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SFB人類の継続的繁栄 第12章『宇宙へ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第3暦300年、 宇宙エレベーターの建造開始

 いよいよ2名の宇宙隊員を載せたロケットが、宇宙に向かって轟音を轟かせた。高度10kmで第1段のジェットエンジンを切り離し、第2段エンジン、第3段エンジンを使用してし、目的の静止軌道に到着した。
 20kgの荷物を平均時速1000kmで荷揚げする仕様の、第1次宇宙エレベーターの建造が始まった。
宇宙隊員は先ず自分が宇宙に飛ばされないように、ロケットとの間に命綱を取り付け、次に滑車間プレートの両端に滑車を取り付けた。ロケットの最終段エンジン3つが取り外され、姿勢制御用エンジンとして滑車間プレートの適所に取り付けた。命綱をロケットから外し、滑車間プレートの中央付近のフックに取り付けなおした。これで第1次宇宙基地の最初の足場が完成する。
 次は宇宙エレベーターの基礎となる部分を組み立てていく。メインワイヤ、牽引用ワイヤ、バッテリーなどをロケットから運び出し、滑車間プレートに括り付ける。滑車間プレートの中央にある、メインワイヤスライド用孔に、メインワイヤの先端を宇宙側から地上側に通し、メインワイヤの先端に100gの重りを取り付け、地上基地に向けて放出した。
 重りは徐々に加速し、10時間後にメインワイヤの先端部が地上基地に近づくと、小さな落下傘が開き減速し、地上に落下した。
地上隊員は、地上基地の岩盤に打ち込まれた杭にメインワイヤを連結した。
こうして宇宙基地と地上基地はメインワイヤによりつながれることになった。
 宇宙基地では、宇宙隊員がロケットにメインワイヤの端部を連結し、ゆっくりと宇宙空間側に押し出した。当面はロケットがカウンターウエイトとして作用し、宇宙基地を宇宙側に引っ張り、宇宙基地と地上基地との間に張り渡されたメインワイヤが弛むのを防止する。
 引き続き宇宙隊員は、牽引ワイヤを2つの滑車を経由して取り付け、メインワイヤと同様に、牽引ワイヤの両側を地上に向けて放出した。地上基地では、落下した牽引ワイヤの両端を連結し、エレベーター駆動用の円板に溝に巻き付けるように取りつけた。荷物を入れるための軽量のかごが、片側の牽引ワイヤに取り付けられ、20kgの荷物を宇宙に運ぶ能力の第1次基地が宇宙に設置され、第1次宇宙エレベーターが完成する。


 第1次宇宙エレベーター

 第2次宇宙基地建造のための荷揚げ作業が始まった。第2次宇宙エレベーターは200kgの荷物を、平均時速1000kmで荷揚げする能力を有する仕様である。
 完成した第1次宇宙エレベーターの荷揚げ荷重は最大20kgなので、メインワイヤ、滑車、牽引ワイヤ、姿勢制御用ロケットエンジン、プラットホーム(滑車間プレート)等は、何回にも分けて第1次宇宙基地に荷揚げした。
たった2名の隊員で組み立てるので、完成までには2年は必要である。そのため、ロケットで運ばれたバッテリーだけでは電池切れの恐れがあり、小型質量電池も荷揚げされた。
荷物が地上付近にある時には、加速による力が加わり、宇宙基地に大きな力がかかり、その後は段々弱くなり、宇宙基地に近づくと減速のために逆方向の力に変わるため、メインワイヤに過度の負荷がかからないように、第1次宇宙基地とカウンターウエイトとの距離は自動調整されていた。
 宇宙隊員は荷揚げされるたびに、その荷物が宇宙空間に放出されないように、第1次宇宙基地の滑車間プレートに仮留めした。
 第2次宇宙基地は、第1次宇宙基地から赤道に沿った横側、100mのところに建造する計画である。それを、たった2人の宇宙隊員により組立てていく。
まず、複数に分解され荷揚げされたプラットホームの組み立てが行われた。組み立てられたプラットホームの適所に姿勢制御用のロケットエンジンが取り付けられ、建造予定場所に設置された。メインワイヤが地上に届き、地上のアンカーに連結された。

