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『SFA 人類の継続的繁栄 第0章 破滅の脅威』1

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 地球温暖化が進行し、新型の感染症ウイルスが頻発する近未来。かつてないほどにグローバル化と情報化が進んだ一方で、人類はこれまで以上に巨大なエネルギーを簡単に使うことが可能となった。結果、北朝鮮は核を大量に保有し、韓国は米韓同盟から脱退し北朝鮮の核の傘に入らざるをえない状況となる。核は軍事的に最も効率の良い安価な武器であり、核が拡散し経済小国も含め多くの国が核保有国になった。世界は冷戦時代をはるかに上回る核の脅威にさらされていた。
 「感染症ウイルスと核の拡散」
 この二大脅威にさらされることになった国連は、WHO(世界保健機関)とIAEA(国際原子力機関)の一部機関を統合し、国際ウイルス・核対策機関(WUNO)を組織し、それらの脅威になんとか歯止めをかけようとしていたが、その役割はほとんど形骸化した状況であり、ほとんど影響力のない存在になっていた。

全人類を救い、全人類を人質に取る技術の誕生

 毎年のように新型の感染症ウイルスが発生している。特にインフルエンザウイルスは毎年型を変えて被害が拡大しており、各国の研究機関は最新のテクノロジーを使用して新型ワクチンの研究を行っていたが、治験が完了する頃には新たな変異が確認されるような状況がここ数年続いている。対策として大きな進展はなく、被害は年々拡大しているのが現状だった。
 感染症研究所の研究員である上田悠斗は、現状のワクチンの開発手法には限界があると考え、全く別の手法を試みていた。それは発生の可能性が高い強毒性ウイルスを先回りして対応する手法である。
 従来のように発生したウイルスを基にしてワクチンを設計するのではなく、コンピュータ上で各種のインフルエンザウイルスの遺伝子の一部を別の遺伝子に置き換え、新型の強毒性ウイルスを設計する。同時に、その置き換えた部分を利用し、そのウイルスを完全に無害化するワクチンを設計するという、あくまでもシミュレーション上の研究である。つまり、次に出現しそうな新型の強毒性ウイルスを先回りして作り出し、同時に完全なウイルスを設計するシミュレーションであった。
 研究を深めてゆくうちに、「人の遺伝子」と「人に致命的なウイルスの遺伝子」、そして「そのワクチン」との間には一定の法則性を持った関係があり、その関係を利用することによって、各種の毒性ウイルスとワクチンを同時に設計できることが分かってきた。
研究者としての好奇心から、上田はこの研究をさらに深めていった。毒性ウイルスの増殖可能回数を制御する技術も習得した。これによりウイルスの活動時間を実質的に制御できるようになった。
だが、同時にそれは上田が目指していた事とは異なった方向性と新たな危険性を帯びたものであることに気づくことになる。それは、つまり「制御可能な理想的 な生物兵器」と「その完全なワクチン」を作る方法を見つけてしまったということでもあった。
 上田は、上司の阿部にその成果と危険性について打ち分け相談した。阿部も、結果的に生物兵器の開発にもつながるこの研究の対処方法について苦慮したが、「ここまでの研究はコンピュータ上でのシミュレーションであり、シミュレーションだけでは話にならない」と考え、特別にレベル4の施設を使った動物実験を許可することとした。
 上田は感染力の弱い毒性のあまり強くない、豚や牛の脂肪細胞を破壊するウイルスとワクチンをコンピュータ上で設計した。その後、それを基にウイルスとワクチンの合成を行い、動物実験へと進めていった。結果は、幸か不幸か、コンピュータのシミレーション通りの効果が確認された。
 使い方次第で、多くの人類を救う技術であり、また全人類を人質に取ることができるような技術が誕生したのである。

追い詰められた上田の戦略

 上田は、実験結果を虚偽なくレポートにまとめると、阿部に一切を報告した。
 無論、上田も阿部も人類の存亡に係わる生物兵器の開発を目指しているのではない。なんとか、この技術を感染症の対策に利用できないか思考し、議論したが、リスクを完全に消せるような有用な利用方法はなかなか見つからなかった。
 一方で、この研究が外部に漏れるリスクは時間とともに高まるばかりであった。もし漏洩することがあればどうなるだろうか。暗殺されるならばまだいいが、どこかの組織に拉致され、研究の成果とその情報は洗いざらい調べ上げられ、確実に悪用されることになるだろう。
 そんな中で、上田の思考は「そもそも、なぜ悪用されるリスクが消えないのか」という方向に向かっていった。その思考は脳内で加速していき、上田は感染症対策への利用の前に、この制御可能な生物兵器技術を活用して、そういったリスクを生み出すものを消そうという方向に向かっていった。
具体的にいうならば、このウイルスを使って核保有国を脅迫し、核兵器の廃絶につなげていくという、次の様な戦略を考え出すに至ったのである。

