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2050年 サイバネティク狂騒曲 第7回「第3章デジタルコロナウイルス2 1意識1人体への移行」

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

3-2 1意識1人体への移行 

1意識1人体検討

「今回のウイルスには手の打ちようが無い。日本にはまだ入っていないようだ。すぐに入出国を全面禁止すべきだ」
「海外にいる意識への対応はどうするのだ。日本にいる外国人の意識もたくさんある。全面禁止は現実的でない」
「入出国禁止対象国はどのように選ぶのか。すでにかなりの国に広がっているようだ」
「全ての国を原則入出国禁止して、海外の意識の帰国については特例で扱おう。検疫体制をすぐに強化しよう」
「ある程度重症化すると体の動きで判断できるようだが、感染の初期には体の動きによる判断はできない。小脳を直接観察するしか無いようだ」
「まさか1体1体、体を切り裂くわけにはいかない」
「あらかじめコネクター取り付け手術をした検査用人体を用意し、検疫時にはこの人体を使えばよいのではないか」
「人体は関係ない。今問題なのは入国時の検疫を徹底し、感染した意識を見つけ出すことだ。感染した意識は検査ソフトで簡単に感染が判定できる。検疫での検査漏れが無ければ国内への感染は防げる」
「検疫での検査を徹底しよう。入出国の問題はこの方向でいけるはずだ。3番目の指針、1意識1人体制度への移行の問題はどうすべきか」
「1意識1人体制度への移行はとんでもない。社会活動全ての効率が落ちてGDPは7割は落ちる。そんなことになれば経済成長は当面望めないだろう」
 
 世界各国でも同様の議論の末、全ての国は出入国を原則禁止し、すでに感染が確認された国では暫定的な1意識1人体制度に移行し、確認されていない国では通信による国内移動を極力抑えることにした。

 世界中のほとんどの国で通信による意識の移動はほとんど無くなった。しかし専制主義の一部の国、特に中国では、感染している人体を徹底的に探し出し処分し、通信による意識の国内移動をこれまで以上に強く推奨した。能率の良い通信移動により他の国と中国の発展の速度にはさらに大きな差ができた。
 しかしそれは長くは続かなかった。徹底的に感染した人体を探し出して処分したはずだったが、感染したままの人体が僅かに残り、人体内で増殖し、巨大な感染力を持つ株に変異を遂げていた。小脳の定期検査時に、ウイルスが大脳に移行し、瞬く間に中国中に蔓延し、ほとんどの人体が感染した。急遽電脳を大量生産し、意識は人体を放棄し電脳の中に避難した。感染が治まった時には使用できる人体は人口の5%しかなくなり、95%の意識は人体が無いので電脳にこもる以外になす術がなかった。人体を備えた5パーセントの意識が復旧に全力を尽くしたが、全員分の新規人体を製造するのには20年を要した。

1意識1人体への完全移行

 この中国での大事態に対し、再度デジタルウイルスの脅威を知った人類は、全ての国で1意識1人体制度に完全移行した。有機物の人体と無機物の人体の違いがあるが、コロナ禍以前の状態に戻ってしまった。
 この状態について山田ら人体技術者が交わした会話である。

「コロナの対策として人同士の接触を回避するためのリモートワークの技術が進み、ついにはアバターとなり、やがて意識が主体となり、デジタルコロナにより有機時代と同じ1意識1人体方式に戻り、毎日満員電車で通勤しているが、そもそも密を避けるためのリモートワークが進化した結果、最終的に超密な満員電車通勤になってしまったが、満員電車でも全く感染しないのは皮肉なことだ」
「昔は体が有機物でできていたので病原菌に感染した。無機物の体では病原菌に感染しようがない。いくら満員電車で密でも全く関係ない」
「人類はデジタルウイルスに感染し大打撃を受けた。しかし意識の移動に通信を使っていたのだからしょうがない。有機物の時代でもコンピュータ間の通信にはコンピュータウイルスはつきものだった。今から思うと意識データを通信するなどとんでもないことだ」 

 1意識1人体制度移行後、[人体から大脳を外して自宅に設置し、通信という長い神経で大脳と人体を繋ぎ、大脳により人体を操縦する方式]も検討された。関係者による議論は次のようなものである。
「脳と人体が別の場所にある場合の、[脳による人体の操縦]の議論はすでに行われた。前回の議論で脳以外の[目や耳などの部品]が人体に付いていれば問題ないことは分かった。電力の問題があったが、電波の検出感度を上げれば電力問題は解決できる。他の問題が無いか議論しよう」
「通信速度の問題はどうだろうか。通信速度の上限は光速だ。近くなら問題ないがあまり離れていると光速の問題があり、動きが鈍くなる」
「地球の反対側にある人体を操縦する場合でも、光の100倍の速度で伝播する物があれば操縦方式も可能だ」
「光より早いものなど宇宙にない。宇宙にないのであり得ない」
「その考えは間違えだ。ビッグバン直後には原子も無かった。色々な原子ができたので有機物ができた。有機物ができたので人間もできた。人間ができたのでコンピュータも通信手段もできた。宇宙に無い元素も人間は作った。禁止されてなければ脳細胞数が1億倍の超超人も作れる。1億倍の能力の超超人は1京倍の能力の超超超超人も作れる。超超超超人は別の宇宙を作るかも知れない。現在宇宙に無いという理由でこれからも宇宙に無いということは全くいえない」

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