俯瞰してものを考えることは、事象を理解し目的を明確にするためにはとても大切なことですが、一方でなかなか現実的な手段に結びついてこないということになりがちです。それは、思考はあくまで抽象的なものであり、具体性を持ってこそ現実での影響力を持つからです。
思考は、どこまでも拡げることができますし、神の視点や宇宙の果てまで俯瞰して考えることだってできます。ただ、そのように壮大な問題を個人が考えることはできても、実際に解決できるだけの能力を持ってるということにはなりません。
もちろん個人が考えたことでも、それが人に伝わることで大きな力にかわることがあります。そういった分かりやすい影響力というものは、いいものや間違いのないものに宿ります。たとえば、質量がエネルギーと等価だというような情報もそれです。
そして、こういったいい情報、間違いのない情報であり、かつ人が見落としがちな情報を形にしていくことが、「発明」あるいは「開発」の一つの形なのだと思います。
私が『空調服™』という製品を開発するきっかけは、地球温暖化という地球規模の現象を目の当たりにして、それについて真剣に考えた結果でありました。もちろん、地球温暖化という現象については以前から知ってはいましたが、「どうして地球が温暖化しているのか」や「そもそも地球温暖化とはなんなのか」といった風に、その現象について深く考えてはいませんでした。そのためにまずは俯瞰的に地球温暖化という現象と、その解決策を考えてはみたのですが、なかなか上手くはいきませんでした(その詳細はこちらのコラムで紹介しています)。
そこで私は、地球温暖化防止するために地球規模での対策という大それた考えを完全に捨て、個人でも実現できそうな対策に向けた思考実験にとりかかることにしました。具体的にはクーラーにかかるエネルギーをなくすことはできないかという思考実験です。
エネルギーを取り去るという事は、取り去ったエネルギーを取り出せることに繋がります。そう考えると、少なくても冷房にはエネルギーが不要なのではないかと考えました。
クーラーの仕組みは、簡単にいえば温度というエネルギーを取り去る事です。熱は高い方から低い方に流れていく性質がありますので、原理としては冷やしたい部分の温度が流れていくそこよりも低い温度の部分をつくれば熱は逃げていくことになります。この温度の低い部分を、エネルギーを使って作り出しているのがクーラーの仕組みです。
クーラーというものは、そもそも変な装置です。室内を冷やすと、そのために外気が暑くなる。廃熱という形で迷惑な大きなエネルギーを生みだしていますが、このエネルギーはまったく利用されず地球を温めるだけに使われているというのですから無駄なことこの上ありません。また、そのためにさらに暑くなり冷房を使うことになるのですから、どこかマッチポンプ的な歪さを感じさせます。
このような現象は、クーラーが「冷媒」と呼ばれる冷やすための触媒を循環して利用する仕組みがあるためにおきています。この冷媒に使われている物資も地球温暖化に大きな影響を及ぼしています。かつては、この冷媒にフロンという化合物質が使われていました。現在ではオゾン層を破壊する原因になるということで規制されています。その後、代替フロンと呼ばれる化合物質が使われるようになりましたが、こちらも温室効果ガスとなるため規制が進められています。
ともかく、現状の主に普及しているクーラーはこの冷媒を圧縮したり、逆に膨張させたりする中で冷媒の温度をコントロールし、そこで生まれた温度を室内に風として送り出す仕組みです。ただ、この冷媒をコントロールするために多大なエネルギーを使うことになります。それは、クーラーによって取り去ったエネルギーを取り出したとしても、とてもまかないきれないような莫大なエネルギーです。現状のクーラーの仕組みでは、理想的にエネルギーを循環させることは実現できそうにありませんでした。