事故

 第2次宇宙基地のプラットホームが完成し、第1次宇宙基地の解体作業が始まった。地上基地でも第1次宇宙基地とつながっているメインワイヤの取り外し準備が始まった。
このとき大きな事故が発生した。
 まだ第1次宇宙基地にはカウンターウエイトがつながっている。このカウンターウエイトを処理する前に、地上ではメインワイヤをアンカーから外してしまったことが原因だった。このため、ちょうど凧の紐が手から離れたように、解体中の第1次宇宙基地はカウンターウエイトの遠心力により、宇宙の方向に動き出してしまった。
 宇宙隊員は事故を知り、すぐにカウンターウエイトをつなげているワイヤを切り離した。しかし一旦動きだした第1次宇宙基地を静止させるのは、2人の宇宙隊員の力ではどうすることもできなかった。このままでは第1次宇宙基地は宇宙隊員を乗せたまま宇宙に放出されてしまう。
 地上基地ではゆっくりと地上から離れてゆくメインワイヤの端を、あわてて数名の地上隊員がつかんだ。しかしながら数名の地上隊員の体重ではメインワイヤを引き戻すことは到底無理である。幸いにも牽引用ワイヤはまだ完全には円板から取り外されてなかった。別の地上隊員が牽引用ワイヤに飛びついた。
 冷静さ取り戻した宇宙隊員は、姿勢制御用ロケットエンジンを作動させた。メインワイヤの先端は徐々に地上に戻り、再びアンカーに固定された。今度は逆に第1次宇宙基地がゆっくりと地球に向かって落下し始めた。宇宙隊員は姿勢制御用ロケットを調整して落下を食い止めることに成功した。このように、カウンターウエイトとして使用していたロケットを失ったが、事故は収束した。

 第1次宇宙基地の解体作業が再開された。解体作業と同時に第2次宇宙基地の設営も再開された。第1次宇宙基地建造と同様な手順で第2次宇宙基地は組み立てられた。ただしカウンターウエイトとして利用予定のロケットを失ったため、解体した第1次宇宙基地の重量物を全て集めても、第2次宇宙基地のカウンターウエイトとして使用するには重量が不足していた。そのためカウンターウエイトは予定よりも遠くに設置された。
 宇宙でのこれらの工事は2人の宇宙隊員により、2年がかりで行われ、第2次宇宙エレベーターは完成した。 

 第2次宇宙エレベーターの完成後、速やかに第3次宇宙基地建造のための荷揚げ作業が開始された。 第3次宇宙エレベーターは、2トンの荷物を平均時速2000kmで荷揚げする能力を有するものである。
第2次宇宙エレベーターの荷揚げ最大荷重は200kgである。
最初に3名ずつ6名の新たな宇宙隊員が荷揚げされた。替わりに2年以上働いていた2人の宇宙隊員は帰りのエレベーターで地上に帰還した。
第3次宇宙基地の総重量は20トンを超える。6人の宇宙隊員でも大仕事である。途中で4名の宇宙隊員が増員され、第3次宇宙基地の建造作業に加わった。第2次宇宙基地に比べ巨大だが、基本的な組み立て手順は第2次宇宙基地の建造と同じである。
電源として運ばれた質量電池はやがて寿命がくる。また今後は宇宙隊員の充電だけでなく宇宙基地で使用する電力も大幅に増加する。このため、恒久的に使用できる電源として、ソーラーパネルを使用することになり、その荷揚げ、組み立て作業も行われた。
こうして、荷揚げ能力2トンの性能を有する第3次宇宙エレベーターは5年で完成した。

