この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
衝撃の分析結果
遠天体の爆発という大事態に、上田政権は緊急の対策会議を開いた。
開催場所は地下シェルター内の会議室。地下には広大な空間があり、政府の主要機関のほかに、最先端技術の研究施設や試作工場などが展開されていた。その空間は微小生物が住む、金属でシールドされた建物に隣接していた。
微小生物も専用人体に乗り込み超能力人となり会議に参加した。遠天体の周りに配備された監視衛星で撮影した、爆発の瞬間の大量の画像が映し出された。遠天体の爆発の爆発元は防爆容器ではなく、遠天体自体である事が明らかになった。遠天体の研究施設に少量の活性物質があるが、それが起爆剤になったとは考えにくかった。
超能力人が残りの全微小生物が一塊になった超コンピュータを会議室に運び込み、各種機器と接続し、爆発画像データを入力した。
遠天体爆発の原因は、超コンピュータにより次のように解析された。
- 遠天体の爆発は遠天体の内部温度が異常上昇し、急激に膨張したため。
- 異常上昇の原因は、電磁波砲によるもの。
- 電磁波砲による照射位置は遠天体のほぼ中央で近距離からの攻撃と思われる。
この解析とは別に、遠天体の爆発直後に起きたいくつかのことも併せて報告に上がる。
- 微小生物の住む建物の温度が急上昇し、建物内の内部室が自動的に地下空間に移動した事。
- 温度急上昇の原因は遠天体の爆発による影響ではなくシールドの金属板が電磁波により過熱された事。
- 電磁波の放射元は建物の10km上空であった事。
- 建物内の温度は300度に達し微小生物が住む内部室が地下空間に移動しなかったら絶滅していた事。
会議の間も続々と新情報が報告され、超コンピュータにより次のように解析された。
- 半年以上前に第4太陽系に大型のステルス宇宙船が3艦到着した。
- その内の1艦が遠天体を攻撃した。
- 別の1艦がシールドの金属板を過熱した。
- 第3太陽系との直並列通信には自動交信が使用され、交信内容は偽物だった。
偽物の交信内容の分析とこれまでに分析した結果から、超コンピュータは次のように断定した。
- 第3太陽系の人類は、脳を改造しスーパー人に移行した。
- 電磁波砲を開発した。
- 第3太陽系の実状を隠すための自動交信器を開発し、直並列通信に使用した。
- ダイオード膜を使用したステルス宇宙船を製造した。
- 超光速通信技術を開発した。
- これらの主目的は遠天体の破壊と微小生物の絶滅にある。
遠天体の爆発、そんなことは些細なことだといってしまえるような、衝撃的な結果であった。
「ステルス宇宙船鹵獲」作戦
超コンピュータが出した衝撃の分析結果を受けて、対策会議が再開された。
「遠天体の爆発及び、関連の事態は第3太陽系の陰謀による犯行と明らかになった。我々は第3太陽系の武装解除や技術の後戻しを行わなければならない」
「しかしながら現状では我々には反撃する手立てはない。とにかく時間を稼いで、その方法にたどり着かねばならないわけだ」
「幸いなことに敵の作戦は半分しか成功していないし、その情報はまだ掴んでいないはずだ。ここは、表面的には微小生物が絶滅し、第3太陽系の作戦は全面的に成功した事にして時間を稼ごう。当面は必要最小限の関係者だけで内密に作戦を行うしかない。敵は超光速通信技術を持ち、宇宙船から監視している。不審な動きをすると第3太陽系にすぐにばれてしまう。宇宙船の処理が最優先だ」
「つまり、3艦の宇宙船を堕とすということか」
「もちろん基本は、鹵獲する方向で考えたいところだが、最悪それもやもえないだろう」
とにかく第4太陽系に王手がかかっている現状で、第3太陽系から先手を奪うためには、ステルス宇宙船の処理を最優先とするほかない。これに対して、超能力人たちが彼らの言語で高速会話を開始し、次のような「ステルス宇宙船鹵獲」作戦を提案した。
- アンチダイオード膜技術を使い、宇宙船の隊員に気付かれずに宇宙船を丸見えにする。
- 微小生物用の微小な体と微小な道具と微小ロケットを作り、宇宙船に乗り込み、宇宙船の移動基地に備えてある乗り換えようの人体の頭に浸入する。
- 脳のシールドに微小な孔を開け、脳に取り付く。
- 他の艦から脳に取り付いた体に乗り換えて移動する時、脳を乗っ取る。
この作戦を受けて、上田大統領は問う。
「勝算はどのくらいある?」
超能力人は自信を持って「120%です」と答えた。
作戦は提案通りに実行され、宇宙船の全隊員の脳の乗っ取りに成功した。また脳内部の記憶から数々の貴重な情報の入手にも成功した。この第4太陽系を監視しているのはステルス宇宙船3艦だけで、この宇宙船に搭載している超光速通信機を押さえてしまえば、こちらで何を行っても、25年間は第3太陽系に情報が伝わらない事もわかった。
反攻作戦
ステルス宇宙船を月に下ろして、実際のステルス技術や電磁波砲など数々の貴重な技術を入手した第4太陽系政府は、遠天体に替わる惑星を選定し、第2遠天体と命名し、遠天体よりさらに進んだ活性化技術の拠点作りを開始した。
ステルス宇宙船を確保し、完全に第3太陽系をだますことに成功し、次の戦略への検討会が行われた。今後は内密に進める必要はない。多くの関係者を集めて議論した。
「第3太陽系に乗り込まずに処置できれば、それに越した事はない。超光速通信をうまく利用して、やつらの脳を操作する事はできないか」
「超光速通信は単独で使用され、他のコンピュータやネットには接続されてない。接続されてなければ話にならない」
「どうして接続されていないのか」
「隊員の脳を調べた限りでは、開発時間を優先したためで、特段の理由はないらしい」
「それでは接続させるように仕向ければ良い。重要情報をでっち上げ、その内容の分析用データとして大量のデータを送信すれば、分析するために向こうで勝手に接続するだろう。そのデータの中にウイルスを仕掛けておけば良いのでは」
「仮にそうできるとして、第3太陽系を最終的にどのようにするのが望ましいか羅列してみよう」
- 知能を普通のレベルに戻す。
- 活性物質と武器を放棄させる。同時に関連技術も放棄させる。
- 物質変成機など、高度な装置や技術も放棄させる。
- 人体に埋め込んだ超小型の質量電池も放棄させ、バッテリーに戻させる。
- 質量電池も放棄させ、電源にはソーラーパネルを使用させる。
このように箇条書きを行うと、一時的に活性技術等を放棄させても、知能を単に普通レベルに戻しただけでは再度開発する可能性がある事に気が付き、この問題点に集中して検討した。検討の結果、危険につながる技術には関心を持たないように、本能に組み込めばよい事がわかった。
また小惑星の衝突に備えた技術も放棄させることが必要である。しかしながら、それでは小惑星の衝突問題や未知の敵の襲来に無防備になってしまう。そのため将来的には、第3太陽系に軍事基地を設け、第4太陽系の隊員が常駐する事を決定された。