この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「再生への1号都市」の発掘成果
整備されたトラックの最初の仕事は、幹線道路の復旧作業中に見つかったカーボン板や、壊れたトラックから外したバッテリーやトラックのボディーを解体して得たカーボン板などを洞窟に運ぶことだった。
幹線道路を都市の中心に向かって復旧作業を行っていく中で、数軒の農家らしき建物が見つかった。これらの建物は損傷が激しく建物として使用する事はできなかったが、貴重なカーボンが大量に手に入った。またパソコンやスマホのような家庭用の端末機器も家の中から何台か見つかった。
都市の中心に進むにつれ、多くの場所で堆積した灰が強固に固化し、発掘は困難を極めた。十分な重機が無い現時点ではこれ以上この都市の発掘は不可能と判断し、発掘作業は中断されることが決定した。
それでもこの「再生への1号都市」からは、第2世代の人類が残した大量の遺産を入手できた。主なものをあげると、カーボンは十分ありすぎて全部を洞窟に持ち帰る事はなかった。使用できる車両は乗用車3台、トラック3台、重機1台、人間の脳を作るための部品はパソコン1320台、スマホ20台だった。パソコンが大量に見つかったのは発掘を中断する少し前に、パソコンを収納した倉庫を発掘できたからであった。
大量に運び込まれたカーボンにより洞窟内のスペースは大幅に整備された。人体を作るためのカーボンは豊富に備蓄され、1号都市にも豊富に残されている。パソコンも大量に見つかり、問題なく動作可能な10台を除き、新たな人の脳の材料として分解し使用する事となった。技術部門の担当者が計算したところ、1人を誕生させるにはパソコン約5台分が必要なことがわかった。
そこで200人を新たに誕生させることになり、カーボン変成機はフル稼働して人体を作り出した。手作業で1000台のパソコンを分解し、200人分の脳が製造された。パソコンから回収したバッテリーは使用できないものも多く、一人当たり3個と決まった。
バッテリー3個では毎日充電が必要であり、質量電池の近くでの作業しかできないため生活部門と技術部門とに配属する事になった。ただし、大きな工事があるときは一時的にインフラ部門に出向する必要があったが、例え工事中に充電が間に合わなかった場合でも単に動作が停止するだけのことであり、その点は第2世代以前の人類に比べ大きなアドバンテージである。このようにして第3世代の人類はようやく300人になった。
カーボンは豊富に手に入ることがわかったが、まだ新規にバッテリーやプロセッサーやメモリーを作るための手段はなく、当面の間は第2世代の遺物に頼るしかなかった。
第3世代人類の現在地
第1世代の人類は、時間をかけて技術を積み上げて発展した。しかし、ある種の技術や思想が発展しすぎた為、人類滅亡の危機を招いた。
第2世代の人類は、技術の進展を停止する事により小惑星の衝突により滅亡するまでの60万年と言う長期間、継続的に繁栄した。
そして、第3世代の人類は、第2世代の破壊された都市に残された資源を発掘する事により繁栄へのスタートを切った。
このように、約2年かけて300人となった第3世代人類が、自分たちで物を作り自立するには程遠かった。今後、そのような文明を作り上げていくためには、今後も過去の文明から資源を得て いくしかなく、第2第3の都市を見つけることが先決だった。徐々に人数は増えてはいたが、まだ絶滅の恐れもあった。
最大の問題は、質量電池が2個しかないことであった。
質量電池なので当面、電池切れの恐れはないものの、自然災害などで破壊したり流失したりすればそれで終わりである。またカーボン変成機についても1台しかないので、これが壊れたら新たに人も増やせないし、今後のインフラの整備にも大きく支障をきたす。
第2、第3の都市を見つけるためには、より高性能な望遠鏡が必要だった。
望遠鏡のようなローテクなものは危険技術とされていないため、関連文献は簡単に見つかった。カーボン変成機を使用して透明なレンズを作る事は容易で、筐体を作る事は極簡単だった。この望遠鏡はいつもの見晴らしの良い山の頂上に設置する事になった。以前の望遠鏡に比べ桁違いに大きいので、これを山の頂上に運ぶのは人力では不可能だった。
