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SFL人類の継続的繁栄 第13章『三者会議の反攻』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

解析結果

 三者会議は自らのシナリオ通り、第4太陽系と第5太陽系の間に亀裂を生じさせることに成功した。しかしながら、両者の間に勃発するであろうと予想された対立、及びそれに伴った事象は未だ起こっていない。前回会議から20年後 第7回三者会議、様子を伺っていた三者会議の面々は、前回会議では少しばかりの焦りの色があった。しかしながら、今回は調子が異なっていた。
 
第3:「あれから20年が経過した。第4太陽系にも第5太陽系にも顕著な動きが見られない。報復戦略はどうなっているのだろう」  
宇宙:「顕著な動きではないが第4太陽系の様子が少しおかしい。以前より我々、宇宙政府に対する締め付けがゆるくなった気がする」 
第3:「我々もそれは感じる。第4太陽系に以前の活気がなくなったように感じる」
第6:「それが第5太陽系の戦略かも知れない。そうだとしたら大変な戦略だ。自分でも気が付かないうちに徐々に活気がなくなるような記憶ウイルス戦略かも知れない。じわじわとやる気が失われ、最終的には地下深くにある脳保管庫に閉じこもってしまう戦略だ」 
第3:「もしその戦略が本当で、じわじわと功を奏しつつあるのなら、我々に対しても同じ事をやってこないとも限らない。我々も表面上は第5太陽系と仲良く交流している。我々の人体も第5太陽系に備えられ、10年毎に交流を行っている。3年後には我々が向こうを訪問する事になっている」 
宇宙:「その懸念はもっともだ。我々は調査員を通して色々な情報を持っている。第4太陽系の活気の件は我々の情報を階層型コンピュータで分析してみる」

 会議終了とともに、宇宙政府の担当者がクラウドに戻り早速分析を行った。調査隊員から持たされた大量のデータを階層型コンピュータの中層に入力し、最上層から各種のデータが出力された。
 そして、その解析報告を重要課題とした第8回三者会議が開催された。 

宇宙:「分析の結果、色々なことがわかった。予想通り記憶ウイルスによる作戦だ。18年前、第4太陽系の代表団が第5太陽系を訪問した。その時使用した人体に仕掛けられた記憶ウイルスに5人が感染し、3年後には住民の99%が感染した。その後は徐々に活気が失われ、現在は平均して当初の80の活気度に低下している。人体と脳の記憶とが互いに感染するようだ。感染している別の人体に移るごとに一定量活気が下がるようだ」 
第3:「3年後に我々の代表団が第5太陽系を訪れて定期会議を行う。きっとその人体にも記憶ウイルスが仕掛けられているだろう。今から対策を講じておく必要がある」 
第6:「我々も他人事ではない。何か我々にできる事はないか。どのようなウイルスか特定する必要があるが」 
宇宙:「ウイルスの特定なら我々に任せてくれ。我々はインターネットをパトロールしている。第4太陽系のネット監視室の担当者のやる気もだいぶ低下している。担当者の目を盗み第4太陽系の人体を調べてみる」

