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SFF人類の継続的繁栄 第8章『開拓される技術』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

A惑星での作業

 5名の先発隊員は投下容器から地面に降り、簡易移動基地の設営を行った。大型投下容器から1体の強力な作業用人体を台車にのせ、力を合わせて簡易移動基地に運ぶ。
簡易移動基地に横付けされた強力な作業用人体を、簡易移動基地と通信ケーブルで結びつけると、移動の準備が完了する。そして準備が整った旨が月の移動基地に連絡された。
 月の移動基地から1名の開拓隊員が、強力な作業用人体に乗り換えて到着した。先発隊員の指揮の下、強力な作業用人体が次々と簡易移動基地に運び込まれると、50名の強力な開拓隊員が第5衛星に到着した。5名の先発隊員と50名の開拓隊員は簡単な打合せを行い、5名の先発隊員は月の移動基地に体を乗り換えて戻っていく。 
 強力な開拓隊員は、投下容器に収納された機材を運び出した。現在の気象の状況は問題ないが、この惑星には濃い大気がある。天候が何時どうなるかわからない。当面の急務は嵐から機材を守るための頑丈な基地の建造である。
 空になった投下容器を分解し、カーボン変成機により頑丈な建築部材を製造し、当面の開拓基地を設営されていく。
 大型宇宙船により、次々と作業用人体や各種機材がA惑星の上空に運ばれると、投下容器により基地に降下され、開拓隊員300名が揃った。
不要になった沢山の投下容器は、建造される基地の材料として使用されることになる。カーボン変成機により建築部材が製造されると、開拓基地は拡大していった。あらかじめ月からは数台の重機や運搬車両も運んできてはいたが、それ以上の重機はA惑星で製造するように計画されていた。
 強力な人体は重作業には向いているが、黒鉛鉱山の探査や精密部品の製造には適さず、先発隊員が使用後の、残された5体の小型の人体がフル稼働で使用された。 
 小型の人体に乗り換えた3名の開拓隊員が、探査用の小型車両に乗り込み、近くにある小さな黒鉛鉱山を探しあてた。カーボン変成機と各種形状の活性刀や工事用の小型原爆を携えた強力な開拓隊員100名が、邪魔な岩石を切り取り、道路を切り開き、黒鉛鉱山に到着した。
黒鉛鉱山からはカーボンが採掘され、これを材料にカーボン変成機により建築資材を製造し、前線基地を建造した。採掘に必要な機材や重機も製造され、本格的な黒鉛採掘の体制を整えた。

開拓者たち

 ここで開拓隊員の生活の状況を説明する。
隊員は、月や第4地球の自宅から体を乗り換えて勤務地であるA惑星に出勤し、強力な人体で8時間働き、勤務終了後には自宅に待機している本来の自分の人体に乗り換えて自宅に戻るように計画されていた。
 開拓基地を拠点として仕事をしている200人の隊員は、計画通り開拓基地内の移動基地により月から勤務する事ができたが、前線基地には移動基地がなく、前線基地で寝泊りするしかなかった。
建物や重機は、採掘したカーボンと月から運んできた少数の電気部品を用いて作る事は可能だが、移動設備は特殊な部品が必要なので作る事ができなかった。今後、黒鉛鉱山に限らず色々な作業現場で働く必要があり、それぞれの作業現場には移動基地を設ける必要がある。このため月から新たに移動基地10基分の部材が届けられた。そして、小型サイズの人体100体も同時に届けられた。ここでの仕事は力仕事がほとんどだと考えていたが、実際に行ってみると強力な人体ではできない細かな作業も沢山有った。
 早速、カーボン採掘の前線基地に移動基地が設けられ、出勤問題は解決した。
 この黒鉛鉱山は規模が小さく、岩石の大量採掘用に使用する多量の大型重機や掘削装置を作るのには限界がある。そのため本格的な黒鉛鉱山を探す必要があった。そのため鉱山探査用の小型車輌が新たに10台製造されると、小型サイズの人体に乗り換えた開拓隊員がこの小型車輌に乗り込み、新たな黒鉛鉱山を見つけるために各方面を探査した。
幸いなことに、既存の鉱山から少し離れたところに大規模な黒鉛鉱山が見つかった。調査の結果、この大規模鉱山なら必要とする量のカーボンは十分に採掘できる事がわかり、基地はこの新たな鉱山に移されることになった。
採掘した黒鉛から新たに大型基地を建造し、採掘用の大型重機を製造した。本来の目的の、岩石を大量採掘するための巨大な重機や大型運搬車両の製造も急ピッチで行われ、いよいよ岩石の大量採掘が始まった。
 掘削機で岩盤に深い孔を開け、工事用の小型原爆で爆破する予定だったが、それでは岩石が散らばってしまい、集めるのに時間がかってしまう。また何処まで岩石が飛び散るかわからないので危険である。この方法は試す価値もないとなり、月から運んできた活性筒刃を用い地表から岩石をすくい取る方法に変更された。
活性筒刃の両端をつかみスイングするための専用クレーンを製造し、装置を調整しながら実験を重ねると、1度のスイングで、厚さ2m、幅5m、長さ20mの岩石片、この星の引力ではおよそ2500トンとなる岩石片を切り取れる事がわかった。
 いくら強力な作業用人体でも2500トンの岩石片は300人ではとても持ち上げる事は不可能である。5000人は必要である。
 この課題を解消するため、10人の開拓隊員が月の研究所で関連技術者と対策会議が行われた。