山の頂上と麓に丈夫な杭を打ち、カーボン変成機で製造したワイヤを渡し、自動車の残骸から取り出した小型モーターを山頂に設置した。望遠鏡の重心部から突き出すように設けたフックをワイヤに引っ掛け、フックの上部に取り付けた小型フックに牽引用ロープを取り付け、ロープを小型モーターにより巻き取ることによりワイヤに沿って望遠鏡が山頂まで引き上げられた。
そして、望遠鏡は山頂の見晴らしの良い場所に設置された。なお、このワイヤと小型モーターによる引き上げ機は、人や機材を今後も山に運ぶ為にそのまま残された。
第3世代人類による最初の発明品
空気が澄み渡った日、技術部門とインフラ部門の担当者は簡易ロープウェイで山頂に登った。もちろん望遠鏡を使うためである。
先ず放置された第1都市を観察した。都市の反対側に石灰岩を多く含む小山があり、大雨が降るとその石灰を含む水が第1都市に流れ込み、これにより山に近いほど堆積した灰が固化していることがわかった。
同時にこの望遠鏡の威力についても納得した。この都市からは四方に道らしき跡がありその先には明らかに都市とわかる地域が数十箇所見つかった。
その中で発掘し易く、洞窟から近く、洞窟からの道を作りやすい3つの候補地を選ばれた。観察した候補地の様子を綿密にスケッチし、また観察からわかった情報を綿密に記録した。
翌日、そのスケッチと記録した情報を整理しデータ化してパソコンに入力する。パソコンは第1都市から手に入れた1台で、既に残りの9台と接続されていた。
その翌日には、リーダー、サブリーダ-、技術部門、インフラ部門の担当者が集まり洞窟内の会議室で、10台のパソコンを用いて会議が行われた。まだ紙は作れずプリンターも無いので、会議にはこの10台のパソコンが使用されていた。
第1都市とは反対側にある、スタークフォンテンから約80km離れた都市が最も有力との結果がでた。しかし、この工事はさらに大工事である。もし見込みが外れて灰の層が固化していたら無駄骨になってしまう。工事の前に固化しているか否かを確認する事が必要だった。これを受けて技術部門から20人が召集され、確認方法が検討された。
80kmも離れた場所の固化の程度を確認する方法を見つける事がこの20人のチームのミッションである。あの高性能な望遠鏡を活用しない手はない、との点は皆同じ意見だった。
「ただ、やはり観測しただけではわからないのではないか」
「何かが落ちて穴が開いた痕跡があれば、固化していないのはわかるはずだ」
「たとえそのような痕跡があったとしても、それが固化する前にできたものかもしれない。やはりその方法では判断は難しいだろう」
「それなら今そこに何かを落下させ、落下跡を望遠鏡で観察すれば良い」
「できるならばいいアイデアだが、どうやって何を落下させるんだ」
「大型の大砲を作って玉を打ち込んでは」
「たとえ銃や大砲は作れても、カーボン変成機でカーボンを高性能火薬に変成する事はできない。カーボン変成機はほとんどどのような構造材でも作る事はできるが、火薬には変成できない」
「じゃあ、なにか降ってくるまで望遠鏡の前でずっと待ち続けるしかないじゃないか。一体何が降ってくるんっていうんだ? また隕石か」
そんなやり取りが交わされる中、インフラ部門の1名がふと口を開いた。
「カーボン変成機でどんな構造材でもできるのなら、強力な弓を作って矢を飛ばす事はできないか」
その発言を聞いた技術部門のメンバーは、一瞬呆気にとられたようであったが、少し考えると少し興奮気味に話しだした。
「いや、……それは良いアイデアだ! 強力なばねを作るのは簡単だ。細く強力なワイヤを作るのも簡単だ。強くまっすぐな矢を作るのも簡単だ」
「その弓を山頂に据え付け、モーターで強力に引っ張れば70kmぐらい飛ばすのは簡単だ。原理的にはいくらでも強く撓ませることもできる。いや、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ!」
すぐさま技術部門の担当者がシミュレーションを開始したところ、必要とされる弓は大きさや重さもさほど必要なかった。早速、カーボン変成機により各パーツが製造されることとなり、番える矢は200本製造されることになった。またモーターや弓を固定する丈夫な杭と、強力に矢を引っ張るワイヤも製造されることになった。