので、相手に致命的なダメージを負わせるための練りに練った戦略だろう。第4太陽系には無論のこと、第5太陽系の部外者にも一切漏れないような戦略になっているはずだ。当面は成り行きを静観するしかない」 
宇宙:「先日、第4太陽系の政府関係者が第5太陽系を訪問した。すでに記憶ウイルスに感染し、第4太陽系にじわじわと感染が広がっているだろう」 
第3:「我々の戦略は半分成功したといえる。ただ、所詮は半分成功は半分失敗ともいえる。第4太陽系は大きな痛手を受けるだろうが、このままだと第5太陽系はなんら痛手を受けないのはパワーバランスを考えても問題だ」

 半分の成功。しかし、これ以上、三者会議に打つ手もなく、一先ずは経過の様子を見ることで一致し、第6回三者会議は散会となった。

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