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SFC人類の継続的繁栄 第7章『神様のプロジェクト』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第1世代人類分析プロジェクト

 脳内レジャーの解禁をきっかけに、〔第1世代人類分析プロジェクト〕が発足した。
 体の仕組みについては分析するまでもなく、新人類との違いは明白なので、第1世代の人類が勘違いしていた内容の分析を中心に検討する事になり、報告書が作成された。
下記は報告書の要約である。

「第1世代の人類は争いを繰り返していた。それは下等動物から知的動物への進化の過程で、ライバルに勝ち、子孫を残す、という根本的な理由から、ある意味必然的に、ライバルから勝利する争いを繰り返していた。動物の延長線上の『子孫を残す』ための争いは、ある意味で合理的な争いだが、人類は手先が器用な上に知能が高すぎた。その結果技術が進み、進みすぎた技術が人類を絶滅の縁に追い込んだ。知能が高すぎた反面、ほとんどの当時の人は肝心な事に気が付いていなかった。
 それは『自分が存在するのは過去の歴史があるからであり、歴史が変わっていたら自分の存在はない』という肝心の点の認識が無かった。また、『自分が存在するのは先祖がいたからである』という半分間違った認識を、教育という洗脳で持たされていた。先祖がいたから自分がいる、というのはある意味では正しいが、『自分の先祖と争っていた敵がいなかったら、先祖の周りの蟻や、ナメクジ、蚤が一寸たがわず歴史通りに存在していなければ、とにかく少しでも歴史が変わっていたら自分が存在しない』という事に気が付いていなかった。
 参考として21世紀初頭に起こった、地表にある小さな島国と隣の半島にある国、日本という国と韓国という国の、隣国同士のもめごとについて記す。両国の若者、特に統治という被害にあった韓国の若者は、教育という洗脳で日本という隣国を敵視するようにされていた。
当然洗脳を受けた若者は日本の統治を非難し、日本を敵視するようになった。しかし統治された歴史が無かったら、そもそも自分が存在しない、という事に気が付いてなかった」

 ただし、このような誤りに気が付いていた人もいた。第1世代の人類の末期には、各国の政府関係者もやっとこのような問題に気が付き、その事も第2世代の人類へ移行した一因である。
 参考として21世紀初頭にそれに言及した人が述べた内容についてのメモを添付する。


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あなたは間違いなく神様です

『クレオパトラの鼻が低かったら歴史が変わった』という話がありますが、もし誰か、Kさんとしましょう。Kさんは会社員で、会議中に鼻が痒くなったとしましょう。Kさんに自由選択権があるとすれば、鼻をかくのもかかないのもKさんの自由です。しかしながら『鼻をかくか、かかないか』により、少なくとも200年後生存する人間は、遺伝子レベルではすべて別の人間になってしまう。
現実世界の動きは全てが時間の関数であり、時間とともにその影響が拡大する。Kさんが鼻をかく事により、それを見ていた人が何らかの影響を受け、その結果会議の終了時間が1秒長くなる。するとその会議に出席した人と、その人たちとすれ違う人たちの行動にもすべて影響を及ぼし、帰社時間などに影響を与える。すると電車で帰る人の行動にも影響し、鼻をかかなければ3号車に乗るはずの人が5号車に乗るなど、爆発的に影響が拡大する。さらにその電車に乗っている人たち、さらにその人たちとすれ違う人たちにも影響が拡大し、その人の中で夜のいとなみをする時のタイミングに影響を与え、Kさんが鼻をかいた事により別の子供が生まれてしまう。その後の影響についてはここで説明するまでもないでしょう。
Kさんが鼻をかく事による200年後の未来への影響について論じてきたが、そんなに遠い未来でなくても、物事の影響は光速で伝達するので、地球上に新たに誕生する生命に関しては、10秒後には1%、100秒後には10%、1000秒後には99.9%に影響を及ぼすかもしれない。
全てのものごとが時間の関数である事は、生命が介在しなくても同じで、何らかの変化による影響は、けして収束せずに拡大し続けます。
たとえば理想ビリヤードを考えてみましょう。これは真空中にビリヤード台があり、台の中央に1から10の番号が印刷された10個の的玉が置かれており、的玉と台との間にまったく抵抗がなく、また的玉と的玉や、的玉と台の壁への衝突は完全弾性とします。ここに手玉を1番玉の中央に高速で衝突させて、その後の動きを10秒間ビデオに記録しておきましょう。10個の的玉と手玉は、別の玉に衝突したり、壁に衝突したりして、複雑に動き続けます。
次にまったく同じ状態に10個の的玉を配置し、今度は手玉を1番玉の中央から0.0001mm外れたところに衝突させて、10秒間ビデオに記録しておきましょう。こうして記録された2つのビデオを比較すると、7秒までは全く変化は確認できず、8秒後にわずかな変化が確認され、その後急速に変化が拡大し、10秒後の各玉の位置は全く異なったものとなります。ここで7秒間変化が観察されなかったのは、あまりにもその差が小さく、ビデオでは差が確認できなかっただけで、8秒後に始めて目視で確認できるまでにいたった、という事です。

