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SFD人類の継続的繁栄 第6章『注目をあつめる核エネルギー』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

求められる「目立つ成果」

  人類が第2衛星に降り立ってから500年が経過し、定住人口は5000万人に達した。月や地球からこの星に通う勤務者も百万人に達した。多くの研究機関や民間の研究部門もこの衛星に拠点を移し、上田政権の当初の構想とは大きく異なり、人類全体の研究・技術拠点としての位置付けとなってきた。
 原爆技術者の大半は設備が充実し、ウランが大量に採掘できるこの衛星に定住した。原爆技術者が集結し、その他の多くの技術者、研究者もこの星に来た。自治政府はもっと大きな目立つ成果を出す事を考え、原発技術者を中心とした技術者集団に〔目立つ成果〕をだすように指示し、〔目立つ成果プロジェクト〕を組織された。
プロジェクトによる自由討論で真っ先に議題となったのは、やはり原爆エンジンだった。

「原爆エンジン構想がある」
「原爆エンジンとはどういうものか」 
「簡単に言えば昔のイオンエンジンに比べ1兆倍の推進力を持つ強力なエンジンで、構想だけで今は中断している」
「それができたら、ものすごく大きな宇宙船を高速で航行させることができるのか。この衛星ごと宇宙船にできるのか」
「それはできない。大きすぎるし意味がない」
 
 第2衛星は、政府の当初の構想とは異なり、益々技術立国の色彩を濃くした。色々な金属資源を得た事は無機物社会では重要である。これまで使用している金属とは別の特殊金属を使用すれば、桁違いに大容量のメモリーや大容量バッテリーが作れるかもしれない。続々と技術者が移住してきた。月や地球から通う技術者も増加した。
 人類の継続的繁栄の理念の下、別の太陽系にも人類を移住させる名目で、自治政府は政府に対し円盤型宇宙船の開発を申請した。
もともとこの太陽系で人類が繁栄しているのは、70光年先の消滅前の太陽系から移住したのが始まりであり、この名目の宇宙船開発計画に、政府は承認せざるを得なかった。
 夢のロケットエンジン、原爆エンジンの開発は無事に成功した。
併せて円盤型宇宙船の実験機が建造された。この星の引力圏から脱するために、通常のロケットエンジンも取り付けられ、宇宙空間へ放出された。このロケットエンジンには打ち上げる分だけの燃料を搭載し、この星への帰還は最初から計画されてなかった。たとえ帰りの分の燃料を積んでも構造上ロケットでの着陸はできなかった。宇宙空間に達した後、宇宙船からロケットは切り離された。

円盤型宇宙船
**この図は上面を進行方向に大幅修正 エンジンは回転しない中央部に3~4個

 実験機はこの太陽系のあちこちを航行し性能テストを行った。太陽系内の同一ポテンシャル空間の移動は、新型原爆エンジンにより高速に移動できる事が確認できた。ただし、同一ポテンシャル上でも、加速する時にも減速するときにもエネルギーが必要である。
 ある技術者は減速時のエネルギーを回収できないか、と考えた。走行中の自動車なら減速時にエネルギーを回収できるが宇宙には道路がない。回収は不可能である。
 実験機は試験飛行が終了すれば最終的には放棄しても問題ないが、今後建造する宇宙船には、少なくともこの星に離着陸できることが必要である。

