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熱の仕組みを考える【空調服™ 開発プロジェクト記vo.4】

 クーラーという冷却機器は、実際に投入した電気エネルギーより大きなエネルギーが生産されています。そして、室外機から多量のエネルギーが排熱という形で生産され、これが温暖化の原因の一つとなっていました。つまり、排出されているのは無駄なエネルギーということになります。この無駄の多いクーラーに変わるような製品が作れれば、「絶対に売れる」という確信が私にはありました。
 考えてみれば誰もが「室内を冷やすために、外気がそれ以上に暑くなる。そのため、またクーラーが必要になる」という状態には違和感を覚えると思います。このようなクーラーが抱える問題は、私にとっても致命的な欠陥のように思えました。
 そしてそれは、温暖化への懸念があることはもちろんのこと、解決できれば自社の柱となる製品開発になる可能性があり、この問題を解決することは発明家、開発者としてチャレンジするやり甲斐があるものでした。
 
 そもそも温度とは、言い換えれば分子がどれだけ動いているかを計るものです。温度が低い状態で物質が固体になるのは分子が動かなくなるからでありますし、逆に気体になるのは分子が動きすぎてバラバラになるからです。そして、このような分子の動きは周囲に伝わります。これが熱の伝わる仕組みになります。
 ならば物体を冷却するにはどうすればいいか。
 答えは簡単で、物体の表面から熱を除去すれば良いだけのことです。熱を除去するためには色々と方法がありますが、基本的な原理は変わりません。一つは誰もが考える気化熱を使った「熱を奪う」方法、もう一つは「熱を移動させる」方法です。私は、まずその後者について考えてみることにしました。
 冷やしたい物体の周囲に、それより温度が低いなにかがあれば、物体が持つ熱はそちらに移動することになります。違いがあるとすれば、その方法や効率の違いにすぎません。
 ただ、同時にこのような違いを無視することもできません。同じ冷却でも、どのような環境下で、どのくらいの早さで、どのくらいのエネルギーを使って、何度まで冷やされるのか。これをコントロールしなければ思い描くような理想的な冷却効果は生まれないからです。
たとえば、温度の感じ方にも違いがあります。30度の部屋は暑いのに、30度の風呂は冷たく感じられます。この感じ方の違いはどこにあるのでしょうか。それは空気と水との熱の伝わり方の違いにあります。
 空気の密度は水に比べ低く、熱が伝わりにくい性質があります。そのため、体の表面温度が空気に伝わらず熱が溜まり、体温よりも低くてもいつまでも暑く感じることになります。逆に100度近いサウナに入っても火傷しないのも、熱が伝わりにくいからです。
 一方で、水は空気より密度が高く、その分だけ熱が伝わりやすくなります。30度の水に体の表面から勢いよく体温が放熱され、肌寒く感じるということになります。
つまり体の表面付近にあるものが、体の表面温度より常に低くあり続ければ、体は放熱し続けられるので涼しくなるのです。

 では、その環境をどう作ればいいのか。これが実際の開発のスタートでした。
 無駄のない効率的な冷却装置の実現。その最適解を見つけるためには、もう考えるだけでなく、試していく段階にありました。

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