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SFD人類の継続的繁栄 第1章『邂逅相遇』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第4暦2万年 飛行体

 ある日、月の技術部門が集結している建物に、目立たない小さな飛行体が飛来し棚の上に留まった。あまりにも小さかったので誰も気にせず、また棚の上だったので片付けられる事もなく、そのまま留まっていた。
 数週間後、宇宙探査部門の上級技術者が、第2地球から50億km離れた小さな惑星の探査計画書を提出した。探査の理由は、「この惑星には自然界には存在しないような建造物らしきものがある」との事だった。すでに当人も含め、4名の探査隊員の名前も計画書に記載されていた。
 この突然の計画書の提出に対し、部門長は不審に思い、その天体の観察を他の技術者に命じた。技術者はその天体を詳しく観察し、計画書にあるように不審な建造物らしきものを多数見つけた。
 部門長は政府にこの事を報告した。政府は敵が攻めてきた場合について議論したばかりだったので、すぐにこの計画を承認した。 
宇宙探査といっても、わずか50億kmの距離である。探査用の小型高速宇宙船の製造が開始され、短期間で完成した。
 4人を乗せた探査用宇宙船が出航すると、他の惑星の公転運動は利用せずに最短距離を航行した。そして数年間の航行後、その惑星の建造物らしきものが観察された付近に着陸した。
4人は宇宙船から外に出た。惑星の引力は月とそれほど変わらず、地面は硬く歩行に問題はなかった。太陽から遠く暗かったが、あらかじめ目を高感度に調整されていた彼らには十分な明るさだった。建造物まではわずかな距離である。人体充電用のバッテリーを携え、建造物に向かって歩いた。
 多数の建造物が見えてきた。たしかに知的生物が作った建造物である。その建造物を見て、なぜか4人は懐かしさを覚えた。周囲に生物がいる気配は無かった。なぜか4人は引き寄せられるように、ある建物に向かった。その建物には機械らしきものが多数置かれていた。中には壊れている機械もあった。小さな隕石の衝突により壊れたようである。 
 なぜか4人はその壊れた機械に興味を抱いた。壊れた部分を観察すると、壊れる前の状態と修理方法が自然と頭に浮かんできた。なぜか自然に機械の修理を始めた。修理が終わると小さなスイッチらしきものが目に入った。スイッチを入れると小さな操作パネルが浮かび上がってきた。なぜか自然に操作する事ができた。動作は完璧だった。
 ほぼ同時に4人は不安を覚えた。一刻も早くこの場所を去りたい衝動に駆られ、足早に宇宙船に戻りその惑星から脱出した。
脱出後、惑星での出来事を月の本部に報告した。報告を受けた月の技術者たちにも、彼らの取った行動は理解不能だった。
 数年後、宇宙船は月に帰還した。しかし彼らの話はつじつまの合わない事だらけだった。本人たちも何がなんだかわからない様子で、自ら脳内調査を希望した。彼らの脳には次のような内容が記録されていた。

