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SFB人類の継続的繁栄 第5章『第3世代人類の人間らしさⅡ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

残された時間のなかで


 地を震わすような轟音が収まると、5名のメンバーはその正体を確かめるために再び基地を出た。
 豪雨の中を少し歩くと、目前に現れたのは大雨により斜面を崩れ落ちた堆積灰の濁流跡であった。堆積灰は周りの岩石を巻き込み、彼らの補給線である支線上に数メートルに渡り堆積していた。
 彼らは絶句した。この惨状が意味するのは、“洞窟”への帰還がほぼ不可能になったという現実であったからである。
 基地に戻る5名の足取りは重かった。戻ってからも雨に濡れた身体を拭う間、誰ひとり口を開くことはなかった。そして、その間も彼らのエネルギー残量はひたひたと減っていくのである。
 「……救助来るまでにどのくらいかかるでしょうか」
 誰かがおもむろにそうつぶやいたが、そんなことは誰にもわからなかった。
 まず土石流が現状どの程度まで広がっているのかを確認する術はなかったし、この天候がいつまで続くかもわからなかった。被害はさらに拡大する可能性もあり、これまで整備を進めてきた他のインフラにも被害が及んでいる可能性すらあった。
 現在、完全に隔離された遠隔地となったこのキャンプには通信手段もなかった。現状の第3世代人類における通信技術は、有線によるものがやっとで無線通信のための整備にまでは手が回っていなかったからである。
 「各自、正確なエネルギー残量を報告してくれ。今後どうするか決める前にしても、それからだ」
 チームリーダーがそう告げると、順に皆が報告を行った。
 「活動限界まで残り30時間ほどが1名、24~25時間が2名、残り1日を切っている者が俺を含めて2名か……」
 情報を確認するようチームリーダーがつぶやく。
 「とりあえず交代でスリープモードに移行するにしても、何かあったときの見張りは必要だろう。ただ交代するにしても何名ずつにするべきか……」
 何が起こるかわからないこの状況下にあって、事前に絶対に正しいといえる判断などなかった。彼らがあらゆる可能性を観測できるわけではないし、たとえそれができたとしてもほんの少しの因果によって結果は変わってしまうからである。
 思考をめぐらせていたチーム各員であったが、いつしかその視線はリーダーに注がれる。リーダーはその視線を受け止めると、決意したように「よし」と声を挙げると他のチームメンバーに向けて語った。
 「まずは残りのエネルギーが少ない者、俺たちが見張りにつく。残りの3名はスリープに移行してくれ。あと3時間もすると日が沈む。それまでに周囲の状況確認を行いながら今後の対策を考える。……ということでどうだろうか」
 メンバー各員から異論はでなかった。
こうして第3世代人類が目覚めて以来、彼らにとってもっとも過酷な事態に突入していくのであった。

窮地の選択

 「また強くなってきたな」
 空が一層暗くなって来た頃、雨の勢いは衰えるどころかさらに激しくなってきていた。風も強くなっている。簡易基地が渓間にあるということもあって、そこを通路のようにして激しい風雨が集まってくるのである。
 「これじゃ、またいつ地すべりが起きてもおかしくないですね」
 隕石の衝突によって植物がほとんど自生していない状況下では、地面が水を吸うと一気に崩れる恐れがあった。土石流は雪崩などと同じように、高地から低地に向かって土砂を巻き込みながら勢いを増す。安全を考えるならば高台に避難するのが望ましかったが、その高台自体がいつ崩れてもおかしくない状況では、拠点を移すのも難しかった。
 すでに土石流が発生した場所の周辺ならば、一度崩れたのだから二度目はないとも考えられるが、逆にもろくなっている部分ともいえる。必ずしも安全とは限らない。拠点を移すならば考慮の余地はありそうだが、引っ越しにもエネルギーを使うことになるし、メンバー全員の意見次第というところだろう。
 「リーダー。そろそろ、3時間経ちます」
 「そうか。エネルギーの残りはどうだ」
 「そんなに動いてないですからね。ほぼ計算どおり。残り20時間というところでしょうか」
 「こちらも同じだ。では予定通り皆を一度起こしたら今後の方針を再検討しよう」
 約束の時間となって眠っていた残り3名が目覚めると、再び今後の方針についての検討がなされた。ただし、この3時間で新たな情報が増えたわけでもなく、拠点を移動させるか否かが主な検討課題であった。
 「引っ越しするにしても、どうせ夜間は動けないだろう。日が昇るまでは待機するしかない。だが……」
 「見張りを何名にするかですね。というか雨また強くなってないですか。いつまで降り続くんですかね本当に」
 「それも拠点を移してもいいかと思える理由の一つだな。どうも、ここは立地的に雨風の通り道のようだ」
 「でも風よけがあるような場所は土石流のリスクがある。この雨の中で引っ越しっていうのもエネルギーの無駄じゃないか。そもそも拠点を移すって、この小屋ごと運ぶのか。風が収まらないと危険じゃないか」
 すっかり日が暮れて基地の照明以外、真っ暗になった中で雨はさらに激しさを増し、ときどき轟音ともいえるような空気を唸らす風が吹く。簡易基地の壁がガタガタと揺れ、議論はなかなかまとまらない。
 そんな様子を見て、チームリーダーが少し声を張っていった。
 「わかった。突然、引っ越しといっても皆も考えがまとまらないだろう。ちょうどこれから夜だ。見張りは1名で4時間交代。見張りといっても別段やることはない。その間、見張り担当者はじっくり検討してくれ。夜が明けてから皆で再度検討しよう」
 「そうですね。明日朝には雨も収まっているかもしれませんし」
 「わかった。了解」
 こうして結論は朝まで持ち越しとなり、見張り担当者1名を除いた4名は再び眠りについた。
そしてその半日後。チームメンバーが揃って目を覚ました。快晴の空が上空に広がっていることを期待していたが、風と雨の激しい音が耳に入ってくると、期待したような状況にはなっていないようだ。
 見張り担当者の報告をつなげあわせると、風雨は少し落ち着いてはいるようだが、突如突風のような強烈な風が起きるという。
 「拠点は動かさないほうがいい。むしろ突然の強風に拠点自体を飛ばされないようできるだけ補強、固定するべきじゃないか」
 夜間の見張りにあたっていた3名は、引っ越しには反対だった。そして、どんな判断が正しいのかわからない状況下にあって、この多数意見は尊重された。結果、引っ越しは行わず拠点の補強と固定のための作業を日中できるだけ行い、活動限界が近くなった者からスリープに移行していくことが決まった。
 補強工事は計画通り進められ、途中エネルギー残量がわずかになった者から順に、拠点内でスリープに入っていく。そして翌日の朝、最後の1名が残り少なくなった電源を自ら切り、救援を待つ事になった。
 風はかなり収まってはいたが、雨はまだ変わらず降り続いていた。