地球利用プロジェクト

関係技術者が集まり、この円盤型宇宙船における離着陸問題について議論がされた。

「メンテナンスや資材の積み込みのために、少なくともこの星には離着陸できるようにしなければならない」
「通常のロケットを円盤の下面の周辺部分に数個配備すれば良いのでは」
「それが通常のやり方だが、2つの難点がある。1つは重量で、ロケットもロケット燃料も搭載したまま航行しなくてはならない。1つは汚染の問題で、ロケットの離着陸の度に真空度が低下する。真空度が高いのがこの星の1つの売りであり、真空度が低くなると半導体の製造などに影響する」
「汚染の点では原爆エンジンでも同じではないか」
「同じ推力を得るのに必要な物質の量がまるで違う。原爆エンジンは光速に近い速度で粒子を放出するので、放出物は極わずかな量ですむ。実質的に汚染は生じない」
「原爆エンジンの出力をもっと上げられないか」
「それは非常に難しい。現状の方式ではあと10%が限度だ」
「第3世代の人類が宇宙の建物間の移動に利用した、コイルバネを使う事はできないか」
「上空に静止した状態から自然落下させ、バネで受け止める方式か」
「バネ自体はカーボン変成技術でいかようにも製造できる。問題は宇宙船が受ける巨大な重力加速度だ。何れにしても計算して検討してみよう」

 地上の固化層の除去作業は完了し、巨大地震も収まり第2地球は安定していた。しかし政府は月に置かれ、主要産業の大半も月に留まったままだった。また、第2衛星が宝の山を得た事で、第2衛星の科学は急激に進展し、多くの有能な技術者達が第2衛星に勤務していた。
 地上には、大勢の復旧隊員が月から勤務し、沢山の住居も建てられたが、定住する住民は少なかった。地球に戻る必要性がない事も理由だが、最大の理由は、第2地球は引力が強すぎて、小惑星の衝突が度々おこる事にある。
 これに対し月や第2衛星は引力が小さく、隕石の落下もほとんどない。第2地球は月を小惑星の衝突から守る、月の防衛惑星としての位置付けが強くなっていた。しかしながら多大な費用をかけて復旧させたのに、あまり利用されない事に対し上田政権への批判が高まっていた。
 地球を観光地化する事も検討された。しかし旧地球のように、草花や川などの自然の観光資源はほとんどなく、引力が強い事が唯一の観光資源ともいえる。資源を採掘し、新たに人を誕生させ、人口を増やす事は可能だが、地球の定住民を増やしすぎると、小惑星の衝突時の避難の問題がある。前回の小惑星の衝突に備え月へ避難した時は超小型人体を使ったが、次は超小型人体という訳にはいかない。超小型の体で月へ避難した、嫌な記憶のある月の住民の大半は、地球に戻るのを嫌がった。
しかしすでに多くの住宅を建てインフラも構築してしまった。地球に定住すれば、大きな豪華な家が安価に購入できる。地球の不動産価格の低下につれ、月に勤務したまま地球に移住する人も出てきたが、それでも住民は少なかった。
 上田政権はこの対策として、〔地球利用プロジェクト〕を発足させた。プロジェクトの検討過程は次のようである。

「地球に定住しない最大の原因は小惑星の衝突である」
「正確には小惑星の衝突により、太陽光が長期間遮られる事だ。太陽光が長期間遮られれば電気が作れず、生きていけない」
「電力の問題なら解決できるかもしれない。第2衛星で原爆発電機が完成したようだ」
「ロケットエンジン式の物は出力が小さいと聞いている」
「原爆砲を進化させた、レシプロエンジンタイプのようだ」
「レシプロエンジンとは何か」
「20世紀から21世紀にかけて自動車に使用されていたエンジンだ」
「20世紀といえば、20世紀に使われていた原発を使わないのはなぜだ」
「原発には冷却手段が必要だ。液体のないこの地球では使用できない」

 政府は第2衛星の原爆技術者に、レシプロ型原爆発電について問い合わせた。
 レシプロ型原爆発電とは、原爆砲の技術とレシプロエンジン技術を組み合わせたもので、シリンダー内に改良ウランを噴射し爆発させ、爆発力でピストンを押し下げ発電機を回転させる方式のこと。排出されたガスは改良ウランに改質し、再度燃料として使用し、最終的にウランの質量の5%程度を電気エネルギーに変換できる。実験機はすでに完成済みとの事だった。