1) 増殖可能回数を制御することにより2日間活動型の感染力の弱いウイルスを製造し、実験地域にまき、ウイルスとワクチンの有効性を確認する。
2) 感染力の非常に強い3日間、5日間、10日間活動型のウイルスを製造する。
3) WUNOから世界に向けて、来年新型インフルエンザが大流行する事、非核保有国にはワクチンを安価で提供する事を告げ、核の放棄を促す。
4) 非核保有国にワクチンを安価で提供し、インフルエンザの流行に合わせて3日間活動型のウイルスをまき散らす。これにより核保有国の住民は3日間の激しい下痢症状で苦しむ。
5) WUNOが翌年もさらに強力なインフルエンザが蔓延すると警告し、核の放棄を促す。
 
 以上のような作戦を数回繰り返し、最終的に核の全廃につなげるという戦略である。但し、この戦略を行う上での絶対的前提はWUNOを動かすことにあった。
 上田は、阿部にこの戦略を提案した。一つ間違えれば人類絶滅にもつながりかねない戦略であったが、情報が漏えいすることによって身の危険があるのは阿部も同じだった。上田が語るプランに恐れと疑念を抱えながらも、阿部の心中は上田への共感へと傾いていった
苦悩の末、阿部はWUNOの主要メンバーでもある同僚の井上に相談した。井上は驚愕しながらも上田、阿部から詳しい内容の説明を受けると、WUNOの上層部にどのように報告しようかと思考した。
 まず、多くの人類を救う技術であり、全世界を脅かす生物兵器でもある技術だ。報告しないという選択はなかった。また、WUNOのメンバーでもある井上にとって、核兵器の全廃は人生における夢の実現でもあった。その切り札でもあるこの話をなんとしても自らの手で成し遂げたいという気持ちが湧いてくる。
そのためには誤解のないように上層部に報告を行い、この戦略につなげなければならない。報告前にWUNOに知られてはならないし、もちろん外部に漏れてしまうのは論外である。自分の判断により、3人の命運は無論のこと、人類の命運も左右する超重大問題であった。
 先ずは制御可能な生物兵器として、このウイルスとワクチンの有効性を確認しなければならない。それには自分たちの体を使って実験するしかなかった。
感染力の弱い2日活動型のウイルスとワクチンを製造し、研究棟の一室に閉じこもり、上田だけワクチンを接種し、室内にウイルスを散布した。
ワクチンを接種した上田は発症しなかったが、阿部と井上は激しい下痢を伴う腹痛に襲われた。症状は2日で治まったが、2人は体力を大きく消耗し、回復には1週間を要した。
 上田と阿部はこのウイルスとワクチンの開発に至った詳細な報告書を作成し、井上はWUNOの上層部を説得するための詳細な報告書と核兵器廃絶計画案を作成した。

 井上の画策によりレベル3の実験棟を兼ねた会議室に、WUNOの主要メンバーが招集された。実験棟は内部から閉じられ、感染力の弱い2日活動型のウイルスがまかれた。あらかじめワクチンを接種していた日本人3人を除く全員が発症し、2日間、激しい下痢と腹痛に苦しんだ。
 井上は、実験棟のなかから国連に、「次に蔓延が危惧される新型インフルエンザのワクチンの効果実験中に事故が起こりWUNOの主要メンバーが実験棟内で感染した。すでに症状は治まり感染の危険は全くないが、念のためしばらく全員実験棟内にとどまる」と報告した。
 感染後1週間が経過し、患者の体力もだいぶ回復してきた。3人は謝罪のあと、実験棟を閉じたまま詳細な報告書と『核兵器廃絶計画案』を丁寧に説明した。最初は憤りを覚えたメンバーも、核兵器廃絶計画を遂行するために彼らの起こした行動を理解しはじめた。また、自らがこのウイルスとワクチンがもつ特殊な威力を体験したので、詳細な説明を受けるにつれ、この計画により核の廃絶に成功すると確信を持つようになり、この計画案を基に更に綿密な計画を策定し、実行することになっていった。

