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SFA 人類の継続的繁栄 第3章 『禁止された技術と奨励された技術』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

新世界のデザイン ―第2暦50年頃の世界

 原則として危険につながる恐れのある技術の研究は全て中止され、アナログ的な技術と地球温暖化防止に関連する技術だけが少しずつ進展した。全体的に豊かになったが、システム運用開始時に決めた21世紀初頭の技術レベルに戻す方針はそのまま継続されていたため、一見21世紀初頭とあまり変化はなかった。目立った変化は、51歳の人口に比べ50歳以下の人口が大幅に増加している点、若いほど平均身長が低い点だけである。
 なお、このころの定年は95歳前後で、年金は93歳から支給されるため、現役世代10人で年金世代1人を支えればよく、21世紀初頭に比べ、現役世代の負担が大幅に軽減された。最終的には現役世代20人で年金世代1人を支えるように計画されていた。
 新生児が成人するまでの両親や社会の負担は大幅に軽減し、多くの人が子供を持つ事ができる社会となった。また多くの人が望む〔ピンピンコロリ〕社会が実現した。
 21世紀初頭の状況と顕著に変わった点は、DNAに90桁の番号が記録されているため、買い物は認証器に触れるだけでよく、ドアの開閉やその他の認証が必要な事に対して特に意識する必要はなく、自動的にゲノム認証システムが働き、安全性、利便性が大きく向上した点である。
 また電気製品は概ね21世紀初頭の技術に戻されたが、省エネ技術の研究開発は大いに奨励されたため、その点では大きく改良された。また交通手段からエンジンは完全に排除され、全て電気とモーターを使用するシステムになっていた。また生活の場からガスの使用は禁止され、電気が唯一のエネルギー源になっていた。
 人類滅亡のシナリオとして、小惑星の衝突が一時期議論されたが、小惑星衝突問題よりも、科学の進展による自滅の問題のほうがずっと大きく、小惑星衝突問題を解決するような技術の研究そのものが人類の滅亡を招く事になるとの認識が浸透し、この分野の科学技術の研究も禁止された。
 宇宙開発は無論の事、情報産業の研究開発も大幅に規制され、半導体関連事業も国際的に管理され、AIの研究にも多くの規制がなされることになった。
 一方、人類に大きな悪影響をもたらす、地球温暖化を防止する技術、例えば原子力関連、省エネ関連、輸送の効率化関連技術はおおいに奨励された。また50億人の人類の食料を安定的に確保するための、例えば植物の改良、植物由来の人工肉の製造などの技術、また、新誕生システムに関連した国際管理機関の下での核心DNA技術、DNA認証技術、怪我に対する外科治療技術は奨励され、徐々にではあるが進化を遂げていた。

原発移行への経緯

 西暦2011年の福島の事故により、特に多くの先進国から原発は排除され、化石エネルギーと再生可能エネルギーが主流になったが、風力発電や太陽光発電はコストに見合わず、大半が化石燃料に頼るしかなかった。そのため温暖化が進み、温暖化による異常気象により自然災害が頻発、その結果、風力発電や太陽光発電には強固な暴風雨対策が必要になり、ますますコストがかさむようになった。
 一方、実質的に原発の新規導入が禁止された国々では、原発関連産業は廃炉作業が中心となったが、廃炉作業の困難な問題に取り組む過程で、なんとも皮肉なことに安全性を高めるための技術が発見され、ノウハウが蓄積されていく結果となった。これによって核エネルギー技術が再度見直されることとなり、エネルギー問題に苦しむ人類は再び原発に目を向け始めた。
 この間、国際政府により行われた、核心遺伝子操作を中核とした新誕生システムについての技術が進展し、核心遺伝子の研究により、放射線で傷ついたDNAをほぼ完全に修復する技術が完成した。
 この技術により、新誕生システムで誕生する子供には放射線によるダメージは桁違いに軽減できるようになった。つまり新誕生システムにより誕生した人にとっては、放射線は大きな脅威ではなく、「地球温暖化防止のため原発を大いに利用すべき」との議論がわきあがった。「新誕生システムで誕生した子供には原発はほとんど無害だが、それ以前に生まれた我々はどうなるのか」との議論も同時にわきあがった。
 新誕生システム以前に生まれた人のために、原発への移行はゆるやかに行われた。廃炉技術から生まれた、核のゴミを少なくする技術も進展し、また新誕生システムにより子供を授かる両親の理解が深まり、徐々にではあるが着実に原発社会に移行するようになってきた。
 しかしながら、原発には放射線とは別の問題があった。核爆弾の問題である。原発の普及により、どの国も核物質をたやすく手に入れる事ができたからである。
 この対策として、国際政府はロケットの使用を禁止し宇宙開発も禁止した。これらの研究やロケットの製造は国際政府だけが行い、宇宙空間も国際政府が管理する事になった。
 また、監視用人工衛星から、多少の雲があっても地上の物体を1cmの精度で識別できる技術が確立する。つまり、どこかでミサイルを発射の準備をしていても、それを宇宙から丸見えの監視ができるようになっていた。放射線を捕らえる技術も大幅に進展し、どこにどれだけの核物質があるか宇宙から丸見えになったのである。これらの人工衛星は国際政府により運用され、原子炉で生成された核物質が核爆弾に転用され、ミサイルに搭載される恐れはなくなった。

