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人生のナビゲーション

 カーナビというのは便利なもので、目的地への最適なコースの案内はもちろんのこと、車の混み具合などまで教えてくれる優れもの。重宝されている人も多いと思います。私も仕事で都内へ車を走らせるときなどには、よくお世話になっています。
一方、趣味のドライブのときにはカーナビのお世話にはあまりなりません。自分の記憶や経験と照らし合わせながら、「今日はどの道に進もうか」と考えながら運転するのも楽しみの一つだからです。
 たとえば紅葉などレジャーが盛んな季節には、普段は車の通りも少ない山道や田舎道が、突然車で溢れかえります。知らずに訪れたならば、景色を楽しみながら進むノロノロ運転の車列に疲れ果ててしまうでしょう。
しかしながら長年のライフワークの甲斐あって、最近はどこが混んでいて、穴場スポットはあそこ、そんな見当がつくようになってきました。予想が当たるというのは馬券を買っていなくても結構楽しいものです。

 ――どの道を進むのか。
 
 このような選択はドライブならば気楽にもできますが、人生においてその選択を迫られたならば中々に難しいでしょう。私の人生においてもいくつか岐路がありました。
 よくいわれるのは、「なんでソニーを辞めようと思ったんですか、給料も良かったでしょうし、独立なんてしなくても安泰じゃないですか」というようなことです。
 たしかにそのとおり。ソニーで定年まで勤めていれば、NHKの『逆転人生』のような番組に出演するような経験はせず、安泰だったことでしょう。ただ、やっぱり「それじゃあ満足できなかった」というのが、私が独立という道を選んだ理由でした。
私は子供のころ、製品や自然、社会など、色々なものの「仕組み」が気になって調べるような少年でした。そして、人間というものはみんなそうなのだろうと思って変わらず過ごしてきました。しかしながら歳を重ね色々な人達との出会いを経て、それは違うのだと気づきました。それは、ある意味では才能とも呼べるかもしれない私自身の個性だったのです。
ソニーを辞める直前、私の脳内ではブラウン管測定器のアイデアがグツグツと煮詰まっていましたが、当時の私は現場から距離のある中間管理職。これを実現するような立場にはありませんでした。また、出世を目指すということであれば、すでに後輩に先にいかれているような状態。私自身も中間管理職が向いているとは思えませんでしたし、むしろ苦手だと感じていました。
こうして、私はソニーという快適な高速道路を降り、一般道を進むことになりました。そのブラウン管測定器の道は土地勘があったのですが、途中で行き止まりになっていました。そこで、その先の行ったこともない「空調服」の発明、販売という未知の道を進むことにしたのです。
カーナビは、行き先までの最短経路、そしてその道の先の状況を教えてくれますが、人生においてはそんなに便利なものはありません。ならば、自分の経験から導かれた直感を信じて、自分に合っていることをやる。苦手なところを埋めるというのは大変ですが、一方で得意なことを伸ばすならばうまくいくことが多いですから。
家族など親しい人には、よく「あなたは思い込みが激しい」なんていわれることもありますが、こんな風に自分が信じるところが、ひいては道標ともなっていくのではないかと思います。

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