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SFB人類の継続的繁栄 第13章『宇宙政府の誕生』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第3暦500年 宇宙の繁栄

 第3暦500年、宇宙人口は3千万人に達した。これにともない、地球にある本政府の下に宇宙にも政府を置くことを決め、宇宙政府が誕生した
カーボン変成機も大量に宇宙に備えられ、多くの製造業は宇宙に移っていった。結果として地上での物づくりは減少し、地上はカーボンの採掘や、特殊な金属を採掘するための、いわば鉱山としての位置付けが濃くなってきた。
 また、宇宙の新たな建造物は、メインワイヤによって地上につなぐ方式は取られなくなってきた。かわりに多数の姿勢制御エンジンを備え付け、宇宙空間に自立する建造物のスタイルが主流となった。地球の周りに浮かぶ建造物は、今までの地上とつながった物に混じって、自立したエンジンで宇宙の定位置に浮かんでいるものが目立つようになった。
このためエンジンの研究が盛んに行われた。中でも超高速加速技術が大幅に進展した。
エネルギーは太陽光から豊富に得られるが、エネルギーだけでは推進力を得ることはできない。質量のある物体をエネルギーにより加速し、高速で後方に放出、その反作用の利用が必要である。このための超高速加速技術である。
 ただ、それでも宇宙を自由に航行するほどのエンジン出力を得るには程遠かった。
エンジン研究者の中には、電磁波を推進力として使用できないか研究する者もいた。電磁波に質量を持たせる研究、あるいは質量のある粒子を電磁波に近づける研究である。
地上なら、電気エネルギーがあればモーターにより車輪を回転させ道路上を移動することができるが、宇宙では道路がないため、エネルギーがいくらあっても効率よく移動することが不可能である。物の移動、人の移動については、宇宙空間というやつはとてつもなく不便である。
 もともと、第3世代の人類は電気エネルギーだけあれば生存でき、物はあまり必要としなかった。また物は次々と情報に置きかえられ、物の移動の問題は小さくなった。
物が次々と情報に置き換えられたのには次のような必然的な背景があった。

 第3世代の人類学者が、第1世代の物と情報について研究した。第3世代の人類も同様だが、第1世代の人類も、生活に余裕ができると芸術、スポーツ等を堪能するようになった。
 たとえば音楽観賞の場合、19世紀までは王族は宮殿にオーケストラを招いた。20世紀後半になると、オーケストラの演奏した音楽を録音・再生する技術が進展し、レコード盤から始まり、CDへと変化し、21世紀初頭には情報として安価に入手できるようになった。演劇も同じようにデータ化され、映画などの画像情報として入手できるようになった。スポーツもゲーム化され、ネットで配信されるようになった。
 ネット販売が急増し、ネットで注文できるようになった。ここで大きな問題が生じた。データ化されていない物までもデータで注文する問題である。データなら配信は簡単だが、重量のあるデータ化されていない物を、注文というデータで購入する矛盾した売買が始まったのである。21世紀後半には、この点でも行き詰まっていた。
 情報技術の急速な進展により、何もかもがめちゃくちゃになっていった。この問題もあり、第1世代の人類は第2世代の人類へとバトンタッチした。
このような背景の下、構造材などを除く多くの物がデータ化され、物の移動は大きく減少したが、人はデータ化できないので移動に対する問題はそのままだった。

