この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
三国同盟のシナリオ会議
第5太陽系に住む人類とその目的を知った第6太陽系のリアル政府は植民基地の破壊の準備だけは行うことに決定し、一度は手を切ったバーチャル政府と連絡を取る事になった。事態の収拾は彼らの協力、技術なしには図れない。なにより、彼らもこの事態には無関係ではいられないのは明白だった。
もともとクラウド装置は5台あったが、現在は使用中のものが洞窟に2台、1台は壊れ、1台は隕石防衛システムの近くの宇宙に放置し、残りの1台は倉庫に保管していた。それを倉庫から取りだし修復し、豪華な外装を施し、政府の特別室に移し、瞬時通信で洞窟の2台とつなげた。
3つのクラウド装置のクロックを元の速度に戻し、シールドケースを開け通信を再開した。西田大統領が中野大統領に四足人の件でバーチャル政府を疑った非礼をわび、クラウド装置の保管状況、連絡を絶ってからの出来事、第5太陽系との問題を説明した。
クロックについて触れられる事はなく、第5太陽系対策を協議する事になり、廃棄してしまったバーチャル人用の人体を新規に作製した。中野大統領専用の人体については細部に至るまで加工を施した豪華な仕様で作製した。
バーチャル政府の高官、担当官、上級技術者が来賓室に用意された人体に乗り移り現れた。ヨツ大統領も交えた政府主催の歓迎式典が盛大に行われた。歓迎式典のあと、政府の特別室に案内し、特別室に保管された豪華な装飾を施したクラウド装置を前に、政府の高官による説明が行われた。
高官は「クラウド装置は全部で3台あり、1台がこれで、2台は大きな隕石が落下しても壊れない丈夫な洞窟の中に大容量質量電池と共に保管してあります」と、洞窟内の映像を見せながら説明した。
バーチャル政府とリアル政府、四足人の政府を交えた担当者会議が開催された。リアル政府から詳しい状況が説明され、バーチャル世界を利用し第5太陽系に手を引かせるシナリオについての議論がはじまった。
バ:「我々には植民基地と同じ舞台をバーチャル世界に作ることができる。植民基地の人体に細工すれば第5太陽系から植民基地の人体に移るときに、バーチャルの舞台に引き込む事ができる。うまく細工すれば人体に乗り移ろうとした瞬間にバーチャル側で用意したバーチャルの人体に乗り移させることができるだろう。バーチャルの世界に引き込んだら後はどのようにもできる。接待漬けにして堕落させる事も、二度と植民基地に来ないような恐怖を植え付ける事も、何でもできる」
リ:「バーチャルに引き込む場合、全員を一度に引き込まなければならない。植民基地に誰かが残ってしまえば異変に気がつき計画が失敗する。そのためには植民基地にいる全員を一旦第5太陽系に返し、人体が空のあいだに細工する必要がある」
リ:「人体は20万体もある。空になった人体を全部細工するのでは時間がかかりすぎる」
リ:「あの植民基地には瞬時波増幅器がある。第5太陽系から植民基地の人体に乗り移る時には必ず増幅器を経由する。増幅器に細工して、スイッチを右に倒せば植民基地の人体に、左に倒せばバーチャル世界に用意した人体に乗り移るようにすれば良い」
リ:「どのようにして一旦全員を第5太陽系に追い返すのだ。基地のそばで大きな爆弾を爆発させれば第5太陽系に逃げ帰るだろうが、それでは簡単には戻らないだろう」
ヨ:「例えば基地に何かを噴霧して強烈にかゆい思いをさせるのはどうだろう。かゆさが強烈なら全員逃げだすだろう。その後に何かが壊れて1日で無害になるような有毒ガスが漏れだした事にするというのはどうだろうか。1日あれば十分に細工ができる」
リ:「壊れかけた人体が倉庫に放置されているに違いない。それを盗み出してかゆみ試験を行い、散布するかゆみ物質と量を決めよう。最初は少量散布して、様子を見て量をふやそう。どうしても帰らない者が何人か残ったら強烈なかゆみ物質で追い出そう」
リ:「その作戦でうまく追い返した後はどうする。追い返した後にすばやく瞬時波増幅器に細工して、バーチャルの植民基地に連れ込む。ここまではシナリオとして妥当だろうが、その先を検討しなければ」
リ:「とにかく全員がリアルな植民基地にいると思い込ませる必要がある」
バ:「その問題は我々に任してくれ。我々はプロだ。バーチャルの植民基地で通常に作業を行わせ、その間にリアルの植民基地を細工してから一旦第5太陽系に戻らせば良い。バーチャルの植民基地から第5太陽系に戻らせる方法は同じかゆみ作戦で行おう。2度目なのですぐに帰り、1日で戻ってくるだろう」
リ:「第5太陽系に帰ったらすぐにスイッチを左に切り換えれば、細工済みのリアルな植民基地に戻ってくる。どのような細工が良いのだろうか。ここのシナリオが最も重要だ」
