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SFE人類の継続的繁栄 第9章『新たな時代へ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

天体宇宙船技術のきざし

 第4地球の開拓は終了し、地上の定住民も20億人に達した。
 当初、第4地球の内側の惑星との物流には宇宙エレベーターを使用する予定だったが、強力な活性化エンジンが完成したため、新型の大型宇宙船で行うようになった。
外側の引力の強い惑星にも大型宇宙船の離発着が可能になり、開拓に拍車がかかった。この惑星は引力が強いため、小惑星衝突の確率が一番高い。この惑星を小惑星の衝突から守るため、ひいては第4太陽系全体を守るための小惑星破壊基地と宇宙観測基地をこの惑星の衛星に設ける事になり、この惑星の開拓と同時に衛星に2つの基地が建造された。
そして、第4太陽系を小惑星や大型の隕石から防衛する具体的な方法についての議論が始まった。

「宇宙観測基地の各種観測装置と連動した天体軌道シミュレーション装置によりこの領域の天体の動きを500年先まで予測する事が可能となった。問題は危険な天体を破壊する時の爆発エネルギーと破片の問題である」
「太陽系の外にある比較的小さな天体の場合、その天体を100%活性化し爆発させれば、破片は無く爆発エネルギーの問題も小さいが、太陽系内の大きな天体を破壊する場合が最も難しい。100%活性化させれば破片は出ないが、爆発に伴う巨大なエネルギーで大きなダメージを受けてしまう。必要最小限の量が活性物質に変換した時に爆破させれば良いが、それだと大量の破片が発生する」
「破壊でなく軌道を変えればよい。綿密に軌道計算して最小限の量を活性化させ、その部分だけ爆破させれば良いのでは」
「部分的な爆発でも破片は伴う」
「いっそのことその天体に活性化エンジンを取り付けて時間をかけて少しずつ動かそう」
「天体を宇宙船に見なす方法か。大きな天体を動かすためには巨大なエンジンが必要だ。莫大な費用が必要になる」
「エンジンを取り付ける代わりに、その天体を少しずつ活性化しながら連続して爆発させる事はできないか」
「それは良いアイデアだが爆発を終了させるにはどうすれば良いのか」
「最初は活性度が高く、爆発しながら勢い良く物質を活性化させ、活性化が連鎖するにつれ活性度が下がり安定物質になるような都合の良い活性物質があれば良いが」
「現状のAB2物質では困難だが、別の物質も加えれば都合の良い活性物質ができるかも知れない」
「できたとして軌道の修正には微妙な制御が必要だ。軌道を変えすぎて他の星にぶつかっては元も子もない。微妙な制御が必要だ」
「一度に行わず複数に分けて行えば良いのでは。最初の活性化によりたとえば5秒間連続して爆発させる。エネルギーに変換された部分は半球型の穴が開く。その孔の中心を活性化させる。するとさらに深い穴が開く。爆発を制御しながら繰り返せば良い。また穴が深くなるにつれ効率よく後方に噴射するだろう」

 この議論を受け、活性化が連鎖するにつれ活性度が下がり、やがて安定物質になる都合の良い活性物質の研究が行われ、ついにABC3物質を用いる事により、連鎖につれ活性度が低下する都合の良い物質の開発に成功した。
意外にも早くこの開発は成功したが、元々このような特性を持たせる事は簡単なことだった。連鎖するにつれ活性度が低下するという事は、裏を返せば連鎖するに連れ劣化する事であり、むしろ劣化を伴わず連鎖させる方が難しい技術である。
 このように、小さな天体の場合は丸ごとエネルギーに変換し、大きな天体に対しては少しずつ軌道を変え衝突を回避する方法を使用し、これにより天体の衝突による人類滅亡の問題は完全に解決できる。
 なお、天体の軌道を少しずつ変える、いわば天体自体を活性化エンジンにする方法はやがて数十億人の人が暮らしたまま宇宙空間を移動する、天体宇宙船の技術へと進展した。

関係の発展的解消

 第4太陽系の支援を受けた普通人側が益々勢いを増し、軍事力、経済力、人体数共にスーパー人類側との差を大きくひろげ、第3地球の衛星の開発にも乗り出した。
スーパー人類はあまり自分を惨めに思っていなかったが、普通人から見ると彼らの置かれている状況は哀れだった。スーパー人類も元々第2地球から移住してきた同胞である。阿部政権は田上政権に対し、一体化した微小生物と分離して元に戻る事を提案した。分離した微小生物に対しては彼らの望むところに運ぶなり、この第3地球上で暮らすなり、彼らの希望をかなえる事も伝えた。
 スーパー人類の集会が開かれ、この提案を受け入れる事になった。微小生物の希望を聞くと、元々彼らが人間の脳に共生したのはわずかな電力を得るためであり、わずかな電力と4メート四方の土地をもらえれば異論がないとのことだった。
 このことを知った第4太陽系から来た政権幹部が微小生物に「第4太陽系に望みの場所を確保するので、時々高い知能によるアドバイスをしてもらえないか」と聞くと「ぜひ、そうしてほしい」との事だった。
彼らにしても、ただ場所と電力をもらうだけの一方的関係なら、いつ約束が破られるか気がかりだが、「高い知能によるアドバイス」は第4太陽系にとっても有益な事なので、共生関係がなり立ち、安心して過ごす事ができる。
 「いくら高い知能を持っていても、高い知能を活用できる権力の下でないと生きては行けない」と彼らも自覚していた。

 第3地球には、第4太陽系の政府の下に自治政府を置く事になり、阿部氏が大統領に就任した。
 微小生物が脳から離れ普通人となった75億人に、脳に微小生物感染対策用にコーティング処理が施され、従来の30億人の普通人と合わせて105億人となった。
 第3地球は第4太陽系の指示の下、周辺の惑星を開発し、経済力も活性度も大きく伸長しはじめた。第3地球を中心とした第3太陽系の順調な成り行きを確認した宇宙船団の艦長は、宇宙船3艦を残し、75億の微小生物を乗せ第4太陽系への帰還への途に就いた。
 宇宙船団が第4太陽系へ帰還したときには、第4太陽系全体の開拓はほとんど終了していた。人口は200億人に達し、2000億体の人体を保有する人類史上最大の繁栄を誇っていた。
 第3地球から連れてきた75億体の微小生物には、技術部門が集結している第4月に彼らの好む環境を用意し、特に先端技術の開発コンサルタントとして厚遇した。

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