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『SFA 人類の継続的繁栄 第2章 最初の新規人“ベニ”の一生』2

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

小学生になったベニ

 ベニは、新誕生システムが運用された最初の年に生まれた、ゲノムロット番号1の子供である。従って自分より年上の人は全て従来人であり、年下はほぼ全て自分と同じく新誕生システムにより誕生した新規人である。
 新たなルールへの移行には多少の混乱もあったが、世界は第1世代の従来人と、従来人を親にもつ第2世代の新規人とが共存する新たな時代へと移行していた。人類が新たな時代を迎えたこと、その区切りとしてこれまで使われてきたキリスト生誕を基準とした西暦を第1暦とし、翌年より新たに第2暦1年とすることも世界的に宣言された。
 ベニは当然ながら病気にかからず、大きな怪我もなく順調に育ち、小学校3年生になった。4年生以上は従来人で、3年生以下の多くは新誕生システムで生まれた新規人である。3年生と4年生では普通でも平均的な身長の差はあるが、新誕生システムにより背は低く抑えられているため、運動会などで全生徒が並ぶと3年生と4年生との間に背の高さの違いが目立った。ただ、それ以外は一点だけを除いて目立った点はなかった。
その一点とは「生徒数の違い」である。
 新誕生システム以前は少子化が極端に進み、出生率は1を大きく割っていた。新誕生システムでは出生率の目標は2.01となった。新誕生システムが運用された当初、このシステムにより実際に出生率が上昇するか疑問を持つ識者もいたが、「新誕生システムにより誕生した子供が成人するまでに必要な費用は、従来の3割以下になる」という大々的な広報活動が功を奏し、一挙に出生率が上がり生徒数は2倍以上になった。
学校も生徒数の増加にすぐには対応できず、4年生以上では1クラス15人程度だったが、3年生以下では40人以上となった。生徒数が一挙に倍以上になったので担任の教師は戸惑っていたが、現場の工夫でなんとか対処した。その翌年からは、教育における予算の拡大と教育現場の改革によってこれを乗り切ることになった。
 また、新誕生システムにより、病気のリスクがほとんどなくなり、小さな怪我もあまり問題にならなかった。また食物アレルギーの心配もなくなり、給食にもその配慮の必要がなくなった。無論、運動能力、学習能力には個人差はあるが、その差は少なくなった。授業にもその分、気を使う必要がなくなり、クラスの人数が大幅に増えたにも関わらず、教師の負担は逆に減った部分もあった。
授業内容にも特段の変化はなく、3年生と4年生との間の生徒間の交流も、身長の差を除いては大きな問題はなく、生徒たちも特段誕生の方法の違いを意識する事はなかった。
 家庭生活も、上の子が従来人で下の子が新規人であっても、兄弟とも同じ母親が出産したので、家族間での違和感はなく、何も問題はなかった。新誕生システム導入検討時に、母体を使用せずに人工子宮による方法も検討されたが、母体から生まれる方式を採用したのは大正解だった。

大学入学、就職、結婚と出産

 ベニは、これまでの子どもたちと同様に、友達をつくり遊び、学び、ときに喧嘩したり、恋に落ちたり、親への反抗期があったりしながら、病気をすることもなく健やかに成長し大学生となった。
 その間社会は、新誕生システムで誕生した子供が順調に成長する事に非常に満足し、また成人してからの期待も大きかった。中でも、期待が大きかったものの一つが原発関連の仕事に従事してもらう事だった。
 地球温暖化防止のために、世界のエネルギーは原発への依存比率が再び大きくなってきていた。核エネルギーの取り扱いは安全性が大幅に改善されたとはいえ、従来人にとって放射線によるリスクは高いことは変わりなかった。そのため原子力関連の従事者は不足し、原発への切り替えが予定より遅れ、この間にも地球温暖化は進行していた。
 多くの国家においてエネルギーが核エネルギーにシフトしつつある中で、大学では原子力関連の学部が増設された。ベニも原発関連、特に放射線を浴びる可能性のある現場で働くことを希望し、その関係の学科を選択した。 
 そのときに出会ったのが将来の伴侶となる山本君である。同じ学部で部活の先輩でもあった山本君は、一つ年上なので従来人である。従来人と新誕生システムで誕生した新規人とが恋に落ちる事は、平均的な背の高さに違いがあるだけで特段の問題はなく、加藤さんと山本君が恋に落ちる事に何ら不自然はなかった。
 卒業後は二人とも原発関連企業に就職した。従来人の山本君は事務職に、ベニは現場に配属された。新誕生システムにより誕生した新規人のベニは、職場の仲間から大いに歓迎された。
 待ちに待った新規人である。従来人なら放射線防護用の重装備で短時間しかできない作業も、新規人の彼女は軽装備で長時間作業ができる貴重な存在である。だからといって背が少し低いだけで、普段は何も従来人と変わりがなく、すぐに現場の仲間と打ち解けて活躍した。
 その後、二人は結婚する事になった。その頃には新規人向けの住宅や電化製品も開発されていた。従来の住宅や電化製品との大きな違いは、遺伝子認証システムが使用できるという違いだけである。家のドアを開ける場合、カードなどを使用する必要はなく、ドアノブに触るだけで必要な遺伝子情報が読み取られドアを開閉できた。但し、新規人向けの住宅は従来人には不便であり、従来人の夫に合わせて従来型の住宅と家電製品を購入した。
 新婚生活は従来人のそれと特に変わりがなく、唯一異なるのは性行為が妊娠に結びつかない点である。新規人の女性は排卵しないように核心遺伝子が操作されていた。
数年後、彼女が25歳の時、生活が安定した二人は第一子の長男を設ける事になり、こうして新誕生システムによる2代目の子供が誕生した。
危険につながる技術の研究は原則禁止されていたので、システムには大きな改良はなかった。それでも核心遺伝子の研究だけは容認され、少しずつ進展し、二人の長男のロット番号は15となっていた。ロット番号15では、背の高さはロット番号1に対して平均15cm低く、最終的には平均身長が1mになるように計画されていた。

ベニの死

 第2暦90年、山本夫人となったベニは90歳になっていた。それまで体力も外観も、従来人の夫に比べずっと若かったベニだったが、この頃から少しずつ老化が目立つようになった。
 95歳になり更に老化が進行し、夫よりも1つ年下なのに見た目は逆転し、仕事もやめ年金生活に入った。98歳で心臓が悪化し、入院の翌日に夫に看取られ亡くなった。死因は心臓麻痺だった。
 新誕生システムで誕生したベニが医療を受けたのは、死ぬ直前の2日間と、足をくじいた時と、高校時代にちょっとした事から精神が不安定になり、1月ほど通院した事だけだった。
 新誕生システムは、体に対してはすこぶる有効で、脳に対してもその機能を損なう病気に対しては有効だったが、知能やうつ病などの精神的病、理系・文系などの得意分野などにはほとんど有効でなかった。遺伝子に起因する精神的障害は解決できたが、環境や社会的な事柄に起因するような精神的病までは解決できなかった。
 システム構築時の一時期、遺伝子と知的要素との関連も研究されたが、関連性がつかめず、また知能を向上させる事は、〔人類の継続的繁栄〕の理念から逸脱してしまうため、危険技術として研究そのものが中止された。

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