リ:「名案がある。バーチャルの植民基地に戻った後、シリコン星で特殊元素を採掘して植民基地に戻った事にする。植民基地で特殊元素を宇宙船に積み込んだ事にする。その間に植民基地の同じ形の宇宙船に瞬時リモート起爆式の理想爆薬を同じ量だけ積み込む。ここでかゆくなり第5太陽系に避難して1日前後に戻ってくる。戻ってくる先はリアルな植民基地で、そこにはバーチャルの植民基地で特殊元素を積み込んだ宇宙船と同じ宇宙船がある。その宇宙船が第5太陽系に着いたらすぐに大爆発を起こす。このストーリーでどうだろう」
ヨ:「40年がかりで特殊元素を第5太陽系に持ち帰るのなら、爆薬は少なくとも1トンは必要だろう。1トンの理想爆薬が第5太陽系の第5地球で爆発したら第5地球ごと吹き飛んでしまう。さすがにそれはやりすぎだ」
リ:「1トンと見せかければ良い。999.5キロの普通物質と0.5キロの理想爆薬を詰め込めば良いのでは。それなら第5地球は無事だろう」
ヨ:「0.5キロでも多すぎて建物の多くは破壊するだろう。仮に多くの人が生き残った場合、1トンの爆薬ではない事にすぐに気がつき、我々の策略だとわかってしまうだろう。もう少し工夫が必要だ」
バ:「1トンの爆薬を積んだ宇宙船を、航行は可能だが爆薬を運ぶには問題があり、植民基地では修理ができない程度に故障させておき、出航直前に故障に気がつき、別の宇宙船に積み替えて運ぶのはどうだろう。故障した宇宙船は修理のために先に出航し、積み替えた宇宙船は後で出航する。そして先に着いた宇宙船が小爆発を起こすシナリオだ。この筋ならば、最初、小爆発は理想爆薬とは関係ない爆発だと思うだろう。その後第5太陽系に着く前の宇宙空間で1トン全部を巨大爆発させれば、最初の小爆発は積み替えた時の爆薬が貨物室の底に僅かな量が残って、それが爆発したと考えるだろう。2度爆薬が爆発すればとんでもない危険な物質だと思い込み、二度とシリコン星には近づかないという筋書きだ」
リ:「その通り行けば完璧だがストーリーが複雑すぎるのでは。航行が可能な程度の故障なら、積み替えずにそのまま出航するかも知れない」
バ:「それには問題ない。積み替えるところまでバーチャルの植民基地で行えばよい。リアル世界では、積み替えて空になった宇宙船は故障させなくて良い。逆に積み替えた宇宙船のエンジンの性能を少し下げておけば良い。そうすれば修理のために先に出航した宇宙船は順調に航行し40年後には第5太陽系に到着し爆発する。1トンの爆薬を積んだ宇宙船は速度が遅く、第5太陽系よりかなり手前の宇宙空間で爆発させることができ、どこにも被害が及ばない」
リ:「この作戦ならパーフェクトだ。しかしストーリーが長すぎるのでわかりにくい。時系列で書き出してみよう。
完成したシナリオ
- 植民基地の倉庫から人体を盗みだし、かゆみの素の化学物質を調べ製造する。
- バーチャル世界で植民基地とシリコン星の一部を作成する。
- 植民基地にかゆみ物質を散布し、全員を植民基地から追いだす。
- 植民基地にある瞬時通信の接続先をバーチャル側とリアル側に切り替えられるように瞬時通信増幅器に手を加え、接続先をバーチャル側にする。
- 植民基地に戻るとき、バーチャル側の植民基地に入り込む。
ここからはバーチャル世界のストーリー
- 地雷戦略が功を奏し、シリコン星から四足人が逃げ出して、誰もいない。
- シリコン星に乗り込み特殊元素を1トン採取し植民基地に戻る。
- 特殊元素1トンを遠距離宇宙船に積み替える。
- 遠距離宇宙船の不具合に気がつき、特殊元素1トンを別の遠距離宇宙船に積み替える。
- またかゆみに襲われ第5太陽系に逃げ帰る。
ここからはリアル世界のストーリー
- 植民基地の遠距離宇宙船をバーチャル世界と同様に配置しておく。
- 理想爆薬1トンに起爆剤を取り付け、遠距離宇宙船に積み込み、エンジン性能を9割に落としておく。
- 不具合が生じたとした宇宙船に、極少量の理想爆薬と起爆剤を隠しておく。
- 瞬時通信の接続先をリアル側に切り換えておく。
- リアル世界の植民基地に戻ってくる。
- バーチャル世界でかゆみにより中断した作業の続きを、リアル世界の植民基地で再開する。
- 不具合が生じたと思いこんでいる遠距離宇宙船が修理のために出航する。
- 理想爆薬1トンを積み込んだ遠距離宇宙船が出航する。
- 40年後、修理が必要な宇宙船が第5地球に到着し、すぐに爆発する。
- 宇宙空間を航行中の宇宙船の理想爆薬を瞬時通信で起爆させ、第5地球が吹き飛ぶほどの超巨大爆発を起こさせる。
- 第5地球の政府は、1つ目の爆発は床にこびりついた極僅かな火薬が爆発し、2つ目の超巨大爆発は火薬1トンが丸ごとエネルギーに変換したと結論付け、シリコン星から採掘した爆薬は不安定な危険な爆薬だと判断し、シリコン星から完全に手を引く。
このシナリオに沿って実行することになった。