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SFK人類の継続的繁栄 第7章『第6太陽系の防衛戦略』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーチャル政府からの提案

 石英星から第5地球政府の手を引かせるためリアル人とバーチャル人が和解し、壮大なシナリオを作成、実行して40年が経過した。すべてシナリオどおり進行し、第5太陽系は植民基地を放棄し、シリコン星から完全に手を引いた。
 第5太陽系の問題が完全に解決し、盛大に勝利式典が行われ、リアル政府、バーチャル政府、四足人政府による三者協議が行われた。今後とも三政府が第6太陽系の平和と発展のために協力する事を決め、定期的に三者会談を行うことを決定した。
 三者会談の後、リアル政府とバーチャル政府による二者会談が行われた。リアル政府側から、改めて四足人事件でバーチャル政府の関与を疑った非礼をわび、今回の第5太陽系問題の協力に感謝したあと、両首脳による会談が始まった。
 西田大統領が改めてバーチャル側の協力に感謝し、バーチャル世界の実力を賞賛した。中野大統領は気を良くして、今後もバーチャル技術を使った協力を惜しまないことを約束した。

「第5太陽系人は脳を第5太陽系に残したまま、瞬時通信で人体を操っていた。だから半分はバーチャルと言える。我々は完全なバーチャル世界を実現している。中途半端なバーチャルなど我々のバーチャル世界に引き込めば勝負は明らかだ。今後とも他の太陽系から瞬時通信で連絡があり、第6太陽系を訪問したいといってきたらバーチャル世界に訪問させよう。第6太陽系が大いに発展している様子も、軍事が万全である様子も、非常に高度な社会である様子も、住民が全員幸福な様子も、他の太陽系にはない、理解できない色々な技術を持っている様子も見せ付けることができる。膨大な経費をかけた接待も、二度と来たくない恐怖も、帰りたくない夢のような世界である事も、戦略に応じてどのようにする事もできる。無論、リアル政府の大統領室も政府の庁舎も実際のものよりずっと豪華に作っておく。バーチャル世界に引き込んだ後は、相手の様子を見ながらストーリーを作る事もできる。その時の様子はリアル政府のモニターで確認できるし、ストーリーはリアル政府が主導して決めれば良い。とにかくリアル世界では取り返しのできない出来事でも、バーチャル世界ならどのようにでも変更できる。瞬時通信の増幅器の接続先は常時バーチャル側にしておけば良い」

 西田大統領は中野大統領の発言に同意し、感謝の1つとしてクラウド装置の容量を百万倍に拡大する事を提案した。現在の10センチ立方から10メートル立方に拡大する提案である。
これに対し中野大統領は「辺長に対し断面積は二乗だが重量は三乗で増加する。大きくなると急激にもろくなる。その上隕石が衝突する確率が増す。10倍の容量、22センチ立方にしてほしい。容量が大きいのはありがたいが、それだけ世界が大きくなる。大きすぎると開拓するのに苦労する」と言い、10倍にする事で合意した。
 理想爆薬と隕石の問題に話が及んだ。理想爆薬についてはリアル側に一任する事が決まり、隕石対策について中野大統領は「隕石はリアルな問題だ。我々バーチャル側ではどうする事もできない。隕石問題はこの衛星に住む者に共通した問題だ。リアル側でしっかりとした対策をお願いする」と言い、西田大統領は同意した。