レシプロ型原爆発電の実用化

 原爆発電の内容について理解したプロジェクトは、さらに発電について議論した。

「原爆発電は常時発電に使用するものなのか。それとも小惑星が衝突し、太陽光が遮られた時だけ発電に使用するのか」
「常時はソーラーパネル、非常時のみ原爆発電が良いのでは」
「小惑星が衝突してから、初めて原爆発電を用いるのでは不安がある。出力を下げて常時発電するのが良いのではないだろうか。常時は80%太陽光、20%は出力を半分に落とした原爆発電で行い、太陽光が途絶えたら、出力を全開するのはどうだろうか。これなら常時に対し40%の電力を確保できる。社会活動を制限すれば40%の電力で乗り切れる」
「降灰その物についてはどうか。前回の衝突時には固化してしまい、復旧が大変だった」
「固化の原因は衝突した小惑星に特殊な液体が多量に含まれていたからだ。しかし、『あのような小惑星は非常にまれ』との報告がある」
「降灰だけならあまり問題ない。ソーラーパネルや重要な建造物にシートをかけておくだけで良い」
「原爆発電機はどこで作りどうやって運ぶ」
「作るのは第2衛星に決まっているが、どうやって地上に運ぶのかは見当もつかなない」

 プロジェクトは第2衛星にこの事を問い合わせた。「3Dプリンター技術とカーボン変成技術がさらに進化したので、原料と、この2つの機械があれば、原爆発電の大部分は何処ででも作る事ができる」との事だった。

「新型の3Dプリンターとカーボン変成機を、どのように第2衛星から地上に運ぶのか」

 この問題に対し、第2衛星の関連技術者も交え議論し、先日竣工した円盤型宇宙船の実用機を使用する案が浮上した。実用機を作ったもののテスト飛行だけで、第2衛星側の関連技術者も肩身の狭い思いをしているようで、「仕事があるのはありがたい」との事だった。ただし、宇宙船では第2衛星から地上の上空まで運ぶ事はできるが、引力の強い第2地球の地面までは運ぶ事ができない、との事だった。
 プロジェクトはこの難題について討議した。

「上空まで運んでも、地上に下ろす手段が無ければどうしようもない。その手段を考えなければならない」
「ところで宇宙船はどのようにして第2衛星に離着陸するのか」
「原爆エンジンも使うようだが、大きなコイルバネも使用するようだ」
「コイルバネとは第3世代で宇宙の建造物の間の輸送に利用した、慣性バスの放出に使ったバネ放出機のようなものか」
「そのようだ。第2衛星は引力が小さいのでその方法が使用できるが、引力の大きい第2地球では絶対無理だ」
「あの空気塔を使えば良いのではないか。あの空気塔は、以前同じような目的で使用されていた」
「今回落下させるのは貴重品だ。空気塔の中心に正確に落とせるだろうか」
「投下容器に姿勢制御ロケットを取り付ければ問題ない」

 第2衛星の宇宙船基地に、新型3Dプリンターと新型カーボン変成機を搭載した円盤型宇宙船が、巨大コイルバネに乗せられた。原爆エンジンの点火と同時に、巨大コイルバネのロックが外され、円盤型宇宙船は猛烈な勢いで上空に放たれた。
 第2衛星の引力圏から脱した宇宙船は向きを変え、第2地球の空気塔の上空を目指して航行し、空気塔のはるか上空に到達した。3Dプリンターとカーボン変成機を格納した投下容器が空気塔めがけて放出されると、姿勢制御ロケットが自動操作され、空気塔に突入する。そして、投下容器は無事に地上に到達した。
 第2衛星から地上の移動基地に、関連技術者が人体を乗り換え到着し、レシプロ型原爆発電機が量産された。
 地上は、レシプロ型原爆発電機を備えた事により、たとえ小惑星が衝突しても避難せずに生活できる安全な生活の場となった。地球で人体の量産が開始された。地球は引力があるので、小さな物の製造は容易であった。

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