「1回に切り取る量を少なくすれば良いのではないか。いずれにせよ砕くのだから」
「どう砕くかが問題だろう」
「破砕機を製造中だ。上から投入し下から出てくる普通の破砕機だ」
「では、その破砕機まではどのように運ぶ」
「大型車両を考えている」
「運ぶのには開発中の『活性化スライダー』を使えば良い。不活性物質を使用した長い板の表面に超接近活性物質を塗布したものだ。その名の通り超接近した粒子だけが活性化し、粒子単位で爆発するものだ。その上に物を乗せると、わずかに浮いて摩擦抵抗がなくなり、何処までも滑り続ける」
「活性物質がむき出しなんて危険ではないのか」
「たとえ触っても問題ない。スライダーの上で1時間座っていても問題ない。1年寝ていたらどうなるかわからないが。ただし寝心地は悪い。寝返りすると滑り落ちてしまう」
「冗談をいっている場合か。適量の岩石をすくい取るような、もっと簡単な方法はないのか」
「活性刀と同様に先端に特殊活性物質を塗布した、大型スコップですくい取れば良いのでは」
「我々が使用している強力な人体なら、あの天体の引力の中でも1回に0.1立米ぐらいは楽々とすくい取る事ができる。すくい取った岩石を直接スライダーに乗せ押し出せば良いということになるのだろうか。あの天体には気体がある。摩擦はなくても空気抵抗を受け減速する」
「先端を鋭角にして空気抵抗を少なくした運送箱を用い、運送箱にすくい取った岩石を詰め込んで押し出せば良い。底の厚さにもよるが運送箱は10年ぐらいならば使えるだろう」
「運送箱が連なっていれば先頭の運送箱だけが空気抵抗を受けるので、先端を鋭角にする必要はない。運送箱の端同士が接触するように動かすのが理想的だ。スライダーが上り坂になっていても後の箱を押せば前の箱も一緒に動く」
「つまり、すくい取る、運ぶ、破砕する、といった問題はこれで解決できるわけだ。最大の関門は砕いた岩石を衛星軌道に運ぶ方法だ。当初の予定では砕いた岩石を大きな網にいれ、ロケットで引っ張り上げる方法だったが、この方法は効率が悪すぎる」
「巨大な大砲を作り、砲弾の代わりに砕いた岩石を円筒状の容器に入れ、火薬の代わりに活性物質を使用し、宇宙に打ち上げる方法はどうだろう」
「いくらなんでもその方法では容器や砲身が壊れてしまう」
「活性物質の特性を調整して、数秒かけてゆっくりと爆発させれば良いのではないか」
「衛星軌道に乗せるためにはものすごい発射速度が必要だ。先端が大きな摩擦を受けて猛烈に発熱し、その分、運動エネルギーが小さくなり減速してしまう」
「あの宇宙塔の考えを使えば良いのではないか。今度は逆に真空にすれば良い」
「真空にするのは無理だ。まわりの気体の圧力で円筒が棒になってしまう。それに大気があるので気象が問題だ。非常に長い砲身を垂直に建てるのにも気象の問題がある。垂直にするよりも水平にしたほうが良い。水平なら砲身の長さを1kmでも5kmでも長くする事ができる」
「水平でなく少し傾斜を持たせた方が良いのではないか。10%の傾斜なら出口の高さは500mだ。我々ならこの程度の土木工事はたやすくできる」
「水平や少し斜めの発射では、大気の濃い低空を長時間飛行する事になる。摩擦の問題が大きくなる」
「ならば、発射容器の先端を鋭い鋭角にして、その部分に超接近活性物質を塗布すれば良いのでは。塗布すれば気体の分子が衝突する寸前に消失する。あまり熱くはならないだろう」
「それでも大きな空気抵抗を受けてしまうだろう」
「熱くなると、そのエネルギーが放出された分、運動エネルギーが奪われるのだ。熱くならなければ問題ない。先端の細部形状を工夫すればそのエネルギーを推力にできる。これで行こう」
「基本線はそれでいいが、発射容器の装填や燃料の注入はどのように行うのだ」
「砲身に、発射容器の長さに対応した長さの扉をつけ、扉を開いて装填し、扉を閉じた後はその上を筒状物で補強すればいい。弾薬となる物体は、例えば長さ2mm、直径1ミリの円筒状のカーボンを不活性物質で作った薬莢につめ、砲身の下から挿入すればよい。発射容器と対向するカーボンの表面に特殊な活性物質を散布すれば、散布された表面からエネルギーに転換し、2秒ぐらい連続的に爆発するだろう。無論、これらの数値は仮のものが、後で綿密に計算して設計すれば問題はないだろう」