救援隊の到来と彼らの結末

 救援隊が到着したのは、それから1週間経った頃だった。
 発見された5名には外観上の大きな損傷はなかった。彼らは救援隊により“洞窟”に運ばれる。そして到着すると、まず生活部門の担当者によって5名のバッテリー状況が調べられた。大きな損傷はなかったが、一つだけ気になる点があった。「泥水に浸かった」痕跡があったのだ。
 エネルギー残量がほとんど残されていない5名には、当然すぐに充電が行われたが、充電後スイッチを入れても全員目を覚まさなかった。原因は腹部が泥水に浸かったため、回路がショートしたのだと考えられた。
 この頃には各部門とも人員が増えたため、生活部門には医療班が設置されていた。
 医師はショートした部品を取り替えてスイッチを入れた。結果3名が再起動を果たした。医師は動かない2名のスイッチを切って“生き返った”3名の診断を始めた。2名には目立った影響は見られなかったが、残り1名の左手がスムースに動かなかった。
 この原因も浸水だった。左手の制御に使用したチップが浸水により損傷を受けていたのである。こちらはチップを交換すれば回復した。
  医師は4人目の患者を詳しく調べた。浸水により電子回路の損傷が激しく、記憶用のメモリーが損傷していた。この回復には損傷したメモリーを取り出し洗浄し、記憶データの読み取りを行う必要がありそうだった。
 結果から述べれば、医療班によって慎重に行われた洗浄作業は成功した。読み取ったデータを新品のメモリーに書き込み、そのメモリーに交換すると、この患者も完全に回復した。
 そして最後、残された5人目の患者はチームリーダーだった。彼も皆と同様に泥水に浸かった痕跡があり、外傷はなくとも内部の電子回路に損傷を受けていた。
 4人目同様、彼の場合も損傷したメモリーが取り出され洗浄が行われた。ただし、データの読み取り作業が懸命に行われたにも関わらず、読み取ることはできなかった。
 医師は技術部門の担当者に相談したが名案は無かった。仕方なくダミーの記憶を書き込んだメモリーに交換するという決断を下した。
 いよいよ再起動という段となり、リーダーの目覚めに立ち会うために他のメンバーが揃った。「せっかくだから皆で出迎えよう」と誰ともなく言い出して、集まったのである。ただ、担当医師には不安しかなかった。
 そして医師が恐れていた事が現実となった。
 スイッチを入れた途端、彼は奇声を挙げて暴れだした。
 多数のメモリーに分散して記憶されている記憶の一部と、全く別の記憶に置き換えられた記憶の整合性がとれず、それを受け入れられなかったためである。
 極端な話をすると、人は眠るときに記憶が整理される。ときに記憶を忘れたり、都合のいいように改変したりしながら最適化を行う。ただし、突然起きたときに全く覚えのない記憶があったとしたらどうだろうか……。仕方なく医師はスイッチを切った。
 その後、他の医師や技術者と解決策を検討がなされた。他のチームメンバーも協力を惜しまなかった。しかし、解決策はどうしても見つからなかった。

 そして、死ぬはずのない第3世代の人類から、初めて死者が出たのである。
 
 その後、遺体のメモリーからは全てのデータが消去された。そして、新たな誕生用ソフトを入れ、チューニングが行われ電脳を自我に目覚めさせる。ただし、そこには別人の記憶が入れられた。こうして1人の人間が死に、その体や脳を使った1人の人間が誕生した。

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