隊員の脳内に記録されていたこと


———-
 先ずは謝罪とお礼をする。我々は人類ではないが、知的生命体である。我々は窮地に陥り、皆様に相談無しに皆様に窮地を救ってもらった。皆様と我々は文化も体も会話の方法も、まるで異なりますが、皆様を観察させて頂き、皆様の文化に合わせてこのメッセージを作成しました。
 窮地に陥った内容は後回しにしますが、我々はあの惑星に住んでいます。皆様に救ってもらうために4名が超小型ロケットに乗り、月の建物の棚の上に着陸しました。ロケットの中で皆様の文明やその他諸々を調査しました。
 調査後適任者として4人の方を選び、我々4名は4人の方の脳に寄生しました。我々は高度な知能を持っています。我々の脳は皆様のメモリーに比べずっと高密度にできています。ほぼ脳だけで、手足に相当するものはありませんが、ある程度の移動はできます。我々の体の大きさは0.1mm角ほどですが、脳の容量は皆様の100倍以上です。  
 4人の脳にたどり着いた後、我々の4名は4人の脳内情報を分析しました。また4人の方にも周りの方にもわからないように、4人の脳を操りました。宇宙探査の企画書も我々が脳を操って書かせました。
我々の目的はあの惑星に来ていただいて、ある機械を修理してもらう事でした。4人が採った、あの惑星での奇妙な行動も脳を操作した為です。我々にはあの機械を修理してもらわなくてはならない強い事情がありました。修理後、動作を確認し、このメッセージを4人の脳に残し、脳から離れました。
我々が離れた後、あなた方4人は不安を覚え、すぐにあの惑星を脱出したと思いますが、そうなるように洗脳しておきました。我々の4名が脳から離れた後、あなたがたがあの惑星の調査を行わないように、そうしました。再度謝罪いたします。
 我々の祖先も皆様の祖先と同様に、有機物の体を持っていました。無論形は異なりますが、手足に相当する器官があり、あの惑星とは別の惑星で文明を築きました。皆様とは事情が異なりますが、有機物の体から無機物の体に変更し、あの惑星に移住しました。その頃の我々のエネルギーは質量電池を使用していました。皆様もご存知のように、この周辺で活性化により他の恒星が次々と消失したのを知り、活性物質を放棄する事にしました。質量電池が使用できなくなると、太陽光しかエネルギー源がありません。しかし我々の惑星は太陽から遠く離れているため、得られるエネルギーはわずかです。そこで体を微小化する研究を行いました。その研究が行き過ぎて、体を放棄して脳だけで暮らすようになりました。無論、有事の事を考え、大きな体も作っておきました。
 実質的に脳だけになった我々には、いきなり大きな体に乗り移る事はできません。そのために作った機械があの機械です。しかしあの機械は隕石により壊れてしまいました。無論あの機械だけでなく、我々が生存し続けるために、脳だけの我々の体に対応した様々な機械も造ってありました。あの小さなロケットもその一つです。体の大きさに応じた、多種多様な機械がありましたので、大きな体に乗り移るための機械はあまり重要とは思わずに、予備を用意していませんでした。 
我々のエネルギーの基となるソーラーパネルは十分に作ってありました。しかし最近になってソーラーパネルの故障が相次ぎました。故障の原因は単純なことで、修理する事になりました。我々は色々な高度な機械があるので簡単に修理できると思い込んでいました。しかし、いざ修理計画を立ててみると、我々の持っている高度な機械は小さすぎて、修理には使えない事がわかりました。
 そこで、いざという時に造ってあった〔手足のある大きな体〕に乗り移って修理する事になりました。〔手足のある大きな体〕の脳が動いていれば、あなた方の脳に寄生したように、その脳に乗り込んで操る事ができましたが、例え待機状態にしておいても、大きな体を維持するためにはそれなりの電力が必要なので、スイッチを切っていました。そのスイッチを入れるのは実質脳だけの我々には困難ですし、充電するのはさらに困難です。
そこで、大きな体に乗り換えるために作った、あの機械を使う事にしました。ところがその機械は小さな隕石の衝突により壊れていました。機械を修理する事自体、手足のある大きな体が必要だとわかりました。
このままだとソーラーパネルが次々と壊れ、我々の小さな脳に必要な、わずかな電力源も失ってしまいます。最後の手段として皆様の脳を操って、その機械を修理してもらう計画を立てました。
 この様な事情ですので、我々の行為をお許しください。 
 なお、皆様が第2地球に移住した時点から皆様の存在を認識していました。また4人の脳に寄生し、この計画を成功させるための情報を集めましたが、その中に、皆様も一時期、微小化する事を検討していた事がわかりました。これはせめてもの償いのアドバイスですが、体を微小化するのはリスクが多く、おやめください。いくら知能が高くても微小な体では大きなものは扱えません。もっとも皆様には強い太陽光がありますのでその必要はないと思います。
 我々が二度と皆様の脳を操る事はありませんが、近くに我々と同じような知的生物がいるかも知れません。寄生されないような対策を施す事をお勧めします。
 また、万一あなた方が体を微小化し、我々と同様なトラブルにあっても、我々には皆様を救う事はできません。我々にも非常時に備えた大きな体がありますが、それを第2地球に運ぶ手段がありません。微小化したら、いくら知能が高くても何もできません。繰り返しになりますが、体の微小化はおやめください。
 最後に、我々をお許しいただき、よき隣人としてのお付き合いを希望します。我々はすでに皆様の文化を知りましたので、今後の連絡は皆様に合わせた方法を取らしていただきたく存じます。皆様と我々の連絡ツールとしては超レーザービームによる方法を提案いたします。超レーザービームで皆様の言語での会話を楽しみにしています。是非連絡ください。

