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ウクライナ戦争、物質と情報、時代の過渡期

前にも少し書いたことがあったと思いますが、私はドライブにでかけたとき、「その土地の名物を食べよう」というような意識がありません。お腹が空いたらなんとなく目についたレストランや食事処に入ります。それはファミレスの場合もありますし、ときにはコンビニのサンドイッチで済ませることもあります。
旅先のレストランにいってメニューを手にすると、最近よく目にするのが値段の部分にシールを貼った修正の跡。店内を見回すと、壁にこんな断りの文言が張られています。

――材料費、高騰のため一部値上げいたしました。

ちょうど店内の片隅に置かれたテレビから流れるワイドショーでも、生活品値上げの話題が取り上げられていました。
 少し前まではメディアはコロナ関連のニュース一色でしたが、昨今はこれが物価高騰に関わるものに移り変わってきている印象です。燃料費、電気代、穀物をはじめとした食品類、木材や肥料などなど、あらゆるものが値上がりしています。
そのきっかけとなったのは、これも現代の大きなニュース・トピックの一つ、コロナ禍とその収束の兆しが見え始めた矢先に始まったロシアのウクライナ侵攻でした。世界中が大混乱に陥ったパンデミックがようやく収まりつつあるときに、こんどは世界中を巻き込んだ戦争が始まりました。言わずもがなですが、戦争自体は物理的にはウクライナ国土で行われています。しかしながら、その影響は私たちも含めた世界中に及んでいます。
現在、ウクライナ戦争はロシアとウクライナを支援する欧米各国という構図になっています。米国と対立関係にある中国やイラン、北朝鮮などは、強弱はあれどロシア側に立ち、インドや中東及びアフリカの一部の国々は中立というような立て付けです。そして、そこにある対立は、これまで当たり前に行われていた貿易という名の物質の流れを大きく変えてしまいました。
 グローバル化、あるいはサプライチェーンという言葉が当たり前に使われるようになって十数年、この当たり前に機能していた常識が崩れ去ったのがウクライナ戦争であります。
 ウクライナ戦争が世界中に与えた影響は凄まじいものでありますが、戦争そのものは、前時代的な兵器と現代の最新技術が混じり合った奇妙なもので、その様相はまさに現代社会の縮図を表しているようです。
当初は、大国が人工衛星からの情報を提供するだとか、ドローンによる偵察や攻撃、SNSを使った情報戦、インテリジェンスAIによる作戦立案云々といった、まさに現代的な戦争が行われているのだという報道がされていました。
しかしながら次第に、戦車を百数十輌ウクライナに送るだとか、ロシアでも戦車が足りなくて第二次大戦中に製造された戦車を前線に投入しているといった話になっていきました。それ以外にも、やれ弾丸が足りない、やれ戦闘機がいくつ足りない、やれ前線の食料が足りないといった物質時代的な話が増えてきているのが印象的です。
情報の話題と物の話題が入り交じるのは、現代の日本社会でも同じです。たとえばよく話題になるのはAI、ChatGPTなどのAIを使う利便性や問題点、学習AIと著作権の問題などは誰もが耳にしたり、実際に意見交換を行ったりしたことがあるでしょう。また、人気YouTuberが国会議員になるも一度も国会に出ることなく脅迫容疑で逮捕されたり、SNSを使って募集した闇バイトによる組織犯罪が国外で検挙されたことなどは、これまでになかった情報化時代だからこそ表出してきた社会課題のように思えました。
その一方で、材料が足りない、エネルギーが足りない、高騰しているというような話題が取り上げられる。それが現代という時代なのだと思いつつ、少しだけ値上げされた天ぷらうどんを啜ったのでした。

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