理想爆薬の処遇

 中野大統領がバーチャル世界に帰った後、二足人と四足人による実務者協議が行われた。最初の議題としてシリコン星に埋蔵されている理想爆薬200トンについて話し合った。

二:「理想爆薬は非常に重大な問題だ。これを手にしたものは宇宙を支配できる。我々にはその意図がないが、このままでは誰かに狙われる危険がある。第5太陽系をだまして追い返すことができたが、別の連中が狙うかも知れない。何か対策が必要だ」
四:「我々の技術なら全部掘りだす事は難しくない。全部掘り出して厳重に保管すれば良いのでは」
二:「厳重に保管してもそれを狙われる可能性がある。むしろ掘り出さないほうが良い」
四:「我々が、また石英星の裏半球側に移住して、シリコン星をダイオード膜で覆って、見えなくするという方法もある」
二:「第5太陽系との間の領域で理想爆薬1トンの超巨大爆発を起こしたばかりだ。この近辺は注目されているだろう。注目されている領域からそれなりの大きさの天体が急に消えたら、かえって注目を集めてしまうだろう」
二:「シリコン星を観察するためには瞬時レーダーを使うはずだ。反射波のダミーを使ってごまかす事はできないか」 
四:「シリコン星はそれなりの大きさがある。その反射波のダミーを作るのは大変だ」
二:「大きいから大変なのだ。掘り出して理想爆薬にすれば200トンだ。立方体なら辺は僅かに4メートルだ。反射波戦略にせよ隠すにせよ小さければいろいろな細工が可能になる」
四:「200トン全部を取りだし、厳重な金庫に入れ、この星の地下深くに埋蔵する。その代わり表面を非常に薄く理想爆薬でコーティングしたダミーを作り、超危険物としてシリコン星の静止軌道に設置し、それを防衛するための迎撃砲を配備する案はどうだろうか。コーティングに1グラム使えば理想爆薬の反射波は出るだろう。それを観測した者は、結局安全な理想爆薬などなく、活性物質と同様な不安定で危険なものだと思うだろう。活性物質と同じようなものをわざわざ盗む者はいない。それでも盗みに来たら撃退すれば良い。それでも盗まれてしまっても1グラムなら問題ない」
二:「それでいこう。つい最近超巨大爆発がこの近辺で起こった事と完全に符合する」

 理想爆薬の問題はこの方向で解決することとなった。

クリアランスに向けて

 理想爆弾以外にも、この星で暮らす者たちの安全を脅かす問題はある。いや、この星に暮らすならば切っても切り離せない問題だった。
次の議題は、隕石対策についてである。

二:「この衛星には隕石防衛システムが備えてあるが、完全なシステムとはいえない。裏半球側はほとんど無防備な状態だ。他の天体に移住しても、この付近の天体には隕石問題が付きまとう。抜本的な対策が必要だ。バーチャル政府からも隕石対策への強い要望があった。隕石問題は超リアルな問題でバーチャルの力ではどうにもならない」
四:「我々、四足人は少しの間だがこの衛星の裏半球側で暮らしていた。最初は洞窟の中で暮らしたが、警報・避難システムが完備してからは洞窟の外で各種資源の採掘を行っていた。システムはそれなりに機能し、事故は一度もなかった。しかし裏半球側の完全な隕石落下対策は難しい。しかもそれを行うと隕石落下による資源の獲得はできなくなる。しかし表半球側の隕石防衛システムに使用するロケット燃料は今でも十分にある」
二:「隕石防衛システムや警報・避難システムは強化すれば問題ない。問題なのは巨大隕石の衝突だ」
二:「隕石防衛システムで防衛できないほどの巨大隕石は、衝突の数十年前に発見できる。常套手段だが超高速ロケットで巨大隕石に着陸し、理想爆薬を使用したエンジンを据え付け、軌道を変えればよい」
二:「確率的にはほとんどゼロに近いが非常に大きな天体がこの領域を通過する場合はどうするのだ。大きな天体なら何百年も前に発見できるだろうが、軌道を変えるためには大量の理想爆薬が必要だ。巨大な天体なら理想爆薬200トンでも足りないかも知れない。活性物質は危険だが、こういう場合には非常に役に立つ。活性物質に接する通常物質は活性化され活性物質に変化する。その天体がある限り燃料がなくなる事はない」
二:「シリコン星の静止軌道に理想爆薬のダミーを作り、その周辺に迎撃ミサイルを配備する事が先程の話で決まった。その隣に活性物質研究施設を作り、そこで開発すれば良いのでは。ダミーも益々本物らしく見える」
四:「最悪の場合、活性物質は研究施設全体を活性化させてしまう。研究施設全体を非常に小さくしなければならない。大きいと万一爆発した時にこの領域一帯に被害が及ぶ」
二:「できるだけシミュレーションで行い、実験は極小規模で行えば良い。そうすれば最小限の設備で済む」
二:「シミュレーションはバーチャル側が得意だ。我々が行うよりもバーチャル政府に依頼したほうがはるかに効率的だ。どのような大きさの惑星にも簡単に対応する事ができる」
二:「これで2つの議題とも解決した。議事録を作り、三政府の承認をもらおう」

 三政府で承認され、実務者で協議した内容どおりに実行された。これにより第6太陽系の全ての住民の憂いは取り除かれた。

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