なお恒久電源として、ソーラーパネルを利用することになったのには、次のような背景がある。
当初は電源として質量電池を使用することも検討された。しかし第2世代の人類が残した質量電池を使い続けることは不可能であり、新たに製造しなくてはならなかった。しかしながら短期間で質量電池を開発するのは、この時代の第3世代の人類にはできなかった。この対策として地上では各都市に火力発電が導入された。
地上での発電には火力発電が使用されていたため、ソーラーパネルの開発は見送られていた。しかし酸素のない宇宙で火力発電を使うことはありえない。逆に宇宙で太陽光を使わないことは考えられない。
一方、第3世代の人類を増加させるにはメモリーやプロセッサーの新規製造が必要であり、これに対する研究は急ピッチで行われ、すでに人の脳に使用されるメモリーやプロセッサーは製造されていた。ソーラーパネルはメモリーなどの製造に比べ技術的には簡単で、単に大きな面積のパネルを作るだけであり、今回の宇宙計画にあわせて急遽開発された。

第1居住棟建造開始

 恒久施設としての第3次宇宙基地が完成したため、収容能力1000人の第1居住棟の建造が始まった。地上からの高さは第3次宇宙基地と同じ高さで、赤道に沿って第3次宇宙基地から5km東に建造する予定である。
第1居住棟が完成し1000人の宇宙開拓隊員が移住してきた。
 1000人の隊員により第1居住棟のさらに東50kmのところに、荷揚げ能力20トン、平均時速5000kmの巨大なメイン宇宙エレベーター1基、中型宇宙エレベーター3基、小型宇宙エレベーター5基を備えた、本格的な第4次宇宙基地が完成した。
 第4宇宙基地の東西にはさらに巨大な第2居住棟、第3居住棟と、次々に居住棟が建造され、宇宙エレベーターも増設され、赤道の上空各所に宇宙の建物が建造された。
 このようにして、地上と宇宙エレベーターでつながれた宇宙居住区には、100万人が居住し、精密基幹産業の拠点となり、政府の出先機関も置かれるようになった。

 宇宙居住区

 ここで宇宙居住区でのアクセス方法について説明する。
 隣り合う建造物とのアクセス手段にはバネ式放出機と慣性バスが用いられる。
 バネ式放出機と慣性バスには、荷重0.1トンのA型、1トンのB型、5トンのC型の3種類がある。何れも、バネの力で隣のバス基地のバネ式放出機に向かって慣性バスを放出し、隣のバス基地に到達したバスはバネにより減速され静止するシステムである。なお、慣性バスの受け取りにより圧縮されたバネは圧縮された状態を保ち、次にバスを放出する時の発射力に使われ、基本的にはエネルギーを必要としないシステムである。
 荷重0.1トンのA型は、主に1人用であり、その他のバスは、その荷重に応じた人や荷物を運ぶ用途に使用される。

 バネ放出機と慣性バス

 どのバス基地の放出機も東西方向、すなわち隣の建造物のバス基地に対向し備えられている。居住棟は遠心力を生み出すために回転しているが、バス基地は中心部の下部に設けられ、この部分は回転せずに、絶えず隣の建造物のバス基地と対向するようになっている。
 軽量なA型は、バスを放出しても反動はほとんど無く何時でも使用できるが、特にC型の場合は反動が大きく、反動対策として隣り合う建造物めがけて、東西に同時にバスを放出する、〔同時運転方式〕が採られている。バスで移動する時は必ず隣り合う建造物に移動し、移動を繰り返して目的の建造物に移動するようになっている。
なおバスを使用できない重たい荷物は、ロケットエンジン付きの船で牽引し輸送する。

 宇宙居住区での製造産業は、小さく軽量で、付加価値の高い半導体製造業や、ソーラーパネルによる豊富な電力を生かした産業が中心である。第1世代や第2世代の人類は食料が必要で、食料は地上でしか生産できなかったが、第3世代の人類にとっての食料は電力その物であり、その意味でも、太陽エネルギーを豊富に確保できる、宇宙での生活のほうが合理的ともいえる。
 宇宙が生活の場や半導体等の製造の場に適していることが知れ渡り、巨大地震への拭えぬ恐怖もあったことで宇宙への移住者は増加した。それに伴い宇宙居住区は大幅に拡大され、宇宙に住む住民と、地上に住む住民の人数が、ほぼ同数となった。
 地上では第2世代の人類の遺物の発掘や、付加価値の小さな製品や部材などの製造が今も中心に行われている。
以降、地上と宇宙はお互いに補完して成り立っていく。

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