ビリヤード

このように生命の介在しない世界でも、物事がわずかに変化する事による影響は拡大し続けるのであり、ましてや生命、それも意識を持つ知的生命がそこに介在すると、さらに複雑に拡大します。
NHKの人気番組に『そのとき歴史が動いた』という番組があったが、これは『そのとき歴史が目立った』とあるべきで、実際に歴史を動かしているのは、権力者であれ誰であれ、数学的な意味ではほとんど同程度に未来を動かしているといえます。
たとえば、1860年2月3日の午後3時21分35秒にxx村のxxが畑で小便をしようとしたとき、ウサギが飛び出してきたのに驚き、①驚きながらもそのまま小便を続けた。②驚いて半歩下がって小便を続けた。①が現実に起こった事であり、もしそれが②に変わっていたら、現在の世界の状況は全く違ったものになっている。地球を宇宙から見た様子はあまり変化していないかも知れないが、少なくても現在地球上に生存している人は誰もいなく、代わりに全く別の人が存在している。ヒトラーもアインシュタインも現れず、多分日本は日本として存在しているだろうが、もしかしたら日本は今の北朝鮮のような政治体制になっていたかもしれない。
アメリカの大統領であろうと、誰であろうと、その人の行動は権力の大小に関係なく、未来に大きく関与している。したがってあなたの行動一つ一つが未来を大きく変えていくので、あなたは間違いなく未来を決定する神様です。
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 第1世代の人類についての報告書を受け、政権内部からも、第1世代の人類の採った行動から学ぶ事、特に教育と洗脳について論議した。
しかし、「我々にはライバルそのものが存在しない。また、人類の継続的繁栄、という精神の基に、第2地球に第4世代の我々がいる。その精神を洗脳され続けた結果、我々が存在する」との一言で、その場の雰囲気はしらけてしまい、議論は終了してしまった。

旧人類から学ぶこと

次期問題検討プロジェクトは〔幸福度増大〕についても検討した。検討内容や経過は次のようである。

「フィルター方式や脳内レジャーの一部解禁により幸福度は増加したが、メリハリがなく、少しだが不満がでて来た」
「働く時は働き、遊ぶ時は遊ぶ時でメリハリをつけるべきだ」
「最大の娯楽は快楽に通じるものだ」
「最も重要で最大の快楽は性行為だ。これがあったため、下等動物から第1世代の人類が誕生した。性行為が途切れる事なく繰り返された結果だ。我々が存在するのもその結果だ」
「あまり性行為による快楽を強くすると、それにふけり、生活に支障をきたすカップルもでてくる」
「第1世代の人類の男性は、射精すればそれ以上ふける事はなかったが、我々の場合は射精がない」
「それなら時間割方式にするのはどうか?睡眠と同様に性行為を生活の1つのリズムにしては」
「性行為、睡眠、仕事、他の娯楽、と時間割化するという事か」
「1日が10時間なので、そんな時間割は無理だ」
「それなら3日を1日とすれば良いのでは。夜間の照明など、たいしたエネルギーはかからない。3日を5時間ごとに分け、睡眠、仕事、性行為、仕事、レジャー、自由時間、とすれば良い」

 次期問題検討プロジェクトは、参考意見としながらも、3日を1日とし5時間ごとに分け「睡眠、仕事、性行為、仕事、レジャー、自由時間」とする案を報告した。
この案は「あまりにも見え見えの人気取り政策だ」との政権内部の意見により、実行は見送られた。
次期問題検討プロジェクトは、過去の人類史からヒントがないか調査することにした。まず、人類が滅亡の縁に立たされた時と、それを潜り抜けた方法について調査を行った。
第1世代の人類の場合、技術や民主主義が行過ぎて危機に陥入り、情報技術などの危険につながる技術の研究を禁止し、新誕生システムにより、社会にとって都合の良い核心遺伝子を組み込んだ人を誕生させる第2世代へと自ら決断し移行した。これにより、小惑星の衝突の日まで60万年という長期にわたって、第2世代の人類は繁栄した。
衝突の日に備え、第3世代の人類を誕生させるプロジェクトが秘密裏に発足し、衝突の200年後に、26人の第3世代の人類が誕生した。このプロジェクトのリーダーが阿部氏で、自ら第3世代のリーダーとして26名から1億人まで人口を増加させた。
第3世代の人類は自ら体を改良し、新人類へと移行した。この間の人類のリーダーはずっと阿部氏だった。第3世代の人類は、15億人までに達したが、不注意により地球を活性物資にしてしまい、地球が丸ごとエネルギーに変換し、太陽系ごと消滅した。
第3世代の末期に第2地球への移住実験があり、6名の隊員が、太陽系消滅後に、この第2地球に降り立った。第4世代の人類はこの6名から始まり、快楽などは第1世代の人類を真似てさらに体を改造し今に至ったのである。 
 

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