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SFL人類の継続的繁栄 第14章『バーチャルへの引き込み』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

人間の本質

第5太陽による水面下のウイルス攻撃を受けて、三者会議ではこれを逆手に取り、目下の脅威である第5太陽及び、第4太陽の人類をバーチャル世界へ引き込むことを模索していた。

第6:「我々バーチャル人がリアルな人体を使ってここにいる。この事を考察してヒントにしよう。バーチャル世界では脳や脳の中の記憶も含め、体全体をデータにして存在している。リアル世界に来るときには、人体は用意されているので人体データは切り離し、脳と記憶データのみ人体の電子装置の中に入っている。従って我々は今、クラウド装置の中にある人体データとはつながってない。第5太陽系にこの作戦を行った場合、リアルな脳は自宅にあり、バーチャルな体がクラウド装置の中にあることになる。リアル世界に有る脳と、バーチャル世界にある人体は瞬時通信という長い神経がリアル世界とバーチャル世界の壁を通してつながっている事になる」
宇宙:「つまり、バーチャル世界に引き入れようにも、リアルな脳を引き込む事はできない。脳その物をデータ化しないと丸ごとバーチャル世界に引き込む事はできないということだな」
第3:「その通り。脳のデータを瞬時通信でバーチャル世界に送り込むためには、リアルな脳をデータ化する装置が必要になる。ただ、脳をデータ化する装置を敵地に送り込まなくてはならない。普通に考えれば、不可能なミッションだ」
宇宙:「生命の本質は脳ではなく、脳の中にある記憶だ。バーチャル世界側で記憶を引き出すソフトを使用すれば、瞬時通信という長い神経を介して脳の中にある記憶をバーチャル世界側に引き込むことができるだろう。脳は標準データを基にして、記憶を分析して脳の特徴を捉え、標準データをカスタマイズすれば良い。完全に同じ脳仕様にはならないだろうが、それは本質でない。このようにすれば、ほぼ完全にリアルな人間をバーチャル世界に引き入れることができる」
第6:「記憶を取り去られた脳はどうなるのか」
第3:「第4太陽系人の脳は完全に電子の脳だ。記憶データがなくなれば初期化されたコンピュータと同じで、単なるものだ。第5太陽系人の場合は、有機脳を基にして作られているので第4太陽系人ほど単純な話ではないが、記憶はほぼ完全にコピーする事はできるだろう。脳から記憶を完全に消去させる事はできないが、主要な記憶は消去させる事ができる。主要な記憶がなくなり自己認識ができなくなれば、生きていることにはならない。浄化装置が動いていれば脳は腐る事はないが、脳という物があるだけだ」

