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SFC人類の継続的繁栄 第1章『母星からの巣立ち』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

6名を乗せた宇宙船

 宇宙船が完成し、地球から70光年先の惑星に向けて6名の隊員を乗せた宇宙船は出航した。 
 今回の旅路において最も懸念されるのが、スラローム航法がシミュレーションどおりにうまくいくかどうかだ。少しでも計算が狂えば、予定進路から大きく外れる可能性がある。また、最悪の事態を想定するならばこの宇宙船と同じようにブラックホールの引力によって加速した他の物体と衝突し、船体が崩壊することなどもありうる。
航行がうまくいくか。その試金石ともなる最初のブラックホールは2光年先にある。
出航した宇宙船は太陽系の他の惑星の引力を利用しブラックホールに向けて推進し、最大推力で加速し続け、およそ40年かけて最初のブラックホールの引力圏に到達した。
 ブラックホールによる引力が加わり加速に弾みがついた。
ロケットエンジンにより軌道を修正しながら、慎重に宇宙船はブラックホールへと向かって突き進んだ。
急激な加速が始まり、6名の隊員に緊張感がはしる。誰も言葉にはしないが、このファーストアタックがうまくいくか。それは今後の行程がうまくいくかどうかの大部分を締めているといっても過言ではなかった。
ブラックホールに向かって加速した宇宙船は、ブラックホールの縁ぎりぎりを通り抜けた。無事に引力圏を脱した頃には船内は歓声で溢れかえった。
 このようにして約200年が経過し、ブラックホールを利用したスラローム航法により、目標とする恒星まで15光年の位置に到達した。この間の200年間、ほとんどエンジンを全開して加速を続けたため、宇宙船の速度は光速の80%までに達していた。
 
 そんなある日、航路のはるか後方で突然、光の点が現れ、そして急速に拡大した。
隊員はその方向と距離を測定した。太陽系の近くで何か起こったようだ。光の点は光の輪になり、その輪がさらに拡大し続けた。そこで何が起きたのか。そこがどこなのか。それは簡易的な観測でもわかることだった。
この旅路において、隊員の誰もが想定していた最悪の事態よりも、ある意味では最悪の事態であることは明白だったが、明白な故に信じられない気持ちが強かった。

「太陽が爆発したのだろう」
 絶望したような誰かの声が館内に響いた。
「地球上の生命は間違いなく絶滅したな」
 誰もがわかりきった、あきらめのようなつぶやきだった。
「それにしても規模が大きすぎる」 

しかし、今は絶望してうなだれたり、事態を冷静に分析していたりする余裕もなかった。
この後に襲って来ると思われる放射線に備えなければならないからだ。
急遽、カーボン変成機をフル稼働してシールド板を製造し、宇宙船の後部に取り付けた。今は放射線をやり過ごすしかなかった。

第2の地球

 大爆発による光が宇宙船に到達してから1年が経過し、太陽系は完全に消滅していた。観測データから計算したエネルギーは、とてつもなく大きく、地球の質量を丸ごとエネルギーに変換した量に相当していた。 
隊員の中に、宇宙船に使用している質量電池の開発に携わった者がいた。その隊員が、地球から最後に送信された、「地上で開発した改良型質量電池の資料」を調べた。その燃料の特性について熟考したところ、地球が丸ごと活性物質に変換される可能性がある事に気が付いた。
「それで間違いないだろう」
 故郷の消失という事態に6名の隊員が出した結論は、正確なものだった。
 
目標の恒星まで5光年となった。宇宙船は方向を180度転換し、ロケットエンジンは進行方向に高速粒子を放出し減速に転じた。しかし300年以上もの間、加速を続け、光速の85%まで達した速度を残りの距離で完全に減速する事は不可能である。
目標の1光年手前のガス雲に突入した。この日に備えて摩擦熱対策は十分に施してある。ガス密度の低い所からガス雲に突入した。ガスとの摩擦により宇宙船の外壁は高温になり発光した。発光によるエネルギーを宇宙に大量に放出し、放出したエネルギーの分、減速し、ガス密度が高い部分を経てさらに減速といった具合で、宇宙船はガス雲を抜け0.3光年先の恒星(第2太陽)めざし減速しながら進んだ。
第2太陽の引力圏に入り何回か周回した後、ついに惑星の楕円軌道に到達した。エンジンを調整しながら軌道を修正し、静止軌道の少し外側の軌道に到達した。
 この惑星の赤道の上空をゆっくりと回り、第2地球である惑星の地上の観察が行われる。この惑星には海や川はない。あるのはクレーターと火山の跡だけだった。無論空気も水もなく、いうなれば月のような岩石型の惑星だった。
基地としてふさわしいポイントが定められると、宇宙船はその地点の上空で静止軌道に入った。

降下

 ロケットエンジンを使用し、静止軌道から地上に降りるには出力が小さすぎて無理であった。それはもちろん想定内であり、宇宙船を宇宙エレベーターの宇宙基地として使用し、宇宙エレベーターにより地上に荷下ろしするように当初から計画されていた。
 計画に沿って、宇宙船の一部を材料として使用し、カーボン変成機によりエレベーターの籠、杭と杭打機が製造された。宇宙船の中央部に小孔を開け、その上にカーボン変成機を据え付けられると、宇宙船の船体の一部を材料としたメインワイヤが製造され、メインワイヤの先端にエレベーター籠を取り付けた。
杭と杭打ち機、バッテリー等を収納した籠、そして1名の隊員が地上に降ろされていく。この間、メインワイヤは連続で製造し続けられている。
 この惑星には空気がない。つまり風がないので、地球での作業に比べ宇宙から地上に荷物を下ろすのは簡単であった。風の吹かない空間をエレベーター籠は真下に下降し地上に到達した。この惑星は地球より軽く、静止軌道半径が小さいが、地上への到達には300時間を要した。
 籠に乗って地上に向かった隊員は、籠が無事に地上に到着すると、荷物を降ろし、周辺の安定した地盤に杭を打ち込み、凝固剤で杭と地盤を一体化させる。こうしてメインワイヤを杭に連結させる。
 宇宙船では、カーボン変成機を用いて、先端に重しを兼ねた質量電池を取り付けた牽引用ワイヤを地上に向けて連続製造した。真っ先に地上に降り立った隊員は、牽引用ワイヤから質量電池を取り外し、代わりにエレベーターの籠を連結し、スライダーを介し籠をメインワイヤに連結する作業を行う。これにより宇宙船と地上の基地との間に簡易宇宙エレベーターが設置された。

 エレベーター籠を宇宙船に引き上げ、小型重機を乗せると地上で荷下げした。籠の位置によりメインワイヤにかかる負荷が大きく異なるので、メインワイヤに過度の力がかからないように、宇宙船の隊員はロケットエンジンの出力をこまめに調整する。
 地上の隊員は、小型重機を用いて地上基地設営場所の整備を行った。この間に2名の隊員がエレベーターで地上に降り立った。
この3名の宇宙船の隊員と3名の地上の隊員により、3000時間かけて宇宙船に搭載された荷物を地上に荷下げ作業が続けられた。
 無事にすべての物資が地上に降ろされると、宇宙船の隊員は空になった宇宙船を最後に解体し、地上の基地の部材とて使用するために、解体した部材を地上に荷下げした。
ロケットエンジンと質量電池を載せたプラットホームだけになった宇宙基地が、メインワイヤで地上とつながれたまま、静止軌道上に放置され、残りの3名が地上に降り立った。

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