作戦決行

 2050年xx月、半年後に世界中に蔓延すると予測される強毒性新型インフルエンザ対策の臨時の国連総会が開催され、WUNOは次のように発表した。

1) 半年後に強毒性の新型インフルエンザが世界中に蔓延する可能性が極めて高い事。
2) 感染力が極めて強く人類全員が感染し、ワクチンを接種しなければほぼ全員が発症する事。ウイルスの特徴として肥満な人のほうがより症状が劇症化しやすいこと。
3) ワクチンの製造量には時間的に限界があり、WUNOの権限で非核保有国のみに提供し、核保有国には新型インフルエンザの遺伝子情報を提供すること。また製造量に余裕が出来た場合には核放棄を宣言した国に優先して提供する事。

 核廃絶と感染症対策を目的として組織されたWUNOの、核保有国に対する脅しともとれるこの発表に対し、核保有国から大きな反発があったが、WUNOのこの決定には核の脅威をちらつかす交渉相手はなく、臨時国連総会はそのまま閉会した。
 非核保有国に対し順次ワクチンが支給された。製造量に多少の余裕ができ、人口の少ない核保有国に対し核の放棄を促したが、応じる国はなかった。
 いよいよ新型インフルエンザ蔓延の兆しが見えた。WUNOは世界の数カ所に感染力が非常に強い3日間活動型のウイルスを放出した。たちまち世界中にウイルスが蔓延し、核保有国の住民のほとんどは激しい下痢と腹痛に見舞われたが、多くの人は1週間で症状は治まり快方に向かった。劇症化した数千人が死亡したが、他の患者は何ら後遺症を残さずに1か月後には完全に回復した。
しかし、実質10日間、核保有国では経済活動は完全に停止し、これによる莫大な損失を被った。核保有国の経済活動が停止したため、非核保有国もそれなりの経済的損失を被ったが、無論患者は発生せず、核保有国のダメージとの差は歴然としていた。
 核保有国は懸命にワクチン製造に向けて研究した。しかし従来のインフルエンザとはかけ離れた遺伝子構造のウイルスに対し有効なワクチンの開発は遅々として進まず、対処療法としての下痢や腹痛に対する新薬が開発されたのみだった。

 翌年WUNOは次に発生が予測される新型インフルエンザについて発表した。前回のインフルエンザでは感染から症状が治まるまでに1週間を要したが、今回は2週間を要するとの発表だった。
またワクチンの製造能力の問題は解決したが、このワクチンの提供は非核保有国に限ると宣言し、非核化を強く勧告した。核保有国の中には新型インフルエンザの蔓延自体がWUNOによる陰謀だと強く主張する国もあり、実際多くの国もWUNDによる非核化戦略だと考えていたが、いわば理想生物兵器の前には核兵器による脅しは通用せず、米、中、露の核大国と北朝鮮を除く核保有国は非核化を宣言した。
 その年の10月末、WUNOは「2週間後に5日活動型の新型インフルエンザが蔓延し、実質20日間生産活動が出来なくなる」と断言し、さらに強く非核化を勧告した。WUNOの発表通り2週間後に新型インフルエンザが蔓延した。これに備えた対処療法の新薬が開発されていたが、その効果は小さく、2千万人が死亡した。もはやWUNOによる生物兵器を利用した非核化戦略であることは疑いようもなかった。
 WUNOは「12月10日に10日活動型のウイルスが蔓延する」と発表した。核と合わせて大量破壊兵器も全て放棄するように更に強く勧告した。これまでの経験からワクチン接種なしでは住民の3割が死亡すると予測された。米、中、露の3大核大国は核の全廃を宣言した。
 3大核大国が核を放棄すれば核保有国は北朝鮮だけである。韓国側による必死の説得にも関わらず北朝鮮は核を放棄しなかった。核を保持し続ければ北朝鮮は唯一の核保有国となり、他国に対し圧倒的な軍事力を持つことになるとの判断である。また北朝鮮がこのように判断した別の背景は、他の国と比較してこのウイルスによるダメージが、北朝鮮にはなぜか桁違いに小さかったことにあった。

 北朝鮮と韓国にとって運命の日が訪れた。10日活動型のウイルスが放出され、韓国では1千万人が死亡した。しかし北朝鮮の住民、特に農村部の住民の多くは生き残った。しかし権力の中枢にいた多くの人は死亡し、金王朝は崩壊した。朝鮮人民軍の支持を得た地方住民を中心とした政府が興り、韓国を併合し、核を放棄し、朝鮮半島には朝鮮民主主義共和国の国名にふさわしい国家が誕生した。
 北朝鮮の地方住民にとってこのウイルスが致命的なものではなかったのは、無論このウイルスは動物性脂肪を蓄えた脂肪細胞だけに作用するからである。
このように、感染症の研究者である上田悠斗が開発したウイルスとワクチンを使用したWUNOの戦略が功を奏し、約3千万人の犠牲者が出たが、地球から核兵器とその他の大量破壊兵器は廃絶された。

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