引き込みの手順

記憶の移行問題における脳の処分が一応の解決をみたところで、次はその移行方法についての具体的な課題が議論される。

宇宙:「脳、つまり記憶と人体とがつながる鍵の仕様は調査済みだ。要は人体と見せかけたデータを配置しておけば良い。データを工夫すれば人体につながる前に用意したデータにつながる。電力の問題で閉じ込めるために用意したクラウド装置に直接つなげる事はできないので、クラウド装置のそばに、大容量の電池を配備したバーチャル人製造装置を用意する。製造装置には人体と見せかけたデータと、マルチチャンネルの瞬時通信装置と、記憶データ取得器とを沢山用意する。人体に見立てたデータにつながった者の記憶を記憶データ取得ソフトにより引き抜いてから、記憶だけクラウド装置に送れば良い。製造装置には記憶データから脳をカスタマイズする装置も取り付けよう。カスタマイズした脳データの中に記憶データを詰めてからクラウド装置に送ったほうが良い。当面、人体データは同じものを使用し、記憶の入った脳データだけを1人ずつ作り、人体データと結合すれば良い。当面は全員の顔と声が同じになるが、記憶はリアル世界にいた時の最新のデータを使用しているので、倫理的に全く問題にならないだろう。顔や声については自分達で作りかえれば良い」
第6:「クラウド装置の中身、特にインフラはどのようにするのか」 
宇宙:「我々で作った世界の内、必要な部分のデータだけコピーして作っておこう。大統領や政府の制度などは、できるだけ現状のまま引き継げるようにしたほうが良い。閉じ込めてしまえば我々とは関係ないが、わざわざ用意したクラウド装置の中に無事全員を引き込んで生活ができるように支度したのに、内紛が起きて自滅するような事態は避けたい」 
第3:「同じ顔をした多数の人間が、今までの世界からまったく別の世界に突然移るのは問題だ。リアルからバーチャルに移行するという意味ではなく、自分の顔や声以外にも住居も職場も何もかにも突然変わってしまう。これに対する工夫は必要だ」 
第6:「工夫は記憶に細工を施すしかない。突然なにもかにも違った世界に来るための合理的な理由が必要だ。上手に合理的な理由を作り記憶に埋め込めば、スムーズに事が運ぶ。これは非常に重要な事だ。事実がどうであろうと記憶にある事が全てだ。その人にとって記憶にある事が唯一の真実だ」
第3:「人体は大量にある。人体に見せかけたデータは各人体に合わせて作るのか?」 
宇宙:「その点は検討済みだ。説明が長くなるので詳細は省略するが、どの人体を指定しても優先的に用意した人体に見せかけたデータと接続させる事ができる。人体に見せかけたデータが全部使われていたら、本来の人体につながってしまう。人体に見せかけたデータの数により一度に引き込める人数が決まる。無論中継器には細工が必要だが、第4太陽系のインターネット管理室の管理が甘くなった今では調査隊員だけでなくパトロール員にも細工の手伝いをさせることができるようになった」
第3:「一度に引き込める人数が決まっているという事は、少しずつ引き込むという事か。 少しずつ人がいなくなったら大騒動になってしまう。その対策はどのようにするのだ。その事自体が認識できないように知能を下げる手も考えられるが、大幅に知能を下げないと無理がある」 
第6:「この問題が最も厄介だ。第4太陽系の人類は活気度が大きく低下しているので、知能を低くする事や洗脳する事はできるだろうが、第5太陽系の場合は問題だ」

大きな課題の解決策

第6:「第5太陽系には洗脳やウイルス感染の手は使えない。全く別の角度から検討しなければならない」
宇宙:「残る手は情報爆弾しかない」
第3:「仮に何の手も打たないで引き込み作戦を行ったらどうなるのだろうか。大騒動になることだけは確かだが、そのあとはどうなる? 人が次々と失踪する奇怪な事件だ。真っ先に宇宙政府が疑われるだろう」
宇宙:「いくら調査しても何もわからないまま、次々と人が消えていったらどうなるだろうか」
第3:「色々なうわさが飛び交う事は間違いない」
宇宙:「うわさや憶測などの誘導には情報爆弾が最も効果がある」
第6:「調査の目が宇宙政府に向かないように、情報爆弾を使って第5太陽系の内部抗争というシナリオを作りだそう。第5太陽系全体を疑心暗鬼に陥らせ混乱させよう」 
第3:「第5太陽系内部が大混乱を起こしたら、第3太陽系の政府や宇宙政府が第5太陽系の政府に協力を申し出よう。協力するふりをしてウイルスに感染させることができる」
宇宙:「感染できるようになれば完全な勝利だ。感染によりどのような記憶も持たせることができる。自主的にバーチャル世界に行かせる事もできるだろう」 
第6:「我々のバーチャル政府からこのプロジェクトのために1億人の援軍を送る申出があった」 
宇宙:「1億人の援軍は大変助かる。バーチャル世界に引き込むとき、全く別の世界に顔なしで送り込むのはかわいそうだ。1億人の援軍があれば顔と声も作成する事ができるだろう」
 
 こうして、引き込み作戦は実行段階に入っていった。

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