     助けて頂いた隣人より。
———-


 このようなメッセージが脳内に残されているのを知った関係者は驚愕し、宇宙探査部門のトップに連絡した。当面この事は脳内調査に立ち会った関係者と宇宙探査部門のトップの間だけで情報を共有し、真偽の程を内密に調査する事にした。感染した4人にもこの内容は当面伏せる事にした。これは敵の戦略かも知れないし、感染した4人はまだ感染したままかも知れない。
 4人が感染しているか否かの脳内検査を徹底的に行なった。徹底した聞き取り調査も行った。棚の上のロケットも綿密に調査した。全てがメッセージの内容と合致していた。4人には別々にこのメッセージの内容を知らせた。4人とも「自分達が採った奇妙な行動はこのメッセージにより全て理解できた」と言っていた。
 計画書を提出した技術者は、「それまでこの惑星の存在すら知らなかった。気が付いたら、なぜか計画書を作成していた」との事だった。残り3人の家族にも聞き取り調査が行われた。3人の家族共に、「惑星探査の事を急に言い出し、家族が理由を聞いても『惑星探査は自分に与えられた使命だ』と言うだけだった」と証言した。
 惑星での行動について4人は、「問題の建造物に引き寄せられるように行った事、その建造物を見て何か懐かしさを覚えた事、壊れた機械を当然のように修理した事、修理後、当然のように操作して動作を確認した事、動作確認後急に不安に襲われ一刻も早くこの場所を去りたい衝動に駆られ事、すぐに宇宙船に戻り惑星から脱出した事」などを説明した。
 全ては彼らの脳に残されたメッセージと符合していた。関係者は4人の脳内に残されたメッセージの内容は真実だと確信し、詳細な報告書を作成し、この衝撃的な事件を政府に報告した。
 報告を受けた政府も同様に驚愕し、対応策を議論した。

「あの惑星に微小化した知的生物がいる事はたしかである。望遠鏡による観察でも建造物が確認できた。微小化した知的生物が4人の脳を操ったのもたしかである。今後の対策はどうすべきか……」
「我々の事は全て知られてしまった。彼らが再び我々を操るかも知れない。4人の他にも感染者がいて、今も脳を操られている者がいるかもしれない。他に感染者がいないか調べる必要がある」
「その調査は意味がない。もし彼らがそのような戦略を立てているのなら、調査してもわからないだろう」
「小さなロケットのあった建物の勤務者だけでも調査するべきだ」
「それも意味がない。彼らがそのような戦略を立てているのなら、全く別の人に感染しているだろう。ここにいる誰かに感染しているかもしれない。32億人全員を調べなければならない」
「今回4人の脳を操ったのには理由があるが、我々を敵視する必要が有るだろうか。そもそも太陽光だけがあればよい知的生物が、我々を攻撃する必要性があるだろうか」
「それはわからないが、今後何をされるかわからない。大型の原爆があるので、あの一帯を消滅させるべきでは」
「それはできない。もし彼らを攻撃しようとしたら、今度こそ我々の脳は彼らに乗っ取られてしまう」

このような議論の後、その惑星の知的生物とは良き隣人として友好的な関係を持つ事が決定され、人類は「彼ら」と連絡を取り合う事にした。

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