こうして、ウイルスの調査が終わり次第、次の会議を行うことが決まり、第8回三者会議は終了した。

逆転の発想

 第8回三者会議から一月ばかり時が経つと、調査が終わったとの報告が会議になされ、第9回三者会議が招集された。

宇宙:「ウイルスが特定できた。潜在記憶としてネガティブな記憶が仕掛けられていた。記憶なのでその人体から離れる時に記憶として脳に移る。今回はここまでわかったが、感染していない人体を使用した時に、どのようにして記憶から人体に感染するのかわからない。記憶ウイルスの解析だけでなく、第4太陽系の脳の記憶とあわせないと正確な仕組みはわからない」
第3:「感染した人体から離れる時に、人体に感染しているネガティブな潜在記憶が脳に移る仕組みがわかったので、記憶に感染するのを防止するソフトはできるということか」
宇宙:「第4太陽系に使われたのと同種類の記憶ウイルスなら、記憶への感染を防止するソフトを作ることができる。しかし種類が変わると感染を防止する事はできない」
第3:「第5太陽系との定期会議は2年後だ。代表団全員の記憶に感染防止ソフトを使用しても感染を完全に防止する事はできないという事なのか。感染した場合に備えなければならない。戻ってきた代表団は当分隔離する事が必要だ。隔離して自分専用の人体だけを使用すれば良いということか」
第6:「感染防止ソフトは使わずに、感染する事を前提として代表団を送ったほうが良いのかもしれない。代表団が自分の人体に戻ってから、人体に感染したウイルスを調べれば確実にウイルスを取り除くことができる。感染防止ソフトを使った状態で別のウイルスに感染すると、感染したウイルスを除去しにくくなる。感染防止ソフトは使わないようにしよう。そうすればウイルスは完全に除去できるだろう」 
第3:「面白い戦略を思いついた。感染したウイルスを調べれば、感染が蔓延した時にどのようになっていくかをシミレーションできるだろう。第5太陽系の思惑通り我々も感染したように演技して、相手を油断させるのはどうだろうか。相手を十分に油断させた後に、こちらも第5太陽系に対し同じような感染戦略を行い、第5太陽系も弱体化させる作戦だ。そうすれば最初の予定通り第4太陽系も第5太陽系も弱体化でき、我々共通の脅威は取り除ける」
第3-2:「我々関係者は演技する事はできても、国民全員に演技させる事は不可能だ。演技を徹底させるための訓練を国民全員にやらせれば、絶対に第5太陽系に気付かれてしまう」 
第6:「演技無しで第5太陽系に、『計画通りうまく行っている』と思い込ませる方法はないだろうか」
第3-2:「そもそも第5太陽系は、我々の状況をどのような方法で把握することになるのだろうか」 
宇宙:「我々が第4太陽系の活気の低下に気がついたのは、インターネット管理室が調査隊員やパトロール員に対する締め付けが甘くなってきた事からだ。我々は第4太陽系のネット監視室とは密接なコンタクトがある。だからこそ気がつくことができたのだ」
第3:「我々が、気が付いたのは定例通話による政府の要人とのやり取りの様子だけだ。我々にはそれ以外に第4太陽系と接触がない」 
第3-2:「第5太陽系とは10年ごとの代表団の交流があるが、それ以外に接触がない。結局、第5太陽系が我々の様子をつかむのは交流の場とデータしかない。交流の場は関係者が演技すれば済む。各種データは細工しよう」 
宇宙:「第5太陽系人の要人が使用する人体をメンテナンスしている人体製造会社のように民間でも第5太陽系と接触している事もあるだろう。我々も第3太陽系から第5太陽系に流れる情報については十分に注意する」

感染発覚

 前回会議から2年が経過した頃、定期交流代表団が第5太陽系を訪問し、第3太陽系に戻ってきた。そして代表団の面々は全員、自ら隔離室に移される。隔離室にはプロジェクトに参加している技術者が待機し、検査用の人体も用意されていた。戻ってきた全員は、自分の人体から離れ検査用の人体へ乗り換える。そして空になった人体が技術者により調査された。
全員の人体にウイルスが感染していることが判明した。
 早速記憶ウイルスが分離され解析された。使用されたウイルスは第4太陽系に使用されたウイルスと同型のものだった。無論、感染者や感染者が使用した人体からウイルスが完全に除去された。
 階層型コンピュータによりこのウイルスが第3太陽系に感染した場合のシュミュレーションが行われ、時間と共に感染が広がる様子や活気度の低下やその他各種の資料が作成された。資料を基に、第3太陽系の活気度低下を思わせる第5太陽系への今後のデータ、を、作成する各種のソフトが作成された。
この事態は、ほぼ事前の予測通りの結果であったが、これを受けての対応が議題となる第10回三者会議が招集された。

第3:「予想どおり代表団全員が感染していた。ウイルスは第4太陽系に使われたものと同型のものだった。感染者の記憶や人体からウイルスを取り除き、念の為、感染検査ソフトも開発した。コンピュータによる感染のシュミュレーションも行い、おおよそ第4太陽系の感染の場合と同様だとわかり、活気度低下を思わせるデータ作成ソフトも開発した。感染防止対策と演技対策は完了した」
宇宙:「第4太陽系の平均活気度は60%まで低下した。今のところ予測どおりに低下している」
第6:「第5太陽系に対する戦略はどのようにするのか」
第3:「10年毎の代表者団の相互訪問を2年毎とした。2年後にはこちらがウイルスを仕掛ける番だ」
第6:「第5太陽系は第4太陽系にも第3太陽系にもウイルスを仕掛けたので、『自分達にもウイルスを仕掛けられる恐れがある』と考えているだろう。2年後の代表団にウイルスを仕掛けても、仕掛けられた場合を考えて準備しているだろう。相手が仕掛けただまし戦略と同じ戦略は通用しないとみた方が良い。相手の戦略とかけ離れた戦略が必要だ」
宇宙:「奇抜な戦略だがバーチャル世界に誘導するのはどうだろうか。バーチャル世界に誘導し、そのクラウドの扉を完全に閉じてしまえば、全く別の宇宙に孤立して存在する事になり、我々の脅威は取り除かれるし、彼らのためにもなるだろう」
第3:「それには大賛成だが、具体的にはどのように行うのだ。私には見当もつかない」
第6:「具体的な方法は我々のバーチャル政府側も宇宙政府と協力して考えたい」

 各政府の関連技術者が集まり、第4太陽系、第5太陽系のバーチャル世界への引き込みについて議論されることになった。

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