 基本方針は決まった。
 担当技術者により綿密な計算が行われ、巨大な大砲の仕様が作成された。砲身は5km、傾斜度8%と決まった。
無論このように大きな砲身を他の惑星で作り、宇宙船によりA惑星に運び届ける事は不可能であり、砲身の製造はA惑星の強力な開拓隊員が行なう事になった。巨大な砲身を製造するためには、基地に隣接した黒鉛鉱山から採掘するだけでは不十分である。巨大なスライダー台や多数の運搬箱、発射容器も製造しなければならなかった。

完成に向けて

小型サイズの体に乗り換えた数十名の開拓隊員が、高速車両数台に乗り、黒鉛鉱山の探査に出かけた。意外にも現在採掘中の鉱山のごく近で新たな鉱山が見つかり、基地の周辺一帯が鉱山地帯である事がわかった。
 各鉱山から大量の黒鉛が採掘され、新たに月から届けられた専用のカーボン変成機により、砲身は急ピッチで製造され、完成したばかりの傾斜台に据え付けられた。
破砕機は既に完成していた。各採掘現場から破砕機までの、巨大な木の枝のように分岐した、総延長100kmのスラーダー台も完成した。運搬箱も大量に製造され、発射容器も10個製造した。スラーダー台の表面に超近接活性物質が塗布され、岩石採掘の準備は整った。
 200名の開拓隊員が、大地から〔活性処理された超大型のスコップ〕で岩石をすくい上げ、運搬箱に投入した。運搬箱はスライダー台上を破砕機に向けて滑るように移動し、止まりそうになった運搬箱は要所に配置された50名の開拓隊員により押し出され、次々と破砕機の上端に運ばれた。
岩石を投入し空になった運搬箱は、運搬用スライダーとつながって形成された回収用スライダーにより掘削現場に向かって戻される。
 破砕機に投入された岩石は、5cmから10cmの大きさに破砕され、発射容器に投入された。岩石片を収納した発射容器は、発射容器専用の運搬箱に収納され、専用の大型スライダー上を滑って2km先の砲台に運ばれた。
砲身の半円筒状の扉が開かれ、発射容器装填後、扉が閉じられた。扉の周辺部位には砲身を取り巻く強固な補強装置が取り付けられる。そして砲身の下側から小さな薬莢が装填され、発射スイッチが押された。
轟音を轟かせ、発射容器は斜め上空に発射される。そして、すぐに視界から消え去った。
A惑星の引力により、発射容器は少しずつ惑星側に方向を変え、衛星軌道に到達した。
 大型宇宙船が発射容器を捕らえ、実験領域近くまで運んだ。発射容器は実験用宇宙船に積み替えられ、実験領域まで運ばれた。
すでに核体は直径2キロまでに達していた。当初、真球度を保つために核体を回転させていたが、必要に応じ消失させる位置を変更したほうが合理的だとわかり、核体は回転を停止していた。
 宇宙船は核体の表面から7キロまで接近し、発射容器の扉が開き、ロボットアームにより岩石片の1つがバネ砲に装填された。バネ砲は、岩石片の質量に応じた長さにバネ長が自動調整され、絶えず核体に砲身を向けるように自動制御されている。
実験員が発射スイッチを押した。岩石片がゆっくりと砲身から放出され、同時にごく少量の特殊な活性物質が岩石片に塗布された。岩石片の活性化が徐々進行し、核体の3キロ手前で突然消失した。宇宙船での精密測定結果により、岩石片の質量が100%核体に移行したことが確認できた。
次々と岩石片を放出し、消失させ、3日間で全ての岩石片を核体に移し終えた。
 
A惑星の地表から大型スコップで岩石を取りだし、〔運搬箱とスライダーにより破砕機に運び、破砕された岩石片を発射容器に収納し、その発射容器を専用の運搬容器と専用スライダーにより砲台まで運び、発射容器を砲身に装填し、薬莢を装填し活性物質を爆発させ、5kmの長さの砲身から発射容器を発射し、衛星軌道に達した発射容器を宇宙船で捕らえ実験領域近くに運び、実験用宇宙船に積み替え核体の近くまで運び、岩石片をバネ砲に装填し、発射と同時に活性物質を塗布し、100%活性物質に変換し瞬時に消失させ、核体上に生成させる〕一連のシステムは見事に完成した。

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