地球温暖化対策

 第2世代の人類が採った地球温暖化防止に向けての対策は、概ね次のようなものだった。
 原則として化石燃料の使用は禁止された。しかしながら一挙に原発に切り替えるのは無理があり、化石燃料の使用率を段階的に下げる目標が設定された。
 しかしながら計画通りには進まなかった。自然エネルギーへの切り替え、特に風力発電は猛烈な暴風雨に耐える強度の風車を作る事は難しかった。太陽光発電についても同様だった。
 一挙にこの問題を解決するための方法として、宇宙から見た地球の太陽光反射率を高くする方法が21世紀初頭、ある天文学者により提案された。地球表面の7割を占める海表面の反射率を高くすれば、一挙に地球温暖化は防止できるので、この研究は大規模に始まったが、実用的な方法は見つからなかった。結局、建物の屋根や道路等の建造物や自動車等の屋根を白くする事が義務化されたが、これによる効果はわずかなものだった。
 人類の行った最大の成果は、遺伝子操作により二酸化炭素固定能力の高い木を開発し、この改良した木を大量に植林する事だった。遺伝子操作の研究は危険技術として原則禁止されたが、地球温暖化防止の決め手である改良木については特例扱いされた。しかしこの植林による効果にも限度があった。
 このように対策に行き詰まる中、原発への全面切り替えが急がれた。 

従来人の終焉 ―第2暦120年頃の世界

 新誕生システムが運用化された120年後、すなわち第2暦120年、120歳を超えた従来人は全て亡くなり、新規人だけの社会になった。
 第2世代の人類である新規人の寿命は100歳前後なので、運用後20年以内に誕生した新規人の第1次世代はほぼ全員亡くなり、第4次世代を中心とした、第2次世代から第7次世代までの人により社会は構成されていた。
核心遺伝子により寿命は100歳前後に制御されていたが、結婚したり、子供を設ける年齢は基本的には自由であり、幅広い世代により社会は構成されていた。
 ただし、子を設ける年齢には制限が設けられていた。 受精卵のゲノムはコンピュータ上で作成されるので、代理母を使えば、技術的には死ぬ直前のカップルからでも子供を設ける事は可能だが、カップルの内、若い側の年齢が75歳を超えるカップルには子供を設ける事は禁止されていた。親が子供を育てる途中で亡くなると、その子供をケアするための社会の負担が増加するからである。

1)従来人から新規人への移行を混乱なく行う
2)世界の人口を50億人とする
3)少しずつ身長を低くして平均身長を1mにする
4)新規人に移行してからも人間らしい社会を作る

 いくつかの困難はあったものの第2暦120年時点で、以上の4つの目標は概ね計画通りに進んだ。また、社会保障費、医療費増大による各種の問題は解決され、安定な理想的社会が実現しつつあった。地球温暖化を除く全ての点で、ほぼ完璧に推移していた。

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