体を乗り換える新人類へ

 この状況も踏まえて、宇宙政府は複数のプロジェクトからなる、〔移動問題解決プロジェクト〕を発足させた。
第1プロジェクトは移動手段、特に効率の良いエンジンの開発、第2プロジェクトは輸送の効率化の検討、第3プロジェクトは特に内容を限定しないプロジェクトである。
 第3プロジェクトは、まず第3世代の人類の移動問題を検討することにした。
第3世代の現状の人類は、記憶に通信を使うことはなく、脳に収納されたメモリーに記憶はすべて記録されている。基本的には脳は誰でも同じ構成で、記憶だけが異なっている。また体の構成も基本的には誰でも同じである。
第3プロジェクトのチーム内では、この移動問題について活発な議論がかわされることとなった。
現状の人類の人体について整理した後、メンバーの1人が「体全体を移動しなくても、記憶だけ移動すれば良いのでは」と発言した。
これに対し他のメンバーが、人の移動に関し、第2世代の人類が議論をしたこのような記録があると発言した。
その記録とは〔東京からニューヨークに出張する際、東京のサービスセンターで体全体をデータ化し、ニューヨークのサービスセンターにデータを送信し、ニューヨークのサービスセンターで、データから丸ごと人を製造することが検討されたが、東京のサービスセンターとニューヨークのサービスセンターの2箇所に同じ人が存在し、矛盾が生じるので、この方法は禁止された〕という内容の記録である。
これに対し他のメンバーから「第2世代の人類ではそのような矛盾が生じるが、我々の場合、記憶を送信し、体を乗り換えた後、すぐに前の体から記憶を消去すれば矛盾が起こらない。帰ってきたら元の体に記憶を戻し、乗り換えた体から記憶を消去すれば良いのではないか」との意見が出た。
 この発言をきっかけに白熱した議論が始まった。
「移動先で顔や声が違うと、自分にも違和感があるし、知り合いとの会話がギクシャクする」
「それなら顔と声のデータも送信すれば良い。声など簡単に調整できる。顔変換装置を作れば、極短時間で顔も調整できる。顔変換装置はカーボン変成機の技術の一部を使えば簡単に開発できる」
「記憶と顔と声のデータを基に仕上げるなら完璧だ。しかしそのためには沢山人体を用意しておかなければならない」
「いっそのこと、元の自分の体を初期化して、他の人でも使えるようにすれば余分に人体を作る必要はない」
「記憶と顔と声は本人と認識するのに重要だが、首から下の体は重要でない。いっそのこと、目的の応じた数種類の体を用意し、目的に応じて体を選択できれば便利だ」
「それは良いアイデアだ。建築作業員が工事現場に行く時に、その工事が肉体労働を伴う場合には、大きくて力のある体を選べれば便利だ」
「単なる旅行目的なら体が小さいほうが便利だ」
「この技術は、日常生活でも利用できるようにしてはどうか。たとえばスポーツを楽しむ時は俊敏な体を使用する。何種類かの体を用意して、TPOに応じて体を使い分ける。考えただけでわくわくする」
「それは面白いが、使おうとした体が出払っていたらどうする」
「それなら料金システムを導入すれば良い。今では我々もお金を持てるようになった。人気のある体や特殊な体は乗り換えるときの利用料金を高くして、一般の体、特に小型の体を安くしたら良いのでは」
「まるで21世紀後半の車社会のようだ。自分専用の車は持たずに目的やTPOに応じて車を換えるのと同じようだ」
「車といえば事故がつき物だ。もし体を損傷したらどうする」
「他の体に乗り換えて、修理費用を負担すれば良いのでは」
「第3世代の初期には、皆一般記憶を共有していたが、今では記憶は各人別々で個性が出てきた。だから人の好みもいろいろ出てきた。金をためようと思えば安い体を使えばよい。我々のような職業は、ほとんど頭だけ使う仕事なので安い体を使って仕事をすれば金が沢山たまる」
「そうなると我々は体を自由に乗り換えられる。新人類の誕生だ!!」
  
 議論は盛り上がり、その内容は翌日レポートにまとめられ、上部組織の移動問題プロジェクトの本部に報告された。
報告を受けた本部のメンバーはこの内容に強い衝撃と大きな可能性を覚え、実現性を調査するため、各分野の専門化を委員とする調査委員会を組織した。この委員会で検討の結果、本質的な問題点は見つからなかった。検討経過は次のようである。
「現在の宇宙人口は1億人に上る。1億人が利用できるようにするためには、体を1億3000万体ほど用意する必要がある」
「1億3000万も用意するのは無理がある。3000万体がせいぜいだ」
「3000万では極特殊用の体しか用意できない」
「現状の1億人の体を利用すれば、一から作るのは3000万体だけだ」 
「それには本人の体を利用するための同意と承諾書が必要だ」
「あらかじめ本人がどのような体を望むか調べて、その体を提供することを条件にすれば合意ができるだろう」
「それは体を自由に乗り換えられる話と矛盾する」
「矛盾はあるが最初はその方式で行うのが現実的だ」
「まず、どのような体を望むかアンケート調査が必要だ」
「アンケートの前に、この方式の利点を十分に説明し、この方式に移行することを周知させる必要がある」
「この方式への変更は非常に重要な事柄で、国民投票を実施する必要だな」
「国民投票で実施が決まったら、どのような体のニーズがあるのかアンケート調査し、そのあと、最初の本人が乗り込む体を本人の希望で決める方向でいこう」

 宇宙政府は、この検討結果を受けて、十分な事前説明を行い、国民投票を実施した。投票の結果は9割以上が賛成だった。

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